軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第260話 涙と怒りと

話は少しだけ遡る。

始原(01) 本部。

アルトリウスは 四志天(ししてん) との会議を終わらせた後、部下に指示を出し PEACEMAKER(ピース・メーカー) への対応を任せた。

そして彼はエルが体調を崩したと聞いて、会議の途中で見舞いへ出た。

途中、友人である大国メルティアの次期国王、人種族、魔術師Aプラス級、ランス・メルティアと出会う。

ランス曰く――『友人として言わせてもらうなら、エルさんに深入りするのは止めた方がいい。アレはヤバイ』

決して彼女はアルトリウスのものはならず、最悪のめり込み過ぎて、命を落とす危険すらある――と忠告を受けた。

しかし、アルトリウスはランスの言葉を馬鹿馬鹿しいと聞き流した。

(エル嬢にのめり込んだからといって、命を落とす? どうして女性に懸想したら、命を落とすことになるのだ? ランスはたまに意味不明なことを言う。我から言わせてもらうなら、それはランスの悪癖だ)

これ以上は構っていられないと、ランスをその場に置いて彼はエルの見舞いへと向かう。

『忠告はしたからな』と背後から聞こえてくるが、彼は足を止めることはなかった。

だが結局、アルトリウスはエルとその日、顔を合わせることはなかった。

彼女は扉越しに『体調が悪いので、今日は1人静かにしていたいので……』と断られてしまったからだ。

折角、見舞いに来たのに顔も合わさず、扉越しに追い返されたことに対してアルトリウスが憤ることはない。

相手は女性だ。

妙齢の女性達は、体調が悪い姿や寝間着姿などを異性に見られるのを嫌う。

それぐらいアルトリウスも知っている。

だから、彼は大人しく引き下がった。

「体調が良くなかった頃にまた来る」と告げて。

エルの体調が戻ったのは、それから3日後のことだった。

その日、アルトリウスが政務室で事務仕事をしていると、秘書からエルが第三調理場へ復帰したことを教えられる。

アルトリウスはその報告に安堵する。

体調が戻らず、ずっと心配していたのだ。

そしてすぐさま秘書に、エルへ贈る花束と一緒に飲むための酒精ワインを準備するよう告げた。

花束をプレゼントに入れたのは、 四志天(ししてん) の会議前、妖精種族黒エルフ族、魔術師A級のシルヴェーヌ・シュゾンとの会話した時に、シルヴェーヌの言葉で『好きな人からのプレゼントならば野花でも嬉しい』と聞いたためだ。

高価な贈り物に萎縮するエルだが、花ならばきっと喜んでくれるだろう。

両手で抱えきれないほどの花束を受け取ったエルが、満面の笑みで――『わぁ、とても綺麗です! ありがとうございます、アルトリウスさん!』と喜んでくれる姿が目に浮かぶ。

さらに久しぶりにエルと顔を合わせて話ができる。

アルトリウスは普段は厳めしい自身の顔も、今晩のことを考えると自然と弛むのを自覚した。

しかし、彼の予想はあっけなく裏切られる。

仕事を終え、夕食を摂り、エルが居る貴賓室へと向かう。

左手には秘書に準備させた色鮮やかな花々の束。

右手には大国メルティアの商人から仕入れた年代物の酒精ワインだ。

この酒精ワインを飲み、エルの手作りツマミを口にして、一緒にリバーシをする。

彼にとってこの時間こそ、何物にも代え難い幸せな一時になっていた。

貴賓室へ入るためには、その前にある待合いの部屋に入り中に居るメイドに取り次ぎを頼む。

メイドがノック音の後、貴賓室に入りエルへ来客の有無を告げる。

そして、許可を取った後、ようやく室内へと入ることができるのだ。

前回はメイドに取り次ぎを頼んだ後、エルの体調が悪かったせいで扉越しにしか話をさせてもらえなかった。

昔と同じように許可を取った後、室内に入り幸せな一時を過ごす。

アルトリウスが過去の幸せな時間を思い返していると、メイドが室内から戻ってくる。

いつもならここで扉を開き、中へ入るよううながすのだが……

メイドは再度扉を閉めた。

アルトリウスは眉間に皺を刻む。

「エル様は昼間の労働で疲労し、今夜はもうお休みになるとのことです。申し訳ありませんが、面会はまた後日にして欲しいと……」

メイドは本当に申し訳なさそうに告げた。

彼女からすれば、 始原(01) トップのアルトリウスを追い返すことなど本来できるはずがない。

しかし、体のいい人質とはいえ客人扱いしているエルの要望を無視して、中へ入れるわけにもいかなかった。

この拒絶にさすがのアルトリウスも気が付く。

(エル嬢が自分を避けている……)

