軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第272話 久しぶりのブラッド家

白狼族の村からノルテの城へ戻ってくると、ギギさんが妙に落ち込んでいた。

皆に話を聞くと、どうやらアムとアイスの娘であるシユちゃんに怖がられたため、落ち込んでいるらしい。

旦那様には喜んで抱っこされ、笑顔を向けるが、ギギさんは顔を見ただけで泣き出すとか。

そのためギギさんは、シユちゃんに近づけず距離を取らされているのだ。

「リュート、俺の顔はそんなに怖いんだろうか……旦那様にはあんなに懐いているのに……」

ギギさんは本気で落ち込んだ表情をして、オレに相談してきた。

旦那様は筋肉モリモリで、威圧感はあるが常に笑顔で明るく紳士的な態度を取るため恐怖感はない。

だからシユちゃんも、旦那様には恐怖を感じず笑顔を向けるのだろう。

対して実際、ギギさんは強面だ。

エル先生の件もあり、最近は眉間に皺が深く刻まれさらに人相が悪くなっている。

オレ達は慣れているから怖がることはないが、初対面の相手は一歩引いてしまうかもしれない。

しかし、まさかそれを本人に直接言う訳にもいかず、オレは適当に誤魔化すしかなかった。

そしてそれから数日後、オレ達はノルテを後にする。

アムから『急がずともいいではないか。もっと滞在していきたまえ』と勧められたが、『旦那様を早く奥様達が待つ屋敷へ帰したい』と伝え納得してもらった。

吹雪が止んだ後の、晴れ渡った空。

アムやアイス、シユちゃんとの別れを惜しみつつ、オレ達は新型飛行船ノアに乗り込み魔人大陸を目指し飛び立った。

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魔人大陸は、世界地図の中心から見ると、時計で言う10時の位置に当たる。

個人的に魔人大陸には苦く辛いものから感慨深いものまで、多くの思い出が詰まっている大陸である。

アルセド達に騙され奴隷として売られたり、旦那様に奴隷館で買われ、ブラッド家に連れてこられてクリスと出会ったり――本当に人生を変える一大イベントが多かった。

一歩、いや半歩でもずれていたらオレは今頃、鉱山で強制労働か、男娼などで客を取らされていたかもしれない。

想像しただけで鳥肌が立つ。

今こうして、嫁達にかこまれ幸せに過ごせているのは奇跡に近いことなのだと改めて実感する。

そして飛行船ノアは、魔人大陸へ入ると真っ直ぐブラッド家を目指す。

ブラッド家に飛行船の専用倉庫はないが、裏手に広い草原があるため止める場所に困ることはない。

だが、すぐ着陸させるのは勿体ない。

旦那様の帰還を知らせるために、ココノに頼んで屋敷上空をグルグルと回る。

その際、クリス、旦那様、ギギさんには飛行船の縁に立ってもらい戻って来たことをアピールしてもらう。

こうして派手に演出することで、ギギさんがセラス奥様の指示通り無事旦那様を連れ戻したことを宣伝する。

こうすることでほんの少しではあるが、ギギさんの過去の一件を払拭する一助になればいいと思ったからだ。

ギギさんに意図を説明すると、渋られる可能性が高いので『皆に旦那様が帰還したことを一目で伝え安心させたい』と誤魔化し納得させた。

使用人達が上空を旋回する飛行船に気が付き、旦那様達を目にすると何人かが屋敷内部へと駆け出す。

奥様を呼びに行ったのだろう。

ココノに合図を出して屋敷の裏手にある平原に飛行船を着陸させる。

さらにここから奥に行くと森がある。

昔あそこに多数のトラップをしかけたり、クリスがM700Pを持ってギギさんの足止めをしたりしたな。

そんな感慨に耽りながら飛行船から下りるため甲板へ出ると――セラス奥様をはじめブラッド家の執事長を勤める魔人種族、羊人族のメリーさん。

メイド長を勤める獣人種族、ハム族のメルセさん。

他懐かしい使用人の人達が集まっていた。

旦那様が最初に飛行船を下りる。

旦那様とセラス奥様が、数年ぶりに顔を合わせる。

「ただいま帰ったぞ。遅くなってすまなかったな」

「おかえりさない。長旅ご苦労様」

2人は言葉短く会話を重ねる。

奥様は『ダン・ゲート・ブラッドなら、どんな場所からでも絶対に戻ってくる』、旦那様は『セラス・ゲート・ブラッドなら、何があっても家や使用人達を守っていてくれる』と信じていたと言葉にせず目で語り合っていた。

