軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第270話 黒下部組織

新型飛行船『ノア』に乗り、最初に向かったのは妖人大陸にあるアルジオ領ホードだ。

エル先生を孤児院へと送り届けるためだ。

別れる時、エル先生とギギさんの間には神妙な空気が漂っていた。

2人は互いに想い合っているのだが、ギギさんが孤児院に残ることはない。

なぜなら彼は、ブラッド家に旦那様を無事届けなければならないからだ。

そして以後は、ブラッド家で死ぬまで働くつもりなのだろう。それが裏切った自分の贖罪だと信じて。

エル先生も子供達を置いて、ギギさんと一緒にブラッド家に行くわけにはいかない。

そのためどうしても気まずい空気が流れてしまう。

しかし何時までもこの場に残っているわけにはいかない。

エル先生と孤児院の子供達に手を振って別れを惜しみつつ、オレ達はホードを離れる。そして次に向かったのは、組織『黒』の下部組織が存在すると言われる孤島だ。

女魔王アスーラを巡ってオレ達と戦った『黒』は、下部組織に資金調達、裏仕事、情報収集、他雑務を担当させていた。

その下部組織のまとめ役が、細い針の道具――つまり『注射器』を開発した人物らしい。

人種族の男で、歳は二十半ばを過ぎている。

名前はレグロッタリエ。

魔術師としての才能はないが薬学に秀でており、裏社会で名前を馳せていた。それ故、『黒』の目につきスカウトされたというわけだ。

一番の特徴は首筋から喉にかけて入れ墨をいれていることらしい。

(嫌な記憶が蘇るな……)

前世、オレを殺害したイジメの主犯格でもある相馬亮一が、同じように首に入れ墨をいれていたことを思い出す。

あの時は恐怖で逃げてしまったが……この世界に来てからオレは修羅場をくぐり抜けて来ている。

もしあの時のように襲われても、今なら冷静にAK47の弾丸を弾倉が空になるまで撃ち込める自信がある。

(しかし、入れ墨に、薬学、そして注射器……まさか自分のように相馬もこっちの世界に生まれ変わったのか?)

だとしたらどんな確率だ。

第一、もし彼が相馬なら、自分よりなぜ歳が上なのだ?

自分は彼に殺された。

ならば必然的に、相馬はオレの死後に死亡しているはずだ。

であれば、オレがこちらの異世界に生まれ変わったもっと後に転生するのではないか?

(まぁ転生云々なんてものを、時間的尺度で測ってもしかたないけどな。それにその注射器の開発者とやらに会えば、転生者かどうかなんてすぐに分かるわけだし)

『黒』の下部組織が存在する孤島に向かいながら、オレはそんなことを考えていた。

オレ達が向かっている孤島は、6大大陸の中心にある『中央海』に存在する。

孤島とは呼んでいるが、実際には小さな島が密集しているものを1つの島に見立てて呼んでいるらしい。誰かに会話を聞かれても場所が分からないようにという、裏組織なりの考えもあるのかもしれない。

一番大きな島は『凹』の形をしており、その窪みへ隠れるように商船を襲う船や小型飛行船などが置かれている。

潮の流れもあり、海で溺れて偶然流れ着くことなど到底ありえない、誰からも知られていない島。

確かに影に潜んで行動する者達からすれば、これほど素晴らしい場所はない。

周囲は海で、近付く影があればすぐに気が付くことができる。

そして誰かが逃げ出そうとしても泳いで辿り着く距離に陸地はない。さらに、人を襲う鮫に似た生き物が海にはうようよおり、人が泳いで近づいてくることもない。

オレ達が乗っている新型飛行船ノアは、『黒』下部組織の舟や小型飛行船が密集して場所を占領しているため、やや沖の方に下降し停船した。

もちろん、下部組織の船や小型飛行船の動きを見張るには少し離れた方がいい、という意味合いもある。

この島には『黒』下部組織の本部があるため、砂浜にはノーラの姿に気付いた部下達が出迎えるように砂浜に集まっている。

皆、男性で身体が大きく、人相がとても悪い。

彼らより一歩前へ出ている男性は、ドクロマークの帽子に眼帯、左手はフックのような義手を嵌め、腰からサーベルを下げている。

遊園地のアトラクションで出てくるいかにもな海賊ファッションだ。

ノーラの話では、注射器を作った入れ墨の男が彼らのトップだったはず。

あの如何にも海賊長といった格好の男性がトップの筈がないのだが……。

海賊の格好をした男は自分が代表者だと言いたげに、男達より前に立っている。

さらに遠目に見ても男性達は笑顔だが、どこか落ち着かない空気を孕んでいる。

長年、荒事をくぐり抜けてきたため、一発でピンと来た。

オレは振り返り、小声で皆に『一波乱ありそうだから武装しておくように』と指示を出す。

ノーラは最初、オレの言葉に驚いていた。

当然だ。

『黒』組織の幹部であるノーラが居るのに、彼女ごと襲おうとしている――とオレが言うのだから。

しかし、予想通り、船を下り砂浜に足を付けると――男達は腰から下げていたサーベル、ナイフ、弓矢、背後に隠し持っていた鈍器を取り出し襲いかかってくる。

中には一応、魔術師Bマイナス級が数人交じっていた。

(……やれやれ、ようやく着いたっていうのにとんだ歓迎会だな)

