軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第282話 要求

「……まさか、君までこの世界に転生していたとは思わなかったよ」

目の前に座っている次期メルティア国王と目されているランス・メルティアが、懐かしそうに声をかけてくる。

オレは震える声音で尋ねていた。

「た、 田中(たなか) …… 孝治(こうじ) 」

「よかった。覚えていてくれたんだね。……そうだよ。君が見捨てた田中孝治だよ。本当に久しぶりだね」

「ッ……」

彼はにこにこと笑顔のまま、こちらの傷を抉るように告げる。

しかし、彼の言うことは事実で反論のしようがない。

「安心しなよ。今更、あの時のことを責めるつもりはないから。前世のことだしね。それにこの異世界に転生した僕は妖人大陸最大の国家メルティアの王子で、昔とは比べものにならない美男子になったうえ、魔術師としても成功している。まさに日本にあった転生物語の主人公みたいなチートキャラクターになれたからね」

逆にオレは両親を大国メルティアに滅ぼされ、孤児院へと預けられた。

さらに魔力値は低く魔術師になれる可能性は0。

可愛い幼なじみが側に居たのがせめてもの救いだ。

そう考えるともしかしたらむしろ物語の主人公然としているのは、田中孝治――ランス・メルティアの方かもしれない。

「でも、もし未だに僕に対して謝罪する気持ちがあるなら……。とある計画を手伝ってくれないかな?」

「計画?」

「僕は元の世界――地球、日本に戻りたいんだ」

意外な答えが返ってきた。

この異世界で魔術師で美男子王子様というチートキャラクターになっているのに、元の世界に戻りたがっているなんて……。

いや、違うな。もし現在のチート人生を捨ててまで戻りたいという渇望があったら、自殺なんてするはずがない。

考えられることは一つ。

オレの当たって欲しくなかった答えを、田中が邪悪な笑顔で語り出す。

「僕は、元の世界に戻って復讐したいんだ。……僕を苦しめた世界そのものに。親、兄、教師、生徒達、社会、世界構造全て――世界そのものに、復讐をしたいんだよ」

「……気持ちは分かる。でも、どうやって元の世界に戻るつもりだ。この世界の科学レベルではありえないし、魔術師S級を何人連れてきても戻ることなんて不可能だ」

「確かにS級といえど人の域だからな。別世界の移動なんて不可能だろう。……けど、もし人の域を超えた『神』の力ならどうだい?」

『神の力』。

この言葉で全てを理解する。

田中の後ろに佇むマントを被った人物が誰であるのか。

ララの後ろで糸を引いていた人物が誰であるのかを。

「僕自身、公的な立場があまりに強すぎて、表だって動くことは難しかったんだ。でも、運良く僕に協力してくれる人物が居てね。お陰で『神の力』を得ることに成功したんだ。もう気づいていると思うけど、一応紹介するね」

田中が手を挙げると、今まで背後に黙って立っていた人物が。

被っていたマントを脱ぐ。

「…………」

その下からは凛々しく、美しい顔立ちの美女――ハイエルフ王国、エノール、元第1王女、ララ・エノール・メメアが姿をあらわす。

改めて見ると意志の強いキリリとした美人なのだが、可愛らしいほんわかとした雰囲気を持つリースとどこか似ている。

やはり実の姉妹同士だからだろうか。

ララはオレを敵意溢れる目でずっと睨んでいる。

どうも彼女は前から、オレを嫌っているようだ。

「もう知っていると思うけど彼女、ララが僕の代わりに動いてくれたお陰で、ようやく6つに分かれてしまった『 神核(しんかく) 』の一つ、『 魔法核(まほうかく) 』を手に入れることができたんだ」

「知っているよ。『黒』を――シャナルディアやノーラ達を騙し、裏切ってな。オレ自身その場に居たからよく知っている」

「裏切りや欺きは否定しないけど、元々『黒』はそのために作られた組織だからね。僕達からすれば役割を完遂し、天寿を全うしたといえなくもないんだよ」

「ちょっと待て、それってどういう意味だ?」

「堀田くんも知っての通り、五種族勇者や魔王の件を深く調べるのは昔から 禁忌(きんき) とされてきた。ほんの少し調べただけで 始原(01) や自国のメルティア、他組織なんかに目をつけられる。いくらララに『千里眼』と『予知夢者』という力があっても、動き辛くなる。だから、組織を作って、隠れ蓑――スケープゴートにしたんだよ」