そこにはある種の理想的な夫婦像があった。

「ギギも夫を連れ戻してくれて、本当にありがとう」

「……いえ、自分はやるべきことをやっただけです」

ギギさんは奥様の言葉に謙遜し、深く一礼する。

セラス奥様が背後で待ち構える使用人達を振り返り、頷く。促されたメリーさん達使用人が、雪崩のように旦那様へと殺到した。

「だ、旦那様! お帰りなさいませメェ~……ッ!」

「旦那様、よくご無事で……ッ」

久しぶりに聞くメリーさんの語尾。

メルセさんも普段クールな人物なのだが、今回は目に涙を溜めて旦那様へと声をかける。

他使用人達も思い思いの言葉をかけたり、抱きついたりしていた。

「ははっははは! 皆も元気そうでなにより、なにより! そうそう! 皆にお土産も買ってきてあるぞ! 楽しみにしているといい!」

旦那様はまるで旅行から帰ってきたような態度で、豪快に笑う。

旦那様の笑い声を久しぶりに聞いて、使用人達も自然と笑みがこぼれる。

ああ、そうだ。この空気感こそブラッド伯爵家だ。

オレ自身、ブラッド伯爵家に旦那様が帰ってきたことで、ようやく『ヴァンパイア事件』が終わったのを実感した。

旦那様をこの場所、皆の元へ連れ戻すことができて本当に良かった。

「うん?」

気が付くとクリスが、オレの手を握り締めていた。

言葉には表さないが、彼女の微笑みがオレと同じように『事件を解決し、長年抱えていたことに区切りをつけることができた』と言っていた。

オレも微笑み、彼女の小さな手のひらを握り返す。

数年にわたったブラッド事件は、こうしてようやく本当の意味で解決を迎えることができた。

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旦那様と奥様&ブラッド家使用人達の感動的再会が終わると、屋敷へと誘われる。

その前に飛行船ノア用の倉庫を魔術で作り出しておく。

魔人大陸は基本的に天気が悪い。

多少の雨は問題ないが、わざわざ濡らす必要もない。

旦那様&奥様に許可を取り、専用の倉庫を作りに取り掛かる。

普通の方法で建築した場合、時間がかかる。

そのため魔術が使えるスノー、リース、シア、メイヤ、ギギさんにお願いして土で雨露を凌げる倉庫を造ってもらう。

他使用人達はその間に屋敷へと戻り、オレ達が寝泊まりする客室の掃除、足りない食料の買い出し、他歓迎の雑務に慌てて取り掛かる。

魔術で作り出すため、倉庫は30分ほどで出来上がる。

久しぶりに親子3人が揃ったクリス、旦那様、奥様は楽しげに会話をしつつ先頭を歩く。

オレ達はその後に続く形でブラッド家屋敷へと向かう。

屋敷へ入ると、執事長のメリーさんが恭しく出迎えてくれる。

「ようこそブラッド家へ。ご挨拶が遅れて申し訳ありません。わたしはブラッド家の執事長を任されておりますメリーと申します。以後、お見知りおきをメェー」

先程まで久しぶりに旦那様と再会し、『メェ~』と涙声だったのに、今はどこにだしても恥ずかしくない『執事』といった態度で出迎えてくれる。

「お疲れのところ申し訳ありませんが、まだお部屋の準備が整わず少々客室にてお待ちください。ご不便をおかけして申し訳ありませんメェー」

そして、オレ達は客室へと案内される。

客室にはすでにメルセさんがお茶の準備をして待ち構えていた。

さすがブラッド家メイド長、おもてなしに隙がない。

「むぅ……ッ」

なぜかシアが、メルセさんを前に目を細める。

他家のメイドを前にして初めて見る態度だ。

まるで自分と同等の実力者を前にしたライバルキャラクターのような顔をする。

いや、別にブラッド家のメイドに対してシアが対抗意識を燃やす必要はないよね?

