軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第243話 元女魔王アスーラ

「まさか妾の封印が解かれ、『魔法核』を奪われてしまうとは……」

起き抜け、寝ぼけてオレに襲いかかり唇を奪った元女魔王は完全に目を覚ます。

現在はリースが無限収納から取り出した椅子に腰を下ろし、テーブルに手をついて深い溜息を漏らしていた。

この溜息に旦那様が珍しく、落ち込んだ声音で告げる。

「申し訳ありません。我輩がいながら後れをとってしまい」

この謝罪にたいして彼女は首を横に振った。

「気にするな。今回の一件は『番の指輪』……妾のせいなのだから。しかし、まさかまだ指輪が存在していたとは。とっくの昔にリューが捨てたか、なくしたかと思っていたのだがな」

「あ、あのその『リュー』って人は?」

「うむ、妾の元恋人……遙か昔、将来を誓い合っていた者だ」

オレを押し倒し強引にキスした相手、元女魔王――改めアスーラが過去を語り出す。

最初は旦那様から洞窟で聞いた話と被る部分が多かった。

アスーラは魔法核を制御し、最初の大陸へ移動。

その大陸で虐げられていた人々と手を取り合い1体目の魔王を倒した。

そして倒した魔王から抜き取った魔法核を分割し、人々に分け与える。

「リューは魔術核を受け入れる体質ではなかったが、彼は率先して前に立ち、気付けば人々を引っ張るリーダー的立ち位置になっていたのじゃ。人々の前に立ちリーダーシップを発揮するリューの姿といったら。はうぅうぅ、格好良かったの」

アスーラは小さな手で両頬を挟み、クネクネと悶える。

まさか元魔王の惚気話を聞くことが出来るとは……。

「そして、妾達は協力し次々に大陸を渡り愚かな弟弟子達――皆の言葉でいうなら魔王達を倒していったのだ」

魔王を全て倒し終わった後、人々は勝利に酔いしれた。

しかし、問題が全て片付いた訳ではない。

多数の魔物、以前とはまったく姿形を変えてしまった人々、荒れた土地。

そこでまずリューは人々を纏めるため国を造ることを決める。

仲間や力の無い弱い人々を守るため――という理由もあったが、以後他の大陸で国を造る際のモデルケースにしてもらう狙いもあった。

国名はケスランと名付けられる。

リューは初代『ケスラン』の王として即位した。

また彼の狙い通り、他大陸の住人達も『ケスラン』を参考に国造りを始める。

リューは国だけではなく、五種族英雄を中心に魔物を退治するため―― 冒険者斡旋組合(ギルド) の前身となる組織を作る。

他にも制度や他大陸との貿易、通貨制度制定、人材育成機関などを率先しておこなう。

こうして人々は魔王討伐以後、急速に復興していく。

「そんな中……リューと妾はいつしか互いを愛し合うようになっていたのだ」

彼女は両頬に手を当て体をくねらせる。

「リューは全てが一段落したら結婚して欲しいと、妾にプロポーズしてきての。妾もすぐに了承したのじゃ。その時、妾が魔法で作り出したのが『番の指輪』じゃ」

アスーラの視線がオレの手にある『番の指輪』へと向けられる。

彼女の手のひらにもいつのまにか同じ指輪が握り締められていた。

「その指輪には、魔術が使えないリューのことを心配して妾の力の一部を密かに込めておいたのだ。当時全盛期だった妾の魔法核の力によって、『 番(つがい) 』の言葉が示す通り、互いの魔力が共鳴し合い、引き合うように作られておる。……しかし、まさかその魔力共鳴力を封印の解除に使われるとは、さすがに予想できなかったがの」

そして、ある日の夜。

アスーラはリューに手紙で呼び出された。

だが――向かった場所に彼はおらず、彼女は五種族英雄達に襲われた。

呼び出されたその場所には、彼女の力を極端に押さえる特殊な魔術道具が設置されていたのだ。深手を負いながらもなんとか脱出したアスーラは、魔物大陸へと逃げ延び隠れた。

彼女が昔を振り返り、寂しそうに呟く。

「あの五種族英雄達が妾を裏切った理由はなんとなく分かる……しかし、今でもどうしてリューが妾を裏切ったのかだけは分からないのじゃ。いや、むしろ分かりたくないだけなのかもしれないがの……」

最後はやや自嘲気味に語った。

そんな気持ちがあったのと封印後――ある意味で寝起きだったため、リューに似ていたオレに彼女は飛びつきキスしてきたのだ。

「しかし、本当に見れば見るほどリューに似ておるの」

「そんなに似てますか?」

「妾の記憶――まぁ、長く生き過ぎて魔法で古すぎる記憶は封印しておるが、リュートは出会った頃の若いリューにそっくりだぞ。まぁ、お主がリューの血を引いているのなら当然といえば当然なのじゃが」