田中は笑顔でオレの質問に答える。

「『黒』という隠れ蓑があったお陰で、僕やララはずいぶん動きやすかったよ。まさか『黒』の陰にメルティア王子や元ハイエルフ王国の王女様が居るなんて、誰も思わないだろ? それにちょうど、メルティアと 始原(01) が共同でケスラン王国を落とした。その際、頭に据える人材としてシャナルディア・ノワール・ケスランなんて最適な人材が出るってララの力で分かっていたし。本当に最高だったよ」

悪魔的で残忍な計略を純粋無垢な笑顔で語る友人――目の前の光景は、もう彼はオレの知っている田中ではないのだということをまざまざと教えてくれた。

「けど、折角手に入れた 魔法核(まほうかく) だけど、この程度じゃまだまだ元の世界に戻る力はない。……だから、堀田くんが前世で僕を見捨てたことをもし未だに悔やんでいるなら、魔法核を『 神核(しんかく) 』に変える手伝いをしてもらいたいんだ」

「……オレに何をさせるつもりだ?」

「大丈夫、君には危険なことはさせないよ。だって、僕たちは友達じゃないか」

「『君には』ってことは、他の誰かをまた犠牲にするつもりか?」

魔法核(まほうかく) を手に入れるのでさえ、何人もの人々が苦しんだ。

さらにその上位版である『 神核(しんかく) 』を手に入れようというのだから、犠牲なしということはありえないだろう。

そんなことくらい簡単に想像がつく。

田中は今日の天気を告げるようにさらりと答える。

「正確の数字は分からないけど、最低1万人、最大で2、3万人ぐらい死ぬんじゃないかな? 多少の増減はあるだろうけど」

「ッ!?」

正直、想像以上に多かった。

前世、地球上でも最も安全と言っていい都市に住んでいた田中が、邪気のない微笑みで『最低1万人、最大で2、3万人ぐらい犠牲にする』と声音を変えず断言したのだ。

この異常さは同じく、前世の知識やモラルを持つ自分以外には誰にも分かるまい。

異世界転生チート主人公が悪に傾いたらこれほど厄介になるとは――

オレはソファーから立ち上がると、窓際へと向かう。

窓を開け、部屋の空気を入れ換える。

外は気持ちいいほど晴れている。

このまま部屋での話を忘れて、今すぐ外に出かけたい程の天気だ。

しかし本当にそうするわけにはいかず、深呼吸して気持ちを落ち着かせた。

田中達に背を向けたまま、窓の外へ向けて何度か瞬きをする。

風がオレの頬を撫でて、部屋の空気を入れ換えてくれる。オレは溜息をつき気持ちを入れ替え、窓を開けたままソファーへと座り直す。

田中の瞳を真っ直ぐ見つめ、決心した言葉を告げる。

「確かにずっとオレはあの日、田中を見捨てて逃げ出したことを後悔していた。許されないとは思うが、できるなら謝りたいとずっと思ってきた。……本当にすまなかった」

オレは田中に対して謝罪をする。

顔を上げ再度話を進めた。

「そして何の因果か、オレはこうしてこの世界に転生した。だから、今度こそ『勇気を持ち、七難八苦があろうとも逃げ出さず、助けを求める人がいれば絶対に力を貸そう。人助けをしよう』と誓った。オレは誰かを見捨てるようなことを、2度としたくないと思ったんだ」

「そうだったんだ。 軍団(レギオン) の理念の由来は僕からきていたのか、知らなかったな。でも、いくら困っている人や助けを求める人を何万人、何十万人君が救おうと――僕が堀田くんを許すかどうかは関係ないけどね」

微笑みを浮かべたまま彼はばっさりと斬って捨てた。

「それで答えは? 協力するのか、協力しないのか」

「……すまない。協力はできない」

「はぁ……やっぱりね。偽善者の君ならそういうと思ったよ」

田中は微笑みの表情を変えず、飄々とソファーから立ち上がる。

「交渉は決裂ということで。こちらから堀田くん達に手を出すつもりは今のところないけど、もし妨害をしようとするなら遠慮無く叩き潰すから、覚悟してくれよ。……それじゃ行こうか、ララ」

「はい、ランス様」

ララはマントを被り直し、田中の後へと続こうとする。

オレはそんな二人の足を言葉で止めた。

「悪いが……本当に悪いと思っているが、今ここで二人を帰らせるわけにはいかない。捕らえさせてもらう。そして、どうやって魔法核を神核にするのか話してもらう。関係ない人々を数万にも犠牲にする方法をここで確実に潰させてもらう」

