軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第281話 初顔合わせ

執務室で今日も書類仕事に精を出していた。

非致死性兵器(NLW) の方はある程度ひな形ができたので、後はメイヤ&ルナに作業をお願いした。

さすがに武器開発だけに注力できる立場ではないからな。

「リュートさん、ちょっとよろしいですか?」

扉ノック後、ミューアが顔を出す。

確か彼女は 始原(01) 問題で本部へ行っていたはずだが、戻って来ていたのか。

「お疲れ。ちょうど一息入れるつもりだったから平気だよ」

「それはちょうどよかったです。実はテン・ロン経由でメルティアの次期国王候補であるランス・メルティアから、リュートさんにご挨拶をしたいというお話が来まして」

テン・ロンは竜人種族、魔術師Aマイナス級。

元竜人大陸支部トップで、現在は 始原(01) 本部のまとめ役をしてもらっている。

ミューアと密接にやりとりをしている人物だ。

そしてメルティアは妖人大陸の最大国家である。

この世界でのオレの生まれ故郷でもある、ケスラン王国を潰した国家でもあるのだが――オレ自身は覚えていない赤ん坊時代のことなので、特別恨みなどはない。

だが、今更『挨拶を』なんて言われると少々身構え、疑ってしまうのは仕方ないことだと思う。

「……ミューアはどう思う? このタイミングで挨拶なんて」

PEACEMAKER(ピース・メーカー) の外交部門・諜報部門を任せているミューアに尋ねた。

彼女は微笑みを崩さず意見を口にする。

「元々ランス・メルティアと、元 始原(01) トップだったアルトリウスは長年の友人関係だとか。ですが、そんな彼の仇討ちのために挨拶をしたいなどと言い出したとは考え辛いかと。あの 始原(01) を破った我々と敵対してもリスクがあるだけで、メリットはありません。またもし敵を取るためリュートさんの命を狙うなら本人が直接狙うのではなく、プロに頼むのが道理かと思います」

ミューアの言葉に納得する。

まさか、大国の次期国王候補である王子が直接暗殺者としてオレの首を狙うとは考え辛い。

オレ自身、噂話を耳にした程度だが――王子は優秀な魔術師で、為政者の資質もある人物らしい。

そんな相手がいくら友人を殺害されたといっても、国と友を天秤にかけるタイプではないだろう。

「相手は大国メルティアの王子様だ。断るわけにはいかないな。こっちはいつでもいいから顔合わせのセッティングを頼んでもいいか?」

「むしろありがとうございます。これでテンの顔を潰さなくてすみます」

あぁ、確かにここで断ったらテンの顔を潰すことになるか。

さらに彼は今や 始原(01) の実質トップ。

断れば表だってオレ達に対して敵対することはないだろうが、面白くは思わないだろう。

「それじゃ調整頼むな」

「はい、任されました」

ミューアは笑顔で返事をすると、後日また相手と意見を交わし日時を調整してから報告に来ると告げた。

そして約1ヶ月後、大国メルティア、次期国王候補であるランス・メルティアとの顔合わせの日がおとずれる。

▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼

大国メルティア、次期国王候補であるランス・メルティアが PEACEMAKER(ピース・メーカー) 本部をおとずれる当日。

シアの部隊である護衛メイド達が朝から忙しく動き回っていた。

別に準敵国の王子が来たから『暗殺の可能性を疑いオレを完全に護衛しよう』と意気込んでいるわけではない(もちろんその点は注意を払っているだろうが)。

大国メルティアの実質トップが来るということで、馬鹿にされずしっかりと応対できるように最終確認をしているだけだ。

オレも約10日前から、当日着る衣服を着続けるようシアに強要されていた。

彼女曰く、当日に新品同様の衣服を着て前に出たら見栄を張った田舎者扱いされる。普段からこの程度の衣服は着慣れているとアピールをするためらしい。

つまり、衣服に着られてるのではなく、着こなしている風を装いたいとか。

そのために当日着る衣服を、約10日前から普段着として袖を通し着慣らしておいたのだ。

オレはこの日のために着慣らしておいた衣服に袖を通し、軽く溜息を漏らす。

「別にいつもの服でいいと思うんだけどな……」

「ダメですよ、若様。今や PEACEMAKER(ピース・メーカー) は、 始原(01) を打破したトップ 軍団(レギオン) 。若様はその団長なのですから、はるべき見栄は張りませんと相手になめられてしまいます」

シアがオレが着た衣装をチェックする手を止めず、苦言を呈する。

髪や眉、耳のなかまでチェックされてようやくシアからOKが出る。

普段から無表情な彼女だが、なんだかやりとげた感を溢れさせている。オレは襟元の息苦しさに辟易しながら、廊下へと出る。

相手はすでに客間に来ているらしい。

オレはシアともう1人護衛メイドを引き連れて客間へと向かう。

客間前に辿り着く寸前、護衛メイドの1人が先に出て扉の前に立つ。

シアは一度、オレの格好を再度確認してから、部下へ無言で頷く。

彼女も頷いた後、扉をゆっくりとノック。

室内にいる相手の気配を探りつつ、タイミングを計って扉を開く。

客間には1人の美男子と、頭からすっぽりとマントで顔と体まで隠した人物が、彼の座るソファーの背後に立っていた。

大国王子の付き人にしてはずいぶん変わった格好である。

美男子はこちらの反応など気にせず、ソファーから立ち上がりオレを笑顔で出迎えてくれた。

「初めましてずっとお会いしたかったです、ガンスミス卿。僕は人種族、魔術師Aプラス級、ランス・メルティアと申します」

「ご丁寧にありがとうございます。 PEACEMAKER(ピース・メーカー) 団長、人種族、リュート・ガンスミスです」

互いに挨拶を終え、ソファーで向き合うように座る。

シアがいつのまにか淹れ終えていた香茶を、オレ達2人の前に置く。

香茶を配り終えると、彼女達はこちらの邪魔にならないように離れて、壁際へと立つ。

まるで調度品のように息を殺し、気配を消し立っている。

その姿はメイドというより、暗殺者に近いんじゃないだろうか?

