作品タイトル不明
第242話 ノーラのトラウマ?
リュート
装備:H&K USPタクティカル・ピストル(9ミリ・モデル)
:AK47(アサルトライフル)
スノー
魔術師Aマイナス級
装備:S&W M10 2インチ(リボルバー)
:AK47(アサルトライフル)
クリス
装備:M700P (スナイパーライフル)
:SVD (ドラグノフ狙撃銃)
リース
魔術師B級
精霊の加護:無限収納
装備:PKM( 汎用機関銃(ジェネラル・パーパス・マシンガン) )
:他
ココノ
元天神教巫女見習い。
魔王が封印されていた洞窟を出発して3日目。
オレ達、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) メンバーは、ハンヴィーに乗車して中継地点都市の一つであるアルバータを目指していた。
現在、運転はシアに任せている。
オレは隣の助手席に座っていた。
後ろの荷台ベンチには左側へスノー、クリス、ノーラが。右側にメイヤ、リース、元女魔王――現在、幼女姿の少女がリースの膝枕で未だに眠り続けている。
彼女は封印場所に残さず、連れてきた。
その判断を下したのはオレではなく、旦那様だ。
旦那様は彼女を自分の養女として引き取るため、封印場所から連れてきたのだ。
『魔法核を失った以上、彼女に強い力はもう残されていないだろう。自分の身すら守れないほど弱体化した以上、好戦的な魔物が多いこの地に残しておくのは危険だからな』
それに、と旦那様が付け加える。
『彼女は嫌がるかもしれぬが……見た目上、魔人種族と名乗れば違和感を持たれぬ容姿をしている。この地に残るよりずっと生活がしやすいだろう。一命に賭けて守ると誓った以上、紳士としては破るわけにはいかないからな!』
さすが旦那様、男前……いや、紳士過ぎる。
確かに旦那様の言う通り、力を失った以上、魔物大陸に居るより魔人大陸で過ごした方が安全だ。
なにより旦那様は魔人大陸で有数の資産家である。
彼女1人を養うぐらい余裕だ。
奥様も彼女を連れてきたとして、旦那様の不貞を疑うことはないし、元女魔王だからといって拒絶する器でもない。
むしろ奥様が、幼女化した元女魔王を滅茶苦茶可愛がりそうだ。
また安全性という意味では――
「むむ! リュートよ! その魔術馬車を止めるがいい!」
ハンヴィーの隣を定員オーバーで乗れなかった旦那様とギギさんが肉体強化術で身体を補助して並走していた。
約30km/時で走行している横を筋肉の塊が並走する姿は中々シュールだった。しかも、半日走っても旦那様は息が切れるどころか、汗すらかいていなかった。
本当にこの人は生物なのだろうか?
魔術師Bプラス級のギギさんだって同じように半日走って息切れしていたぞ?
ちなみに、そんなギギさんを見てハンヴィーに乗ることを勧めたがやんわりと断られた。どうやらギギさん的にハンヴィーは苦手なようだ。
「どうかしましたか、旦那様?」
オレはシアに合図を送り、ハンヴィーを停車させる。
「どうやらこの先に複数の魔物の気配を感じる。我輩が排除してくるので少々ここで待っているがいい」
「えっ、ちょ、旦那様!」
旦那様はオレの返事も聞かず1人走り出す。
オレは助手席に座ったまま、同じように残されたギギさんに視線を向ける。
「……安心しろ。旦那様に任せておけば大丈夫だ」
ギギさんは腰に手を当て軽く呼吸を整えながら断言する。
あの旦那様ならドラゴン相手でも笑いながら勝ちそうなのは確かだが、万が一ということもある。
「一応、様子を見てきます。皆はここで待っていてくれ。シア、もしなにかあったらハンヴィーを走らせていいから」
「了解しました」
助手席からおりるオレに、クリスがミニ黒板を向けててくる。
『私も一緒に行きます』
「……それじゃクリスも一緒に行こうか。リース、オレのAKとクリスのライフルを出してくれ」
「分かりました」
リースから、それぞれ銃器と予備弾倉などを受け取る。
スナイパーであるクリスが同行してくれるなら心強い。
彼女なら旦那様の援護も問題なくこなせるだろう。
後の指揮を一時スノーに任せて、オレとクリスは旦那様の後を追った。
オレとクリスが旦那様に追いつくと、すでに魔物と戦っている最中だった。
相手は魔物大陸の固有 魔物(モンスター) である『 蝶蜘蛛(バタフライ・スパイダー) 』だ。
港街ハイディングスフェルトから、アルバータへ移動中にオレ達も一度大軍と出会った。その時は戦うこともせずやりすごしたが……。
蝶蜘蛛(バタフライ・スパイダー) は人間大の蜘蛛の背に、蝶の羽根が生えた魔物である。
獲物を発見すると追いかけ、場合によっては羽根で飛んで襲いかかってくる。