「僕達を今この場で捕らえて情報を聞き出す、ね。でも、僕はメルティアの使者としてここに来ているんだよ? その使者を、しかも王子を捕らえるなんて国が黙っていると思うのかい?」

オレもソファーから立ち上がり、田中達と対峙する。

「 PEACEMAKER(ピース・メーカー) は 始原(01) を倒したお陰で、少なからず発言力がある。外交努力でなんとかするよ。もちろん、方法を聞き出し、潰した後はメルティアに事情を話してから田中を解放するつもりだ。以後、多少の不自由は覚悟してくれ」

恐らく魔術防止首輪をつけ、城内か郊外で軟禁といった生活が待っているだろう。だが、王族である彼なら、表舞台からは消えるが何不自由のない生活を送れるはずだ。もちろんそうなるようオレ自身、努力するつもりでいる。

オレは田中の足――太ももへ向け指をピストルの形に作る。

「?」

田中はオレの行動の意味が分からず首を捻る。

彼は想像もつかないだろう。

先ほど窓あけた際、瞬きをモールス信号代わりにして『クリスを狙撃位置に配置して、合図があったら発砲するように』と指示を出していた。

オレが向ける指の先――田中の太ももを打ち抜かせ無力化するつもりだ。

オレはクリスに分かるよう発砲動作をする。

同時に、窓外から発砲音が響きわたる。

完全な不意打ち。

弾丸は狙い違わず田中の太ももへ――当たらなかった。

なぜならその場から田中が姿を消したからである。

「!?」

予想外のできごとにオレが驚愕する。

超スピードで回避したわけではない。

その場合、空気が乱れ・動きが確実に分かる。

透明化でもない。

弾丸はむなしく空を切り、床に穴を作り出す。

もし透明化でも、見えなくなるだけで弾丸の回避は不可能なはずだ。

では、いったいどうやって弾丸を回避したんだ!?

そして田中はどこへと消えたんだ!

「酷いじゃないか、堀田くん。突然、スナイパーライフルで撃つなんて」

「!?」

背後からの声。

オレは咄嗟に声から距離を取る。

もちろん肉体強化術で身体を補助。

特に目に力を込めて、今度こそどんな小さな予兆も見逃さないようにする。

そんな努力を嘲笑うように再び田中に驚愕させられる。

彼の手になぜかクリスのSVDが握られていたからだ。

オレがクリスのために製造したSVDだ。見間違うはずなどない。

「しかしまさかこの異世界で……ドラグノフ狙撃銃っていうんだっけ? スナイパーライフルを作るなんて。ここは剣と魔法と魔物の世界だよ、世界観を壊すような真似しないで欲しいよまったく」

田中は飄々とした態度で、珍しそうにSVDを眺めながら軽い調子で文句を告げてくる。

なぜ彼がクリスのSVDを手にしているんだ?

本当に訳が分からずうまく頭が回らない。

「堀田くん、これ金髪の女の子に返しておいて。撃たれてイラっとしたのもあるけど、珍しいから思わずちょっと強引に手から奪っちゃったからさ」

「……どうやってクリスから、SVDを奪ったんだ?」

「どうって? まだ気づいてないのかい? ラノベや漫画、アニメの定番能力じゃないか」

「ランス様」

SVDをソファーに置く田中に、ララが声をかける。

「部屋周辺、出入り口を武装した PEACEMAKER(ピース・メーカー) メンバーに押さえられました。部屋の出入り口には金属製鞄を手にしたメイド達が続々と集まっています。部屋に押し入られ、万が一があるかもしれません。ここはすぐに戻るのが得策かと思います」

これがララの精霊の加護の一つ『千里眼』か。

まるで実際に見ているように周辺で何が起きているのか分かるらしい。

「そうなんだ。ならそろそろお暇しようかな。あっ、後、僕達と一緒に来ていた従者達には『用事ができたから先に帰っている』と伝えておいてくれ。煮るなり焼くなり尋問するなりしてもいいけど、彼らは何も知らないから意味ないよ。まぁ偽善者の堀田くんなら、危害を加えることはないだろうから安心だけど」

