軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第98話 なんでそうなる!?

さて、ミライさん主催となる小畑会の会合。

場所はいつも通り、例の公民館である。

急も急な話だというのに、主だったメンバーは全員揃っている。出席率高いなぁ。

「毎度思うんですけど、皆さん忙しいんじゃないですか? よく毎回参加できますね?」

「おいおい、バカなこと言ってんな」

俺の問いに、タケさんは苦笑しながら答える。

「小畑会のメンバーにとって、今最も重要なのはこの会合だぞ? そりゃ当然参加するに決まってるだろ」

「いや、それにしたってこの会合なんて昨日今日の話ですよ? 予定を空けてないと無理じゃないですか?」

「二週間の遠征と聞いていたからな。その間だけ依頼を受けて、昨日から休んでいただけだ。いつでも召集に応えられるようにな」

「そもそも私達は、もうお金には困っていないですからね。楓太さんに合わせて予定を調整するのは当然ですよ」

「協会が仕事しろってうるさいけどね〜……楓太君達の方が大事だよ〜……」

真帆さんとアキラさんが笑って続ける。

そこまで気を使ってくれると思うと、嬉しいやら恥ずかしいやら。

しかし金には困ってないか。一度でもいいから言ってみたいもんだ。

……いや、よくよく考えれば、俺もすでに金には困ってないな?

今の会社の資金を五人で分配すれば、質素な生活なら余裕で人生過ごせる気が。

バカな。俺はもうすでに至っていた? いつゴールしてもいいと?

自身の現状に愕然としていると、それによ――と。トシさんの意味深な呟きが聞こえてきた。

「探索者として、今回は特に見逃せねぇ情報が出てくるだろうからな」

「小畑さんのレベリング。それがミライにどれだけ通じるのか。俺達の行く末を左右する情報だ」

「どれだけの収穫があったのか、聞くのが怖いくらいです。でも確かめない訳にはいきません」

「ンゴンゴ」

世永さんとマサ君まで、トシさんに賛同するように続ける。見回せばこの場にいる全員が、肯定の反応をしていた。誰もが期待に浮かされ、熱のこもった瞳をしている気がする。

これはもうゴールしたのでFIREしますっ! とか言っても絶対許されない流れだな。そんなこと口にしたら殺されかねんわ。儚い夢だった。まぁ嫁ホムを作るまでは止まる気はないけど。

天城さんは言うことないならちょっと黙っていようね。緊張感が薄れるから。

「それでミライ。実際どうだったんだ? レベリングの成果もそうだが、現地に高レベルの〈錬金術師〉を連れて行ったんだ。当然色々と試したんだろう? お前の体感を聞きたい」

兵藤さんはレベリングだけではなく、俺を連れていくことによる変化も気になっていたようだ。確かにそれを語るなら俺より、同じ環境で過ごしてきたミライさんの感想の方が正確に伝わるだろう。

さすが傭兵団のトップを務めるだけあって、視野が広い。これでロリコンじゃなければな……。

「そうね。順番に語っていきましょうか。先に言っておくと、とんでもない成果だったわよ。覚悟して聞いてちょうだい」

そうして、ミライさんはレベリングの成果。そして俺がやったことの全てを話した。

それを聞いた皆の反応は様々なものだった。ただ一つ言えるのは、驚いていない人は一人としていないということだ。

「クハハハハハ! 30超えの奴がたった二週間の遠征でレベルを4も上げる? やったじゃねぇか! もう俺たちの勝ちが決まったようなもんだ!」

「ああ! その調子でレベルが上がれば、俺達が【種族進化】するのもそう遠くない! 他の探索者と絶対的な格差ができる! 俺がエルフのイケメンになる可能性もある!」

武闘派のトシさんはやはり狂ったような喜びを見せる。まぁこれだけの成果を見せたらそりゃそうなるか。でも世永さん、その可能性はねぇよ。ゼロにいくらかけてもゼロだ。あまり夢見んな。

