作品タイトル不明
第99話 筋が通ってて断れない……。
「そんで? なんで拠点を作ろうなんて馬鹿げた話になったんですか?」
翌日。場所は以下略。
会場にたどり着いたら、予定の十分前にも関わらず、昨日と同じ面子が揃って席に着いていた。
その中にちょっと気になる人が居たが……それは後回しにして、早速俺は問い詰めた。
拠点作りなんて無茶な話が出て、甘い顔なんてしていられない。自然と険しい表情になる俺に、皆はふっと苦笑めいたものを浮かべた。
「いや、俺たちも反省したんだぜ? 楓太の言う通りだなって」
「ああ。いい大人があんな醜い争いをして、確かに恥ずかしいよな」
「やがて日本の支配者になる組織に相応しくないわよね」
「いや、支配者になるなんて決まってないですけどね。僕は最後まで反対しますよ」
「まぁそんなわけで、遅くまで話し合ったんだ。その結果――ああなった」
「だからその肝心な理由を聞いてんですよ。こっちは」
お前らの内心なんざ知ったことか。
どこをどう捻じ曲がったら拠点作りなんて飛躍した話になるんだ。
理由か――と、トシさんは疲れたように溜息を吐いた。
「まぁそもそもの切っ掛けは……あのババアだ! アイツが全て悪い!」
「その通りだ! 小畑さんの言う通りちゃんと話し合って決めようとしてんのに! アイツ最後の最後まで自分が行くって主張を取り下げなかったんだぞ!?」
「何時間も嫌だ嫌だの一点張りですよ!? 本当に不毛な時間でしたよ!」
トシさんに続き、世永さんとマサくんが不満を隠そうともしないで訴えてくる。その原因たるミライさんは知らん顔だ。
マジでそんなに粘ったの? この面子を相手に?
面の皮が厚いなんてレベルじゃねぇな。どんだけ厚化粧を重ねているんだ?
「これに関しては小畑さんも悪いぞ。拳の話し合いだったら五分でケリがついた」
「全くだ。話し合いで決めろなんて言うから無駄に時間がかかった」
ジト目で兵藤さんとタケさんが俺を睨んでくる。
むしろ殴り合いじゃないと決まらないお前らの野蛮さを恥じてくれ。
「これだから暴力でしか物事を決められない連中はいやね。知性の欠片もない。こんな連中と同じだと思われるなんて、私の方こそ被害者よ」
「お姉様っ! そこまでにしようかっ!」
「ミライ、これ以上は本当に全員を敵に回しますよ」
「ふふっ、さすがにもう庇わないよ」
「いい加減弁えてくださいよぉ……!」
この期に及んでまだ減らず口が言えるのはすげぇな。他のメンバーはさすがに疲れ切っているようだが。日向さんの口調の節々に恨みを感じる。
呆れたような息を吐いて、拝賀君が纏める。
「まぁそんな訳でして、ミライさんが粘りに粘って僕らも疲弊し切った時に、提案してきたんですよ。誰が行くとかではなく、いっそ26層に拠点を作ろうと」
「結局ミライさんが原因なのか……」
とことん出しゃばってくるなあのオバサン。
アクが強すぎて他のメンバーの影が薄くなるから、そろそろ大人しくして欲しいんだが。
「そんで? なんでミライさんはそんなバカなこと言い出したんですか?」
「なんでも何も、それなら誰も損しないし、楓太君なら問題なくできると判断したからね。結局、最前線組の問題って移動時間なのよ。それは楓太君も分かったでしょ?」
「まぁそれは十分に」
深層だと、一ヶ月で二回挑戦できるかってペースだもんな。そりゃレベルも上がらんわ。
だからこそ芽衣さんが反則染みてるって皆ブチ切れた訳だし。
「そのための解決手段の一つとして、拠点作成は今まで何度も試みられていたわ。だけどとうとう、誰も完成させることはできなかった」
「低階層ならまだしも、深層だとな。そこまで設備を運ぶのにも苦労する上に、そもそも戦力が足りん。それで二十四時間拠点を守り続けるの不可能だ。ましてやそれを維持しろと言われてもな」
兵藤さんが苦々しい顔で語る。あの口ぶりからすると、経験があるのかな?
