作品タイトル不明
第100話 食〇――ッ!!①
「要するに、単純に実力が見たいってだけなのよ」
料理バトルが決定した後。会場の準備中での、ミライさんとの内緒話である。
「あの子自身、レベルを上げる必要性は感じているから、断る理由はない。でもそれはそれとして、現在の〈料理人〉を上回る料理を作れる〈錬金術師〉の実力を見たい」
「別に頼まれれば作るし、見せますけど?」
「まぁそこは私が言ったのよ。料理勝負でも挑めば嫌でも実力が分かるわよって。面白そうだったから」
「アンタのせいかい」
余計なトラブルを増やしよって。
面白そうだからいいけど。
「あと、小鈴自身も本気で戦いたかったみたいね。〈錬金術師〉だけには負けられないって」
「なんですかそれ? 何か〈錬金術師〉に思う所でも?」
「生産職がよりにもよって、その道のプロでもない人間に自分の専門分野で負けるのよ? 小鈴じゃなくても受け入れ難いと思うけど」
……言われてみれば、そうかもしれない。
あれ。もしかして〈錬金術師〉って他の生産職に嫌われる感じなの?
「あとね。あの子、前に〈五匠〉に匹敵すると言われている〈錬金術師〉に、嫌なことを言われたことがあるらしいわ。それもあって対抗意識が強いのかも」
「え、何それ。そんな〈錬金術師〉がいるんですか? っていうかそれ完全にとばっちりなんですが」
なんで他の奴のせいで俺が嫌われないといけないんじゃ!
「大丈夫よ。流石にそれが理由で楓太君に隔意を持つような、分別のつかない子じゃないから。ただ対抗心が少し強くなっているだけで」
「あまり変わらないような……。でも、それならどうしようかな。接戦を演じた方が良いのか? ギリ俺が勝つみたいな」
「いえ。圧勝した方がいいわね」
ミライさんは厳しい表情で言った。
「必要だと心から求めるのと、流されて動くのとでは熱量が違う。圧倒的な実力を見せつけた方が、むしろあの子の方から小畑会に入れてくださいと頭を下げるでしょう」
「え〜。大丈夫ですか? それこそ心が折れません?」
「そんな弱い子じゃないわ。それに落ち込んだ時は私がフォローするわよ。むしろその方が好都合かもね。私に依存してくれるかもしれないし」
計算高い。本当に怖いオバサンだな……。
「でも、負ける気は全くないのね? 接戦を演じた方が、だなんて」
「いや、まぁそれはねぇ?」
横目でチラッと、服装を整えている小鈴さんを窺う。寡黙に調理道具を見つめている彼女からは、一流の職人としてのオーラ、凄みのようなものが見えた気がした。
なんちゃって職人の俺とはまるで違う。本物のプロだ。俺が勝てるようには思えない。ハッキリ言って、これだけならこの時点で俺は白旗をあげていただろう。
だが、俺の目は真の実力を見逃さない。
【人物鑑定】
名称:香取小鈴
年齢:24歳
レベル:1(次のレベルまで63)
ステータス:【MP】29【STR】8【CON】8【POW】10【DEX】13【INT】12
ジョブ:〈料理人〉【食材鑑定】レベル1【調理】レベル1【大量生産】レベル1
――ザッコwww
♦ ♦
会場の中央には、向かい合う形で楓太と小鈴が立っていた。
二人の目の前にある長テーブルには、さまざまな食材と調理道具が並べられている。
観客は壁の端に寄って二人を見守り、中央の奥側には審査員席が。そしてさらにその隣に、実況と解説役の二人が座っていた。
『さぁ! 急遽始まりました小鈴ちゃん屈服料理バトル! 実況は私、川辺! 解説は異種族フリークこと伊波でお送り致します!』
『伊波です。まさかマイクまで用意しているとは思いませんでした。正直困惑していますが、この悪ノリは嫌いじゃない。精一杯努めさせて頂きます』