「いや、レベリングもそうだが、楓太の作ったアイテムの方がやばいだろ」

「ええ、その通りです。むしろ探索の変化という意味ではこっちの方が大きいですよ」

「快適な休息、容易な水の確保。装備による体力の底上げ、回復。ホムンクルスの利用法にバフ飯の恩恵、現場で必要なアイテムの生産。どれか一つでも探索の難易度が大きく変わる。とんでもないな」

比較的冷静を保っていたタケさんとマサ君でさえ冷や汗をかいていた。そして兵藤さんに至っては獲物を狙うような真剣な顔で俺の方を見ている。

褒められるのはありがたいが、そこまでされるとちょっと怖い。

「いや、ホムンクルスで低レベルのパワレベも可能っていうのが一番まずくない? ただでさえ価値のあるホムンクルスがますます……これ、バレたら本気で楓太さんが狙われるわよね?」

「でも~……これに関しては私達にも利点が多いよ~……新人の生産職を引き入れれば、私達だけで高レベルの生産職を独占できるし~……その頃には誰が相手でも突っぱねることもできるから~……あまり気にしないでいいんじゃない~?」

個人的には、真帆さんとアキラさんの会話が嫌に耳に残った。

俺、やっぱり狙われるの? 怖すぎるんだが、でも止まれないしな。早いとこホムンクルスによる防衛体制を整えなければ。

「私としては~……マル君が進化したのが一番の成果だと思うな~……前も良かったけど、もっと可愛くなったね~……」

「ワンッ!」

いつの間にかアキラさんはマルの傍に寄り、しゃがんでその顔をいじくりまわしていた。ハッ、ハッ、と息を吐いているマルはとても楽しそう。

「アキラさん、犬好きだったんですか?」

「好きだよ~……ちなみにゴールデンレトリバーが一番好き~……でも秋田もいいよね~……本当は飼いたいんだけど~……遠征の問題とかあるからさ~……駆け出しのころに〈調教師〉を目指せたら良かったけど~……――あの頃は犬を飼うなんて贅沢は出来なかったから」

