軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第12話 スノー・後編

リュートくんはリバーシや他玩具の権利を売って、商人のマルトンさんから買い取った『魔術液体金属』と呼ばれる魔術道具に夢中になっています。

魔術液体金属――それは金属スライムと呼ばれる魔物を倒すと得られるアイテムだと、授業でならいました。

魔術液体金属は魔力を帯びた金属で、触れながら頭で武具をイメージして魔力を流すと、そのモノの形になる特性を持っています。

使い所が限られ、扱いにくい上、値段は魔術道具のため高いらしいです。

不人気商品の代名詞とも呼ばれる品物。

そんな物を大金を叩いて買ったのです。

世間のリュートくんに対する評価は――『変な子供』から『気味の悪い子供』と、さらにマイナスになりました。

彼は周りから距離を取られているのにも気付かず、嬉々として魔術液体金属に手を入れて『あーでもない』『こーでもない』と変な実験を繰り返しています。

リュートくんは下手に頭が良くて、好奇心旺盛で、行動力が高いから興味を持つと実行に移してしまう。前に思ったその通りでした。

彼が何をしているのか分かりませんが……わたしだけは幼なじみとして、リュートくんのことを見守っていこうと、そう思いました。

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わたしとリュートくん、6歳。

この年になってようやくリュートくんが何を作っているのか分かりました。

『取ってがついた金属の筒?』のような物を作っているのを見て、そのことを彼に尋ねると快く教えてくれたのです。

これは『じゅう』という魔術道具だ、とリュートくんは言っていました。

彼はオリジナルの魔術道具を開発しようとしていたのです!

さすがにわたしも呆れて、頭がクラクラしました。

たしかにリュートくんは誰もが楽しめる玩具を作れます。

しかし玩具と魔術道具はまったくの別物。

玩具のブロックでお家を作れたからといって、本物のお城を一人で建設しようと考える人はいません。

独自の魔術道具を開発しようとしたら高度な素材や魔術知識、莫大な資金、膨大な時間が必要になります。

魔術道具を開発しようとして身を崩した魔術師や、財政が傾いた国の話など山ほどあるのに……。

わたしより頭がいいリュートくんが知らないはずがありません。

周囲の評価も『気味の悪い子供』から『魔術師の才能が無いのに現実と向き合えない可哀相な子供』というものに変わってしまいました。

本人は『最近、孤児院を手伝うおばさん達が、お菓子をくれたり妙に優しい』と首をひねっていて、まったくそのことに気付いていません。

彼は相変わらず鈍感で、周囲の目も気にせず魔術道具開発に突き進んでいます。

そんなリュートくんが、作っていた『じゅう』で問題を起こしたのは、夏の初め頃でした。

初夏。

日差しが厳しくなり始めた日。

わたしは種族的に暑い日が苦手です。

午後、一通りの仕事を終わらせると、窓を開けた女子部屋の日陰でごろごろしていました。

他の女子はリバーシで遊んでたり、談笑していたり……。

そんな、よくある見慣れた景色。

わたしも、うとうととまぶたを閉じそうになりました。

バガン!