お尻から糸を飛ばし、噛みついて麻痺毒で獲物を動けなくする厄介な魔物だ。
外皮はそれほど硬くなく、剣や槍、弓でも倒すことが出来るが、集団で行動しているため1、2匹倒しても数10、数100の 蝶蜘蛛(バタフライ・スパイダー) が襲いかかってくる。
正直、あまり相手にはしたくない魔物のひとつだ。
旦那様はそんな 蝶蜘蛛(バタフライ・スパイダー) の大軍と戦っていた。
その数はパッと見ただけで1000匹は越えている。
「はははははっはああははは!」
旦那様が笑い声を上げながら腕を振り抜くたび、10~20匹の 蝶蜘蛛(バタフライ・スパイダー) が粉々に砕け散る。
一方、 蝶蜘蛛(バタフライ・スパイダー) の攻撃は……彼らは集団で糸を吐き出し、旦那様の行動を阻害しようとするが、
「はっははははは! 何をしたいか分からんが頑張ることはいいことだぞ!」
旦那様は体に絡まり行動を阻害しようとする糸を、まるで気にせず引き千切り拳をかためて攻撃する。
さらに 蝶蜘蛛(バタフライ・スパイダー) は噛みつき、麻痺させようとするが魔力の壁に阻まれ皮膚にすら届かないでいた。
「ふんぬば!」
気合いを入れて一撃。
旦那様がアッパーで天高く、拳を振り上げると50匹近くの 蝶蜘蛛(バタフライ・スパイダー) が竜巻に巻き込まれたように粉々になり舞い上がる。
攻撃後の隙を狙って噛みつくがやっぱり魔力の壁を突破することができない。
むしろ噛みついた魔力の壁が小爆発。
噛みついていた 蝶蜘蛛(バタフライ・スパイダー) の頭部が粉々に砕け散る。そんなことも出来たのか……もうなんでもありだなあの人。
隣に視線を向けると、クリスもオレと似たような表情をしていた。
こうして旦那様は30分もかからず 蝶蜘蛛(バタフライ・スパイダー) の大軍を全滅させた。
旦那様自身、掠り傷一つ負わず、息も乱さずだ。
こんな規格外、バグキャラ、チートキャラの側で元女魔王は暮らすのだ。
さらに奥様やギギさんなど腕の立つ人も屋敷にはいる。
安全性を考えるなら、ブラッド家で暮らすのが賢明な選択だといえるだろう。
旦那様は 蝶蜘蛛(バタフライ・スパイダー) を全滅させると、オレ達の存在に気が付く。
「クリスとリュートではないか。わざわざ迎えに来たのか! はっははははは! まったく父親想いの夫婦だな!」
「ははは……」
オレとクリスは顔を見合わせ、旦那様に微苦笑を浮かべる。
乾いた笑いしか出てこないや。
ちなみに倒した 蝶蜘蛛(バタフライ・スパイダー) の素材は、リースの無限収納に確保。
さらに移動中、ヘビーロックの群れを旦那様が倒してくれた。
その素材もリースの無限収納に確保した。
旦那様が魔物を倒し、リースの無限収納にしまうというコンボのお陰で、オレ達は楽をして大金を手にする。
本当に旦那様が味方でよかった!
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その日、オレ達は適当な平原にハンヴィーを止めて野営準備に取り掛かる。
リースがハンヴィーを無限収納にしまいベッドを取り出す。
一時的にそこへ元女魔王を寝かせた。
他にも野営に必要な物を出してもらい、オレ達は準備に取り掛かる。
さすがに慣れたもので、皆自分の役割をこなした。
ノーラだけはまだオレ達に慣れていないせいか、自分が何をしていいか分からず狼狽えている。
オレはそんな彼女に声をかける。
「ノーラ、こっちを手伝ってくれ」
「わ、分かりました。リュート様」
まさに借りてきた猫状態で大人しく指示に従う。
オレはノーラと一緒にリースに出してもらった大型テント用具一式を組み立てる。
なぜかテントを立てた状態では無限収納にしまえないからだ。
リース曰く、『地面に杭が刺さっているためかも?』ということらしい。
しかし流石に慣れているとはいえ、2人では建て難く見かねたクリスが手伝ってくれる。
『リュートお兄ちゃん、ノーラちゃんお手伝いしますね』
「ありがとうクリス、助かるよ」
「あ、ありがとうございます、く、クリス様」
クリスの気さくな態度とは正反対に、ノーラはビクビクと落ち着かない様子で返事をする。
スノーやリース、シア、メイヤなど他の人達に対してもよそよそしいが、クリスに対しては特に気後れした態度を取る。
理由は分からないが、どうもノーラはクリスが苦手なようだ。
オレは視線でクリスに問いかける。
『何かしたのか?』
『いいえ、まったく身に覚えがありません』
クリスとも長い付き合いだ。
彼女もアイコンタクトですぐに否定した。
では、いったいどうしてノーラはクリスを怖がっているんだ?