さあさあと促され、強制的にその場に座らされた二人だったが、この流れに逆らう気はないようだ。
どうせやるならバカになろう。割り切った二人は実に堂に入った姿だった。
『それでは両選手のご紹介といきましょう! まずは白虎の方角! 〈五匠〉と呼ばれし至高の職人! その豊満なむっちりボディは〈料理人〉としての研鑽の証か!? それともただの不摂生か!? ダンジョン界隈の料理の地平を切り開く女傑の料理人――香取ぃいいいい! 小鈴ぅううううううう!』
紹介と同時に、惜しみない拍手が送られる。
小鈴はそれを受け、小さく黙礼した。その堂々とした姿には、先ほどまでの怯えた様子は見られない。
そんな小鈴にすっと近づき、七緒はマイクを向ける。
「小鈴さん。始まる前に何か抱負はありますか?」
「プロとしてこの勝負だけは負けられません。何がなんでも勝たせてもらいます」
『おおっと! これは力強いお言葉です! とてもレベルが低い生産職とは思えません!』
『レベル以外の埋める何かがある、という自信か。あるいはただ現実を見ていないだけか。個人的には前者であることを期待しています。プロの料理人の意地を見せてもらいたいところです』
伊波の挑発染みた言動にも、小鈴に動揺は見えなかった。
もはやここまできたら、あとは料理で黙らせるのみ。
料理人としての矜持が、彼女に不動の精神を与えていた。
『さて、それでは対戦相手のご紹介です』
――フッ。
川辺がそう言った時、会場の明かりが消えた。
『――そう、全てはこの男から始まった』
バンッと、スポットライトが楓太に当たった。
いつの間に着込んでいたのか、フード付きの黒いマントを着込み、表情を隠している。
『誰が言い始めたのか、器用貧乏の〈錬金術師〉。他の生産職と比べ一枚下に見られていた不遇ジョブ。どこまでも便利屋扱いでしかなかったそのジョブの可能性を追い求め、そして数々の常識を打ち破ってきた!』
おそらくは七緒の【伴奏】だろう。会場に、何やら壮大な音楽が流れ始めた。
『生産職は戦わない。その固定観念を打ち壊し、レベルを上げ続けた命知らず! そうして見つけた新発見は数知れず! スライムレベリング、スキル付き装備、アイテムバッグ、そしてホムンクルス! 器用貧乏? とんでもない! まさしく奴こそ万能のクリエイター!』
控えめだった音が、実況に合わせてどんどん大きくなっていく。
そうしてボルテージが最高潮に達したところで、川辺の声もまた大きくなった。
『青龍の方角から、この男がやってきた! 数々の発明が人を呼び、その求心力でとうとう日本最強の組織を作り上げた! 野望はでっかくホム嫁ハーレム! この勝負もまたその足がかりでしかない! そう、奴こそ我らが小畑会会長! 小畑ぁああああ! 楓ぅうううううう太ぁあああああああ!』
――バサァ!!
――ウォオオオオオオオオオオ!!
楓太がマントを投げ捨て、その相貌が顕になった瞬間、会場に明かりが戻り、爆発したような声援が響いた。
小鈴の時とはまるで反応が違う。小鈴が負けた方が俺達にとって都合が良い。その一心からのアウェイの洗礼である。コイツらマジでセコい。
しかし、その目論見は成功したらしい。小鈴は強気な表情ながら、小さく汗を流していた。
一方、楓太は得意の絶頂だった。
片手を上げ、ぐっと拳を握る。すると、怒号のような声援がピタリと止んだ。自分の意思一つで多くの人間を操れる。なんか気持ちよかった。
なので、また腕を振り上げた。
――バッ! ウォオオオオオオオオ!
――グッ! ピタッ。
――バッ! ウォオオオオオオオオ!