睡魔に引き込まれそうになった時、外から落雷のような音が聞こえてきました。

眠気は嘘みたいに霧散します。

『な、なんですか今の大きな音は! ひぃ……ッ!?』

続く、エル先生の悲鳴。

わたし達が音が聞こえてきた裏庭に急行すると、うずくまるリュートくんにエル先生が駆け寄っていました。

「……ッ!?」

わたし達は息を飲みます。

リュートくんは苦しそうに手を押さえていましたが、口元には笑みを浮かべていました。

血が付着した顔と合わさってとてもちぐはぐな光景に思えます。

気の弱い子は涙を流し、その場にへたりこむほどに。

大きな音の発生源である魔術道具の残骸は、いまだに微かな煙をのぼらせています。

「皆さん、来ては行けません! 年上の子は、下の子をすぐ中へ連れて行ってください!」

先生はわたし達に気付いて、すぐに指示を出します。

みんなすぐ指示に従い、年上の子は下の子を孤児院内へと連れ帰りました。

わたしはリュートくんが心配でその場に残ろうとしましたが、年上の女の子に無理矢理手を引かれて連れ戻されてしまいました。

その日の夜。

寝る前の僅かな時間、女子部屋の話題はリュートくん一色でした。

事故の原因は魔術道具開発の実験中、魔術が暴走したせいらしいです。

リュートくんの怪我は、エル先生の治癒魔術のお陰で問題なし。

そして今回の騒動の罰として、30日間の実験禁止と罰則労働を申しつけられたそうです。

わたしは彼女達の話を聞き流しながら、昔先生に教えてもらった言葉を思い出しました。

『自分に魔術師としての才能が無いと分かっていても、努力しようとする子がいる。特に男の子に顕著で、中には現実を受け止めきれず、危険な魔術道具に手を出して命を落とすこともある』

もしかしたらリュートくんもそういう人なのかもしれません。

もしそうだとしたら幼なじみとして、わたしがちゃんと彼を正しい道に戻さないと!