客室などの準備が終わるまで、オレはセラス奥様と初対面の嫁達やその他――リース、ココノ、シア、アスーラ、ノーラの紹介をする。

紹介を終えたところで、旦那様が兄弟であるピュルネッケン達に売られた後何があったのか、旦那様と時折交代しつつセラス奥様に話し聞かせる。

旦那様が鉱山で働かされていたこと。

成果を上げすぎて、上層部に疎まれ再び売られたこと。

売られた先が魔王アスーラの元だったこと。

そして、今度はオレ達が話の中心になる。

旦那様を取り戻すため魔物大陸へ行き、最終的に『黒』との戦闘になった。

そして、世界の真実を知り 軍団(レギオン) トップ、 始原(01) との戦いをしたこと。

冒険譚好きな奥様は、目を輝かせて旦那様やオレ達の話を聞き入った。

一通り話を聞くと、奥様は満足そうに笑顔を零す。

「まさかリュートが貴方やあの 始原(01) に勝つなんて、本当に凄いわ。最初はメイド服を着ていたせいで、女の子と間違うぐらい華奢で可愛らしかったのにね」

「リュート様がメイド服……?」

この話が初耳だったココノ、アスーラ、ノーラが驚きでこちらを見てくる。

「い、いや、まぁリューはけっこう女顔よりだし、た、たしかにメイド服が似合うかもしれんな!」

「そ、そうですよ! むしろ、リュート様のメイド服姿とか見てみたいですよね!」

「わたしは妻としてリュート様がどんな趣味でも受け入れます……ッ。今度、ココリ街に戻ったらお洋服屋さんを見に行きましょう。クリス様達とよく行くお薦めの可愛らしいお店があるので」

アスーラ、ノーラ、ココノの順番に語りかけてくる。

ココノは笑顔で買い物に誘ってくるが、両手は首から提げている天神教会の聖具を握り締めていた。

「変な勘違いしないでくれ。オレに女装趣味はないよ。昔、女の子と間違われてメイド服を着るよう渡されただけだよ」

「でも、とても似合っていたわよ。またリュートのメイド服姿を見たいぐらいだわ」

「奥様、勘弁してください。アレはまだ子供だったのと、華奢だったのは約1年の船旅で食べさせてもらえずやつれていただけですよ」

笑顔でさらりと怖いことを言い出すセラス奥様に、溜息を吐きながら釘を刺す。

アレはオレの中でも黒歴史の1つなのだから、マジで勘弁して欲しい。

「わたし的にはリュートくんの執事服姿を見てみたいな!」

「確かに見てみたいですね。私もクリスさんのように執事服姿のリュートさんにお世話して欲しいです」

スノー、リースが目を輝かせて盛り上がる。

女子はスーツとか執事服とか、フォーマルな格好好きだよな。

「リュート様の執事服姿……メイヤお嬢様……ぐふふふ、お嬢様と執事プレイ……昼は主と執事ですが、夜になると立場逆転……『さぁメイヤお嬢様、オレのNATO弾を 薬室(チェンバー) に飲み込んで』『ら、ラメですわ! 弾薬(カートリッジ) 規格が合わなくてキツキツなの! 今、 撃鉄(ハンマー) で雷管、起爆されたら、 発射薬(パウダー) が多すぎて暴発しちゃう! 機関部(レシーバー) が滅茶苦茶になっちゃうのぉ!』。ふふ……ぐふふ……」

