作品タイトル不明
第13話 ブレスレット
リュート、8歳。
「スノーを……スノーをリュートくんの『せいどれい』にしてください!」
斜め上のさらに斜め上を行くスノーのアホの子発言に、オレは唖然としてしまう。
オレは痛み出す頭を押さえながら、彼女を問い詰めた。
「す、スノー、『せいどれい』の意味、分かってる? てか、どこでそんな言葉を覚えたんだ!?」
「もちろん分かってるよ。魔石を売る商人さんの中に奴隷も扱っている人がいて、その人に教えてもらったの。『せいどれい』になれば一生、ご主人様の側にいないといけないって。わたしはずっとリュートくんの側にいたいから、『せいどれい』になりたいの!」
(おい、商人。8歳の子供になに教えてるんだよ……。この世界にはデリカシーとセクハラって概念がないのか?)
スノーに変な言葉を教えた商人を呪いながら、彼女に尋ねる。
「スノーの気持ちは嬉しいけど僕達まだ8歳だし、『性奴隷』とか特殊な関係はちょっと……。もっと普通に、恋人や夫婦になるって選択肢はないの?」
「恋人……夫婦……」
スノーは顔を曇らせ俯くが、すぐに顔をあげ気丈な微苦笑を作る。
「……大丈夫、分かってるから。わたしがリュートくんに相応しい子じゃないって。わたしはリュートくんの側にいられるだけで幸せだから。だから、気遣いとかしなくてもいいよ」
「ごめん、意味が分からないんだけど。なんでスノーが僕に相応しくないんだ?」
「だって、リュートくんは7歳で魔術より凄い魔術道具を作っちゃう天才でしょ? そんな凄い人と恋人や夫婦になれるなんて、最初から思ってないよ……」
ようやくスノーの考えを理解する。
どうやら彼女の中でオレは想像以上に凄い人物になっているらしい。
そんな人が自分を好きなわけがない。
でも一緒に居たいという葛藤を抱えていた。
結果、恋人や夫婦ではなく『性奴隷』という結論を出したようだ。
(いや、オレがスノーの好意に甘えて、ちゃんと気持ちを伝えなかったからか)
『相手が8歳の子供だから』『選択肢は彼女にある』とか、それっぽい建前でスノーに気持ちを伝えるのを逃げていた。
自分の勘違いで振られるのが怖かった。
だったら、彼女から告白されるまで待っていよう。
それなら自分が傷つくことはない――と。
自分が前世で彼女いない歴=年齢だった理由がよく分かる。
もう二度と困難から逃げないと誓ったはずなのに、気づけば生前のように目の前の事から逃げて楽な道を選んでしまっていた。
オレはスノーの不安を払拭するため、自分から勇気を出すことを決意する。
小樽を地面に置き蓋を開けた。
残っている魔術液体金属に手を入れイメージ力を高める。
オレの手に2つの 腕輪(ブレスレット) が作られた。
腕輪(ブレスレット) は黒色で、ただの『輪っか』というほど飾り気がない。
時間がないため今はこれが限界だ。
オレは 腕輪(ブレスレット) を手に、あらためてスノーと向き合う。
「スノー」
「は、はい!」
彼女の視線がオレの手にある 腕輪(ブレスレット) に釘付けになる。
この世界を救った5種族勇者の伝説。
そのひとつに、人種族勇者は 妖精種族(ようせいしゅぞく) の勇者と一緒に妖人大陸の魔王退治に出かける前夜、恋人に 腕輪(ブレスレット) をプレゼントした、というものがある。
魔王を倒して戻ってきたら結婚して欲しいと、勇者は恋人に求婚したのだ。
以降この世界では結婚に際して、異性に 腕輪(ブレスレット) をプレゼントするという風習が出来た。そして 腕輪(ブレスレット) をしていることが、結婚している又は結婚を予定している相手がいる、ということを意味するようになった。
前世の世界で言うところの結婚指輪だ。
オレは 腕輪(ブレスレット) を手にスノーに求婚した。