その事実に、彼はドラゴンの体当たりを喰らう以上の衝撃を受ける。

何時、自分は彼女に避けられるようなマネをしたのか、自身の非を顧みる。

だが、そんなものはない。

現につい最近までエルと楽しく、幸せな一時を過ごしていた。

(それなら、彼女は何時こんな風に心変わりをした?)

記憶力の良い彼の頭脳がすぐに答えを導き出す。

四志天(ししてん) との会議。

ランス・メルティアと貴賓室に続く廊下で会った時――彼女は体調不良を理由に初めて会うのを避けられた。

(ランスが何かいらぬことを告げたのか!?)

もしかしたら、ランスがアルトリウスを友人として心配し、エルに釘を刺した可能性がある。

「ひぃッ」

メイドが小さな悲鳴を漏らす。

アルトリウスは全身から魔力が溢れるほど怒りに震えていた。

ランスは彼にとってもかけがえのない友人だ。

しかし、もし友人としてエルに何か余計な余計なことを言ったというなら――許せるものではない。

場合によってはその体に手痛い報いを与える必要がある。

アルトリウスは静かに内側で暴れ狂う怒りを、大きく溜息をつき落ち着かせる。

ここで怒り、暴れても意味はない。

原因であるランスに問い質さなければ意味はないのだ。

「エル嬢に伝えてくれ。『また来る』と。それとこれを彼女に」

アルトリウスは怯えているメイドへ伝言と花束を預ける。

右手の酒精ワインを握りつぶしそうになりながら、踵を返し部屋を出た。

その足は自室ではなく、政務室へと向かう。

これから秘書を呼び出し、明日のスケジュールを調整する必要がある。

ランスに会い問い詰めるためにだ。

スケジュール調整後、アルトリウスは自室に戻りエルと飲む筈だった酒精ワインを一本すぐに開ける。

しかし、怒りが腹の底から湧き出し続けるため一向に酔わず、味もろくに分からなかった。

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翌日、午前中のスケジュールをキャンセルしたアルトリウスは、妖人大陸最大国家メルティアへと向かう。