わたしは『リュートくんのため!』と見当違いの心配をして、リュートくんを真人間にする誓いをたてました。

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わたしとリュートくん、7歳。

暑い夏が過ぎ、秋口。

わたしは7歳になると、午後にエル先生が開く魔術師基礎授業に参加するようになりました。

最初は魔術の練習より、筋トレや体力作りのランニング、格闘技、剣術の方が辛かったです。

しかし半年も経つと体に染みこんだようにこなせるようになりました。

今日も昼食後、孤児院の裏庭に集まり体を動かします。

授業を受けるのは1年目が2人に、2年目が1人、半年はわたしだけの計4人です。

全員女の子で、みんな仲良く先生の授業を受けています。

ある日授業が始まる前に、窓の外を眺めていると。

荷物を抱えて裏庭を抜ける人影に気付きました。

「リュートくん!」

手を振り声をかけると、彼は足を止めてくれました。

リュートくんはごつい革ベルトをまき、右側に自作の魔術道具をぶら下げていました。

手には小樽を抱え、上に金属製の箱を重ね持っています。

孤児院の子供達は7歳になると、町に出て簡単な仕事をします。

そのお金の一部を孤児院に納めて、残りは将来のため貯金する規則になっているのです。

本来、リュートくんも今の時間は働きに出なければいけませんが、彼だけは先生から労働を禁じられていました。

リュートくんは5歳にして、自作した『リバーシ』や他玩具の権利を売り、かなりの金額を孤児院に入金しているのです。

リュートくんの労働を禁じているのは、これ以上彼に稼がれると他の子がやる気をなくしてしまうからだそうです。

そのため彼は午前中はエル先生の授業を補佐、午後はあの危険な自作魔術道具の実験を川原でしていました。

わたしは彼の腰に提げられている魔術道具に対して、反射的に顔をしかめてしまいます。

「今日も魔術道具の実験に行くの?」

「実験は夏頃にほぼお終い。今は練習が中心かな」

魔術道具爆発事件以降、わたしは何度か魔術道具開発を止めて欲しいと詰め寄りましたが、彼はのらりくらりと誤魔化し継続しています。

何度、腰に下げている魔術道具を無断で捨ててしまおうと思ったか……。

孤児院の規則に『他者の物品を勝手に弄らない、捨てない』というのがあるから、しないけど。

わたしがこんなに心配してるのに、彼はのほほんとした笑顔で、

「よかったら今度、スノーにも触らせてやるよ。実際に撃ってみればこの魔術道具の凄さをきっと理解するから」

「いいよ。そんな危険な玩具、触りたくない。リュートくんもいい加減、変な魔術道具作りなんて止めてよ」

「大丈夫だって、もう 暴発(あんなへま) はしないって。ちゃんと安全設計で作ってるから」

人の気もしらないで……。

「とにかく気を付けてよね。わたしは側に先生がいるからいいけど、リュートくんは違うんだから。あんまり無茶しちゃ駄目だよ」

「はいはい、分かってるって。それじゃスノーも授業がんばれよ」

ちょうどタイミング良く先生が姿を現し、皆に声をかけます。

「それじゃ皆さん、魔術師基礎授業を始めますよ」

「また後でね、リュートくん。いってらっしゃい」

「ああ、また後でな」

リュートくんは再び川原へ向け歩き出します。

わたしはその背を不安げな表情のままで見送りました。

しかし、わたしの心配や周囲の悪評をリュートくんは、ある事件を解決してすぐに一変させてしまいました。

その事件とは……

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ある日の午後、夕方。

夕飯の準備が終わったため、わたしはリュートくんを呼びに行きました。

彼がいる試射場と言われている場所は、孤児院の裏庭を抜け10分ほど歩いて川原に辿り着いた後、川下に向かって100mほど進んだ場所にあります。

川原では町の子供達、数人が川遊びをしていました。

「もう遅いから、そろそろ帰りなさい」

『はーい!』

元気に返事をしますが、子供達は帰宅する様子を見せません。

リュートくんを呼んだ後、再度声をかけようと心に決めます。

「リュートくーん!」

ちょうど片付けをしていた彼に声をかけ、手を振ります。

彼は笑顔で手をあげ、再度片付けに戻りました。

わたしを待たせないようにするためか、先程より手つきが早いです。

『きゃぁぁッ!』

「!?」

背後からの悲鳴に驚き振り返ると、川原で遊んでいた子供達が一斉に逃げ出していました。

川を挟んだ反対側、森の入り口からゴブリンが雪崩のように溢れ出て来たのです!

数は15匹。

「そんな! 森にゴブリンがいるなんて聞いたことないよ!」

だが、現実として目の前にいます。

事実を否定しても意味はありません。

わたしは混乱しかけた思考を無理矢理立て直します。

(ゴブリンの足は想像以上に速い。このままだと子供達の何人かは追いつかれちゃう。ここは魔術師見習いだけど、わたしがリュートくんや子供達を守らないと!)

午後の魔術師基礎授業で限界近くまで魔力を使っていましたが、休憩したお陰でそこそこ回復しています。

エル先生が駆けつけるまでの時間稼ぎぐらいはできるはず!

初めての実戦、殺し合い――恐怖が無いと言えば嘘になりますが、それ以上にみんなを守る力が自分にしかないという使命感がわたしを突き動かします。

覚悟を決めると同時に、子供の1人が逃走途中で転び動かなくなりました。

慌てて彼女に駆け寄ります。

(転んだ拍子についた傷以外、外傷はなし。息もある、気絶してるだけ)

ならば問題無し。

彼女の治療をしている暇はないため背後に隠し、放置します。

わたしは両腕を広げ、魔力を手のひらに集中。

「我が手で踊れ氷の剣! 氷剣(アイス・ソード) !」

両手に1本ずつ1mの氷の剣が魔力で生成されます。

攻撃魔術の氷系基礎の魔術です。

わたしはもっとも接近してきていた2匹のゴブリンにそれを投擲。

氷剣(アイス・ソード) は疾風の速さで、1本はボロボロの鎧を着てナイフを持ったゴブリンに突き刺さります。

もう1本は弓矢を構えていたゴブリンに刺さりました――が、突き刺さる寸前、 氷剣(アイス・ソード) とすれ違うようにゴブリンが矢を放ったのです。

「……あっ」

矢は、まっすぐわたしの胸に吸い込まれるように飛んできます。

まばたきもできない刹那――

(かわせば背後の子供に刺さる。訓練を始めて半年のわたしに反射的に抵抗陣を作り出す技術はまだない)

瞬時に駆け抜ける思考。自身の死が、矢と共に近づいてきます。

わたしは忘れていたのです。

自分が相手を殺せるように、相手も自分を殺せるのを。

ゴブリンは練習用の的ではないのです。

(――死にたくない! 死にたくない! わたしはまだ死にたくない!)

必死に胸中で叫びます。

しかし矢は糸で結んでいるように真っ直ぐわたしの胸を目指し飛んで来ます。

「スノーぉおぉおぉッ!」

リュートくんの声も今は雲の向こう側から聞こえてくるように遠く――

ダンッ!