傭兵団をやっている人だ。そういう人達から依頼を受けたことがあるかもしれない。
「でも、楓太君なら余裕でできるでしょ? まずは人が住める環境の構築。その後に深層の魔物を材料にホムンクルスを作成、防衛を任せる。その体制が整うまでは、私達で拠点を守る。ほらね? 簡単でしょ?」
「いや、そう軽く言いますけどね……」
言うは易し、行うは難しと……難しと……?
「あれ? もしかして意外と簡単にできる?」
「普通にできるだろ。皆が守ってくれるなら」
「水の確保に、高級ベッド並みに寝心地の良いマット。高性能のテント。現地での食料問題。どれも楓太なら問題ない。護衛の問題さえ解決するなら、生きるだけなら余裕じゃないかな?」
俺の気づきに、川辺と伊波もあっさりと肯定した。
そうか、マジでできてしまうのか……。
「いやでも、そんな都合よく拠点を作れる場所がありますか? さすがに堂々と見つかる場所に作るわけにもいかないでしょう?」
深層に行ける人が小畑会の他に居ないというわけじゃないんだ。もし見つかったら面倒なことになるぞ?
俺の警戒を見越していたかのように、ミライさんはさらりと言う。
「26層って、そういう意味でも良い場所でね。入り口がサバンナで、階層のど真ん中。次の階層への入り口は東側にあるんだけど、西側の端っこに森が広がっているのよ。この森の中にちょうどいい感じの水場があるわ」
「さらに言うと、26層の素材はそれより上の階層でも採れる。つまりわざわざ寄る場所でもないんだ。人が近づくことも稀な階層だから、遠い森の中に隠すように作ればまぁ見つからんな」
ミライさんの説明をタケさんが捕捉してくれた。
なんかどんどん逃げ道を潰されている気がするんだが……。
――いや待て! 肝心のホムンクルスが無理だぞ!?
「携帯用の〈錬金釜〉だとホムンクルスは作れませんよ? かといって拠点用の物を持ち運んだりしたら怪しまれるだろうし、それがあったとしてもゲロゲロのようなサイズは難しいです」
大きくて強そうな奴ほど、この問題で厳しくなるからな。これはどうしようもあるまい。
「それなんだけど、それって魔力量的な問題で〈錬金釜〉がないとキツイって意味よね?」
「それも有りますし、難易度の問題だってありますよ。高レベル素材は両方要求されるので、〈錬金釜〉がないとキツイんです」
「でも楓太君、もうレベルが倍以上、上がったわよね? 別に〈錬金釜〉がなくても行けるんじゃない?」
「……なるほど」
そういえば、めっちゃステータス伸びてたなぁ。
言われてみれば、問題なくできる気がしてきた。
「というか、楓太はスラレベをしながらゆっくり26層に向かえばいいだろ。そうすれば30くらいなら目指せるんじゃないか?」
「ステータスが足りるなら、あとは〈錬金釜〉の代わりになる器とポーションがあればいいんだろ? 器は土の〈魔術師〉に作ってもらえば問題ないし、深層の素材で上級ポーションを作れば余裕じゃないか? 低級に比べてずっと楽になると思うんだが」
さらにトシさんと世永さんが詰めてきた。
これは、うん。できない理由が見当たらないなぁ……。
何も言い返せなくなった俺を見て頃合いと思ったのか、マサ君は言い聞かせるように話し始めた。
「もう分かったでしょう? 26階層に拠点ができれば、小畑さんの取り合いにならずに全員のレベリングができます。争わず皆で強くなれるんですよ。そしてこの拠点作りは実のところ、僕たちよりも小畑さんにこそ必要なはずです」
「そ、それはどういうことで?」
「小畑さんって、もうだいぶレベルが上がったじゃないですか。それこそ人型のホムンクルスを見据えてもいいくらいに。でも肝心な【人工生命体創造】のスキルレベルはまだ低いんじゃないですか?」
「それはまぁ、そうだね」
確かにマサ君の言う通り、レベルは上がったけどスキルレベルは成長していない。
