軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第180話 巨人族の侵攻

「巨人族の群れが、この街、ノルテ・ボーデンに向かって進行中とのことです! その数、約100体以上!」

「馬鹿な! ありえん!」

疲れ切って10~20歳は老け込んだ元領主のトルオが、衛兵の報告によって椅子から勢いよく立ち上がる。

北大陸では、数年に一度の割合で群れからはぐれた巨人族が都市に現れる。そのため大抵の都市には、はぐれ巨人族に対応するため一般的な城壁より厚く頑丈な城壁がある。

はぐれ巨人族も多くて2~3体だ。

今回、100体以上の群れがノルテ・ボーデンへ向けて侵攻してくるなんて本来ありえない話なのだ。

アムも真剣な表情で問う。

「何かの間違いではないのかい?」

「いえ、間違いないとのことです。恐らく後、約4時間ほどでこの街に辿り着きます!」

衛兵は断言する。

この返答に場は、耳が痛いほど静まりかえった。

その中でオレは次男オールの言葉を思い出す。

『よくも僕様の計画を台無しにしてくれたな。だがきっと貴様等は後悔するだろう。『まだ殺されていたほうがマシだった』と思うことが、貴様らの身に起きるだろうさ! これは予言や負け惜しみなんかじゃないからな! 精々後悔し! 絶望しながら仲間共々死んでいくがいい!』

あの時の台詞は、もしかしてこの状況を指しているのではないのか?

オールを倒したら偶然、『100体以上の巨人族が街に向かって攻めて来ました』なんて、あまりに都合が良すぎる。

彼がこの状況に何かしら関わっていると考えるのが自然だ。

「ちょっといいですか?」

オレは沈黙している場に手を挙げ意見を言う。

次男オールが最後に告げた台詞を、その場に居る皆に知らせた。

話を聞き終えるとトルオが、慌てた様子で衛兵に命じる。

「今すぐ地下牢に居るオールをこの場に連れてこい!」

命じられた衛兵は一礼すると、すぐさま謁見の間から出て行く。

あまり時間が掛からず、手足を鎖で繋がれ、念のため首に魔術防止首輪を巻かれたオールが両脇を衛兵に掴まれながら謁見の前に姿を現す。

その場に居る皆の視線が彼に注がれた。

実兄であるアムが代表して問い質す。

「今、100体ほどの巨人族が、ノルテ・ボーデンを目指し侵攻中とのことだが……オール、君が何かしたのか?」

「くくく、はははは……ッ!」

彼は俯き、乱れた金髪を直そうともせず音程の狂った笑い声を響かせる。

「当然、しているに決まっているじゃないか! でなければ、巨人族が100体も街に向かって侵攻なんてするわけがないだろ!」

彼は顔を上げると、瞳に狂気的な光を灯しながら告げる。

「作戦が失敗したら、禁忌の魔術を使ってノルテ・ボーデンごと道連れにする手筈になっていたんだよ!」

『!?』

その場に居る全員が、その狂った言葉に驚愕する。

オールが使った禁忌の魔術とは――1人の魔術師が巨人族をコントロールすることを目的に、研究のすえ開発したものだ。

しかし、その魔術はただ巨人族を集めるだけの失敗作。

結局、研究者の魔術師も、自身が作り出した失敗作の魔術で集まった巨人族に踏み殺されてしまった。

それを見ていた開発者である魔術師の知人達は、この魔術を禁忌として封印したのだ。

この話は北大陸では有名な話で、他大陸でも絵本形式で広まっている。

その本は『自身の力を越えたモノを扱うとすると身を滅ぼす』という教訓を伝えるための物語だと、著者は本の終わりに書き込んでいるらしい。

オレ達の驚愕を目の前に、オールは音程の合わない狂った高笑いを上げる。

「ぎゃはははは! いい気味だ! 最初からオマエ達に勝ち目なんて無かったのさ!」

アムが実弟の肩を乱暴に掴む。

「なんて馬鹿なマネを! 止める方法はないのか!」

「あるわけないだろ! 発動したらただ巨人族が群れでやってくるのみ! 領主になれない領地など滅んでしまえばいいんだ! ぎゃはははは!」

オールの高笑いが謁見の間に響き渡る。

トルオは頭を抱え、衛兵達に彼を再び地下牢へ連れて行くよう指示を出す。

連行されるオールの高笑いが、遠くなっていく。

それに合わせてトルオは、ずるずると背もたれに力なく体を預け、呟いた。

「……この街も我々も、もうお終いだ」

この呟きにアム、スノー両親は黙り込む。

10メートルという比較的小型の巨人族とオレは遭遇し、戦ったことがある。

1体でもあれだけ存在感があるのに、最低でも100体が街へ侵攻中。さらに残り時間は約4時間。

住人全員に敵襲を伝え、逃げる準備をさせても到底間に合わない。

そのことをよく理解している北大陸出身者達から、諦めていった。

だが、ここで『はい、そうですか』と諦めて自分達だけ逃げるほど、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) は物わかりが良くない。

