作品タイトル不明
第269話 地下牢
始原(01) との戦い勝利の祝勝会途中、エル先生を連れ去ろうとアルトリウスが姿を現した。
彼がエル先生に執着していたことを知っていたオレは、彼女を守るため一計を案じる。
シアに頼み、エル先生の偽者を準備しておいたのだ。
お陰で無事にエル先生を守り、アルトリウスを生きたまま捕らえることが出来た。
気絶したアルトリウスには魔術防止首輪を付け、地下牢へと押し込み歩哨を立て、オレの許可があるまで誰も入れないようにしておいた。
そして 始原(01) 本部と連絡を取り、彼を引き取ってもらう予定だったのだが――
翌朝、アルトリウスへ朝食を届けるついでに、オレは様子を見ておこうと地下牢へと下りた。
魔術防止首輪を付けているため、現在の彼は一般人と変わらない。
しかし念のためシア、スノー、ギギさんにボディーガードとして付いて来てもらう。
地下牢外では、いざという時のためクリスやリース達に待機してもらっている。
旦那様にも来て欲しかったが、体格が大きすぎて逆に邪魔になってしまう可能性があったため遠慮してもらった。
旦那様と一緒に地下に下りたら、酸素濃度とか薄くなりそうだし……。
シアが朝食を載せたお盆を持ち、オレが先頭で地下へと下りる。
アルトリウスが入っている牢屋へとすんなり辿り着く。
彼は牢屋に備え付けられているベッドで横になっていたため、まだ眠っていると思ったが、よく見れば掛け布団を被っていない。
床に落ちている。
さらに眠っている筈なのに胸が上下しておらず、両腕は腹の上に置かれ重ねられ指先1つ動いていない。
これではまるで死体のようじゃないか……
「リュートくん、リュートくん、なんかおかしいよ。あの人から凄い血の匂いがするよ」
「……ッ!?」
一応警戒して、目を魔力で強化。
アルトリウスの胸に、トリックや偽装ではなくぽっかりと穴が空いている。
オレは背後に居る3人に声をかける。
「スノー、シアは下がっていてくれ、ギギさん、一緒に中へ入って確認してもらってもいいですか?」
「もちろんだ。むしろ俺1人でもかまわないが?」
「大丈夫です。一緒に行きます」
ギギさんに気を遣われながらも、鍵を開け中へと入る。
アルトリウスは胸に穴が空いている以外、まるで眠っているように目を閉じている。
オレは魔術防止首輪を避けて、彼の首筋に指で触れる。
皮膚は氷のように冷たく、脈を確認することはできなかった。
間違いなく死んでいる。
余りの生々しさに後退ると、ギギさんが入れ替わるように前へ立つ。
ギギさんが顔を近づけたり、周辺を確認する。
「……どうやら背後から心臓を貫かれたのが死因のようだな。そのわりには部屋が汚れていない。むしろ部屋が汚れないように、殺害後に胸に開いた傷の処理が施されているな」
言われて気が付く。
体に穴が空くような攻撃をうけているのに、地下牢の部屋は血痕が1つもない。
これは異常なことだ。
ギギさんの言葉を信じるなら、アルトリウスは背後から心臓を潰されたことになる。
自殺として処理するには無理がある。
つまり、アルトリウスを殺害した第三者が居るわけなのだが……
PEACEMAKER(ピース・メーカー) メンバーである歩哨は、オレ達以外、誰も通していない。
地下牢の周囲は地面のため窓ひとつない。
地面を魔術で掘った場合、オレ達の誰かが魔力を感じ取り気付くだろう。
かと言って、深夜に手で掘るには時間が足りない。
ギギさんが難しい顔をする。
「唯一の入り口は封じられ、地面を魔術や人力で掘るのも不可能。ではどうやって、誰がアルトリウスを殺害したのだ? まさか最初から地下牢に隠れ潜み、アルトリウスが運ばれてきた後、殺害したのか?」
「そ、それじゃまだこの地下牢にその犯人さんが居るってこと!?」
スノーがギギさんの推理に驚き、慌てて臨戦態勢を取る。
シアも手に朝食のお盆を持ちながら周辺を警戒した。
そんな2人に落ち着くようオレは声をかける。
「大丈夫、この地下牢にアルトリウスを殺害した人物なんて潜んでいないよ。第一、アルトリスが地下牢に運ばれるのを予想して最初から隠れ潜んでいること自体無理がある。それにもし居たら、すぐにシアやギギさんが気付くはずだしね」
気配察知にすぐれた2人なら、たとえ一番奥の地下牢に犯人が隠れていても絶対に気付くはずだ。
またオレ自身、どうやって出入り口のない地下牢に忍び込みアルトリウスを殺害したのか? 誰が彼を殺害したのか? その方法と犯人が誰か、なんとなく予想が付いていた。
オレの言葉にスノーが驚く。