「僕達はまだ8歳で子供だ。けど、僕はスノーが好きで、愛している。誰にも渡したくない。だから……僕と結婚してください」
「は……はい。わたしも……リュートくんが大好きです。愛してます」
彼女は笑みを作るが、大きな瞳からはぽろぽろと真珠のような涙がこぼれ落ちる。
オレはスノーの細い左腕をとり、 腕輪(ブレスレット) を付ける。
スノーもオレの腕をとり 腕輪(ブレスレット) を付けてくれた。
そして、オレ達は夕陽に見守られながら初めての口づけを交わす。
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「スノーちゃんとリュートくんが結婚ですか!?」
その日の夜夕食を取り終えると、エル先生に時間を作ってもらい婚約の報告をした。
孤児院の応接室で2人並んで椅子に座り先生と向き合う。
スノーは部屋に入ってからずっとオレの左腕に抱きついている。尻尾は千切れるんじゃないかと不安になるほどぶんぶん揺れている。
「お2人の様子を見ていれば『いつかは』と思っていましたが、8歳で結婚なんて……」
エル先生はまだ信じられないと目を白黒させる。
この世界では、婚姻に年齢制限は無い。
それでも8歳で結婚は早熟だろう。
「もちろんまだ僕達は8歳の子供なので、正式に結婚したわけではありません。一緒に暮らすこともまだ出来ませんし。だからこの 腕輪(ブレスレット) は、あくまで婚約の 証(あかし) です。スノーが魔術学校を卒業したら正式に 腕輪(ブレスレット) を買って渡すつもりです。その時、僕達は15歳なのでちょうどいいかと」
貴族などの世界では政略結婚が当たり前。
そのため子供に婚約の証として簡素な 腕輪(ブレスレット) を左腕に付けさせる。
そして結婚の時に、新しい 腕輪(ブレスレット) (宝石を散りばめた豪華な物)と交換する。
一般庶民の場合は大抵婚約 腕輪(ブレスレット) はなし、簡素な結婚 腕輪(ブレスレット) を贈りあってお終い。
だが、そこそこ裕福な場合は婚約 腕輪(ブレスレット) を送る風習もある。
オレの場合、魔術液体金属という材料があったから自作してしまった。
「なるほど。先生、驚いちゃいましたよ。まさか8歳で結婚するのかと思っちゃいましたから」
「……わたしとしてはリュートくんが作ってくれたこの腕輪を、結婚腕輪にしてもいいんですけど」
「スノー、気持ちは嬉しいけど、それはあくまで即興で作った簡素なものだから。15歳になるまでにちゃんとした腕輪を準備するから、それまで待ってて欲しい」
「うん、分かった。リュートくんの言うことなら、なんでも聞くし何年でも待つよ」
スノーは心底幸せそうに『にへら』と笑う。
先生が微苦笑しながら、尋ねてくる。
「ではリュートくんは、10歳になったらスノーちゃんと一緒に行くつもりですか?」
魔術学校の側には大きな街がある。
そこで働きながら『スノーが卒業するまで生活するつもりなのか?』と先生は思ったようだ。
「いえ、自分は彼女が学校を卒業するまで旅をしようと思ってます」
「旅ですか……それはまた何で?」
エル先生にもスノーと同じ言い訳を口にした。
話を聞くと先生は胸の前で手を合わせる。
「困っている人達を魔術道具の力で助けたい、ですか。……だったら 冒険者斡旋組合(ギルド) に所属して冒険者になり、 軍団(レギオン) を立ち上げてはいかがですか?」
「 軍団(レギオン) ?」
「はい、冒険者は知ってますよね?」
冒険者とはこの世界の職業のひとつだ。
冒険者斡旋組合(ギルド) に登録することで冒険者になれる。
魔物退治、賞金稼ぎ、遺跡探索――など、仕事内容は多岐に渡る。
つまり何でも屋だ。