引き延ばされた意識を割る、聞き慣れない破裂音。

同時にわたしを狙い飛んでいた矢が、中程で砕け明後日の方向へと飛び散ります。

「よっしゃぁ!」

リュートくんが拳を固め歓喜の絶叫をあげるのが見えます。

彼の絶叫と初めて聞く破裂音に、強襲してきたゴブリン達の足が止まりました。

わたしは死の危機から解放され、腰から力が抜けその場に座り込んでしまいます。

リュートくんがその隙に駆けつけ、わたしを守るようにゴブリン達と対峙しました。

わたしは彼の背に向けお礼を告げようとしましたが、

「りゅ、リュートくん、あ、あり――」

「礼はいいから、スノーはその子を抱いてこの場から絶対に動くなよ!」

「わ、分かった!」

彼の指示に従い、気絶している子供を守るように抱き締めます。

リュートくんは爆発事件を起こしたあの魔術道具をゴブリン達へと向けます。

矢が砕けた時に鳴った爆発音を、再び魔術道具が奏でます。

同時に一番近くにいたゴブリンの頭部に小さな穴が空き。

ゴブリンは糸が切れた人形のように河へと倒れます。

さらに4回、リュートくんは爆発音を鳴らします。

一瞬で4匹のゴブリンが、同じように頭部に穴が空き倒れてしまったのです。

これで残り8匹。

けれども数的優位は、ゴブリン達の方が未だ圧倒に上。

彼らは殺気立ち、再び水しぶきをあげて突撃して来ます。

『オオォオォォォォォオォォォォォォオォォッ!』

肌を叩く雄叫びと殺意。

「ひぃッ……」

わたしは自身にしか聞こえない小さな悲鳴をあげてしまいます。

なのにリュートくんはまるで百戦錬磨の勇者のように魔術道具を冷静に弄り――そして再び、魔術道具を殺到するゴブリン達へと向けました。

彫刻のように姿勢を崩さず、冷静にゴブリン達を瞬殺していきます。

木製の楯を持ったゴブリンが楯の内側に隠れますが、リュートくんが作り出した魔術道具は関係なく頭部に穴を開けます。

約6秒もかからず8匹いたゴブリンを、2匹にするなんて!

2匹は自分達の劣勢を悟ると、背を向け一目散に森へと逃げ帰ってしまいました。

リュートくんは再び魔術道具を弄り、注意深くゴブリン達が逃げ込んだ森の入り口を凝視します。

どれだけの時間が過ぎたでしょうか。

……ゴブリン達が戻ってくる気配はありません。

リュートくんは肩から力を抜くと、慌てて振り返りました。

「スノー、怪我はないか? 痛いところとか!」

先程まで百戦錬磨の勇者のように戦っていた気配は微塵もなく、そこにはわたしをただ心配してくれている幼なじみがいました。

それはわたしがよく知っているリュートくんでした。

「リュートくん、怖かったよ! リュートくん……ッ!」

わたしは気絶した子供を優しく地面に寝かせて、思わずリュートくんに抱きついてしまいます。

背丈が変わらないせいで、わたしは彼の首筋に顔を埋めます。

リュートくんは涙で汚れるのも気にせず、頭を優しく何度も、何度も撫でてくれました。

リュートくんの腕の中はとっても落ち着きます。

あの日の夜のように彼の体温に包まれて鼓動を聞くと、命の危機や初戦闘の恐怖――負の感情の全てが、春を迎えた雪のように溶けて消えていきます。

(ああ、そうか――)

すとん、と地に足がつくように、わたしは確信します。

(捨てられたわたしが、ずっと求めていたもの。わたしの帰るべき場所……それはリュートくんの腕の中なんだ)