なんだかんだ、今うちに居る犬と蜘蛛。そしてゲロゲロとベイグルくらいしか作ってないからな。明らかに経験が足りないんだろう。
「あっ。だから拠点作りで防衛用のホムンクルスを作りまくって、スキルレベルを鍛えろってこと?」
「そういうことです。拠点を守れるだけの数のホムンクルスを作り続ければ、十分に経験を稼げるでしょう? そこの防衛を任せるのであれば、ホムンクルスを置く場所にも困らないですし。いくらでも作れますよ」
「ついでにあそこにはグーフストリオの上位種も居るからな。防衛で足りないようなら騎乗用も作ればいい」
「というか、良い機会だから纏めて作ってくれ。いい加減、俺達も待ちくたびれている」
じっと世永さんと兵藤さんが、揃って熱い目で俺を見てくる。これは実に断りにくい。
っていうか、【人工生命体創造】に関しては確かに上げるのが難しいからな。ここで一気に上げてしまいたい。
どうしよう。聞けば聞くほどやるべきだって思ってしまう。実際できちゃいそうっていうのがなおさら。
俺が寝床を用意して、俺が水を用意して、俺が料理して、俺がホムンクルスを作って、俺が回復アイテムを用意して、俺が皆の装備を整えれば余裕で……。
――できるかぁ! 忙しすぎて死ぬわっ!
「やることが多すぎる! ホムンクルスを一体作るのも大変なのに、他のことまで纏めてできるかっ! 俺を過労死させるつもりか!?」
「もちろん優先順位を付けて、楓太君にしかできないことをやってくれればいいわ。寝床なんて後回しでも良いわけだし」
「それなら……いや、それはそれでまずいでしょう」
いくら最低限の暮らしができるとはいえ、それではストレスが溜まる一方だ。そしてこのストレスに蝕まれ、長期の遠征は難しくなる。
ストレスを溜めずに安心して休めるような、地上とほぼ同じ感覚で、警戒で居られる空間。それができないと拠点を作る意味がない。
「ホムンクルスによる防衛体制を整えるのが最優先でしょうが、寝床や食事も手を抜くわけには行きません。やっぱり手が足りないですよ」
「安心して。そのために助っ人を誘ったから。さぁ、小鈴」
「はっ、はいっ」
ミライさんは隣に座っていた、白いコック服の女性と共に立ち上がる。
そう、この人が最初に言った、気になっていた人。
今まで見た事ない顔だ。ということは新入りなのだろうが、何故コックさんがここに? と、視界の端に映る度にずっと気になっていた。
彼女の肩に手を乗せ、ミライさんは自慢げな表情を作った。
「紹介するわ。この子が香取小鈴。〈百花繚乱〉に加わり、小畑会のメンバーとなる私の新たな仲間よ。あ、情報漏洩に関する契約は既に結んでいるから安心してね」
「ま、まだ入ると決めたわけじゃありませんが……香取小鈴です。香取でも小鈴でも、どうぞお好きなほうで。よろしくお願いしますっ」
ペコリとその女性は深く頭を下げる。
そんな礼儀正しい姿を見ながら、俺は密かに驚愕していた。
日本の生産職の頂点に立つ〈五匠〉が一人――〝女傑の料理人〟香取小鈴。
こんなビクビクと緊張している女性がその人だというのか? とてもそうは見えない。
改めて、俺は小鈴さんを観察する。
おそらく二十代半ば、七緒ちゃんと同じか下くらいか。身長はチヨちゃんよりちょっと高いくらいで、可愛い系の顔つきだ。
薄い茶髪をまとめたお団子頭は、料理人としての身だしなみか。
そして何よりも特徴的なのは、コック服で隠しきれぬその体つき。
――むっちりしてんなぁ……。
デブじゃない。あくまでむっちり。身長のわりに胸もお尻も大きいが、その腕と太ももまでムチムチしておる。
なんてエッチで健康的な体つきだ。抱きしめたら絶対柔らかい。きっと料理研究で試食しまくって、あんな素晴らしい体になったんだろう。〈五匠〉なんて呼ばれるだけあって努力家なんだな。
