軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第129話 ノーラの逃走

『最悪! 最悪! さいあく!』

紅の甲冑に身を包んだノーラは、1人森の中を疾駆している。

悪態をつきながら、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) の実力を過小評価していたことを後悔していた。

『まさか、あれだけ大量の 魔動甲冑(マジック・アーマー) が、たった一度で壊滅させられるなんて! 冗談じゃないわよ!』

残った十数体の 魔動甲冑(マジック・アーマー) には、ノーラが撤退するまでの時間稼ぎを命じた。

本来なら、倍の数の兵隊でも一蹴出来るほどの戦力を持つ 魔動甲冑(マジック・アーマー) だが、先程の様子から、大した時間稼ぎにはならないだろうと、彼女は予想していてる。

だからこそ、森の中を懸命に走っているのだ。

『最悪! 最悪! 本当ならお姉様からお預かりしている『 緋(ロッソ・スカルラット) 』に傷をつけた奴らを愉快に切り刻む筈だったのに……ッ』

当初の計画では、睡眠薬入りの酒精を飲んだ PEACEMAKER(ピース・メーカー) と純潔乙女騎士団をノーラ達が襲撃する予定だった。

ノーラは眠っているリュート達をすぐには殺さず、一度拘束。

その後、鎧を傷つけたことを後悔させる拷問を行うつもりだった。

しかし現実は待ち伏せされ、逆に奇襲を受けた。

ただの奇襲なら、たとえ 魔動甲冑(マジック・アーマー) の半分を倒されたとしてもまだまだ挽回の余地は残っているが、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) はたった一度の奇襲で大量の 魔動甲冑(マジック・アーマー) をほぼ壊滅に追いやったのだ。

あんな危険な連中相手に『 緋(ロッソ・スカルラット) 』と十数体の 魔動甲冑(マジック・アーマー) で戦うのは自殺行為と変わらない。

『これもあのクソ団長、ルッカがミスしたからじゃない! 本当に無能はなにやらせても無能なんだから! お陰でノーラがこんな目に……今からでも戻って切り刻みたいよ! キャァ!?』

ノーラは転倒し、運悪く湿っていた地面に倒れ込んでしまう。

『 緋(ロッソ・スカルラット) 』の綺麗な細工に泥が付き、むせるほどの草木の汁が付着する。これで3度目の転倒だ。

森の中を全身甲冑で走っているからではない。

走っていると背後から、膝裏や足下を狙って銃弾が襲ってくるのだ。

着ている 魔動甲冑(マジック・アーマー) の自動防御のお陰で傷は負わないが、バランスを崩し転倒してしまう。

さらに 魔動甲冑(マジック・アーマー) を動かす魔力を着実に削られる。

(ノーラを殺そうとしているんじゃなくて、足止めに専念……生け捕りにしたいのか)

生け捕った後はお決まりの尋問だ。

組織について、 魔動甲冑(マジック・アーマー) の出所、製造方法など――聞きたいことは様々だろう。

情報を吐き出さなければ、薬物、魔術、拷問などで無理矢理にでも口を割らせてくるはずだ。

ノーラは心の底から恐怖で震えるのを自覚する。

拷問などが怖いからではない。

崇拝する『お姉様』の不利益になる自分という存在に恐怖してしまうのだ。

もし『お姉様』に『いらない』と見限られたら――想像しただけで心が壊れそうになる。

だからこそ、ここで捕まる訳にはいかない!