田中はララの肩を抱き寄せる。

「また今度っていうのはおかしいけど……もし僕の計画を邪魔するなら、今度こそ家族や仲間共々殺すから覚悟して挑んでね。それじゃ失礼するよ」

再び、田中はオレの目の前から姿を消す。

今度はララ共々だ。

「若様、ご無事ですか!?」

彼らが部屋から姿を消すと同時に、シアが護衛メイド達を連れて部屋に雪崩込んでくる。

手にコッファーを装備してだ。

メイド達はオレを中心に包囲網を築く。

隣でシアが部屋を見回し、警戒しながら声をかけてきた。

「ご指示を破り部屋に入ったことをお許しください。緊急事態と思い勝手に動かせて頂きました。後ほど自分がどんな罰もお受けします。それで彼らはいったいどちらへ? 窓の外から逃走したのでしょうか?」

「…………最悪だ」

「若様?」

シアが心配そうに声をかけてくる。

だが、彼女へすぐに返事をする気力がわかない。

なぜなら田中の力、部屋の外――約二〇〇m離れた場所にいるクリスからSVDを取り上げたカラクリに思い至ったからだ。

(転移とか反則だろう……こっちが軍隊なら、あっちは王道チート能力ってか)

さらに質の悪いことにララの精霊の加護『千里眼』と『予知夢者』である。

その力に田中の転移が加わると途端に極悪になる。

こちらの奇襲や襲撃は通用せず、逆に動向は筒抜けで一人になったところを各個撃破や夜襲、不意打ちなどし放題だ。

これならまだ 始原(01) と戦った方がマシである。

だがこのまま何もしなければ、数万人単位で犠牲者を出すことになる。流石に見逃す訳にはいかない。

正義感や義憤といった感情もあるが、その数万人の犠牲者の中にエル先生やギギさん、旦那様、セラス奥様、メルセさん、メリーさん、アムやアイス、シユちゃんなどが入るかもしれない。

オレの親しい人々が犠牲になるかもしれないのだ。

黙っていることなどできるはずがない!

だが、すぐに気持ちを切り替えて皆に事情を説明して、対策を立てる話をすることができなかった。

あそこまで変わり果ててしまった田中に、オレは少しだけ気持ちの整理をつける時間を必要とした。

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ランス達はココリ街から一瞬でメルティアの私室へと戻ってくる。

使者としての報告は後に回して、彼らはのんびりとお茶を楽しむ。

「……しかし、ここまで予想通りに敵対してくれるなんて、本当に驚きだよ。思想が凝り固まっている人物を動かすのは楽でいいけど、あまりやりがいや達成感がないのは問題だね」

「それでは、次のステップに移っても問題ありませんでしょうか?」

ララの問いに、ランスは笑顔で答える。

「うん、よろしく頼むよ」

「……了解しました」

いつもならば忠誠心の高いララは、ランスの指示にすぐさま返答していたが、今回は反応があからさまに遅れる。

まるで彼女の心情を表すように。

それに気づかないランスではない。

「どうしたんだい、ララ?」

「いえ、その……例の作戦なのですが……本当にやらなければならないのでしょうか?」

ララは怯えたようすで、ランスの顔色をうかがいながら尋ねる。

ソファーの反対側に座る彼は、いつもの微笑みを浮かべたまま返答した。

「もちろん、必要なことだよ。ララはやりたくないの?」

「はい、できればやりたくありません。あんなこと――」

長年仕えてきた『黒』の仲間達ですら、ランスのためにあっさりと見限った。

そんな彼女がはっきりと敬愛するランスに反対意見をのべた。

彼はそんなララに対して怒らず、ソファーから立ち上がると彼女の隣に座る。

「ら、ランス様!?」

さらにララを抱き寄せ頭を撫でた。

彼女は耳の先まで赤くし、頭のてっぺんから湯気が出そうなほど照れる。

そんなララにランスは子供に言い聞かせるように話しかけた。

「気持ちは痛いほど分かるよ。他に方法はあるかもしれないけど、不確かなのは君も納得済みだろ? だから アレ(・・) を避けることは難しい。ララには苦労をかけるけど、僕からは『どうか頑張ってほしい』としかいえない」

「……すみません、今更、話し尽くしたことを反故にしようとしてしまい。私はランス様のためにも、絶対に計画を成功させてみせます」

彼女は顔を上げると、耳まで真っ赤にしながらも強い意志が宿る瞳で断言した。

そんなララをランスは正面から抱きしめる。

「ありがとうララ、愛しているよ」

「私もです、ランス様」

この時、ララは世界中の幸せを集め独占しているような感覚に陥った。

今、この場で死んで悔いはないほどの多幸感。

彼女は目を閉じ、正面から抱き合っていたため、この時、ランスの表情を確認することはできなかった。

<第15章 終>

次回

第16章 ランス編―開幕―