本当に下心抜きで抱き枕にしたい。そんな女性だった。
「ミライさん、本気だったんですね。まさか本当に〈五匠〉を連れてくるなん――」
「すみません。その呼び方は二度としないでください」
「――アッハイ。すみません」
即訂正された。わりと怖い顔だったから正直ビビったわ。
よっぽど不愉快だったんかな……。
俺を睨んでいた小鈴さんは、ハッとした顔をすると、また慌てて頭を下げる。
「ご、ごめんなさいっ! でもどうしても、あの人達と同類だと思われたくなくて!」
「無理もないわ。人じゃなく、猿扱いされるようなものだものね」
ミライさんは神妙そうに頷く。
そこまで言うかい。いやまぁ不満を聞かされてはいたけどさ。
逆に他の〈五匠〉がどんだけ酷いのか、興味が湧いてきちゃったな。
「今日ここに来て小鈴ちゃんを見た時はびっくりしたわ」
「ああ、まったくだ。またミライにやられたって思った」
「会長の独占といい、小鈴ちゃんといい。この女はよぉ……」
そこかしこでミライさんに対する不満の声が聞こえてくる。
本当にただでは転ばないっていうか、抜け目がないっていうかね。
「というか、小鈴さんと付き合いのある人が多いんですね」
「ここに居る連中は多かれ少なかれ、小鈴の携帯食を買っているからね。〈料理人〉は生産職の中でも珍しいから、知らない奴の方が少ないでしょ」
そんな人を引き抜いたんかい。
敵を作ることを恐れない人だな。どんな心臓してんだ。
「お忙しいでしょうに、小鈴さんもよく誘いに乗りましたね? ミライさん、どんな手を使ったんですか? まさか脅したりしてませんよね?」
「私をなんだと思っているのかしら……。ちゃんと説得して来てもらったに決まっているでしょう?」
「私もレベルを上げたいとは考えていたので、ミライさんの誘いは渡りに船でした。正直、今でも信じられませんけど」
なんとも不安そうな顔で俺を見てくるあたり、その内心が察せられる。
でもまぁ、今の生産職の状況ならな。少し先を見れる人なら、どうにかしてレベルを上げたいと考えているだろうし、それができると聞かされれば、怪しく思っても誘いに乗らざるをえないか。
「条件付きとはいえ、この拠点作りの間は全面的な協力をしてくれるそうよ。その後、正式に仲間になってくれるかどうかは楓太君次第ね」
「え。なんでそこで俺が出てくるんです?」
マジで意味わからん。条件ってなんだよ。
俺に何をさせるつもりだ?
「まぁそれは後で話すわ。ともかく、遠征中の料理に関しては小鈴に任せるから、これなら楓太君の負担は減るでしょ?」
ミライさんは挑むような笑みを浮かべて続ける。
「私たちが護衛して、小鈴を一層からスラレベしつつ拠点まで連れて行くわ。経験値を一人で独占することになるから、その頃にはレベル30はいくでしょ。そうなれば料理に関しては楓太君に匹敵、あるいは超えるはず。楓太君が拠点とアイテムを揃え、小鈴のバフ料理で万全を期したところで――フィールドボスを討伐する。ここまでが今回の遠征の目的よ」
「いや待って! フィールドボスって何!?」
もっとぶっ飛んだ話がきやがった!
拠点の話がどうでもよくなるレベルなんだが!?
「え? フィールドボスって、あの遠くから見たとんでもなく大きい恐竜ですよね?」
「あれと戦うんですか?」
七海姉妹が揃って青い顔になる。
当然、俺も同じだ。自分から死にに行くようなもんだろ。
「安心しなさい。戦うのはあくまで私達だから」
「だとしても、あれには絶対手を出すなってミライさんが言いましたよね!? なのに挑みに行くの!? なんのために!?」
「フィールドボスの中でもあれだけの巨体の魔物は他に居ない。もしあれを倒すことができたら、大量の強力な素材が手に入ると思わない?」
それは……まぁそうだな。
ってことはなにか?