とりあえずシア達のことは置いておき、オレは改めてランス・メルティア――という人物を観察する。

身長は180cmほど。

背は高いが『体格が良い』という感じではない。金髪を背中まで伸ばし、顔立ちも女性と見間違えるほど整っているせいだろうか。

また絶えず掴み所がない微笑みを浮かべている。

しかし、胡散臭さや頼りなさは微塵もなく、一種人を惹きつけるカリスマ的雰囲気を醸し出していた。

これが次期メルティア国王確実と目されているランス・メルティアか。

……しかしなぜだろう。初対面のはずなのになぜか彼に既視感を覚える。

まるで数十年ぶりに懐かしい人に出会ったような錯覚に襲われるのだ。

ランスはこちらの困惑に気づかず、友好的な微笑みを浮かべて話を切り出す。

「お忙しい中、お時間を作って頂きありがとうございます。本当はもっと早くにご挨拶に伺いたかったのですが、なにぶん自由が少ない身の上。遅参したこと、寛大なお心でお許し願いたい」

「そんな大仰な。むしろ、気を利かせてこちらからご挨拶に伺うべきところを、わざわざ遠方から来てくださったのです。歓迎するのは当然じゃないですか」

「そういってくださるとありがたいです。不躾ついでにもう一つ、できればメイド達の席を外して欲しいのですが。少々耳にさせたくないお話がありまして」

「……ご安心ください。彼女達は優秀なメイドです。ここで耳にした内容を他言することはありませんよ」

一瞬、『暗殺でもたくらんでいるためシア達が邪魔なのか?』と疑い反応が遅れてしまった。

なんとか笑顔を浮かべて友好的に返答する。

この答えにランスは、申し訳なさそうな笑いを堪えているような曖昧な表情を浮かべて告げてくる。

その台詞にオレの頭から爪先まで冷たい怖気が走り抜けた。

「僕自身は居てもらっても一向にかまわないんですが、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) 団長さんとしては醜聞が悪いんじゃないかと思って。だって『困っている人や救いを求める人を助けたい』、でしたっけ? そんなスローガンを掲げている団長さんが、校舎裏でイジメられていた友人を見捨てて逃げた――なんて知られたら色々まずいじゃないですか?」

「――ッ!?」

なんでこいつはオレの前世のおこないを知っているんだ!?

たとえ『予知夢』の力を持つララにだって、前世のおこないなんて分かるはずがない。

唯一、それを知っているのは、あの場に居た当事者達しかいないはずだ。

まさか――今目の前にいる彼は……

「シア……悪いが、席を外してくれないか。オレが許可を出すまで、絶対に誰もこの部屋に入れないようにしてくれ」

「……かしこまりました」

わずかな逡巡。

しかし、シアはこの指示に逆らわず部下を連れて部屋を出る。

オレは改めて正面ソファーに座るランスへと向き直った。

彼は相変わらず掴み所がない微笑みを浮かべている。

シア達メイドが一礼して部屋を出て、扉が完全に閉まったのを確認してから――オレが口を開くより早くランスが声をかけてきた。

「……ようやく邪魔者がいなくなったね。お陰で他人のふりをしなくてすむよ。ああいう改まった言葉遣いって、疲れるから苦手なんだよね。久しぶりだね 堀田くん(・・・・) 。数十年ぶりになるのかな? まさか君までこの世界に転生していたとは思わなかったよ」

容姿、人種、背丈、声まで違うのに、ラフな喋り方や仕草で彼が誰なのかすぐさま理解する。

額と言わず全身からびっしょりと冷たい汗が流れ、オレは無意識に震える声で彼の――前世での名前を絞り出すように口にした。

「た、 田中(たなか) …… 孝治(こうじ) 」

前世、同じ私立高校に通い一緒に相馬達からイジメを受けていた友人。

高校2年に進級すると、オレだけ相馬達とクラスが分かれたお陰でイジメから解放された。

結果、相馬達の矛先は田中1人に向けられてしまう。

そしてオレは校舎裏で田中が相馬達にイジメを受けている現場を目撃する。

田中がオレに気付き、助けを求める視線を向けてきた。

しかし、相馬達が怖くてオレは逃げ出してしまった。結果、その日の夜、田中は首を吊って自殺してしまったのだ。

以後、色々あってオレはこちらの異世界へと転生。

もう二度と田中を見捨てた時のようなことをしないため、この世界では強くなろうと誓った。

勇気を持ち、困っている人、助けを求める人が居たら絶対に助けようと誓った。

それが見殺しにしてしまった田中へのせめてもの償いだと――

……しかし、まさかその本人である田中孝治が、自分と同じように生まれ変わってこの異世界に転生していたとは想像もできなかった。

オレの驚愕と困惑、罪悪感が胸から噴出しぐちゃぐちゃになった顔とは正反対に、ランス――いや、田中は、

「よかった。覚えていてくれたんだね。そうだよ。君が見捨てた 田中孝治(・・・・) だよ。本当に久しぶりだね」

高原に吹き抜ける風のように爽やかな笑顔で正体を明かした。