オレ達の 軍団(レギオン) の理念は、『困っている人、助けを求める人を救う』だ。

この街に住む人々を見捨てる訳にはいかない。

オレ達は集まり活発に意見を出し合う。

まずはリースが提案した。

「あの頑丈そうな城壁まで引きつけ、単純に対戦車地雷、パンツァーファウストや私の時のようにオートマチックグレネードの連射で倒し切ることは出来ないのでしょうか?」

「ある程度の数ならそれで押し切れるが、相手は100体以上の巨人族だ。一度に全体を倒すのは無理だろう。撃ち漏らした巨人族が50体居たら、手に持った 質量兵器(槍) を投げられて、街は破壊され、多数の死者が出るだろう」

オレが否定する。

シアが提案した。

「では、街に近づく前に倒しきりますか?」

「すみません、この辺の地図と巨人族のルートを教えてもらってもいいですか?」

「す、すぐにご用意します」

衛兵達が謁見の間を出て、数分後――机をつなぎ合わせ、その上に地図を広げる。地図は前世のとは違い大雑把に記された低レベルの物だったが、あるだけでありがたい。

巨人族のルートを聞き、さらに北大陸奥地に詳しいアイスやスノーの両親に100体の巨人族と戦いやすい場所を尋ねるが、平野や森林が多く迎撃に向いた場所はなかった。

後は雪山と底が見えないほどの深谷などだ。

「これじゃ待ち伏せである程度の数を対戦車地雷で倒しても、全部は倒しきれない。後は見付かって、手に持った 質量兵器(槍) を投げられてお終いだな」

さすがに対戦車地雷やパンツァーファウストなども、100体を一気に全滅させるほどはない。

生き残った数十体の巨人族に殺されるのがオチだ。

「地上からの攻撃が駄目でしたら、空からはどうでしょうか? わたくしの飛行船は壊されてしまいましたが、この街にも飛行船の1つや2つはありますわよね?」

メイヤが空からの攻撃を提案する。

「いや、空は地上より危険だ。攻撃を一度でも受けたら地面に落下して、全滅の恐れがあるぞ」

『やっぱり、何も出来ないのかな……』

クリスが落胆し肩を落とす。

そんな彼女の肩にスノーが手を置く。

皆の視線が彼女に集まった。

「思ったんだけど、何も向かってくる巨人族を全部倒さなくちゃいけない必要はないんだよ。ようするに街へ来させなければいいんでしょ? だったら、巨人族が街へ向かう方向を変えることはできないのかな?」

スノーの提案に両親が答える。

「今回使われた禁忌の魔術は巨人族を呼び寄せるものだ。向かってくる巨人族に攻撃を加え、数体の敵意を自分達に向けるぐらいは出来るが……」

「全部は無理ね。数が多すぎるし。仮に進路を変えることが出来ても、敵意を自身に向けた人は確実に死ぬことになるわ。歩幅が圧倒的に違う巨人族から、雪山で逃げ切るのはほぼ不可能だもの」

クーラ、アリルの順番で説明する。

2人は不可能だと一蹴したが、オレはスノーの台詞に光明を見た。

(使われた魔術はただ巨人族を誘き寄せるだけ。巨人族の群れに攻撃を加えて、ヘイトを稼いで進路を変えることが出来るかもしれない……)

オレは腕を組み、片手で口元を隠して地図を睨む。

(巨人族の進路、雪山、底が見えないほどの深谷――そして、現在所持するオレ達の武装を組み合わせれば……)

「リュートくん?」

黙りこくったオレを不審に思ったスノーが声をかけてくる。

没頭していた思考から意識を戻すと、皆の視線がオレへと集まっていた。

口に出す前に、もう一度だけ思いついた作戦をなぞり、穴が無いか確認する。

「……もしかしたら街に被害を出さず、巨人族を倒すことが出来るかもしれない」

オレは思いついた作戦を皆に話して聞かせた。