「凄いよ、リュートくん! それで誰が犯人で、どうやって地下牢に忍び込んだの?」
「あくまで推測だけど、犯人は転移で地下牢に忍びこんだんだろう。アルトリウス自身が転移を使うゴブリンを使役していたんだ。似たような力を持つ魔術師や魔物が居てもおかしくない。そして気絶したアルトリウスを、別の場所に連れ去り殺害した後、再びこの地下牢へ連れ戻ったんだろう」
これで地下牢の部屋に血痕1つない説明がつく。
シアが興味深そうに頷き、尋ねてくる。
「では、犯人は一体誰なのですか?」
「……あくまで推測でしかないけど、犯人は――ハイエルフ王国エノール、元第一王女、ララ・エノール・メメア。もしくはその関係者だろう」
PEACEMAKER(ピース・メーカー) 、 始原(01) 、5種族勇者、黒、魔王関係でこのようなことをする人物は、彼女かその関係者しかいない。
なぜアルトリウスを殺害し、わざわざ再び地下牢へ死体を置き去りにしたのか分からないが……。
オレの答えにシアが悲しそうな表情を浮かべる。
この話を聞いたリースがショックを受ける可能性があるからだろう。
スノーやギギさんは、オレの推測に納得し何度も頷く。
「……それでどうする。死体をこのまま放置するわけにはいかないだろう」
「ですね。とりあえず腐らないように処置をします。その上で 始原(01) 側にアルトリウスを引き渡します」
ギギさんの問いにオレは答える。
ララがこうまで早く動くとは予想できなかった。オレはアルトリウスの死に、深く疲れたため息を漏らした。
念のため地下牢の奥まで調査したが、隠れている人物や手がかりは一切なかった。
アルトリウスの遺体は、スノーに頼んで氷漬けに。
ギギさんが作り出した土製の棺桶に入れて、地上へと運び出す。
いざと言うときのため待機させていたクリスやリース達に事情を話し、解散させた。
こうして後味は悪いが、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) と 始原(01) の戦いに完全に決着が付く。
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アルトリウス死亡後――残る事後処理を済ませていく。
一番気が重いのが、彼の死をエル先生に伝えることだ。
アルトリウスに襲われそうになったというのに、地下牢に入れられたと知ると『会って話がしたい』と迫られた。
流石に捕らえた直後は彼も興奮しており話し合いにならないのと、まだ気絶しているため許可しなかった。
アルトリウスが目を覚まし、一度オレが会って彼の興奮が落ち着いていたら話し合いの場を設けると約束した。
結局、エル先生との約束を破る形になってしまったのが、さらにオレの足を重くする。
しかし、黙っていてもいつかはバレる。
オレは意を決して、エル先生が使っている客室へと足を運んだ。
「そうですか。アルトリウスさんがお亡くなりに……」
エル先生には『心臓を他者にえぐられた云々』は秘密に、彼の死亡だけを伝えた。
彼女はソファーに座り、オレとスノーはその対面に腰を下ろしている。
最初、ポツリと呟くと、次にエル先生は涙を零した。
「ごめんなさい、リュートくんとスノーちゃんの前なのに……。でも、親しくしてくれていた人がいなくなったと思うと……あの時こうしていれば、って思うことがたくさん浮かんできて……」
「泣かないでエル先生! エル先生のせいじゃないよ。エル先生はいっぱい、頑張ったよ!」
「ありがとう、スノーちゃん……」
スノーがエル先生の隣に座り直し、背中を撫で慰める。
エル先生は無理に笑顔を作りながらも、彼女の肩に頭を寄せ涙を零した。
1人で行くのはしんどかったのと、こうなった場合、慰める役目を頼むためスノーも同行してもらっていた。
スノーと目が合う。
「…………(こくり)」
彼女が頷き『ここは任せて』と合図してくる。
オレも同じように頷いて、スノーに後を任せた。
オレはエル先生に気付かれないよう、そっと部屋を抜け出す。
アルトリウスの遺体は、外交担当のミューアにお願いして 始原(01) 本部へ運んでもらう。
その際、新型飛行船の使用許可を出す。
新型飛行船なら、 始原(01) 本部まですぐに着く。
またいざというときドラゴンからでも逃げられるため、何かトラブルが起こって緊急で逃げ出す際は役に立つだろう。
「リュートさん、お心遣い頂きありがとうございます」
「むしろ、護衛としてカレンやクリスとかを連れて行って欲しいぐらいだけど」