ドラゴンで勝手に庭へと降り立ったが、彼に敵意や注意を告げる兵士や貴族など誰1人いない。

むしろ、下手をしたら小さな国なら滅ぼすことができるドラゴンをただの乗り物として扱うアルトリウスを畏怖し、敬畏すらしていた。

そんな視線を無視して、アルトリウスはドラゴンを送り返す。

彼はメルティアには何度も来ているため、慣れた様子で近くに居る兵士へランスに取り次ぐよう告げる。

自身は我が家のように歩き慣れた道を進み、いつもの中庭へと向かった。

周囲から隔離され、日差しが差し込む中庭の一角。

天気がいい日はここでお茶を飲むことになっている。

まるでアルトリウスが訪れることを知っていたようにテーブル、椅子、給仕を勤めるメイド、茶菓子、カップ、他茶会に必要な物はすでに揃っていた。

彼が席に着くとメイドが香茶を淹れる。

アルトリウスはカップに手を付けず、腕を組み黙りとランスを待つ。

約20分ほどで、ランスが飄々とした態度で姿を現す。

「なんだい、アルト。急に押しかけてくるなんて。これでも僕は第一王子として色々忙しい身の上なんだけど」

始原(01) トップ、S級魔術師であるアルトリウスにこのような軽口をきける者は少ない。

友人関係と限定するならアルトリウスにとって、ランスしかそんな人物はいない。

普段はその軽口を楽しむところだが、今ははらわたが煮えくり返っているため苛立ちが強まるだけだった。

ランスは彼の苛立ちに気付かず、微笑みを浮かべたまま対面に腰掛ける。

メイドが香茶を淹れるとすぐさま口をつけ喉を潤す。

メイドは一礼してから席を外す。

彼女の姿が見えなくなったのを確認して、ランスが口を開いた。

「それでどうしたんだい、突然訪ねて来て。何か緊急事態でもおきたのかい?」

「実は……」

アルトリウスはランスを睨みつつ、エルに避けられていることを告げる。

四志天(ししてん) との会議日、ランスはエルと会話をした。

その後から彼女の態度がおかしくなった。

だから、ランスがエルに『何か忠告でも言ったのではないか?』と疑っていると告げる。

事実、ランスはエルと会話した後、自分に釘を刺してきた。

エルに何か余計なことを言っていてもおかしくはない。

一通り話を聞き終えたランスは真剣な表情で尋ねた。

「……本当にそんなことを聞くために、わざわざ城まで来たのかい?」

「そうだ。で、エル嬢に何か言ったのか?」

ランスは疲れを吐き出すように長い溜息を漏らす。

「言う訳ないだろ。どうして僕が、君に恨まれるようなことをしないといけないんだ」

「しかし、オマエは廊下でエル嬢は諦めろと忠告してきたじゃないか」

「そりゃ君が友人だから言ったんだ。どうして初対面のエルさんに、余計なことを吹き込むなんてことを僕がしないといけないんだよ。言う理由も、義理もないのに」

ランスは呆れたように背もたれによりかかる。

(だいたい惚れ込んでいるのはアルトの方。エルさんはアルトに特別な感情を持っている訳じゃないから、どうこうしようもないんだが……)

ランスは胸中で呟くが、声に出して指摘したりはしない。

アルトリウスは先程までの殺気だった雰囲気はなりをひそめ、いつもの厳めしい顔で正面に座る友人を見詰める。

「……それは本当か?」

「嘘ついてどうするんだよ。神に誓って――って、この世界、すでに神様は死んでるんだった。なら僕と君の友情に誓って嘘はついていないよ」

「…………」

「どうして、そんな胡散臭い者を見るような目をするんだよ。僕の誓いが信じられないのかい?」

「そうやって昔も騙されたことがあったからな。甘い物が苦手な我を騙して食べさせたり」

「君も根に持つタイプだね。謝ったら許してくれたじゃないか」

「冗談だ」

場の空気が明らかに緩くなる。

どうやら誤解はとけたらしい。

だが、すぐに再びアウトリスが難しい顔をする。

「ではなぜエル嬢は我を避けるようになったんだ? ランスは何か聞いていないか?」

「いや、聞いてないけど」

嘘はついていない。

ランスは彼女についていた傷から、予想はついた。

しかし、エルからは何も聞いてはいない。

ランスの答えにアルトリウスが納得する。

「そうか……疑ってしまって悪かった」

「いいさ、気にしてないよ」

ランスはヒラヒラと手を振り、香茶を口にする。

アルトリウスは改めて、相談を持ちかけた。

「なら、どうしてエル嬢は我を避けるようになったんだ……ランスはどう思う?」

「そんなに気になるなら本人に直接会って訊けばいいじゃないか」

「だから、会ってくれないのだ。最近は部屋の中にも入れないんだ……」

相変わらず厳めしい顔だが、彼をよく知る近い者なら世界の終わりのように落ち込んでいるのが分かった。

ランスは改めて溜息を漏らす。

「天下の 始原(01) 団長、人類最高峰のS級魔術師が何言ってるんだよ。なら無理矢理でも扉を開ければいいじゃないか。あそこで君に逆らえる奴なんて誰もいないわけだし」