――グッ! ピタッ。
――バッ! ウォオオオオオオ……
『いやしつけぇよバカ。先に進まねぇだろうが』
『観客の皆様も、あまり甘やかすのはご遠慮ください。進行に支障をきたします』
実況からのお叱りに、楓太はやれやれと言うような苦笑を浮かべて軽く手を振った。まるで悪いと思っていないのが丸わかりである。
そんな彼へ、七緒は微妙な作り笑いを作ってマイクを向けた。
「それでは楓太さんにもインタビューです。今回の意気込みは?」
「カカカカカッ! 料理は勝負だ! 客は情報を食っている! 至高と究極の料理をおあがりよ!」
『あー、これちょっとテンション上がりすぎてノリで発言していますね。というか混ざりすぎてわけわかんねぇよ』
『中華の覇王。ラーメンハゲ。似た者親子におはだけさせる料理人かな? ネタを振るなら振るで、もうちょっと分かりやすくしてほしいところです』
調子に乗っている時は本当にろくなことにならない。
付き合いの長い二人は、この時点で嫌な予感を感じていた。
それに見ないふりをして、川辺は先に進める。
『それでは続きまして審査員のご紹介です。まず一人目。生まれた時から彼女は特別だった! 磨き上げたその美貌に偽りなし! 麗しき〈百花繚乱〉のリーダー! 戦う美の追求者、ミライさん!』
「美しき肉体はまず食事から。私は料理にも厳しいわよ」
『ミライさんは舌も肥えていそうですからね。これは納得の行く審査が期待できます。強いて言えば、小鈴さん寄りの甘い判定にならないか? ということですが』
『美に関わることでミライさんが嘘を吐くなんてあり得ねぇ!』
当然、とばかりにミライは髪をかき上げる。
まぁこの人は大丈夫だろうと、実況席の二人は静かに頷いた。
『続きまして二人目。趣味はB級グルメの食べ歩き。見た目は十代でもギリ通じるか!? 年齢を追及したら首チョンパだぞ♡ チーム〈武熊〉より、のんびり口調の不思議系!〈暗殺者〉のアキラさん!』
「B級グルメイベントの参加は欠かせません」
『いやB級かーい、というツッコミがとんできそうですね。料理バトルの審査員として本当に的確なのかは疑問を覚えます』
『しかし味の幅という意味ではこの選択もありではないか!? 何百というB級グルメ食べ続けてきたその経験が、一体どんな評価を下すのか!? ワクワクするような、怖いような! ミライさんにはない視点での評価を期待したいところですっ!』
アキラは両手をフリフリして、にっこり笑った。
まぁこの人もたぶん大丈夫だろと、やはり実況席の二人は納得する。
『そして最後! 意外や意外なこの人! 料理なんざしゃらくせえ! めんどくせぇから生で食べらぁ! そうして腹を壊した数は数えきれず! そんな姿はまさしくバーバリアン! チーム〈蛮族〉より、トシさんです!』
「腹に入れば皆一緒」
『おいこれ完全に人選ミスだろ。誰だよトシさんを推薦した奴』
『どうやら自薦のようですね。なんでも小腹が空いたから俺がやる、と率先して手を上げたとの情報が入っております』
『審査する気あるのか?』
川辺は交代させた方が良いんじゃと口にしかけたが、トシは腕を組み、どっしりと席に座っている。梃子でも動きませんといった調子だ。
雰囲気だけはあるんだよなぁと、面倒な相手を座らせてしまったことに少し後悔した。
『トシさん。審査ですよ、審査。本当に出来ます?』
「バカにするな。美味いと不味いくらいは分かる」
『絶対不適格じゃん。やっぱりこれ今からでも替えた方がいいんでね?』
『まだマルの方が良い審査をしそうだね』
「ワンッ!」
マルはキリッとした顔で返事をした。ちなみに、最後の最後まで粘ったが辞退させられている。
はぁ、と。静かに実況席の傍に戻っていた七緒とチヨは、揃って溜息を吐いた。
「審査員なら私がやりたかったですね」
「私もです。お家でいっぱい料理しているんだけどなー」
『二人は楓太を贔屓する可能性があるので、公平性に欠けると判断されました!』
『好きな人の力になりたい。そう考えるのは自然ではないかと』
「え? え、えへへー。やだなーっ、真剣勝負なら公平にやりますよっ」
「というか好きって……いや、嫌いじゃないですけどね。でもホムンクルスのお嫁さんを揃えるっていうのは、一人の女として受け入れがたいというか。私だけを見てくれるならやぶさかでも――」