「いえ、下手に武装して 始原(01) 本部へ行くといらぬ誤解を与えかねませんから」
ミューアはクリスと同じ歳とは思えない妖艶な笑みを浮かべて返答する。
彼女曰く、アルトリウスの遺体を護衛満載で 始原(01) 本部へ送り届けた場合、当時起きた状況を説明しても『彼らが団長を殺害したのでは? だから、反撃を恐れて武装しているのでは?』と誤解を与える可能性があるからとのことだった。
そのため PEACEMAKER(ピース・メーカー) メンバーは、彼女を含めて新型飛行船を運転するココノと雑務を担当する他3名――計5人で行く。
他3名に護身用として『H&K USP(9ミリ・モデル) タクティカル・ピストル』を装備させているだけだ。
不安がないと言えば嘘になる。
オレはココノに向き直る。
「ココノももし少しでも危険を感じたらすぐに逃げるんだぞ?」
「大丈夫です。新型飛行船があれば、たとえドラゴンに追いかけられても問題ありませんから。リュート様はどうかご心配なさらず。皆様のことはわたしがお守りします!」
『ふんすっ!』とココノは両手を握り締め、鼻息荒く断言する。
どうやらオレや PEACEMAKER(ピース・メーカー) の役に立てるのが嬉しいらしい。
体力もココノが積極的に体を動かしたお陰で、比べものにならないほどついている。
しかし、やはり心配だ。
体力がついたといっても、未だ一般人より弱い。
足があるといっても、船を下りた後、奇襲を受けたら逃げる前に全滅だ。やはり密かにでも護衛を付けて警護に当たらせるべきではないか?
新型飛行船で護衛チームと一緒に移動。
始原(01) 本部近くで、護衛チームは一旦下りる。
そして影からココノ達を警護すれば、 始原(01) の人々に気付かれる心配はない。
これで下手な刺激を与えなくて済む。
しかし、この案はココノ、ミューア2人から却下された。
露見した場合のリスクが高すぎるらしい。
PEACEMAKER(ピース・メーカー) 側に非はないが、アルトリウスはこちらの本部地下牢で死亡している。
なるべく誠実に対応し、印象を良くしたいとのことだ。
こうして押し切られる形でココノ達の出発を見送る。
本当に怪我一つなく戻ってきて欲しい。
もし彼女達に何かあれば――あまり考えたくないが、今度こそ『戦争』だ。本部頭上に 8.8cm対空砲(8.8 Flak) の雨を降らせることになる。そうなればこちらにも少なくない損害が出ることもあるだろう。
そうならないためにも、オレはとにかく彼女たちの無事を祈る。
とりあえずココノ、ミューアが無事にアルトリウスの遺体を 始原(01) へ引き渡し、無事に戻ってくれば今回の一件は一応かたがつく。
ミューアは戻ってきても 始原(01) との事後処理で、暫くは 始原(01) 本部と PEACEMAKER(ピース・メーカー) の間を行き来することになるだろうが。
2人が戻ってきたら、エル先生をようやく妖人大陸にある孤児院へ送り届けることができる。
それまでに彼女も気持ちを落ち着かせることができるだろう。
今まではアルトリウスが彼女に執着していたため、孤児院に一人にするわけにはいかず PEACEMAKER(ピース・メーカー) で匿っていた。
しかし、後味は悪いが彼の死亡でその心配はなくなった。
本当ならエル先生には、このまま PEACEMAKER(ピース・メーカー) 本部へ残って欲しいが、本人曰く『子供達が待っていますし、それにあの孤児院は彼との夢の場所ですから』。
そう言われたら、引き止めることはできなかった。
また旦那様、ギギさんを魔人大陸へ。
駆けつけてくれたアムを北大陸へと送る予定だ。
旦那様、ギギさん、アムも問題が片付いたら、自分達で勝手に帰るつもりでいたらしい。
オレは3人を引き止め、『新型飛行船ならすぐに送り届けられる』と言い聞かせ足止めした。
さすがにここまで世話になったのだから、送り届けるぐらいしたい。
それに北大陸には、スノーの両親が居る。
今回の件や女魔王アスーラ、オレ両親の件や黒トップ、シャナルディア・ノワール・ケスランについて話をしておきたい。
また魔人大陸に旦那様を届けるのは、オレ自身の区切りでもある。
旦那様を魔人大陸へ連れ戻すことで、ようやくブラッド伯爵家に起きた『ヴァンパイア事件』が終わるのだ。
送り届ける時間を作るため、頑張って事務処理をしないとな。
「さて、仕事を始めるか……!」
オレは伸びをしてから、書類仕事を終わらせるため執務室に向かって歩き出した。
<第14章 終>
次回
第15章 日常編5―開幕―