そう、リューというアスーラの想い人は、初代ケスラン王。オレの何代前かまでは知らないが、ご先祖様だ。

人種族だっため、すでに亡くなっているはずだ。

名前まで近いのには驚いたが。

想い人の子孫と知って、アスーラは乙女な瞳でチラチラとオレを盗み見てくる。若干、居心地が悪い。

オレは咳払いしてから、アスーラに今後の話をする。

「とりあえず、魔法核が奪われた今、アスーラ様は魔法も魔術も使うことができないんですよね?」

「うむ。魔法核を奪われた今、残念ながら力を使うことはまったくできない。すまぬ」

「いえ、アスーラ様が謝罪することじゃありませんよ」

「そ、そうか……あと、妾のことは『アスーラ』と呼び捨てで構わぬぞ?」

頬を染め、まるで少女漫画ヒロインのような表情で訴えてくる。

どういう態度を取ればいいか分からず、とりあえずオレは微苦笑だけして誤魔化した。

「なら安全を考え旦那様のお屋敷……魔人大陸へと移られるのが最善だと思いますが、よろしいですか?」

「リュート達はどうするのだ?」

「オレ達は 軍団(レギオン) がある獣人大陸、ココリ街へと戻るつもりです」

「妾もリュート達と一緒に行っては、やはり迷惑か……?」

幼女姿のせいもあり、縋るように向けられる上目遣いに心が揺り動かされる。

答えに詰まっていると、旦那様がタイミング良く口を挟んでくれた。

「アスーラ様、我が儘を言ってはなりません。ご自身の安全を考えれば、我輩の屋敷に住むのが最善ですぞ」

「……そうだな。すまぬ、リュート、我が儘を言った」

「いえ、気にしないで下さい」

オレ個人としては連れ帰ってもいいが、彼女の安全を考えたらそれはできない。

アスーラもそれを理解しているため、『旦那様の奴隷解除』などを楯に無理を通そうとはしなかった。

「さて、難しい話をここまでにして夕食にしましょう! アスーラ様も是非! リュート達の作る食事はとても美味ですぞ! ははははっはっははっははあ!」

「久しぶりのまともな食事じゃから楽しみじゃの!」

旦那様の笑い声に、アスーラは空気を読んで賛同する。

良い人だからこそ、彼女には危険な目にはあって欲しくない。

そして、オレ達は旦那様の言葉をきっかけに遅くなってしまった夕食を摂った。

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アスーラが目覚めた後、オレ達は予定を変えず目的地のアルバータを目指した。

行き同様、約半月ほどでアルバータへと戻ってくることができた。

直接、街にハンヴィーで乗り込むようなマネはせず、徒歩約1時間程度かかる位置で収納。

以後は街まで歩いた。

アスーラには申し訳ないが、頭まですっぽり隠せるコートに袖を通してもらった。念のため姿を隠してもらう。

アルバータの門が見えてくると、否応なく気分が高揚する。

なぜなら久しぶりに夜、歩哨などせず柔らかいベッドで眠ることができる。

屋台や飲食店での食事も楽しみだ。

(すぐには動かず、しばらく2、3日はアルバータで英気を養うのもいいかもしれないな)

そんなことを考えながら門をくぐると――

「お帰りなさい、ギギさん! そして、その他の方々!」

なぜか帰る日付も日時も連絡していないのに、受付嬢さんが当然と言わんばかりに街の出入り口で出迎えてくれる。

ギギさん、旦那様、アスーラ以外のオレ達全員が凍り付いているのも無視して、受付嬢さんが笑顔で近付いてきた。

「お帰りなさいませ、ギギさん。探していた人は見付かったようですね。おめでとうございます!」

まるで夫を出迎える新妻のように、受付嬢さんがギギさんへ満面の笑みを向ける。

「お陰様で無事、旦那様を連れ戻すことができました。これもリュートやお嬢様達のお陰です。ところでどうしてここに?」

ギギさんは当然の疑問を受付嬢さんに尋ねる。

彼女は待ってましたとばかりに笑顔で告げた。

「今朝起きた時、なんだか今日、ギギさん達が帰ってくるような気がして。だから、偶然、たまたま、気分転換のついでにここへ来たら、本当にギギさん達が帰ってくるのに気付いたのでお出迎えしたんですよ! なんだか、これって凄く運命を感じますよね!」