自覚すると体が熱くなります。

自分の全てが叫んでいます。

自分は彼に会うために生まれて来たんだ――と。

これが『愛している』という感情なんだ。

わたしは、くるおしいほど沸き上がってくる思いの中で、そう胸の中で呟きます。

「スノーは偉いな。みんなを逃がすため、怖くても最後まで残って……本当に偉いよ」

リュートくんは足を引っ張っただけのわたしを慰めてくれます。

彼の優しさに胸が苦しいほど甘く締め付けられます。

わたしは声を出さずにはいられませんでした。

「リュートくんもありがとう、スノー達を守ってくれて。ありがとう……」

彼と向き合いお礼を告げます。

リュートくんはなぜか少しだけ楽になったような微笑みを浮かべました。

その後、先に逃げた子供達がエル先生に助けを求め駆けつけるまで――わたし達は、互いの温もりを確認し合うように、ずっと抱き合い続けました。

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ゴブリン襲撃事件後、リュートくんの評価は一転しました。

今までは『魔術師の才能が無いのに現実と向き合えない可哀相な子供』だったのが、事件をきっかけに『魔術師としての才能は無いが、それを補ってあまりある魔術道具を開発した大天才』に変わったのです。

リュートくんはそんな周囲の評価も気にせず、1人難しい顔で新しい魔術道具開発を始めました。

わたしは彼の相変わらずマイペースな性格に、ついつい微苦笑をしてしまいます。

そして、わたしとリュートくんは8歳になったのです。

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夏の山場が過ぎ、大分過ごしやすくなってきた午後。

魔術師基礎授業を終えたわたしは、駆け足で試射場へと向かいます。

わたしの大好きな幼なじみは、小樽に手を入れ 弾薬(カートリッジ) を作っている最中です。

その背に我慢しきれず抱きついてしまいます。

「リュートくん、お待たせ!」

「だから、突然抱きつくのは危ないから止めろって言ってるだろ。あと匂いを嗅ぐのは止めてくれ。汗臭いだろ?」

「そんなことないよ! 凄く良い匂いだよ! ふんふん」

「だから嗅ぐなって、くすぐったいだろ」

「えへへへ、ごめんね」

いつの間にか恒例となったやりとり。

リュートくんは諦めの溜息をつきながらも、頭を優しく撫でてくれます。

その手はとても気持ちよく、知らないうちに尻尾が嬉しそうに左右に振れます。

そんなわたしをリュートくんは表情を二転三転させ抱き締めようとしたり、しなかったりを繰り返します。

最後に何かを振り切るように、彼の腕はわたしの肩を掴み引き剥がそうとします。

「そ、それじゃ練習始めようぜ、ほらスノー離れて」

「もうちょっとだけ、ぎゅっとさせて」

「おふぅッ!」

回した腕に力を込めると、リュートくんは奇妙な声をあげました。

「も、もういいだろ。これ以上、抱きついてたら練習時間がなくなっちゃうぞ」

「リュートくんのけちんぼ」

「はいはい、ケチで結構。ほら、ガンベルト。シリンダーからだから自分で入れろよ」

ぶっきらぼうに腰に回していたガンベルトを渡されます。

今まで付けていたので新鮮な汗の匂いが染みこんでいるだろうけど、さすがに嗅ぐのははしたないかな、と思ってそのまま受け取ります。

我慢、我慢と心の中で唱えながら慣れた手つきで体に巻き付けます。

ゴブリン事件以降、わたしもリュートくんの作った魔術道具の操作方法を練習するようになりました。

彼も魔力が切れた時の護身用になればと、快く了承してくれています。

リボルバーを取り出し、シリンダーを押し出し。

残った木箱から6発の 38スペシャル(9mm) を手に取り押し込んでいきます。

肉体強化術で身体能力を向上させ、崖に描かれた人型へ向け発砲。

練習開始です。

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夕方になると片付けを終え、わたし達は孤児院へと手を繋ぎ帰宅します。

つい、夕陽に照らされるリュートくんの横顔を盗み見てしまいます。

孤児院の子供達は例外なく、10歳になると出て行かなければならない決まりです。

わたしも、魔術師学校に進学予定です。

わたしとリュートくんは共に8歳。

そろそろ進路を考える年齢です。

(リュートくんはどうするつもりなんだろう……)