『ッゥ! いい加減、姿を現しなさいよ! 後ろからこそこそ、こそこそ攻撃してきて!』

立ち上がると、背後を振り返り背負っていた大剣を構える。

だが、追撃者は一向に攻撃を仕掛けてこない。

そのくせ背を向けて逃走しようとすると、先程のように転倒させてくる。

肉体強化術で視力と夜目を強化するが、視界には暗い木々しか見えない。追撃者の姿形など全く見あたらないのだ。

ノーラは血が出そうなほど奥歯を噛みしめる。

最初は苛立ち、屈辱、怒りが感情の大部分を占めていた。

『な、何よ。ノーラが怖いの、だから後ろからしか攻撃できないわけね』

しかし森は静かで虫や風に揺れる木々の葉音しか聞こえてこない。

気付けば自身の心を占めている感情は恐怖だった。

姿が見えない敵。

なのに走り出すと、正確に弾丸が襲いかかってくる。

ランダムに走ろうが、どれだけ速度を出そうが、木々を楯にしようがだ。

『う……うわぁぁあぁあぁッ!!!』

恐怖に耐えきれなくなったノーラは、大剣を後方へと滅茶苦茶に振るう。

風の魔石が込められている大剣は魔力によって風刃を発生させ、木々を切り倒す。切断された木々は倒れ、止まり木にしていた鳥達が飛び立つ。

土煙や草葉などが飛び散り、暗闇も合わさってカーテンのようにノーラの姿を覆い隠す。彼女はこの目隠し効果が切れる前に、逃げ切ろうと再び背を向けるが――

ターン……ッ。

『キャァ!?』

走り出してすぐ、すぐさま転ばされる。

未だに草葉などが舞っているのにだ。

つまり視界不良の森、深夜暗闇、舞い散る土煙と葉がカーテンになっているにもかかわらず、高速移動しているノーラを転倒させるタイミングで撃ち抜いたのだ。

さらに付け加えるなら、肉体強化術で補助した視界に入らないほどの遠距離から……ッ。

この事実にさすがのノーラも心胆を冷たくする。

まるで直接幽霊と対面している気分だ。

『あ、あ、あああぁぁぁぁあぁぁあッ!!!』

ノーラは覚悟を固める。

逃げられないのなら戦う、と。

彼女は大剣を両手で握り締め、逃げてきた道を走り戻る。

確かに弾丸は脅威だが、 魔動甲冑(マジック・アーマー) に致命傷を与えるほどではない。

距離を詰め、近接戦闘に持ち込めば自身が有利。

そのため覚悟を決めて、接近しようとしているのだ。

しかし、その覚悟はすぐに粉砕させる。

『なぁっ!? はぁ!?』

強烈な衝撃に地面を転がっていると認識するのに数秒を必要としたが、それ以上に何が起きたのか分からず、グルグルと未だに回る視界に苦慮する。

ノーラが現状を正確に理解するのは不可能だろう。

ノーラを追うスノー、クリス、リース組。

彼女達はノーラが反転して勝負をしかけてくると読んでいた。だから、途中で対戦車地雷を設置。

敵が予定通り反転し突撃してきたため、魔術液体金属で作ったコードに魔力を流し対戦車地雷を指令爆破させたのだ。

『にゃ、にゃにがどうなって……キャァ!?』

呂律の回らない口を動かしていると、再度の爆発。

ノーラは爆風に吹き飛ばされ、木に背中をぶつける。

この時点で彼女はどちらが逃げていた道か、近接するために走っていた道か分からないほどダメージを負う。

地面に這い蹲りながら、彼女は自覚する。

(ノーラはここで捕まる……ッ)

逃げることも出来ず、敵を倒そうにもその姿すら捉えられない。なのに相手は魔力も探知させず、致死レベルの攻撃を仕掛けることが出来る。

手も足も出ないとはまさにこのことだ。

『……めるなよ』

爆風に吹き飛ばされ、体中を痛めたノーラは気絶しそうになる意識を必死に堪えながら、大剣を杖代わりに体を起こす。

その姿に悲壮感はなく、燃え上がるほどの敵意を秘めていた。

『なめるなよ! 雌犬共! ノーラのお姉様に対するお気持ちは貴様達程度が理解出来るほど安くはないんだ!』

彼女は腰から短剣を取り出し、敵が潜んでいると思われる闇へと投擲するのではなく――自分の首筋へ先端を向ける。

『黒、バンザイ! お姉様、お役に立てなくなるノーラをお許し下さい!』

森中に響く大声をあげ、迷い無く短剣に力を込め自身の首に突き刺そうとするが……。

ダーン……ッ。

ダーン……ッ。

ダーン……ッ。

連続の発砲音。

全てが寸分もなく短剣に当たり、勢いを支えきれず手放してしまう。

(自害すら許さないなんて……ッ!)

近くに設置されていただろう対戦車地雷が爆破され、再度ノーラを吹き飛ばす。

この爆発の衝撃にさすがの彼女も意識を完全に手放してしまった。