最後の素の発言に、隠し切れない悲哀が見えるな。

そいつでよければいくらでも可愛がってください。俺の犬ではないけど。

いつか強力な犬型のホムンクルスを提案してみようか? 喜んで買ってくれると思う。

皆がそれぞれ意見を言い合っていたが、流れが変わったのは兵藤さんの一言からだった。

「それにしても、まさかアイテムバッグが見つかるとはな」

「ああ、とうとう出たかって感じだ。で、ミライ達はもうすでに受け取っていると?」

「ええ。素材集めも手伝ったしね。何か問題でも?」

世永さんの胡乱な目に、ミライさんはしれっと答える。

チッ、と。そこら中から舌打ちが聞こえた。

「こいつ、ぬけぬけと」

「やっぱりこいつに任せるのは間違いだったんじゃ?」

「まぁ大目に見てやろう。成果を出したことだし」

ボソボソとあちこちから不満の声が聞こえてくる。まぁ必要だったとはいえ、誰よりも俺の恩恵を受けていたらな。実際、抜け駆けみたいなもんだし。

だけど元はと言えば、男連中が女を省こうとしたのが原因だからな。あまり強くは言えん。とはいえ、そろそろ遠慮したほうがいいと思うけど。

「言っておくけど、私たちだけじゃなく拝賀ももらっているわよ。しかもタダで」

「んだと? 拝賀、またテメェか」

あのババア、また拝賀君にヘイトを逸らそうとしてやがる。本当に最悪だな。

それにまんまと乗り、トシさんは剣呑な目で拝賀君を見た。

拝賀君は呆れながらも、しっかりと否定する。

「いや、タダじゃないですから。依頼料として受け取っただけです」

「だとしても、どうせ大した仕事もしてねぇんだろ? よくもそれで俺達を差し置いてアイテムバッグを手に入れたもんだなぁ?」

「訂正しろ! めっちゃ頑張ったからな僕は! そうですよね小畑さん!?」

うん。実際拝賀君はめちゃくちゃ頑張ってくれた。そこは否定しちゃいけない。

「真面目な話、拝賀君が居なかったら危ない場面がありました。報酬として渡すだけの仕事をしましたよ彼は」

「小畑さん……!」

「チッ。楓太が言うならしょうがねぇか」

渋々とトシさんが認め、腕を組む。

もう詰め方が完全にチンピラのそれなんだよな。勘弁してくれないかな。小畑会の品位が落ちるでしょうがっ。

「でも、拝賀も貰っているなら丁度いいじゃないか。ちょっと見せてくれよ」

「あ、それは僕も見たいですね。拝賀君、お願いしてもいいかな?」

「あー、すみません。申し訳ないけど、家に置いてきちゃったんですよ。ほら、貴重な品なので。持ち歩いて無くしたらと思うと怖くて」

タケさんとマサ君に、拝賀君は気まずそうに答えた。だが、うっすらと笑っているようにも見える。

これはあれだな。取り上げられる可能性を考えてわざと置いていったな。さすが拝賀君、見事な警戒心。この人達のことをよく分かっている。

「なんだよっ。持ってこいよそういう大事なもんは」

「役に立たねぇガキめ」

「全くだ。一度小畑さんに楯突いた新入りなんだから、それくらいの気を利かせろよ」

「あはははは。すみません」

口では謝りつつも、拝賀君の口元の笑みは消えない。

予想通り。勝った。出し抜いた。そんな感情が見える。

正直、個人的には拝賀君に拍手を送りたかった。――が、拝賀君が勝ち誇るにはまだ早かった。

「ちょっと待て。本当に家に置いていったと言い切れるか?」

「なんだトシ。どういうことだ?」

「考えてもみろ。貴重な物だったら、肌身離さず持ち歩くもんじゃねぇか? ましてや持ち運びの出来るアイテムバッグだぞ?」

「ほう。言われてみればその通りだ。だが見たところ、どこにもバッグを持ってないぞ?」

じっと、男衆の視線が拝賀君に集まる。

えっ。と、拝賀君の呆然とした声が漏れた。

「そりゃ見える場所に素直に出すわけないだろ。服の下にでも隠しているんじゃないか?」

「ふむ。ありえるな。となると一番厳重なところと言われれば……」

「まぁ――パンツだろうな」

「ふざけんな! なんだその暴論! 脈絡なさすぎ――やめろおぉおおおおおお!」

拝賀君は周りにいた男性陣によって、パンツ一丁にされた挙句、四肢を拘束された。

なんか見た覚えがあるなぁこれ……。

「いやおかしいでしょ絶対! どこに脱がす必要があるんだよ!? 脱がす口実を探してるとしか思えないんだよ!」

「ん〜、今のところそれらしい物は見つからないな」

「聞けよ! いや聞かなくてもいいから放せっ!」

世永さんは拝賀君に近づくと、じっくりとその体を観察する。なお、拝賀君の意見は耳に届いていないご様子。

「となると、やはりパンツの中か。調べないと片手落ちだな。おーい、誰かコーヒーでも持ってないか〜?」

「缶コーヒーならあるぞ〜」

「いや今回はマジでいらねぇだろ! この格好をみりゃ分かるだろ俺がバッグを持ってきてないってよおおおおおおおおおおおお!」

拝賀君の叫びはやはり届かない。

世永さんは投げられた缶コーヒーを受け取り、少しだけ渋い顔をした。

「んー。やっぱりちょっとぬるいな? 誰か温め……いや、最近は涼しくなってきたからそれだと嬉しいか。誰かこれ冷やせるかー?」

「任せろ。自販機よりカッチカチに冷やしてやる。――できたぞ」

「できたぞじゃねぇんだよ! マジでやめろ! それ下手すれば熱くするよりキツ――冷たっ!? 熱っ!? 痛てぇえええええええ!」

「おお? なんだ、中々見つからねぇな? ぶっかければパンツが張り付いて浮かび上がってくると思ったんだが」

「かける量が足らないんじゃないか?」

「そうか? よし、それじゃあ残りも――」

「もうやめてぇええええええええええ!」

惨すぎる。もはや拷問なんじゃないかあれは。キン〇マが冷えっ冷えで激痛が走っているんじゃ?