「素材目当てに狩ろうとしているってことですか?」
「考えてもみて。何層か降りて良い素材が手に入ったら、絶対にまた装備を更新したくなるでしょ? だけどあのフィールドボスから取れた素材を使えば、結構先の階層まで通じる装備が作れると思わない?」
あ……ああ~。そういうことか。
「装備を更新する必要をなくすことで、この先の俺の負担を減らすことが目的ですか」
確かにフィールドボスなんて特別な素材ともなれば、雑魚モンスターとは比べ物にならん性能になるだろう。下手すれば十層くらい先の階層でも通じるかもしれん。それなら一度作っちゃえば、しばらく更新しなくても済むな。
「牙、皮、爪。一番装備が必要になる〈戦士〉系の防具と、前衛の武器はだいたい作れる素材でしょ。そして最も重要なのは、とんでもなく大きい魔物だっていうこと。一頭狩れば数十人分の素材が取れるわよ」
「な、なるほど。確かに狙う価値はありますね」
効率を考えると、むしろ狙わない理由がないな。
ちゃんと理に適った計画だったのか。
「まぁ一番の理由は、どうせ皆で集まるなら何か派手なことをしたいって誰かが言い出したからだけど」
「結局ノリじゃねぇかよ! そんな遊び気分で戦っていい相手じゃねぇだろ!」
さっきのは後付けの理由ってこと!? 俺の為にと感謝して損したわ。
俺の反応を見て、トシさんはガハハッと大きく笑う。
「確かにノリで決めたことだけどよ。実際やるメリットはあるだろ? ここにいるメンバーの実力と数に加え、楓太のアイテムに小鈴の料理。勝ち目は十分にある」
「ここまでのレベルと規模のレイド戦は今まで聞いたことがない。正直、それだけで心躍るな」
「今まで誰も倒せなかったフィールドボスの討伐。拠点製作の総まとめとしてはこれ以上ないイベントだと思わないか?」
兵藤さんと世永さんも、凶悪な笑みを浮かべながら続く。
さらに、マサ君まで闘志に溢れた目を向けてくる。
「生憎とレイド戦の経験がなかったので、今回は良い機会だと思っています。全力でやらせてもらいますよ」
「まぁ、これだけのメンバーが揃うならなんとかなるでしょう。勝ち馬に乗らせてもらいますよ」
拝賀君でさえ、結構乗り気なのか。
これは駄目だな。見回せば、血の気の多い連中はもちろんのこと、大人しいタイプの人まですっかりやる気になっている。もはや俺が何を言ったところで無駄か……。
――でもやりたくねぇなぁ。過労死が見えかけてんだもの。
「いやー! ちゃんと落ち着いて話し合ってみるもんだよなぁ! まさかこんな良い計画が出てくるとは!」
「ほんとよね~! ここまで見据えて話し合えっていったのね! さすが会長!」
「これなら小畑さんも納得だよなぁ! 当然ゴーサインを出してくれるよなぁ!?」
口々にそんなことを言いながら、皆してゲラゲラと下品な笑い声をあげている。
こ、こいつら……丸投げしたことを根に持ってやがるな? 何がなんでもやらせるつもりか。
小さく汗を流す俺に、後ろから川辺と伊波が心配そうな声をかけてくる。
「楓太。これは断れんぞ……?」
「というか、断ったらさすがの君もしばかれると思うよ?」
「分かってる。もう覚悟は決めた」
ここまで追い込まれては、さすがの俺も逃げれるとは思っていないわ。
しかし、俺だってタダでは転ばねぇ!
せめてもの嫌がらせはさせてもらう!
