軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第259話 始原からの提案

新・純潔騎士団本部、応接間。

期限通りにやって来た 始原(01) 側の交渉人を前にして、オレ達は今後のことを話し合うことになった。

交渉人は、一度顔を合わせたことがある 始原(01) の獣人大陸外交・交渉部門を担当している、人種族のセラフィンだった。

応接室のソファーに座りながら、オレは久しぶりに彼女と対面する。

セラフィンと前回話をしたのは、元純血乙女騎士団団長のルッカを倒した直後だ。

あの時は、彼女が属する 軍団(レギオン) と戦うことになるとは思いもしなかった。

彼女はセミロングの髪を揺らして頭を下げた後、顔を上げて眼鏡の位置を少しだけ指で整える。

「お久しぶりです。ガンスミス卿」

「……どうも、本日はお忙しい中、わざわざお越し頂き誠にありがとうございます」

「仕事ですから……しかし、まさかうちと PEACEMAKER(ピース・メーカー) がことを構える事態になるなんて……。とても残念です」

セラフィンは心底残念そうに溜息を漏らす。

そのタイミングで、彼女とオレの前に香茶が置かれる。

香茶を出したメイドは、シアではない。

彼女の直部下であるメイド部隊の1人が今回給仕を担当していた。

現在、シアはある用事で獣人大陸を離れているためだ。

メイドは作業を終えると、部屋の隅により待機する。

一呼吸、間を入れてからオレは口を開く。

「自分としては、何もしないならば 始原(01) に矛を向けるつもりはありません。ですが、そちらが牙をむけるなら容赦はしないだけです」

「わたくし達としても PEACEMAKER(ピース・メーカー) と矛を向け合うつもりはありません。ただ真実を知った以上、対処せざるを得ないだけです。しかも相手はあの現 軍団(レギオン) でもっとも勢いのある PEACEMAKER(ピース・メーカー) 。故にわたくし達の団長は潰すのは惜しいと思い、同盟を提示したのです。その提示を拒否してきたのはガンスミス卿だとお聞きしましたが?」

オレはその指摘を鼻で笑う。

「同盟? そちらの団長が提示した条件は国でいうなら植民地支配レベルでしたよ? あれを飲むことなんて、出来るはずがないでしょう」

「確かにガンスミス卿の奥方や恩師を人質にするような発言を団長はしたらしいですが、それはしかたのないことだと割り切ってください。わたくし達としてもすぐに PEACEMAKER(ピース・メーカー) を信用する訳にはまいりませんから。それは必要な措置だと思いますが?」