彼は時々、年齢不相応な遠い目をします。

リュートくんが何を考えて何をしようとしているのか、一番距離が近い幼なじみのわたしにも分かりません。

だから時折、とても怖くなります。

リュートくんは間違いなく、何かを成し遂げるでしょう。

もしかしたら5種族勇者ですら足下に及ばない程の、きっと何か凄いことをするのでしょう。

7歳で魔術より強力な魔術道具を作り出してしまう才が、何よりの証拠です。

そんな彼の側にわたしのような凡人が居続けるのは難しいでしょう。

『大好き』『愛している』という感情なら、誰にも負けないと自覚しても。

孤児院をこのまま出てしまったら、わたしとリュートくんの関係はここで切れてしまいます。

そして二度と交わらない気がしてならないのです――彼の腕の中こそがわたしの帰る場所なのに。

そう考えただけで、体が裸で雪山に放り込まれたように冷たくなります。

わたしは彼の側に居続けたい。

どんな形でもいいから。

我が儘を言うなら、わたしのお腹でリュートくんの血を次世代に繋ぎたい。

子供を産みたい。

どんな繋がりより、たしかな絆を求める、白狼族としての本能。

きっとわたしはその子を、自分自身以上に可愛がるでしょう。

「リュートくんは、10歳になったらどうするの?」

わたしは意を決して彼に卒業後の進路を尋ねます。

「やっぱり、マルトンさんのところに行って、玩具屋さんになるの?」

「いや、それはない」

リュートくんは迷わず断言します。

「僕は10歳になったら旅に出ようと思ってる。それで……出来ればだけど、困っている人や救いを求める人を助けたいんだ」

「どうしてそんなことするの?」

予想外の答えに思わず聞き返してしまう。

彼は迷い――口を開く。

「去年、スノー達を助けただろ? あの時、誰かを助けることにやり甲斐を感じたんだ」

「だったら、スノーもリュートくんと一緒に旅に出る!」

「スノーは10歳になったら魔術師学校に進学するんだろ。そして、立派な魔術師になって、両親を捜しに北大陸へ行くのが夢じゃなかったのか?」

「リュートくんと一緒なら今からだって北大陸へ行けるよ」

愛しい彼の側にいられるなら、魔術師学校に進学などどうでもいい。

しかしわたしの言葉に、リュートくんはとても悲しそうな顔をしました。

「僕もスノーと一緒にいられるのは嬉しいよ。けど、スノーには魔術師としての才能がある。スノーの才能を食い潰してまで一緒にいたくない。僕はスノーのお荷物になりたくないんだ」

「リュートくん……」

悲しいけれど、彼の指摘は尤もです。

いくら自分がリュートくんを好きだからと言って、彼の才能を食い潰し、彼の足を引っ張る理由にはなりません。無理矢理一緒にいてもらうだけでは、意味がないのです。

『大好き』『愛している』――その感情だけでは、側に居続けられない。

せめて邪魔にならない程度の実力を付けるのは当然。

そのためには、わたしは魔術師学校に進学するしかないのでしょう。

(けど、リュートくんとこのまま離れ離れになったら……)

再び襲ってくる恐怖。

ただの幼なじみのまま別れてしまったら、二度とリュートくんと出逢えないという怖れ。

(そんなの嫌! わたしはずっとリュートくんの側にいたい!)

わたしは浮かんだ涙を指で拭い。

足を止め手を離し、リュートくんと向き合います。

奇しくもここは、あの時ゴブリンに襲われ、そして彼に助けられた場所。

わたしは勇気を出して、ずっと伝えようとしていた気持ちを告げます。

手を胸の前で組み、勇気を振り絞り声を出します。

「リュートくんにずっと……お話したいことがあったの」

彼も察したのか真剣な表情で向き合ってくれる。

わたしは精一杯勇気を振り絞り、ありったけの気持ちを込めて叫んだ。

「スノーを……スノーをリュートくんの『せいどれい』にしてください!」

「――はぁあぁぁぁあっぁぁあッ!!!?」