「分かりました。皆さんが話し合って決めたのならやりましょう。ただし、俺の方からも一つ条件がありますっ!」
「ほう、楓太の方からか。なんだ?」
タケさんが真剣な声を出すと同時に、全員が俺に注目する。
なんだこれ、イジメかよ。くそっ、でも負けんぞっ。
「拠点製作なんですけど、まさか小畑会全員で一度に行くわけではないでしょう?」
「そうだな。流石に小畑会総員を収容できる拠点を作るには、楓太だけだと無理だろうし。今回はレイド戦に参加する人数で考えて……五十人くらいになるんじゃないか?」
五十か。それでも結構多いな。
そいつらの面倒を見ると思うと、マジで億劫になるんだが……。
「では、今回のレイド戦に参加しないメンバー。この人達には他のダンジョンに行って、俺が求めるスキルを持っていそうな魔物を片っ端から狩り、26層の拠点まで届けてほしいんです」
「それは……結構な重労働だな」
【鑑定】も無いのに予想してスキルを探せってことだからな。かなりキツイことを言っている自覚はある。せっかく狩って二十六層まで届けた挙句、目的のスキルじゃなかったということもあるだろうし。
ましてや今回の拠点製作に混じれなかった上での、完全なる雑用だ。やる気も中々でないだろう。
でも真面目な話、これはやってもらわなければならない。
嫁ンクルスを見据えるならば、この段階で確保しなければ!
「欲しいスキルはいくつかあります。まず一つ――【家事】」
「なんで?」
タケさんのポカンとした声が漏れた。
なんで? そんなの決まってるだろ!
「メイド嫁に身の回りの世話を任せるなら【家事】は必須でしょ! むしろ探さないでどうするんだ!? あるいは【炊事】、【洗濯】、【料理】でも可!」
俺はメイドさんの嫁ンクルスハーレムを作るんだよぉ!!
「分かる」
「分かるンゴ」
うんうんと、世永さんと天城さんは何度も頷いてくれた。見回せば、納得の顔をしている人達がいっぱいいる。理解者が多くて良かった。
真帆さんが頭を抑えつつ、小さく溜息を吐いた。
「まぁ、雑用を引き受けてくれるホムンクルスは確かに便利よね。それで他には?」
「はい。二つ目は【空間跳躍】に該当するスキルです」
「ああ、それは確かに必要ね」
芽衣さんのように自在に飛べるようになるとは思っていない。しかしホムンクルスはもちろん、限定的にでもアイテムで再現できたら? これもまた探索の概念が変わる。
それにたどり着くまで、どれだけの時間がかかるかも分からない。やるなら早い方が良い。今の内から手を付けるべきだ。
そして今回に限って言えば、この二つより遥かに重要なスキル。
「三つ目――【錬金術】。これをなんとか見つけてきてほしいです」
「それは! まさか生産職のホムンクルスを作る気ですか!?」
「確かにそれができれば一気に問題が解決しますが……見つかるのか?」
拝賀君とマサ君が難しそうな顔を作る。
まぁ、これは本当に何が持っているかさっぱり分からんからな。見つからない可能性だって普通にある。
だけど、なにがなんでも見つけないといけないんだよっ!
「マジで生産職の仲間を増やさないと、俺が過労死するんですよっ! 同レベルの物を作れなんて贅沢は言わないから、せめて簡単なアイテムは全部任せたい!」
「それは俺達も心配しているところだし、メリットがあり過ぎるから是非ともそうしてやりたいが」
「こればかりは本気で見つかるかも分からんぞ。それだったら新人に勧誘をかけるか、どこかから引き抜いた方がいいんじゃないか?」
「いえ、新人がいつ見つかるかも分からないし、引き抜きなんかしたら小畑会の活動に目を付けられるわよ。そうしたら面倒ごとになるわ。だったらまだスキルを探した方がいいんじゃない?」
「実際、見つかったらメリットがデカい。現地に連れていける〈錬金術師〉を自前で確保できるんだからな。徒労に終わるとしても探す価値はあるぞ」
無茶なことを言っていると分かっているが、皆意外と乗り気になってくれている。これなら期待できそうだ。
しかし、そんな中で東さんの顔色は悪かった。
「〈錬金術師〉のホムンクルス……もし見つかったら小畑会どころか、国のあらゆる問題が解決……でも同時に今の生産職の価値が……アイテムの流通価格の変化も……とんでもない混乱が起きるんじゃ……」
ぶつぶつと何を言っているのかは分からないが、なにやら深刻そうだ。
むしろワクワクすると思うんだけどな。皆そんな感じだし。東さんはショックが大きすぎると悩むタイプか? 意外とデリケートなんかな?
