軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第241話 黒の今後

「結局、ララは5種族勇者の回し者だったってことか?」

オレの疑問にギギさんが答える。

「その可能性は個人的に低いと思うぞ」

「どうしてですか?」

「ララは聞く限りハイエルフ王国の第1王女だろ。そんな高貴な身分の方を危険度の高い内通者にする必要性はない」

確かにギギさんの意見はもっともだが、彼女には『千里眼』と『予知夢者』という精霊の加護を二つもっている。だからスパイになったのではないか?

その可能性をリースが否定する。

「確かにララ姉様には2つの加護がありますが、だからといって絶対に身を守れるわけではありません。もしも私がその案を耳にしたら、真っ先に反対します。そんな危険な任務を第1王女がやる必要はありませんから」

「なら、やっぱり『魔法核』が欲しかったからか?」

――いや、本当に力を欲していたら、もっと昔に必死で女魔王を探していたはずだ。

今更、5種族勇者の子孫が『魔法核』欲しさになりふり構わず行動する理由はない。むしろ下手に『黒』なんて組織を作り、魔王捜しをさせたせいでオレ達は過去の真実を知ってしまった。

5種族勇者の真実を秘匿したいなら、こんな敵対組織を作り出す意味がまったくない。

「……真相を知りたければララ本人を捕まえるか、会って話を聞くしかないな。とりあえずこの話は一旦お終いにして、今後をどうするかだ」

オレは向かい側に座る『黒』の暫定代表者であるメリッサに話を振る。

彼女は断られると察しながらも、遠慮がちに希望を告げてくる。

「シャナルディアお姉様が倒れられ、ララに裏切られた現状、私達としては是非リュート様に我々の代表として導いて欲しいのですが……」

「やっぱりそうなるか。でも悪いけど、『黒』の代表者になるつもりはないよ」

オレの返答にメリッサを含めて、今だ眠るシャナルディアのベッド側に居る少女達から縋るような視線を向けられる。

まるで雨の日に捨てられた子犬達のような視線だ。

しかし、たとえそんな目を向けられても、彼女達の頭になり導くつもりはない。

彼女達を PEACEMAKER(ピース・メーカー) メンバーに入れることもほんの少しだけ考えたが、すぐに却下した。

元純潔乙女騎士団メンバー達からしてみれば、前組織崩壊のきっかけになった人物達だ。

表だって拒絶はしないだろうが、内心で不満を溜め込むのは確実。士気にも影響が出るだろう。嫁達だって同様だ。

何より彼女達を組織に入れれば、いつか情報が漏れて 始原(01) や大国メルティアなどを敵に回すことになる。街中で爆弾を抱えるようなものだ。突然何の準備もないまま、街中で 始原(01) 達と戦うかもしれないと考えただけで、頭が痛くなる。

またララが何を考えて動いているのかは分からないが、彼女達全員を抱えるのは正直いって無理だ。目立ちすぎる。

だからといって、 始原(01) に彼女達の身柄を引き渡す訳にもいかないし、ここで『はい、さよなら』と放り出すわけにもいかない。

最低限、彼女達を監視するという意味合いでオレ達しか知らない居場所に身を潜めてもらおう。 始原(01) やメルティア、ララなどに見付からない場所で、シャナルディアの治療のためにも隠れ潜んでもらうしかない。

問題はどこに身を潜ませるかだ。

彼女達は非常に目立つ。

下手な街ではいくら隠れているつもりでも、その情報は近いうちに漏れてしまうだろう。

ベストは山奥か、誰もいない大陸奥地なんだが――それはさすがに生活環境が悪すぎるしな。

オレが頭を悩ませていると、旦那様が解決策を提示する。

「ならばここに住めばいいではないか!」

旦那様は暑苦しい笑顔で断言する。

「ここって……この女魔王、ってこういう言い方は不味いか。彼女が封印されていたこの洞窟ですか? でも、ここの位置はララにばれていますし、後から大軍が来るかもしれませんよ?」

「知っているからこそ、ここに留まるのだ。まさか彼女もいつまでもここにいるとは思うまい? それにリュート、忘れてしまったのか。ここは魔物大陸だ! 大軍で侵攻してきたらあっというまに魔物達に襲われ腹の中に収まってしまうぞ!」

確かに旦那様の言葉通り、ここは魔物大陸。

大軍で移動していたら、すぐに魔物と遭遇して戦いになる。

ここまで辿り着く間に半減、最悪全滅の可能性すらある。

またそんな大軍と魔物達が戦っていたら、すぐに敵が近付いていると気付くことができる。

なら少数精鋭の手練れで攻めてきたら?