個人的には執念、いや、執着、怨念といったオドロオドロしいものを感じるんですが……。

ギギさんは、両頬を手で押さえて恥ずかしそうに体をくねらせる受付嬢さんに対して『そうだったんですか』と今の説明で納得してしまう。

受付嬢さんのあからさまな『運命の相手はあ・な・た』的な空気にギギさんはまったく気付かず、1人納得していた。

そんな彼の鈍さにもドン引きしていると、旦那様も空気を読まず2人に声をかけた。

「ははっははっはああ! ギギ、彼女とは随分親しそうだな!」

旦那様の楽しげな声音に、受付嬢さんの視線が向けられる。

旦那様は紳士らしく、まずは自ら挨拶をする。

「初めましてお嬢さん。我輩はダン・ゲート・ブラッド伯爵! 誉れ高き闇の支配者、ヴァンパイア族である!」

「ダン・ゲート・ブラッド……えっ、ダン・ゲート・ブラッドって言ったら……え? 本物?」

受付嬢さんが旦那様の紹介に目を白黒させる。

途中で、自身が失礼な態度を取っていることに気付き慌てて謝罪を口にした。

「す、すみません! 私、 冒険者斡旋組合(ギルド) で受付嬢をしているので、ダン・ゲート・ブラッド様のお話を色々聞いてて、まさかギギさんがお捜しになっていた人があの伝説の人だったんで驚いてしまって。失礼しました」

「ははははははあ! 気にする必要はない! それに我輩が冒険者だったのは昔の話! そう、構えなくても大丈夫だぞ!」

「あ、ありがとうございます」

本人から許しを得たため、受付嬢さんがほっと胸を撫で下ろす。

てか、旦那様は過去、冒険者としていったい何をやらかしたんだ? なんか伝説云々とか言ってたようだけど……。

この人のことだから色々やらかしたんだろうな……。

受付嬢さんと旦那様の会話が一区切りついたのを確認して、ギギさんが改めて彼女を紹介する。

「先程、本人の口から話していたように 冒険者斡旋組合(ギルド) で受付嬢をしている方で、リュートの冒険者駆け出し時代からお世話になり、クリスお嬢様も姉のようにお慕いしているそうです。その関係で自分にも色々気にかけて頂き、旦那様を捜す手助けをしてくださったのです」

手助けというか、ギギさんに気に入られるため、竜人大陸の 冒険者斡旋組合(ギルド) 受付嬢という立場を利用して、美味しいクエストを優先的にまわしてきただけのような気がするが……言ったら酷いことになるから絶対に口にしない。

しかし、空気を読まない旦那様がオレが胸中で考えていた以上の爆弾を投下する!

「そうか! そうか! ははははっはっははあ! 我輩はてっきり、仲が良いからギギの恋人かと思ったぞ!」

「ちょ!? 旦那様!?」

オレは思わず、上擦った声をあげる。

なんてことを言うんだ!

ほらみろ! 受付嬢さんが今まで見たことのない幸福そうな表情を浮かべているじゃないか!

ギギさんの雇い主である旦那様から『恋人に見える』という言質を取った。そのアドバンテージはかなり大きい。

さらに全身から、ギギさんがどんな答えを出すか待っている。

彼の返答内容によってギギさんの中で、受付嬢さんがどの位置に居るのか把握することができる。もし好感度が高いようなら、今夜にでも彼女はギギさんを捕食――いや、押し倒し、逃げられないように既成事実を作り出そうとするかもしれない。

オレ達はギギさんの返答を待つ。

「いえ、恋人ではありません。ただの知り合いです」

「ぐふッ!」

ギギさんは気負った様子も気恥ずかしさもなく、天気の話をするように断言する。

先程まで幸福そうな表情を浮かべていた受付嬢さんが、ボディーブローを喰らったボクサーのように体を折り曲げた。

「クリスお嬢様とリュート達と仲が良く、その延長上で自分に良くしてくださっている友人ですよ」

「げほッ!」

受付嬢さんはギギさんが口を開くたび、ダメージを受ける。

彼女の努力とは裏腹に、ギギさんにまったく意識されていないことを知ったのだから当然といえば当然だが。

ギギさんの話はまだ続く。

「彼女と恋人になるなんて考えたこともありませんよ。いくら旦那様でも、自分のような愚か者と彼女を恋人同士にするなんて失礼ですよ。あくまで彼女は自分にとって大切な友人なのですから」

止めてあげてギギさん! もう受付嬢さんのライフは0よ!

ギギさんの台詞に受付嬢さんは真っ白な灰のようになっていた。

正直、受付嬢さんのことを『魔王』とかいって怖がっていたけど、今はただひたすら可哀相で涙が出そうだ。

もう誰でもいいから、いい加減彼女のことを幸せにしてあげて欲しい。

オレは思わずそんなことを考えながら、まったく脈のないことを知り落ち込んでいる受付嬢さんを悲しげな瞳で見つめることしかできなかった。