オレはテントを組み立て終えた後、さりげなくノーラに声をかける。
「テントの組み立て手伝ってくれてありがとうな。ノーラのお陰で思った以上に早く終わったよ」
「いえ、リュート様のお力になるこそがノーラ達の喜びなので!」
彼女は元黒メンバーだけあり、スノー達とはまた違ったベクトルの慕い方をしてくる。
反応に困りながらも話を続けた。
「何か問題とかない? もしあるなら遠慮なく言ってくれていいんだぞ。ノーラは今、オレ達の仲間なんだから」
「い、いえ、皆さんによくしてもらっているので問題なんて……」
「じゃぁ、たとえば苦手な人とか、話がし辛い人とかはいるかな? 別に責めてるわけじゃなくてあくまでたとえばって話だから」
ちらりとノーラが、調理を手伝うクリスに視線を向ける。
やっぱり、クリスがどうも苦手らしいな。
オレの気遣いを察したのか、ノーラが意を決して言葉を吐き出す。
「嫌いという訳ではないのですが……クリス様はそのちょっと……」
「どうして? 歳も近いし話がしやすそうだと思うんだけど」
ノーラは『ギュッ』と自身の服を強く掴みながら、絞り出すように原因を話してくれた。
「ま、前にココリ街でクリス様達から逃げる際、甲冑を着て夜の森を全力疾走したのになぜか倒されて。止まって振り返って、肉体強化術で目を強化しても姿が見えないし。また走り出そうとしたら倒されて、逆に覚悟を決めて戦おうとしたら側で突然爆発したりするし……その攻撃をしていたのがクリス様って知ってノーラ……」
(あっ、ノーラがクリスのことが苦手な原因はそれか)
『紅甲冑事件』後、クリス達から戦闘の話を聞いた。
ノーラをSVD(ドラグノフ狙撃銃)で狙撃して、足止め。
相手が焦れて彼女達を攻撃しようとしたら、通り道に置いた対戦車地雷を起爆し魔力を削った。
作戦の中核をなしたのがクリスだ。
あの逃走劇でノーラはトラウマを植え付けられたのだろう。そのトラウマを植え付けた張本人が目の前に居たらそりゃ挙動不審にもなるわ。
(うーん……)
オレが腕組みして、ノーラをどう慰めようと考えをめぐらせていると。
突然、後ろから声をかけられる。
「リュー……」
今まで聞いたことがない声音。
名前を呼ばれ振り返ると――ベッドで上半身を起こした元女魔王、今は美幼女の魔王がこちらを見詰めていた。
彼女とがっちり目が合う。
彼女は恋する乙女の蕩けた笑顔で、ベッドからオレに向かって『ぴょん』とジャンプする。
「妾を迎えに来てくれたのだな! あぁ、愛しい人!」
回避は容易いが、元魔王の突然の行動にオレを含めて、全員が作業の手を止め固まってしまった。
結果、オレは彼女を避けず受け止めてしまう。
元女魔王はオレの首に手を回し、唇を重ねてくる。
「んっ……」
激しい舌づかい。
元女魔王の舌が緩急をつけて、オレの口内を責め立てる。
(……!?)
幼女姿のくせに滅茶苦茶キスが上手い!
暫し唾液の粘着音が周囲に木霊する。
気付くと腰が砕けて、オレは仰向けに倒れてしまう。
それでも彼女は激しく、時に甘く、口づけを交わしてくる。
「んっぱ!」
ようやく元女魔王が唇を離す。
オレはというと昇天一歩手前の状態だ。
彼女はキョロキョロと辺りを見回し、
「ん? ここはどこじゃ?」と可愛らしく小首を傾げた。