旦那様曰く――この洞窟はオレ達が入ってきたルート以外にも道がある。

複数あるルートを教えるから、それを使って逃げればいい。

さらに不幸中の幸いで、女魔王の封印は解けてしまったが、元クリスタルに似た鉱物で出来た大樹にはまだ封印の力が残っている。

この力があるから、魔物大陸の魔物は洞窟へと近付いてこないらしい。

またこの力によって洞窟外の温度に関係なく、内部は過ごしやすい温度や湿度を一定に保っている。

他にも洞窟内部には綺麗な湧き水があり、飲料水には困らない。

食料、必要な衣類、他雑貨もたっぷりある。

これらは数ヶ月に一度、結界の力を強めているあいだに買いだめするらしい。

無くなったら、黒メンバーで魔物大陸の魔物を倒し、その素材を街で換金して再び買いだめすればいい。

彼女達の実力なら、気を付けてさえいれば魔物大陸の魔物達に遅れをとることはないだろう。

確かに理想的な環境だ。

ここなら下手な街にいるよりずっと安全だ。

しかし、旦那様がまともなことを言うと、妙な違和感があるよな……。

オレは失礼な考えを消すため、咳払いをしてから話をまとめる。

「ならメリッサ達はこの洞窟に住んで、シャナルディアの世話を頼む。数ヶ月か、1年に1度ぐらいのペースでオレ達も様子を見に来るから」

「分かりました。シャナルディアお姉様のことはお任せください」

彼女達はトップ不在で不安げな表情をしていたが、方針を示されたお陰か多少顔色がよくなる。

「後は黒の下部組織をどうするかだな。正直言ってもう必要ないから、組織を解散するべきだと思うんだが、メリッサはどう思う?」

「リュート様の仰るとおり、解散が妥当だと思います。私達にはもう必要のないものですから」

「なら、組織を回って解散させないとな。全員で動くわけにもいかないから、誰か代表者をだして解散させるしかないか」

「なら私はノーラを推薦します」

名前が挙がり、ノーラは驚きの表情を浮かべる。

メリッサは構わず話を続けた。

「下部組織は基本的に代行の男性、注射器を作り出した人に任せています。ノーラなら面識もありますし、リュート様達と歳が近いため、組織に居ても目立たず違和感が少ないと思いますから」

「なら、ノーラを一時的に借りるよ。用事が済んだら連れて戻ってくるから」

「ご配慮、ありがとうございます。ノーラ」

「は、はい!」

メリッサに名前を呼ばれ、彼女は質問を当たられた生徒のように声をあげる。

「黒の代表者として、組織解体を任せます。リュート様の手足となり、身を粉にしてお力になるんですよ」

「わ、分かりましたメリッサお姉様!」

彼女は声を上擦らせながらも、ハッキリと返事をする。

2人の会話が終わったところで、オレはずっと考えていた疑問をぶつける。

「最後に一つだけ聞きたいんだが……ミーシャを殺したのはメリッサ達か?」

魔物大陸の都市、アルバータ。

そこでオレを騙し、奴隷に売り払った3人の1人である魔人種族、悪魔族、ミーシャと出会った。

だが、彼女は出会って数日後、何者かの手によって殺害された。

この洞窟で『黒』と出会ってから、彼女達がミーシャを殺した犯人じゃないかと疑っていたのだ。

オレはメリッサ殺害事件の詳しい話をすると、メリッサ達が困惑しながら否定する。

「私達も確かにリュート様達の後を付けるため、アルバータに居ましたが、『ミーシャ』という人物を殺害なんてしていません。第一、リュート様が騙されて奴隷に売られたなんて初めて知りました」

メリッサやノーラ、他メンバー達の反応を見ても嘘を言っている感じではない。

目に力を込めると、青い顔で否定し続ける。

まるで新しくなった主人に疑われて青くなる奴隷のような反応だ。正直、こちらが苦手意識を持つ態度だった。

「あっ、でも一つだけ気になることが……」

ノーラが当時の話を聞いて記憶を思い出したのか、挙手してから答える。

「その日の夜、ララお姉様がベッドを抜け出して外へ出るのを聞きました。同じ部屋のベッドで、その時は眠りの意識があさくて周囲の音に耳を澄ませていたので」

最初はトイレかと思っていたが、すぐには戻ってこず気付いたら自身も深く眠って朝になっていたらしい。

ベッドから抜け出しシャナルディアが泊まったスイートルームに顔を出すと、すでにララが彼女の側にいた。

自分が寝た後、戻ってきたんだろうと気に留めなかったらしい。

(もしかしたら、ララが深夜に部屋を抜けだしミーシャを殺したってことか?)