無力な俺をどうか許してほしい……。

苦しみの声を上げる拝賀君に、トシさんと世永さんがフンと鼻を鳴らした。

「へっ。俺らを出し抜こうとするからだ」

「全くだ。下手な小細工をするからこうなる」

やっぱりただ気に入らなかっただけだったか。なんて器の小さい人達だ。

「とはいえ、治療くらいはしてやらんとか?」

「まぁそれくらいはいいだろ。放置まで行くと可哀想だしな。〈治癒術師〉は――カコちゃん。ちょっと拝賀の冷凍バナナを治してあげてくれるか?」

「いやでーすっ!」

「そっか〜。嫌ならしょうがないなっ。人望ねぇなオメー」

「人選が悪すぎんだよ! 僕だって乙女に診られるのは嫌だわっ!」

拝賀君の叫びがごもっともすぎる。

巻き込まれたくなかったが、助けてやらないとか。

「はいはい。バッグならここにあるんで、そこまでにしてあげてください。令和の世にやることじゃないのよ普通に」

「なんだ楓太。分かってねぇな。探索者ならこれは普通なんだぞ」

「そうだぞ小畑さん。これくらい乗り越えられないなら探索者なんかやっていけない」

探索者の素質がそれなのは嫌すぎるわ。

どっちかと言ったら芸人の適性だろこれ。昨今の芸人ですら、ある程度の配慮はなされているというのに。そのせいでテレビがどんどんつまらなくなっている訳だが。

俺はポーションを半泣きの拝賀君にぶっかける。その間、皆はアイテムバッグに夢中になっていた。今は東さんが手にとって、じっくりと調べている。

「これだけの荷物が入っているのに、全く重さがない。というか、明らかに容量が釣り合っていない。もしこれが地上に出回ったら……」

「ぱっと見ただけじゃ、何が入っているのかさっぱりわからんな」

「運び屋にとってはこれ以上なく便利なアイテムね。検査機とか警察犬の鼻も誤魔化せるのだったら、国外から危険物を持ち込むのも簡単そう」

サラッと言った周りの意見に、東さんの顔が真っ青に染まっていく。やっぱり正義感が強いよな、東さんは。俺も思いついて少しやばいかなと思ったけど、あそこまでショックは受けなかった。