「同盟の意味をもう一度考えた方がいいですよ?」

「 PEACEMAKER(ピース・メーカー) も力を持つ 軍団(レギオン) として、世界に責任を持つべきだと思いますが?」

オレとセラフィンの視線が絡み合う。

そこに男女の甘い語らいは一切ない。

まるで2頭の肉食動物が出会い、今にも飛びかかろうと互いに隙を狙っている状態だ。

そして 始原(01) との関係を巡る長い話し合いは、それからも長い時間続いた。

▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼

結局、セラフィンとの話し合いは昼食を挟み、日が暮れるまでおこなわれた。

しかし、互いに妥協点を見いだすことができず、話し合いは一時決裂。

次回へと持ち越される。

次の話し合いで、今度は互いの条件を提示し合い、譲歩部分を見つけ出す予定になる。

セラフィンは一度、獣人大陸にある 始原(01) 支部に戻る。

支部で今回話し合った内容を検討するのだろう。

そのため次回の話し合いは20日後になった。

そして、翌日、オレは溜まっていた仕事を片付けるため部屋で書類仕事に専念していた。

オレが書類仕事をしている間、スノー&クリスも新・純潔乙女騎士団メンバーを連れて通常の業務と訓練をこなしてくれている。

メンバー達は 始原(01) と揉めていることを知りながらも取り乱さず、誰1人逃げず PEACEMAKER(ピース・メーカー) 側に残ってくれていた。

本当にありがたい話だ。

リースとシアは今回の一件で、実家のハイエルフ王国エノールに 始原(01) の暴挙を止められないか相談しに行っている。

新型飛行船を使えば、妖人大陸にあるハイエルフ王国へ行くのはそれほど難しくない。

ちなみにまだ新型飛行船に名称を付けていない。

その話を聞いたメイヤが瞳をキラキラと輝かせ、オレに迫り名称案を告げてきた。

「それなら、『天才魔術道具開発者リュート様によるメイヤ・ガンスミスとのラブラブ合作号』というのはどうでしょうか!」

メイヤの案はもちろん却下した。

確かにメイヤはエンジンを手伝ってくれたが……長い上に、恥ずかしすぎるだろそれ。

彼女は本気で新型飛行船にそんな名称を付けたいのか? いや、メイヤのことだから本当につけたいんだろうな……。

溜息が自然と漏れてしまう。

そんな彼女も現在はルナと一緒に兵器研究・開発部門にて新兵器の量産に取り組んでいる。

最近、徹夜続きらしく本当に申し訳ない限りだ。

後で甘い物でも持って顔でも出すか……。

またココノはというと――

天神様が既になくなっていること、五種族勇者の裏切りの真実を聞いて倒れてしまった。

原因不明の熱により現在もベッドで寝こんでいる。

元天神教の巫女のココノからすれば信じがたい事実のオンパレードだ。

寝こんでしまうのはしかたがない。

彼女の看病はノーラとアスーラに任せている。

ココノは目を覚ますと、天神様についてや五種族勇者の裏切りについて色々質問してくるため、ノーラとアスーラが側についているのだ。

彼女達の話を聞いてココノ自身、感情の整理を付けようとしているのだろう。

部屋にノック音が響く。

声をかけると、外交担当のラミア族ミューア・ヘッドが顔を出す。

「今お時間よろしいですか?」

「ああ、ちょうど切りの良いところまでいったら大丈夫だよ。それで調査結果が出たのか?」

「はい、予想通り、 冒険者斡旋組合(ギルド) はクロでしたわ。裏もとれています。これがその書類です」

「はぁ……やっぱりか……」

オレは頭を抱えそうになるのを何とか堪えた。

ミューアが差し出した書類を受け取り目を通す。

前回、 始原(01) がエル先生を押さえようと動きだしたことを、ミューアの諜報のお陰でいち早く察することができた。

そしてカレン率いる部隊が、彼らより早くエル先生を保護するため動き出した。

だがなぜか出発間際、 冒険者斡旋組合(ギルド) から突然の緊急依頼を入れられたらしい。

しかも内容は大したことがなく、無理矢理やらされた。

結果、カレン達は出発が遅れて、オレ達と 始原(01) がかち合った形になる。

もし 冒険者斡旋組合(ギルド) の依頼がなければ、カレン達の方が1、2日早く接触・保護できていたはずだ。

ミューアが妖艶な笑みを浮かべて告げる。

「 冒険者斡旋組合(ギルド) は元々、魔王からこの世界を救ったとされている5種族勇者達が設立したものですから。真実を隠すため 始原(01) と一緒に協力していたのも不思議ではありませんわよね」

「だよな……あいつらとことを構えたときから予想はしてたけど、まさか本当に 冒険者斡旋組合(ギルド) と敵対することになるなんて」

現在のところ 冒険者斡旋組合(ギルド) からカレン達の出発を邪魔された以外、特に横槍や嫌がらせの類は受けていない。

だが今後、 始原(01) との関係、アスーラの名誉回復のため五種族勇者の真実を広めようとしたらどうなるか分からない。

最悪、 始原(01) と戦っている最中、背後から刺される可能性すらある。

「このことを皆に開示しますか?」

「……いや、まだ皆には教えない。ただでさえ 始原(01) と一瞬即発状態なんだ。さらに 冒険者斡旋組合(ギルド) までなんて、流石に士気にかかわる。この情報はまだオレとミューアの間だけにしておいてくれ」

「団長との秘密なんて嬉しいですわ」

ミューアが場を和まそうと冗談っぽく返事をする。

……冗談だよね?