「カーカカカカカッ! ダンジョンを不埒な格好で歩くグラビアアイドルには興味ねぇ!」
「着せてるのはそっちでしょ! っていうかグラビアじゃない! アイドルだからっ!」
『やっぱりアイドルじゃん』
『着々と自覚が芽生えているようでなにより』
「ちがっ……ッ! 今のは違うからっ!」
見苦しい抵抗である。いいかげん、諦めれば楽になるというのに……。
『さて、紹介も済んだところで、ルール説明となります! お二人には目の前に用意された食材を使い、制限時間一時間以内に好きな料理を一品作ってもらいます! それでより評価の高い料理を作った方の勝利です!』
『ジャンル問わず。つまり 必殺料理(スペシャリテ) の勝負ということです。これは自由度の高い戦いが予想されます』
『ちなみに各種素材は小畑会所属の善意の探索者。そして店長の提供となります! ご協力ありがとうございます!』
『穀物、肉、魚介、野菜、果物。低層はもちろん、深層らしき素材もちらほら伺えます。よくぞまぁこの悪ふざけの為にここまでの素材を集めたものです。素直に脱帽します』
伊波の言う通り、長テーブルには種類の豊富な素材が山となって並んでいる。
これらを売れば、一財産を築けることは間違いない。ハッキリ言ってバカである。
『さて今回の勝負ですが、料理の総合点によって評価が決まります! とメモに書いてありますが……伊波さん、これは?』
『今回の勝負は、ジョブの力を使った生産職の料理勝負ですからね。当然、料理にはバフも乗ります。探索者としては、バフ効果を無視する訳にはいきません。よって味や見た目はもちろんのこと、バフ効果の高さ、質、それらも含めた総合的な評価を審査員に判定してもらうということです』
『なるほど! そういうことでしたか! それならプロの〈料理人〉が相手でも、楓太にも勝ち目が――ん? ……あのさ、基本的に高レベルの素材の方が、調理した時、美味く感じるんだよな?』
『そうですね』
『あと、スキルも高レベル素材の方が、良性能だったり、効果が高いのが多いよな?』
『そうですね』
『……生産スキルのレベルが低いと、高レベルの素材って扱えないよな?』
『そうなりますね』
『ああ、なるほど。……やっぱり茶番かぁ』
既に勝負が見えている。
実況、川辺のテンションは見るからに落ちた。
『いえ、そうとも限りません』
しかし、解説の伊波はむしろ興味深そうな声を出した。
『高レベル素材を使った方が遥かに有利。そんなことは小鈴ちゃんも分かっている筈です』
『なるほど。ということは?』
『そうだとしても、勝てる自信があるということでしょう。その根拠となる物が何なのか。僕はそれに興味が尽きません』
『なるほど! 伊波さんはやけに小鈴ちゃんに期待していると思いましたが、そういうことでしたか!』
『はい。負けた時に体を要求されても断れないような条件を、自分から言い出したのがその証拠です。これはもう勝利を確信している何かがあるとしか思えません』
「――え?」
それまで静かに佇んでいた小鈴が、調子の外れた声を漏らし、呆然と実況席の方を見た。
実況席の二人と、小鈴が見つめ合う。痛い程の沈黙が会場に満たされていた。
小鈴は恐る恐ると楓太へ目を戻す。
楓太は下卑た表情を浮かべ、レロリと舌で唇を舐めた。
「ひっ――ひぃん……ッ!」
『おおっと! いきなりの番外戦術! 勝負は始まる前から始まっていると言わんばかり! 汚い! この手段を択ばない感じはさすが我らが小畑会の会長! しかしこれは本当に効いている!』
『ハッキリ言って、ここまでやってようやくイーブンでしょうね。なんせ彼女、敗北した時の条件は決めても、勝利した時の条件は決めてないですから。負けたら全てを失い、勝っても得られる物はない。こんな条件で勝負を挑むなど、やはり勝利を確信しているとしか思えません』
「あっ!? いやっ、それは違っ――」
『なっ! るっ! ほっ! どっ! これは楓太優勢かと思いきや、勝負が分からなくなってきました! 果たして楓太は小鈴ちゃんの服を無事に剥くことができるのか! 頑張れドスケベ会長! 男はお前の勝利を願っている!』
『難しいでしょうが、小鈴ちゃん渾身のくっころが是非とも聞きたいところです。楓太には頑張ってほしいですね』