まぁ他人事だしいっか、と割り切った俺。治安の悪化を懸念して絶望する東さん。

人間性を見せつけられているようで、なんだかちょっと悔しい。

自分の俗物加減に落ち込んでいると、袖がツンツンと引っ張られた。

見ればそこには、ウキウキしている天城さんの姿があった。

「楓太。次は俺と行くンゴ」

「あっ、行きます? そんじゃ次はゲーム機を持ち込んで、空いた時間にでも――」

『ちょっと待て!!!!』

あっ、やべっ。迂闊だった。

天城さんとだったらむしろ行きたいと思ったからつい。

「ふざけんなよジジイてめぇ! 何抜け駆けしようとしてんだ!」

「抜け駆けじゃないンゴ! これは親友としての遊びの誘い! だから俺は悪くないンゴ!」

「悪いところしかねぇよクソジジイ! 公私混同はやめろ! それを言うなら楓太を見つけたのは俺だ! だったら俺のチームが行くべきだろ!」

「タケ! お前も勝手なこと言ってんじゃねぇ! 遅かれ早かれ楓太なら出世してんだから別にお前の手柄じゃねぇだろ!」

「そのとおりだ! むしろ小畑さんと取引が多い俺の方が付き合いは深い! だから俺が行く!」

「ちょっと待ってください! 大事なのは戦力の底上げでしょ!? だったらまだレベルが低めの僕たちが行くべきですよ!」

「ろくにレベルも上げ切ってねぇ雑魚に発言権はねぇ! 自力でレベルを上げてこい!」

ぎゃーぎゃーとお互いを罵りながら、我先にと俺との遠征権利を争っている。

あの、あなた達、一応仲間ですよね。とてもそうは思えないほど醜い姿なんだが。

争いの声が絶えない中、バンッとミライさんが強くテーブルを叩いた。

皆の視線が集まり、ミライさんは毅然とした声で告げる。

「静かにしなさい。まだ一番重要な話が終わってないんだから」

「なんだよ、まだ言ってないことがあったのか?」

「ええ。林華の情報についてね」

「林華――森山か? なんであいつの名前が出てくるんだよ?」

意外そうな顔をして、トシさんは争っていた相手の首を締めていた腕を解いた。それに続くように、皆がミライさんの話に耳を傾け始める。

「実は遠征先で偶然、林華と出会ってね。楓太君にこっそり見てもらったの」

「見てもらったって……まさか!」

「森山さんのステータスを見抜いたのか!?」

マサ君とタケさんの声で、部屋中がざわめき出す。

間違いなく、この場に居る全員の上を行く、トップレベルの探索者のステータスだ。気にならないわけがない。下手すれば俺の情報よりも価値がある。

「見たのは林華じゃなくて、側に居た芽衣のステータスだけどね。でも、あの子達の強さの秘密は分かったわ。楓太君、お願い」

「ええ、分かりました。まず芽衣さんのジョブなんですが――」

彼女達の情報を勝手に話すのは、ちょっと怖くもあるんだが、この情報は共有すべき物だ。覚悟を決めて語ろう。

ということで、俺は芽衣さんのステータスについて全てを語った。最初は皆、神妙な顔で聞いていたが、次第に表情が険しくなり――全てを聞いた時、皆の心が一つになった。

『ふざけんな!!!!』

だよねっ!

「俺らが重い荷物を背負って、えっちらおっちらと真面目に探索している横で!? 大量の荷物を運びつつワープでひょいだぁ!? 許せるかそんなん!!」

「それなら強くなって当然だろうが! 探索舐めてるのか!?」

わりとマジな怒りを見せているのがトシさんと世永さん。まぁ気持ちは分かる。

「これは本当にずるいでしょ。〈空間魔術師〉を取得したのが遅かったとしても、【インベントリ】の使える〈運搬屋〉なんて。一体どれだけ楽をしてきたのか」

「荷物の問題で悩まずに済むとなると、相当なアドバンテージだな。公開してくれればどれだけの探索者が助かったか。よくもまぁ今まで隠してきたものだ」

マサ君と兵藤さんでさえ、苛立ちを隠せないようだ。それだけ芽衣さんの情報秘匿の罪は重いということだろう。

しかしそんな中、タケさんは納得するように頷いていた。

「やっぱりあの人、〈アイテム使い〉を持っていたのか。〈運搬屋〉の組み合わせを考えると、とんでもない強さになりそうだな」

「タケさん、前にそれっぽいこと言いかけましたよね。やっぱり芽衣さんのことだったんですか?」

「まぁな。以前遠目で見た時、俺でも知っているようなアイテムでとんでもない爆発を起こしていた気がしたんだよ。その威力が普通じゃなかったから、絶対それ関連のスキルを持っているだろうと思ってな。確証はなかったから、楓太にはハッキリと教えなかったけどな」

言ってくれればよかったのに。そうすればもっと早く〈アイテム使い〉を取得できたかもしれない。まぁこうしてちゃんと手に入ったからいいけどさ。

「今の話を聞いて分かったでしょう? 私達は一刻も早く、強くなる必要があるということが」

ミライさんは、皆に語りかけるように言う。

それもあってか、全員が彼女の話に耳を傾けていた。

「私達は楓太君という力を手に入れた。そう遠くないうちに【種族進化】に至れるでしょう。でもあちらには芽衣がいる。私達のことを知れば、必死でレベルを上げ始めるわ。そうなればこの差が埋まることはない」

それはその通りだ。いかにスライムレベリングが規格外と言えど、あっちはファストトラベルがある。停滞してくれない限り、その差を埋めるのは容易なことではない。

それを皆も分かっているのだろう。負けず嫌いの集まりだ。このままでいてたまるかという熱が、部屋中に満ちていた。

「だからこそ、私達は最短で強くならないといけない。あの子達が油断している今のうちに追いついて、対等な仲間に引き入れる。そうしてこそ、小畑会の未来は盤石なものになる」

それはさながら、戦が始まる前の檄のようだった。

そうだ。そのとおりだ。大義を前に皆の意思が一つになり、高揚していく。

普段はいがみ合っている人ですら、そんなものは些細であるかのように、同じ目でミライさんに注目している。

同じ目的の元、固い意志で結ばれた理想の組織の姿がここにあった。そんな光景を作り出したミライさんは、皆の視線を受けながら言う。

「その為にも、私に任せてほしいの。また楓太君を連れて、更に深い層に潜るわ」

――スンッ。

おっと。流れ変わったな?