メイヤは1人俯き、耳まで赤く染めて妄想世界へと埋没する。

口元からだらしなく涎が垂れていた。

この弟子どうすればいいんだろう……最近、本当にメイヤの扱いに困っている。

とりあえず、メイヤのことは置いておいて、さらにオレ達は楽しい雰囲気の中、会話を重ねる。

暫くすると客間の準備が整ったので、移動の疲れもあるから――とオレは断りを入れ客間へと行くことに。

席を立つ前に隣に座るクリスの肩を叩く。

「オレ達は先に客室に行ってるから、クリスはもう少しここでゆっくりしていってくれ」

『……ありがとうございます、リュートお兄ちゃん』

クリスはオレの意図を察すると笑顔でお礼を告げてくる。

数年ぶりの親子水入らずだ。

クリス、旦那様、セラス奥様――3人で話したいこともあるだろう。

オレ達はクリスに気を利かせて、3人を残して客間を後にした。

客室は2階の奥にある。

メルセさんの案内で客室へ着くと、3室に別れる。

オレ、スノー、リース、ココノのガンスミス家。

アスーラ、ノーラの元女魔王&黒組。

メイヤはオレの弟子として1部屋を与えられた。

シアにも部屋が用意されたのだが、『夜間何があるか分かりませんので、ノアで寝泊まりさせて頂ければと思います』と断られてしまった。

確かに倉庫は作ったが、何があるか分からない。

警護の意味で居てくれるなら助かるのは確かだ。

飛行船ノアの生活環境も、力を入れているため下手な宿屋より豪華だ。

ブラッド家屋敷との行き来が面倒だが、寝泊まりするだけなら問題ないだろう。

オレは許可を出し、シアに夜間はノアに泊まってもらうことにした。

「リュートくん、リュートくん、御夕飯までまだ時間があるけど何する?」

ソファーに座ってくつろいでいると、背後からスノーが抱きついてくる。

質問をしながら匂いを嗅いでくるのは勘弁して欲しい。

息がくすぐったい。

「オレは久しぶりにブラッド家に戻って来たし、知り合いの使用人達に挨拶しに行こうと思ってる。スノー達は悪いんだけど、適当に夕飯まで過ごしていてくれないか?」

「分かりました。では、そうさせていただきます」

「折角ですから、リバーシの続きをやりませんか?」

「いいですね。スノーさんには負け越しているので、今度は勝ちたいです」

「ふっふっふっ、わたしは昔からやってるからね。年季が違うんだよぉ」

「今度は負けませんからね。シア、準備をお願い」

「かしこまりました」

リースが意気込み、シアに指示を出す。

彼女はどこから出したのか、リバーシの盤&コマをいつのまにかソファーの間にあるテーブルに並べ、香茶&茶菓子の準備すら整えていた。

表情には『ブラッド家メイドにも仕事では負けませんから』と書かれてあった。

いや、だから、別に張り合うことでもないだろう。

スノーはオレから離れると、隣に座りリバーシの白を選択。

リースは黒を手にする。

ココノはリースの隣に座り、ニコニコと楽しげに笑顔で2人を応援した。

オレはそんな彼女達に断りを入れて、知り合いの使用人達に挨拶をするべく部屋を出た。

数年前まで執事見習いとして働いていたため、屋敷の内部構造は把握している。

この時間、どこで誰が、どんな仕事をしているのかも把握済みだ。

これも『昔取った杵柄』と言うのだろうか?

(さて、まず最初はどこに挨拶へ行こう……)

オレは腕を組み、今、挨拶に伺い邪魔にならない人達の顔を思い浮かべたが、その足を止める人物がいた。

「リュート、ちょうどよかった」

「ギギさん、どうかしたんですか?」

「話があるのだが、いいか?」

階段を下りる手前で、ちょうど上がってきたギギさんと顔を合わせる。

先程、客間の時に彼は居なかった。

飛行船ノアから荷物を運んでもらっていたからだ。

「実は先程、旦那様達に呼ばれてな…………その、ブラッド家を解雇されたんだ」

「……はっ!? か、解雇ってクビってことですか!? ど、どうして突然! ちゃんと約束通り旦那様を連れ戻したのに!?」

オレに話って、もしかして PEACEMAKER(ピース・メーカー) に再雇用してくれとか? もちろんギギさんならウエルカムだよ!

それとも旦那様に義理息子として抗議して欲しいとか?

オレの表情変化にギギさんが微苦笑を漏らす。

「怖い顔をするな。ブラッド家を解雇されたのは、不手際があったからじゃない……旦那様達が『もうケジメをつけたのだから、ブラッド家に縛られることはない』と仰ってくれたんだ。エルさんを……大切にしろと」

えっ……ちょ、何この流れ……

ギギさんが頬を染め、告げてくる。

「エルさんに結婚を申し込もうと思うのだが……どうだろうか?」

ギギさんがエル先生に結婚を申し込む?

つまり、エル先生がギギさんと結婚するということ?

え? えぇ? えぇえぇぇ?

『どうだろうかって?』って……そんなの答えは1つに決まっている。

滅茶苦茶、邪魔してぇぇぇぇええっぇぇぇぇぇぇえッ!!!

オレは胸中で思わず本音を絶叫してしまった。