「冒険者になって条件を満たすと 冒険者斡旋組合(ギルド) から 軍団(レギオン) を立ち上げる権利がもらえるんです。 軍団(レギオン) には『ドラゴンしか倒さない』『魔術師B級以上で貴族出身しか所属できない』『女性の冒険者しか所属できない』など独自色を掲げているものもあるんですよ。だからリュートくんも冒険者になって、困っている人を助ける方針を掲げた 軍団(レギオン) を作ったほうが、1人で旅をするよりもきっと多くの人を救うことができますよ。有名になれば直接、助けを求める人が来ますから」
先生の説明を聞き、顎に手を当てる。
確かに 軍団(レギオン) を立ち上げるメリットは多々ありそうだ。
自分だけの 軍団(レギオン) ――軍隊を作り、組織だって行動した方が多くの人を救える。この世界は危険な所だから、1人で動くよりも、多人数で行動した方が色々と安全だろう。
それに、スノーが魔術学校を卒業したら 軍団(レギオン) に入って貰えば、ずっと一緒に行動出来る。より強力な武器を開発して、オレがスノーを守ることが出来る。
うん、自分の軍隊を持つのは悪くない。
「もしその気があるなら、先生の双子の妹が冒険者をしているので紹介状を書きますよ。彼女の下で冒険者の基礎を学ぶといいでしょう」
「先生に双子の妹さんなんていたんですね。初めて知りました」
「わたしも初耳です」
「魔術師ではありませんが、性格も優しく冒険心に溢れてるとても良い子ですよ。小さい頃はお金が絡むと熱くなって失敗したりもしていましたが……きっと大人になったから治っているでしょう。昔は、室内で遊んでばかりの先生をよく外へ連れて行ってくれたりしたものです」
エル先生は嬉しそうに妹さんの話をする。
先生の妹さんの下なら冒険者のイロハを学ぶ先生として、これ以上考えられない人選だ。
「冒険者になって自分の 軍団(レギオン) を立ち上げたいと思います。なので妹さんに紹介状を書いてくれますか?」
「分かりました、ではスノーちゃんが魔術師学校に進学する時までにお渡ししますね」
オレとスノーは『ありがとうございます』と頭をさげる。
先生は話題を変え、頬を赤く染めながら釘を刺す。
「婚約はおめでたいですが、2人はまだ8歳。お互い体はまだまだ発育途中なんですから、間違っても、その、あの……あれなことをしないように。その点はスノーちゃんより、リュートくんが気を付けてあげてくださいね」
「は、はい、分かりました。気を付けます」
「?」
スノーだけが意味を理解せず首を傾げる。
「それから婚約したとはいえ、他の子達の前であまりハメを外さないように。節度を持った態度で過ごしてください。教育上あまりよくないですから」
「わかりました」
「それから――」
「まだあるんですか!?」
「もちろんです。いいですか、リュートくん。スノーちゃんと婚約したんですから、これからはあまり、他の女の子の胸やお尻などを盗み見るマネはしないでくださいね。一夫多妻はありふれたことではありますが、軽い気持ちでああいったことはしないように」
オレは真面目な表情で聞き返した。
「……………………………………いやだな、先生。何を仰ってるのかまったく分かりません」
「真面目な顔をして誤魔化そうとしても無駄ですよ。リュートくんのエッチな目はばればれですから」
「今年の夏とか特にね。わたしとしてはわざとやってるのかと思ったよ」
「リュートくんは表面だけ紳士ぶろうとしていますが、女の子は男性の目には敏感なんですよ。もう少し、隠れエッチな性格を治しましょうね」
エル先生は指を一本立てて叱ってくる。
うぉおぉぉッ! まさか盗み見ていたのが、バレていたのか!?
思わず頭を抱えてしまった。
「そして最後にリュートくん、スノーちゃん、2人ともちゃんと幸せになってくださいね」
エル先生は本心から祝いの言葉を告げる。
オレ達は声を重ねて『はい』と答えた。