さっきまでの熱はどこに行ったのか。皆が顔を伏せて静かになっていく。

しかしそれは、まるで怒りを溜め込んでいるかのような……。

それに気付かぬように、ミライさんは続ける。

「皆の言いたいことは分かるわ。また楓太君を独占する気か? 自分だけ利益を貪るつもりか。そんなところでしょう? 私も逆の立場だったら同じことを考えたでしょうね。でもね、冷静に考えて欲しいの。私はもうレベル38。結果的に皆の中で一番強くなったわ。そんな私が先の情報を調べれば、皆のレベリングを助けることになるでしょ? 決して私利私欲の為じゃないわ。小畑会のことを考えるとこれが一番良い選択なのよ」

だからお願い――と。

まったく他意のなさそうな、真摯な目で、ミライさんは皆を見回した。

「皆の道を私が切り拓くわ。どうか私を信じて――ッッ!?」

「えっ? えっ、えっ――ぷばぁ!?」

「日向ちゃーん!?」

ミライさんが戯言を抜かした瞬間、あちこちからパイプ椅子やら中身の入った缶やらが投げられた。

ミライさんは瞬時に身を翻し、後ろで立っていた〈百花繚乱〉のメンバーも素早く逃げる。しかし驚いて固まっていた日向さんは、どこに逃げるか悩んでいる間に、顔面にパイプ椅子が直撃。盛大に鼻血を流しながら倒れ、そのまま投げられたものに埋まっていく。

「日向ちゃーん! 大丈夫かー! しっかりしろー! 傷は浅いぞー!」

「うっ、うぅぅ……呪いたいぃぃぃいぃぃ……!」

パイプ椅子を掘り起こし、カコちゃんが日向さんを救出して治療する。

それを見たミライさんはほっとしつつも、キッと下手人――まぁ俺ら以外の探索者を睨みつけた。

「貴方達、どういうつもり!? 日向を傷つけてただで済むと――」

――ドカァ!!