「しかし、婦女子の部屋に押し入るのは……それに強引な態度を取ったらエル嬢に不快に思われるかもしれない」

大柄な巨体の癖にいじいじと言い訳を並べる。

ランスはそんな友人に根気よく付き合う。

「けど、このままは嫌なんだろう? だったら強引にでも聞き出すしかないじゃないか。それに多少強引な方が女性は嬉しいらしいぞ」

「そうなのか?」

「一般的に言われている恋愛観の一つとしてはね」

「…………」

ランスは一応の予防線を張る。

この答えにアルトリウスは戦場で作戦を練る指揮官のように黙り込む。

口元を片手で押さえ暫く静かに考え込んだ。

「……なるほど参考になった」

「役に立ててよかったよ。それでこの後はどうする? よかったらいい時間だし、昼食を一緒にどうだい?」

アルトリウスとしても、押しかけてきた手前断り辛くご馳走になるこにした。

「それではご馳走になろう。他にも世間一般で知られている恋愛観について話を聞きたいからな」

「いや、だから僕は君がエルさんに執着するのは反対な立場なんだけど……その辺、理解しているのかい?」

ランスの台詞をアルトリウスはさらりと受け流す。

そしてアルトリウスは、ようやく淹れられた香茶に口を付ける。

香茶はすっかりぬるくなってしまったが、一つ案件が片付き気持ちが落ち着いた彼には非常に美味しく思えた。

この時、アルトリウスはエルに『どうして自分を避けているのか?』と多少強引にでも聞き出すことを誓ったのだった。

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ランスとの昼食を終え、 始原(01) 本部へとアルトリウスは帰ってくる。

時間的にエルが仕事を終え、貴賓室に戻っているはずだ。

アルトリウスは到着してすぐ、彼女の居る貴賓室へと向かった。

貴賓室前の部屋で待機していたメイドが、アルトリウスに気が付き一礼。

「エル嬢は在室か?」

「はい、いらっしゃいます。お取り次ぎを確認いたしますので少々お待ちください」

「いや、しなくていい」

メイドが体を強張らせる。

エルの了承、拒否関係なく彼女に会うとアルトリウスが全身で示す。

主にこれほど強引に出られては、 始原(01) に雇われているメイドが出来ることなどない。

彼女は大人しく主の邪魔にならないよう、貴賓室前の部屋からすら出て廊下に移動する。

アルトリウスはメイドが出て行くのを確認。

1人になったのを確認して、貴賓室の扉をノックした。

「エル嬢、アルトリウスだ。話があるのだが」

しかし、返事がない。

もう一度ノックして声をかけるが、やはり反応はなかった。

(もしかしたら賊に襲われていたり、急病で倒れているかもしれない。これは必要な措置だ)

誰に対する言い訳かは分からないが、胸中で呟きドアノブを回す。

久しぶりに貴賓室へと入る。

鼻腔を微かな甘い匂いがくすぐった。

それは花や菓子の匂いではない。

女性が放つ自然な芳香である。

(……部屋がエル嬢の匂いで満ちているのか。前は頻繁に入っていて分からなかったな)