オレは愚痴りながらも、辺りに視線を向ける。

敵の数は、ざっと100名。

一方こちらが用意した戦闘員はオレ、シア、旦那様、ノーラの4人だけ。

残りの人員には新型飛行船ノアに攻撃が届き破損しないよう防御を頼む。

万が一、船が壊れたら修理が面倒だ。

ギギさんは最後まで自分も戦うと食い下がったが、オレはそれを却下した。

エル先生と別れてからずっと、ギギさんは普段の強面の顔をさらに顰めていることが多かった。

そんな不安定な状態で、戦わせるわけにはいかない。

ギギさんが不覚を取るとは思わないが、何事も絶対はないのだ。

それにここで男達と戦うのは、実のところ旦那様1人だけである。

オレ、シアも船を下りたが、あくまでノーラの護衛として付いてきただけだ。

最初から戦うつもりはない。

そのためノーラを背後に隠し、オレはSAIGA12Kを非致死性装弾の弾倉を入れている。シアはいつも通りコッファーを手にしていた。

そして準備万端が整ったオレ達の前で、旦那様vs黒下部組織(海賊風味)×100人との戦いが今始まる!

圧倒的な数の前に立ちはだかるのは旦那様唯一人。

男達は三下台詞を叫びながら襲いかかってくる。

「ヒャッハー! 男は皆殺しにしろ! 女達は絶対に逃がすな! 俺様達の女にしてやるぜ!」

笑い声を上げながら突撃してきた男が、自分のもっとも近くにいた旦那様へサーベルを両手で振り上げ襲いかかる。

「くたばれデカブツ――えっ?」

旦那様は男の攻撃を防御しようともせず、上半身裸のまま刃を受けた。

結果、男が手にしてたサーベルの方が折れてしまう。

男は半分になったサーベルと旦那様を何度も見比べる。もちろん旦那様の肌に傷など毛筋ほどもついていない。

「はははははは! 駄目だ! 駄目だ! 全然駄目だ!! 君達には筋肉が足りなさすぎる!!」

「うごぉ!?」

旦那様は襲いかかってきた男をデコピン1つで一番後方まで吹き飛ばす。

吹き飛ばされた男は、倒れたまま動かなくなった。

指先1つでダウンって、旦那様はどこの世紀末覇者だ。

てか、どっちが勝つも何も、旦那様相手にただの剣や弓では、傷どころか産毛を剃れるかどうかも怪しいだろう。

旦那様は機嫌良さげに、両手の拳をぶつけガンガンと鳴らす。

飛行船ノアにずっと乗っていて筋トレしかできなかったため、体を目一杯動かせるのが嬉しいらしい。

「ははははは! どうしたどうした! 遠慮はいらないぞ! 全力でぶつかってきなさい!」

「舐めやがって! オマエら! あの筋肉だるまを囲め! 槍持ってる奴らは外から突け!」

旦那様は策もなく家の庭を散歩するように真っ直ぐ、男達へと向かって歩く。

男達は挑発されたと勘違いし、馬鹿正直に真っ正面からぶつかっていく。

「ちくちょう! どうなってやがるッ槍がささらねぇぞ!?」

「剣もだ! おい魔術師! 魔術師に攻撃させろ!」

「任せろ! 我が手に灯れ炎の槍! 炎槍(フレイム・ランス) !」

男達の怒声に似た指示で、魔術師が3本の炎槍を作り出し旦那様へと向ける。

炎の槍は旦那様をめがけて矢のように飛ぶが――

「ふんぬ!」

『ぎゃぁぁぁぁ!?』

旦那様が右アッパーを一閃。

この時生み出された突風により、男達と炎の槍が文字通り吹き飛んでしまう。

この一撃だけでほぼ半数が脱落する。

運良く突風の範囲外にいた残り半数が、旦那様と自分達の圧倒的戦力差に凍りつく。

そりゃ一撃で仲間の半分が脱落したんだから、呆然とするよな。

彼らが旦那様に挑むなど、素手で戦車に突撃する歩兵より無謀だ。

「ま、まだだ! こんな化け物、正面から相手にする必要はねぇ! ノーラや後ろにいる男達を人質に取ればまだ俺様達が勝てるぞ!」

この場のトップらしき海賊男が、他部下達を鼓舞する。

男達は指示通り、旦那様を左右に大きく迂回し避けてオレ達を人質にしようと群がってくる。

彼らもどうにかして戦況を覆そうと必死なのだ。

「ははははは! 君達の相手は我輩だというのに、いったいどこへ行こうというのだね! それに女性を人質にとろうとするなど紳士的ではないぞ!」

しかし、残念! 旦那様からは逃げられない!