「そして四つ目。これはある意味、【錬金術】以上に重要なスキルです」
「まだ何かあるんですか? しかも【錬金術】以上?」
東さんが青ざめた顔で俺を見てくる。
まぁこれの価値は人によって変わるかもしれない。だけど、少なくとも俺にとっては【錬金術】以上に必要だ。
「【通信】――ダンジョンで長期活動するならこれは必須でしょう」
「【通信】って……お、小畑さんっ! 貴方まさかダンジョン内にネットインフラを構築するつもりですか!?」
ザワッ、と。これまで以上のざわめきが起きた。
俺よりも長く探索者をやってきたこの人達の方が、何度も実感しているはずだ。ダンジョン内でもSNSが使えたらどれだけ便利かと。
しかし、必要性という意味では俺達の方が深刻だ。
「ダンジョンの長期間の泊まり込みなんて、ネット抜きにやってられるか! 俺はアニメをリアタイで見たいんだよ!」
「俺もっ! やっぱりソシャゲのログインは諦めきれない!」
「僕も一日数時間はネットを見ないと落ち着かない!」
オタクにネット環境抜きで数週間過ごせ? 死ねと申すか!?
「楓太……お前が神だったンゴねぇ……」
「神ではないけど、貴方の救世主ですね」
天城さんが目を輝かせ、震えた手を伸ばしてくる。もちろん快くその手を掴んだ。
同じ魂を持つ同志だ。跳ね除ける理由が無い。
「いや、アニメとかソシャゲとか……そういう次元の話じゃなくてですね!?」
「クハハハハッ! いいじゃねぇか、理由なんてどうでも!」
「フッ、フフフッ! そうね。ダンジョン内でネットが見れるのは便利だわ」
「俺達に損は無いんだから、協力しない理由はないわなぁ!」
居残り組の人達も、どうやらやる気になっているようだ。まぁこれは皆にも利益のある話だからな。
しかし、やる気はあってもそう簡単にできるかな?
【鑑定】もなしにスキルを当てずっぽうで探すんだ。その労力は半端じゃないぞ?
それはさながら、砂漠に落ちた一針を探すような途方もなさだろう。
いつまでも終わらないスキル捜索は、賽の河原で石を積み上げ続ける苦行に等しい。
希望を捨てきれないまま、叶うことのない夢を追い続けてなっ!!
「とりあえず、【空間跳躍】は妖精系の魔物が持っている可能性があるんだよな?」
あれぇ……?