そんなミライさんの声を遮るように、折り畳みのテーブルを殴り壊した音が響いた。それをやったのはトシさんだった。

ゆらりと体を揺らしたと思ったら、ゆっくりと息を吸い込んで天井を見上げる。ぴたりと止まった次の瞬間、感情を爆発させるように叫んだ。

「ババァアアアアアアアアアアアア!!」

「クソババアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

「ンゴォオオオオオオオオオオオオオ!!」

「死ねババアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

「ちょっと、いくらなんでも……くっ!? 待ちなさいっ! 私は小畑会のことを思って言っただけで、決して――」

「バアアアアアアバアアアアアアアアアアアアア!!!!」

「ンゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

「干物ババアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

「行き遅れババアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

「出枯らしバアアアアアアアアバアアアアアアアアアア!!!!」

なんともカオスな光景だった。

トシさん雄叫びに呼応し、次々に怒りの咆哮が轟く。理性も知性もない。感情のままに、地獄の亡者が叫びを上げているような……。

いやまぁ、そりゃそうなるよ。

ミライさんが言っているのは、まぁ効率面で言えばその通りなんだけど。お前が言うなっていうか、それ建前だろうっていうか。

本音は自分が先に強くなりたいだけだろうっていう。

なぜこれが通ると思ったんだあのオバサンは。

「このクズども……ッ! 黙っていればいい気になって……!」

「お姉様っ! ここは引きましょう!」

「さすがにこれ以上はまずいです。勝ち目がないですよ」

「ミライ、冗談抜きに殺されますよ!」

「くっ、なんて愚かなのっ。まさかここまで大局が見えていないなんて……!」

お前はこの光景すら予測できない愚か者だけどな。

いや、俺もここまで皆がキレ散らかすとは思ってなかったけどさ。でも怒るのは分かるだろ。というか相手を非難して自分を正当化するな。

叫び続けてようやく人間性を取り戻したのか、トシさんがミライさんに指を差して糾弾する。

「寝言を言ってんじゃねぇぞババア! 少なくともテメェにしばらくその権利はねぇ!」

「トシの言う通りだ!これ以上の我儘が許されると思うなよ!?」

「というかどうしたらそこまで図々しくなれるんですか!? 恥を知れ恥を!」

「その通りだ! いつまでも便利なパシリ扱いして! 僕は小畑さんの部下であってあんたの子分じゃないぞ!」

「いくらミライさんでもこれ以上は私達だって我慢できませんよ! そもそも美肌薬も【洗浄】付き下着も、全部楓太さんのおかげでしょ!?」

「何ちゃっかり一人で全部持っていこうとしてんの!? どれだけ私達をバカにすれば気が済むわけ!?」

ババア! クソババア! 強欲! 痴女! 歳を考えろ! 慎みを知れ! つうか肌見せんなキメェ! ババア! ゴミババア! ゴリラの方がまだ可愛い!

男女問わず、ミライさんに対して容赦のなき罵声が飛んでくる。と言うかもうただの悪口だなこれ。俺なら絶対泣いてる。

さすがのミライさんもこれにはダメージを負ったようだ。珍しく弱々しい顔を見せ、一歩退いている。

それを見て頃合いを察したか、改めてトシさんは言う。

「分かったな? これが小畑会の総意だ。分かったらお前は引っ込んでろ。でねぇと力ずくでも黙らすぞ」

本当に実力行使も辞さない。そうハッキリと伝わる態度だ。

普通なら、ここまで宣告されたのだからすごすご引き下がるしかない。

だが、ミライさんはどこまでいってもミライさんだった。

「――やっ!」

やっ、じゃねぇのよ。不覚にもちょっと可愛いとか思ってしまった。

マジで切腹もんなんだが……。

「嫌――嫌よ! 絶対に嫌っ! これ以上、林華と差がつくのを受け入れろって言うの!? そんなの絶対に嫌っ! これだけは譲れないんだからっ!」

「それだけじゃねえからキレてんだろうが! 泣いたって許されるか! そもそもテメェの私怨に俺らを巻き込むな!」

いやもう本当にその通りなんだよな。ポロポロ泣いているミライさんを見れたのは貴重なシーンだと思うんだが、どんだけ嫌なんだよっていう。

いくらなんでも森山さんをバカにしすぎでは?

「そもそも決定権はテメェにはねぇ! 決めんのは楓太だ! そうだろ!?」

え。俺が決めんの? この空気の中で?

「――楓太君! 楓太君なら認めてくれるわよね!? 遠征だけじゃなく、私のコネを使っていっぱい美肌薬を売り捌いたじゃない! 役に立ってるでしょ!?」

「いやまぁ、それはそうですけど」

確かにそれを言われたらという感はある。

この人のコネはこの先も役に立ちそうなんだよな。小畑会を左右するレベルで。

「楓太! まさかまだこのババアを贔屓する気はねぇよな!? お前なら正しい判断ができるはずだ!」

「そうだ! 小畑さんは公平な人だと俺達は信じているぞ!?」

いや、さすがに贔屓する気はないけどさ。

大丈夫? 押しが強いミライさんが諦めてくれる?

というかマジで俺が決めないといけないの?

――楓太! 楓太君! 小畑さん! 会長! 楓太さん!

皆から必死な形相で名を呼ばれる。殺気すら漂うほどのとてつもないプレッシャー。

まるで肉食の獣の前に立たされている気分になり、俺は……俺は――ッ!