旦那様は自身を避け、左右に分かれてオレ達の方へ向かってくる海賊達に対して超高速で横移動。

つまり、反復横跳びをしながら、彼らの移動を遮り通せんぼしたのだ。

その動きが速すぎて、まるで旦那様が分身しているように見える。

彼らでは、100年かかっても、旦那様のその壁を越えることはできないだろう。

ちなみにギギさんが旦那様の『女性を人質にとろうとするなど紳士的ではない』の部分で、目に見えて落ち込んでいた。

奥様を人質にとったことを思い出してしまったのだろう。

オレがギギさんの心配をしていると、旦那様が海賊達を次々倒していく。

「ははっはははは! まだまだ! 全然、筋肉が震えないぞ! もっと全力でかかってきなさい!」

旦那様が笑い声を上げて、拳を振るうたび人が木の葉のように飛ぶ。

後で話を聞くため、殺害しないようお願いしているのだが……死んでないよな?

一応、下は硬い地面ではなく砂浜だから大丈夫だとは思うが。

そして、特に海賊達が活躍することも、旦那様から逃げ出すこともできず――彼らはあっさりと壊滅させられた。

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気絶した海賊達を新型飛行船ノアに乗っていたスノー達にも手伝ってもらい、拘束していく。

一箇所に纏め終えてから、代表者らしき海賊船長風の男を叩き起こし、話を訊くことに。

「それでどうしてオレ達――『黒』の幹部であるノーラを襲ったんだ? 面識はあったはずだろう。それにオマエ達のまとめ役である注射器を作った入れ墨の男はどこにいるんだ?」

「へっ、誰が貴様らなんかに屈するかよ。たとえ拷問を受けたって仲間は売れねえぞ」

旦那様に手も足も出せず、負けた割にはまだ強気な口が聞けるとは……。

さすが小規模とはいえ、組織のトップだけはある。

だが、言葉通り拷問して情報を引き出すわけにはいかない。

どちらが悪役か分からないし、女性陣の目がある。

それにオレだって、拷問なんて気分の悪くなることはやりたくない。

なら彼の口を割るのを諦めて、他に捕らえた男性達を締め上げる手もあるが……精度という意味では下っ端が持つ情報は当てにならない。

やはり、海賊船長風の男から情報を聞き出すべきだろう。

本当はこんなことをしたくないが……ここは心を鬼にして『爽やかに汗をかける拷問』を受けてもらうことにしよう。

「素直に話してくれないのならしかたない……旦那様、この男が『自分から話したくなる』まで筋肉トレーニングをしてやってください」

「はははっはっは! 任せたまえ!」

「ちょ、ちょっと待って! 何をするつもりだ!」

「怯えることはない! ただ我輩と一緒に筋肉を震わせて、気持ちいい汗を流すだけだ!」

「お、俺様にそっちの趣味はねぇ!」

男はナニと勘違いしたのか、青い顔で悲痛な叫び声をあげる。

旦那様はそんな縛られたままの船長風の男をひょいと担ぎ、広いスペースのある砂浜へと移動。

男の縄とほどき、旦那様主導の筋肉トレーニングの幕が開く!

……約一時間後。

「ぜー、はー、わ、わかった。お、おれさまの、はーぜー、知っている情報全部を話すから、ぜーはー、もう勘弁してくれ……」

男は海から上がってきたばかりのように全身汗で濡れ、砂浜の上に寝ころぶ。

一方、男と同じ――いや、それ以上のハイペースで筋トレをしていた旦那様は汗ひとつかかず、息すら乱していなかった。

2人の筋トレを眺めていたオレ達でさえ胸焼けするような運動をしていたはずなのに……。

旦那様にとってあの程度は準備体操にもならないらしい。

オレはリースからコップを受け取り、男に水を飲ませて情報を聞き出す。

男は水を飲み干すと、息を切らしながら話をし出す。

『黒』メンバーがオレ達を追いかけ、魔王大陸へと行った後、入れ墨の男レグロッタリエが下部組織を掌握。

彼に逆らう者は、いつの間にか連れてきていた無骨なロングソードを背負った男に皆殺しにされる。

またレグロッタリエは、近々世界を統べる程の力が手に入ると断言。

自分側につけば『黒』メンバーの少女達を好きにしていいし、今後の地位も約束すると言ってきた。

暴力と甘言、二つを使い分け男達を手なずけたらしい。

「それでそのレグロッタリエって奴は今、どこにいるんだ? この中にはいないようだけど」

「あいつは数日前、やることがあるって言い残して、ロングソードの男を連れて島を出たよ。近々帰ってくるって言ってたがな」

つまり、オレ達はタイミング悪く、入れ墨の男を取り逃がしたらしい。

(でも、なんだこの違和感は……まるでオレ達が島に来るのを分かっていたように逃げ出した気がするのは)

そう――まるで『予知夢』の能力を持つ、ララのようなタイミングの良さだ。

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入れ墨の男レグロッタリエとロングソードの男が、とある大陸の海岸へと辿り着く。

そんな2人を出迎える1人の少女。

「お疲れ様。移動大変だったでしょ。近場の町に宿をとってあるから、そこでまずは休みましょう」

ハイエルフ王国エノール、元第一王女、ララ・エノール・メメアが、目の前の男性2人を笑顔で出迎えた。