「と、とりあえず、継続して 冒険者斡旋組合(ギルド) にも注意してくれ。もしかしたら 始原(01) と平行して話し合いをするかもしれないから、そのつもりで」

「はい、了解いたしましたわ」

場合によっては 冒険者斡旋組合(ギルド) を脅すため、弱みを出来るだけ握っておいて欲しいと暗に告げる。

もちろん、ミューアも理解しており意味深な笑みを浮かべて了承した。

この件はとりあえず、ミューアに任せておけば問題ないだろう。

彼女が退席すると、オレはどっと疲れた体に鞭を入れ再び仕事へと戻った。

▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼

オレは一通り事務仕事を終え、兵器研究・開発部門の様子を窺うため廊下を歩いていた。

その先に、先日助けに駆けつけて来てくれた金髪の美男子――人種族魔術師A級、アム・ノルテ・ボーデン・スミスを見つける。

彼や旦那様、ギギさんは、新・純潔騎士団本部に来てからいつ 始原(01) と再び争っても大丈夫なように、自主訓練に励んでいる。

特に気合いを入れて訓練しているのはギギさんだ。

旦那様やアム、スノーやクリス、他団員達を相手に時間があれば訓練を重ね、自身を高めている。

旦那様やアムも自主訓練をしているが、他団員達から頼まれれば彼女達の指導にも快くあたってくれている。

魔術師A級の指導など本来、こうして気軽に受けられるものではない。

まず一握りの天才しかなれない魔術師A級を見付けることから始めないといけない。

その時点でかなり難度が高いのだ。

アムもオレに気が付くと、前髪を弾き挨拶してくる。

「やぁ、 永遠のライバル(親友) のミスター・リュート。こんなところで会うなんて珍しいね」

「事務仕事が溜まってたからな。オレはこれからメイヤ達のところに顔を出すけど、アムは訓練の帰りか?」

「いや、これからまだレディー達に訓練を頼まれていてね! まったく人気者は辛いよ!」

アムは嬉しそうに前歯を光らせる。

「すまないな。団員達の訓練をしてもらって。さらに新領主として忙しいのに、こっちの問題に付き合ってもらって」

「そこは謝るところではないぞ、ミスター・リュート。ぼくはあの時の借りを返すためにここにいるんだ。君が謝ることなど一つもないさ。それに領地は頼れる部下達や妻のアイスが上手くやってくれているはずだ。心配することはない」

「そっか。部下とアイスがやってくれているなら心配――あれ? 今、妻のアイスって言ったか?」

オレは台詞の途中で、疑問を口にする。

アムが嬉しそうに笑顔を浮かべた。

「言ってなかったかい? 君達が帰った後、ぼくとアイスは結婚したんだよ! ほら、この通り左腕に腕輪もある」

アムは左腕を掲げ、腕輪を見せた。

今まで袖の下に隠れていたため気付かなかったが、本当に結婚腕輪が嵌っていた。

しかし、オレ達が去った後すぐ結婚とは……。

アムはスノーに惚れていた。

そのため彼は、スノーに様々なアプローチをおこない、さらに彼女の強さと肩を並べようと魔術師学校を卒業後、弟に唆されたとはいえ武者修行の旅に出た。

アムは本気でスノーに惚れていたのだ。

そうでなければ武者修行の旅に出たり、顔すら覚えて貰えないのに必死にアピールし続けられるはずがない。

だが、振られてすぐ同じ一族である白狼族のアイスと結婚したなんて……。

彼が振られた原因である自分が言うのもなんだが、少々節操がなさ過ぎるのではないか?

オレの胸中に気付かず、アムは話を続ける。

「君達が帰った後、残った白狼族や皆と一緒に、ノルテの再出発を記念するパーティーを開いてね。その時、僕はアイスのお酌を受けつつ、お酒を飲んでいたんだが――気付くとアイスとお互い裸でベッドに寝ててね。シーツに赤い痕もあってね。記憶に無いんだが、どうやら酔っぱらったぼくが彼女と一夜を過ごしてしまったらしいんだ」

お酒……記憶にない……赤いシーツの痕……すぐに全てを察する。

ごめん、アム、軽蔑したりして。君はむしろ被害者だというのに!

オレは涙が溢れそうになり、思わずこぼれ落ちないよう堪える。

そんなオレに気付かず、アムは話を続けた。

「でも記憶が無いと言ってもぼくも男だ。責任をとってアイスと結婚したんだよ。まぁ! 今では世界で一番彼女を愛しているけどね! それにもうすぐ彼女とぼくの愛の結晶が誕生するんだ! 今から楽しみでならないよ!」

アムは心底嬉しそうに話をする。

結ばれ方はアレだが……彼は今、アイスと結ばれ本当に幸せそうだった。

本人達が納得しているようだし、外野がとやかく言うのは野暮だろう。

「って、子供がもうすぐ産まれるのか!? だったら、こんなところにいないですぐに帰った方がいいんじゃ! だってアイスは初産だろ?」

「いや、彼女の周りには一族やぼくの部下、専門の医師も揃っているから心配ないよ。むしろ、君達から受けた恩義を返さずに戻ったらぼくがマイワイフ・アイスや皆に怒られてしまうよ」

アムはキリリとした表情で断言する。

本心はすぐにでも戻りたいだろうが、オレ達に恩義を返したいという気持ちも本当なのだろう。なんて義理堅い奴だ。

アイスとの結婚や子供の件は驚いたが、オレは祝福の言葉を贈った。

そして、 始原(01) の一件が片付いたらアイスの初産に間に合うよう新型飛行船で送ることを約束する。

彼はその約束を聞いて、嬉しそうに喜んでくれた。

アムやアイスのためにも早く 始原(01) との問題を片付けたいものだ。

そして、オレとアムは挨拶をして、別れた。

それから20日後、2回目の会合で 始原(01) 側からある提案を出された。

その提案とは――