「芽依さんが半妖精らしいからな。実際、妖精種が瞬間移動したところは見た事がある。まず間違いないぞ」
「妖精種っていえば、シルキーっていうのも居たわよね? 逸話的に【家事】に近いスキルを持っていても不思議ではないわ」
「となると、妖精種が出る〈舞浜ダンジョン〉。あそこに行けば両方手に入る可能性が高いな」
「問題は【錬金術】と【通信】だ。こればかりは正直心当たりがない。一体何を狩れば出てくるのか……」
「それなんだが、ゴブリンやコボルトのようなコロニーを作っている奴ら。俺はそこに侵入したことがあるんだが、その中に明らかに戦士じゃない奴ら、〈鍛冶師〉っぽい恰好をしている奴らがいた。もしかしたら〈錬金術師〉みたいなやつもいるんじゃないか?」
「そうか。人に近い社会性を持っている奴らなら、役割分担して協力していてもおかしくないわね。あり得るんじゃない?」
「だが生産職となると、前線には出てこない。それこそコロニーの奥に引きこもっている可能性が高いぞ。そいつらを狩るっていうのは難しくないか?」
「なに言ってんだ。居残り組だけで百人以上は居るんだ。それこそ全員でコロニーに突撃すりゃいい」
「居残り組も大量の敵を相手にレイド戦か。くははっ、楽しくなってきやがったな!」
「上手く行けば〈錬金術師〉だけじゃなく、【鍛冶】や【革細工】なんてスキルも見つかるかもしれん。面倒でもやる価値があり過ぎる」
「となるとあとは【通信】か。これはどうすればいいんだ? 単純に電波を飛ばすだけだと駄目だろ?」
「電波が通るなら、既に使えてないとおかしいからな。電波以外の代用できる何かを用意しないと無理なんじゃないか?」
「魔力的な電波みたいなものを見つけて、さらにそれを電波に変換みたいな仕組みにすればいけるんじゃないか?」
「確かにそれなら行けそうだが、魔力的な電波ってなんだよ。それならいっそテレパシーとか――ッ!? テレパシーか! これならいけるんじゃないか!?」
「確かに! 科学よりも超能力的な能力の方が、ダンジョン内なら効く気がする! 探すならそっちか!」
「待って! テレパシーよりもむしろ、心霊現象的な物は!? ほら、電話から幽霊の声がっ――ってあるでしょ!?」
「それだぁああああああ! ゴースト系の魔物ならどれが持っていてもおかしくない! 行けるぞこれ!」
「まずはどこのダンジョンを狙うかを決めよう。それから低層、中層、深層に偵察部隊を派遣。そいつらが一通りの素材を集めて、小畑さんに確認してもらう。んで目当てのスキル、もしくは優良なスキルが判明したら、改めて全員で大量確保だ」
「その偵察部隊の仕事が終わるのを待つのは勿体無い。ついでに並行して、【洗浄】とか便利なスキル素材を大量に届けよう。どうせ俺達も必要になるんだし」
「まずは【錬金術】が最初よね。もうメンバーを決めましょう。効率を優先して、パーティではなくジョブとスキルで振り分けて――」
なんか物凄い速度で話が進んでいる。
おかしいな。見つからなくて苦労するはずなのに、あっさりと見つかってしまう気がしてしきた。嫌がらせのつもりだったのに、集合知ってすげぇな……。
まぁ、それはそれでいっか。見つかる分には俺も助かるし、探す手間が省け――
「――お待ちくださいっ!」
皆が盛り上がっている中、会場中に高い声が響き渡った。それに皆の話し合いが止まる。
誰かと思えば、それは小鈴さんだった。
思った以上の注目を集めて日和ったのか、小鈴さんはあわあわと慌て始める。
そんな小鈴さんの背を支え、ミライさんは耳元で囁く。
「大丈夫よ、小鈴。勇気を出して」
「はっ、はいっ。ごほんっ――やいっ! 小畑しゃんっ!」
「はい?」
ビシッと俺に指を差して言い放ったけど、めっちゃ噛んでた。
緊張しているんだろうなぁと思うと、凄く可愛い。
子犬が睨んできているような目を俺に向け、小鈴さんは言う。
「皆が盛り上がっている所を恐縮ですが、私はまだこの計画に参加することを了承していません! 聞けばこの私を差し置いて、自分より美味しい料理を作れる人は居ないと豪語しているとかっ!」
「はぁ。それが何か?」
言ってねぇけどな。
だけどなんか面白そうだから、キメ顔で乗っておこう。
これには本気でムッとしたのか、小鈴さんはさらに顔が険しくなった。
「たかが〈錬金術師〉が大口を叩くものですっ。ミライさんは信用できる人ですが、私はまだ実際にあなたの実力を見ていません! そして、口だけの人に協力しようとも思えません!」
「ふむ。道理ですが、だから?」
目を細め、俺は問う。
小鈴さんはバンッとテーブルを叩き、俺を強く睨み付けた。
「勝負です! この私の身柄が欲しいというのならば、実力で示してくださいっ!」
「ほう、なるほど。それは面白い。つまり――」
――料理対決ってことだなっ!?