オレはあくまで『黒』がこの街に居たという状況から、彼女達がミーシャを殺したのかもしれないと思った。

もしララが単独で本当にミーシャを殺したとしたら……その理由はなんだ?

まさかオレを騙し、奴隷にしたことに腹を立てて彼女を殺したわけではないだろう。

また一つ、ララ本人に聞くことが出来てしまった。

オレ達はさらに細かいことを話し合いで決めた。

その日は皆が疲れているため、洞窟内部で1泊。

洞窟内部とはいえ一応警戒して、周辺警戒の歩哨の時間を取り決めた。

最終的に洞窟内部から出たのは、翌日の昼過ぎだ。

▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼

魔王が封印されていた洞窟を『千里眼』で抜け出したララは、魔物大陸を1人走っていた。

リュート達に邪魔されないよう距離をとるためだ。

十分、距離を取ったところで連絡用の魔術道具を出す。

ポケベルのように一方通行で連絡を入れるだけで、通信などはできない。それでも稀少な魔術道具で市場に出ていない代物だ。

ララが連絡を入れると、少しだけの静寂の後に。

目の前に黒い人物が空間転移し、姿を現す。

相手は頭まですっぽりと黒い外套で隠し、ズボン、手袋、ブーツ、顔を隠す仮面は空気穴1つない。

お陰で男なのか、女なのか性別すら分からない。

ララは興奮に頬を紅潮させながら、片膝を突き目の前に現れた人物に『魔法核』を差し出す。

「ついにオリジナルを手に入れることが出来ました。これで私達の悲願達成も目前です!」

黒い人は、右手で差し出された『魔法核』を掴み、宝石を吟味するように興味深く視線を向けた。

そんな彼にララは、先程とはうって変わって硬い声音で話しかける。

「また一つご報告があります」

彼女の言葉に黒い人物は、『魔法核』からララへと顔を向ける。

ララは頬から冷や汗を一滴流しながら、言葉を絞り出すように報告した。

「魔力開発のさい、実験体に使用し廃人となったミーシャが魔物大陸の街にいました。昔、彼女が実験によって廃人となっていたため、警戒せず目の前で例の話をしていたのですが、その時の内容を彼女が覚えていたようで……。すぐに処分しましたが、恐らく彼らに内容を口にした可能性があります」

黒い人物は報告を聞き終えても身じろぎしない。

ララも片膝を付いた姿勢で、相手の返答をただ待ち続ける。

『オォオォォォォォッォオオォオッォッォオォオ!!!』

そんな2人の上空をツインドラゴンの群れが通りかかる。

数は数百。

全長は約15~20メートル。

手で触れたら切れそうな鋭く硬い鱗を全身に纏い、背に広がる翼で空を自由に飛行している。

そして通常の竜とは異なる特徴――2本ある首。故に、ツインドラゴンと呼ばれる魔物だ。

ツインドラゴンの群れがララ達をエサと認識。

再び雄叫びをあげ、我先に彼女達へと殺到する。

『オォオォォォォォッォオオォオッォッォ――ッ!!!』

だが、その雄叫びは途中で悲鳴へと変わる。

もっとも近付いたツインドラゴン達から順番に、内側から破裂するように爆砕したのだ。

異常事態を察して他のツインドラゴン達は早々に逃走しようとするが、まるで連鎖したように爆発する。

数百居た群れは10秒もかからず全滅してしまった。

ツインドラゴンの血液、内臓、鱗、骨、筋肉など、死体が雨のように大地へと降り注ぐ。

なのに未だ2人は動かず、服や体に汚れがつく様子もない。

ツインドラゴンの死骸が降る中、黒い人物がようやく動き、ララへと言葉をかける。

雨の音が強すぎて2人以外には聞こえない。

だが、ララは短い言葉をかけられ、すぐに嬉しそうな表情を浮かべた。

どうやら彼女は許されたらしい。

ツインドラゴンの死体の雨が止む。

ララは立ち上がり、黒い人の腕の中に収まる。

「あっ……」

シャナルディアやリュート達に向けていた冷酷な様子はない。まるで初恋の人に抱き締められている少女のように、ぎこちなく緊張した表情で腕に収まる。

そして2人は空間へ溶けるように消えてしまう。

大地に残っているのは、細切れになったツインドラゴンの死体だけだった。

<第12章 終>

次回

第13章 日常編4―開幕―