エルが部屋に滞在して大分経ち、彼が数日入れなかったからこそ匂いに気付くことが出来た。

アルトリウスは思わず、胸一杯空気を吸ってしまう。

吸いながらも視線はエルを探して部屋を彷徨う。

すぐに彼女の存在を見付けた。

「すぅ……」

エルは私服でソファーに横たわっていた。

仕事が終わり、部屋に戻り一息ついたら睡魔に襲われたのだろう。

意気込んで来たものの予想外のオチにアルトリウスの決意が、風船から空気が抜けるように萎んでしまう。

流石に今、彼女を叩き起こして問い質すのが間違いだというぐらいは彼でも理解できる。

「まったく、寝るなら部屋に行くよう言ったのはエル嬢ではないか」

つい数日前、貴賓室での晩酌。

飲み過ぎて眠くなったアルトリウスを、エルが苦笑しながら叱った。

今でも鮮明に思い出せる。

今度はアルトリウスが苦笑しながら、寝室へ毛布を取りに向かう。

問い質すことができなかった感情と避けられている答えを知る恐怖。

半々の気持ちを抱えながらだ。

毛布をソファーで眠るエルにかける。

彼も床に膝を突き、彼女と同じ目線に並ぶ。

いつも大人びいた彼女が、眠っていると子供のように幼くなる。

その表情がとても可愛らしい。

「エル嬢に寝顔を見たと言ったら、顔を真っ赤にして怒りそうだな」

アルトリウスはその光景を容易に想像でき、思わず笑みがこぼれてしまう。

「んっ……」

エルの吐息。

彼女を起こしそうになり慌てて口を噤む。

暫くすると規則的な寝息が聞こえてくる。

アルトリウスは眠るエルを愛おしげに見詰め、つい手のひらで髪を撫でてしまう。

その手がきめ細かい頬へ伸び、壊れ物を撫でるように指を這わせる。

この時、アルトリウスは望外の幸せを味わっていた。

『自分はエルを心の底から愛しているんだ』と彼はこの時、初めて自身の気持ちを余すことなく自覚する。

しかし、その幸せは一瞬で潰える。

「――さん」

エルが零す。

「リュートくん、んっ……ギギ……さん……」

涙と寝言。

一粒の真珠のような涙が目尻から零れ、アルトリウスの指先を濡らす。

アルトリウスの初めての愛は、彼女の涙と寝言で粉々に砕かれてしまう。

無意識にエルの涙で濡れた右手を痛いほど握り締めていた。

「…………」

アルトリウスはエルを起こさないようにそっと立ち上がり、貴賓室を出る。

前部屋、廊下に出る。

メイドが手本のように待っていた。

「エル嬢は部屋で眠っていた。彼女が起きた後、体を温める飲み物を用意しろ。それともし彼女が体調不慮を訴えた場合は、速やかに治癒術師や薬剤師を手配しろ」

「畏まりました」

アルトリウスはメイドに指示を出すと貴賓室を後にする。

歩き慣れた廊下を規則的に歩く。

歩いて、歩いて、歩いて――貴賓室から遠い位置。

眠るエルを起こさないほどの距離に移動して、彼は初めて激情を全身で吐き出した。

「がぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあぁあああぁああぁぁッ!!!」

ドラゴンの嘶きのような大声をあげ、壁に拳を叩き込む。

右手、左手、蹴り、頭突き――体から溢れ出る魔力の奔流を止めようともしない。

体の内側から吹き荒れる感情を本能に従い吐き出し続ける。

近くを通りかかった、声に気付いた部下達が集まっても気にせず破壊行為は続く。

いつもならトップとして部下の前では毅然とした態度を取る。

そうしなければ下に示しが付かないから。

しかし、今はどれほど部下達の目に晒されても、感情を抑えることができない。

いつも完全にコントロールできている感情の制御がまったくできないのだ。

ただ怒り狂う獣のように感情のまま暴れることしかできない。

――どれほど時間が経っただろう。

アルトリウスは肩で息をしながら、破壊され尽くした壁、遠巻きに怯える部下達、額や手から汗と一緒に流れる血にも構わず呟く。

「――してやる」

そこにはとてつもない『嫉妬』という原始の炎が宿っていた。

彼はこう思ったのだ。彼女が自分を拒絶したのは、元の場所に戻りたいからだと。

そして気が付いた――彼らがいる限り、エルが自分のものになる日は永遠に来ないのだ、ということを。

一度味わってしまったあの幸せを、再びこの手に掴むことは出来ないのだということを。

(ならばどうする!? ……簡単なことだ。彼女の帰る場所をなくせばいい。全てを灰燼に帰して、途方に暮れる彼女の側に居続ければいい。逃げようとするならば、籠の中に閉じこめてしまえばいい。そして我だけを見つめるようにすればいい。なんだ、簡単な事じゃないか、そうだ――全て消してしまえばいい)

「そうだ、殺してやる。リュートも、ギギも、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) も、全員皆殺しにしてやる! 誰が一番強いのか! 誰が一番優れているのか! 誰の側に居るのが正解なのか! 我がどれほど優秀な人間で、強い雄なのか彼女に見せ付けてやろうじゃないか!」

アルトリウスは破壊された壁、散らばった破片、トップの凶行に怯え集まった部下達を無視しして歩き出す。

PEACEMAKER(ピース・メーカー) と交渉した担当者が明日には内容報告に到着する。

その担当者に次回の交渉時、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) に渡す条件を書きだした書類を作成するためにだ。

1つ――場所を決め 始原(01) 、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) で戦争をおこなう。

2つ――負けた方が、勝った方の条件を無条件に受け入れる。

3つ――勝利条件は互いのトップを倒した方の勝ち。

4つ――他、条件がある場合は次回交渉までに纏めて提出。以後、さらに話し合うこととする。

なぜこんな面倒な条件をつけるのかというと……アルトリウスが本気を出せば皆殺しは容易い。しかし、それではエルに恨まれる可能性がある。

だから、試合のような形式を整え PEACEMAKER(ピース・メーカー) と戦い事故を装って皆殺しにするつもりなのだ。

「殺してやる……リュート、ギギ――」

呟きながら、自身の執務室へと足早に向かう。

始原(01) 団長、人種族、魔術師S級、アルトリウス・アーガーが今度は本気の殺意をまとって PEACEMAKER(ピース・メーカー) 殲滅に動き出す。