「――いい加減にしろ!!」

俺の怒声に、皆の追及が止む。

まさか怒鳴るとは思っていなかったのだろう。この隙を逃してはならない。

俺は大きくため息を吐き、やれやれとばかりに続けた。

「大の大人が醜く言い争って、恥ずかしくないんですか? 身内でこんな争いをして、俺達の野望を叶えられるとでも? 今はまだ水面下で動かなければならない。協力できるのはここに居る仲間だけなんですよ?」

俺の言葉に、皆がバツの悪そうな顔を作る。

今しかない。そう判断し、俺は出口に向かって歩き出した。

「皆で話し合い、納得する決断をしてください。これは会長命令です。この程度のことも自分たちで決められないようでは、正直話にならない」

歩き始めた俺を、慌てて川辺達は追いかけてくる。

沈黙する小畑会のメンバーを残して、俺たちは公民館を後にした。

♦ ♦

「あの、本当にあれで良かったんですか?」

じゅわあああ、と。キッチンの方から油で揚げている音が聞こえてくる。

その音にワクワクと落ち着きを感じつつ、俺は料理をしながら尋ねてきた七緒ちゃんに答える。

「ああ、いいのいいの。なんでも俺が決めるのも良くないからね。自分達で解決する力を身につけて貰わないと」

「いや、命令することから逃げてきただけだろ」

「物は言いようだね。というか、君が小畑会の方針を決定したことなんてないだろ」

「だって怖かったんだもん! あの連中から詰められてみろよ! お前らだって逃げ出したくなるぞ!?」

「その気持ちは分かるけどよ。今回に関してはミライさんを突っぱねて終わりじゃん」

「さすがにミライさんと他の人。小畑会のメンバー全員と比べたらね。考えるまでもないよ。実際ミライさんの主張が無理筋だし」

それも分かってんだよ。そうするべきだってことは。

でも、ミライさんの機嫌を損ねることが怖かった。まさか暴力に出るとは思わんけど、どんな仕返しが来るかわからんからな。

七緒ちゃんと一緒にキッチンに立っているチヨちゃんが、心配そうな声を出す。

「でも、本当に大丈夫なんでしょうか? 泥沼の言い争いになりませんか?」

「さすがのミライさんも、他のメンバー全員に囲まれては逆らえないでしょ。ミライさんは後回しになるのは間違いない。揉めるとしたら、他のメンバーの順番決めくらいじゃないかな? というか、ぶっちゃけ泥沼になって長引くならそれはそれでありがたい」

「えっ!? いいんですかそれで!?」

チヨちゃんが吃驚して食器を落としかけた。ちょっと申し訳ない。

でも実際、俺としてはそっちの方が都合がいいんだよね。

「揉めたところで、小畑会から抜けようとは誰も思わないだろうし、仮に抜けても情報が漏れることもないから。別に困る事はないんだよね」

「いや、まぁそうかもしれませんけど……下手すればもの凄い時間がかかるんじゃないですか?」

「うん。でもさ、それだったらほら、俺達もしばらく休めるでしょ?」

「え? ……あ、そういう?」

チヨちゃんは納得したが、ちょっと呆れた目を向けてくる。いや、だって仕方ないじゃん。

「俺、最近頑張りすぎだと思うのよ。遊びながら稼ぎたいから探索者になったのに、ちょっと自分からブラック化させている気がして……撮り溜めしているアニメも全然見れてない」

「確かに。俺もシュガレスのログボが取れてない。そこは覚悟していたが、イベントも満足に参加できないのはちょっと……」

「僕もゲームがどんどん積まれていく。かつてない異常事態だ」

俺の話を聞き、川辺と伊波も落ち込んだ様子を見せる。こいつらなら分かってくれると思ってた。

「まぁさすがに何週間もかかるようだったら俺が指示を出すけどさ。できれば一週間くらいは休みたい。最低でも二、三日はこれで稼げるでしょ」

俺は本来エンジョイ勢なんだ。別に森山さんに負けてようが知ったことじゃないし、ぶっちゃけ今の時点で探索者として結構なリードを取っているからな。久々の休みを満喫させてもらうとするぜ。

久々の休日、何して遊ぼうかなとウキウキしていた時、ピコンッ、と俺のスマホの音が鳴った。

おっと、会議が長引きそうとか、そういう連絡かな? そんな軽い気持ちで見た連絡は、タケさんからだった。そして短い文面を見た時、俺の顔は引き攣った。

『明日、今日の会議の続き。内容は渋谷ダンジョン26層の拠点造りについて』

――何でっ!! そうなる!?