「待って! 条件追加で! 私が勝ったら……勝ったら、えっと――ッッ! 私が勝ったら小畑さんと実況、解説の三人をモデルとしたBL――」
『はい勝負スタートォオオオオオオオ! さぁ運命のゴングが鳴りました!』
『悔いのない勝負になることを祈っております』
小鈴のカウンターすら許さない、楓太による実況側と手を組んでの酷い精神攻撃だった。
彼女自身が迂闊だったとはいえ、さすがに哀れである。
『さぁいよいよ始まりました小鈴ちゃん屈服戦! まずは食材選びからとなります!』
『ここは大事ですよ。自分が扱えるレベルを見極め、それでいて新鮮な食材を見抜かなければなりません。味が良いからと無理に上の素材に手を伸ばせば、まともな料理すら作れませんからね』
『その通りですね! 先ほどなにやら言いたげだった小鈴ちゃんも、今では目を皿にして食材を漁っています!』
ゴングが鳴るや否や、小鈴は気持ちを切り替え、並べられた食材を手に取って確かめていた。
〈料理人〉にも【食材鑑定】はあるため、最低限の情報はそれで得られる。しかし、小鈴が見ているのは【鑑定】ですら届かぬ細かな鮮度。スキル外の能力と言えるもの。
〈料理人〉として生きてきた小鈴の経験。こればかりはいかに楓太といえど、明確に劣る部分だ。
『手早く食材を選んでいく小鈴ちゃんですが、おっと!? ここで手が止まりました! あれは……レッサーオークの肉でしょうか!?』
『低層に出現するらしいので、おそらくレベル10は超えない食材でしょう。しかし、今の小鈴さんでも確実に成功するとは言えない難度なのは間違いありません。勝利の為にリスクを取るか、料理成功の確実性を取るか。悩みどころでしょうね』
『なるほど! 早速クソ雑魚低レベル生産職の壁にぶち当たった感じですね! この点で言えば楓太がやはり有利です! ここは食材選びの段階で差を付けたいところですが……おおおおっと!? どうしたことでしょう!? 楓太は一歩も動いておりません!』
川辺の言う通り、楓太はその場から動かず、ニタニタと笑って小鈴の動きを観察していた。
『いったいこれはどういうことなのか!? 何かの作戦か!? それとも他に意図があるのか!? 伊波さん、どう思われますか!?』
『そうですね。僕の拙い料理漫画知識から考えられるムーヴとしては……相手の料理を完コピした上で一手間加えて上位互換を作り出す戦術。あるいは小鈴ちゃんが作る料理を不味く感じさせる料理を先出しする、という外道戦術が考えられます』
『な、なるほど! それは汚い! ちょっとアレを会長として私達のトップに置くことに躊躇するレベルです!』
『ただこの戦術を取るには、料理の腕と知識がないと難しいという問題があります。腕は【錬金術】で賄えるとしても、知識は雑な男料理程度の楓太にできるとは思えません』
『となると、ではあの行動の意味は?』
『まぁ、ただの慢心でしょうね』
『舐めプかよ』
吐き捨てるような実況の言葉だった。
しかし実際、それだけのことが許される力の差があるのも事実である。
『おおっと~! 楓太がとうとう動き出しましたが――な、なんとぉおおお!? これは驚きです! 見てない! 碌に素材を見ていない! チラ見してポンポンと籠に放り込んでおります!』
『ああ~、これはあれですね。【鑑定】で片っ端から高レベル素材を選んでるだけです。鮮度なんか知るか、と言わんばかりのいい加減さですね。実際、【錬金術】はよほど酷い素材でもなければ、一定レベルの品質は保証されちゃいますからね。確かに素材選びが適当になるのも仕方ないかもしれませんが……』
『本職の〈料理人〉からしたらブチ切れもんだよな』
その言葉通り、小鈴はむっとした顔で楓太を見ていた。そして悩んでいたオークの肉を、えいやと自分の籠に放り込む。
〈料理人〉としてのプライドが、彼女に覚悟を決めさせたようだ。意図せず挑発が不利に働いたかもしれない。
『どうやら小鈴ちゃんは素材を確保した模様です。楓太もすぐに終わ――おおおおっと!? どうしたことでしょう!? これまで雑に材料を選んでいた楓太がピタリと止まりました!』
『これは本当に分かりませんね。楓太なら特に悩む必要もないはずですが……』
実況席の二人は首を傾げた。そのくらい、楓太は本気で悩んでいる。
使いたい。だが、本当に使っていいのか? そんな葛藤が見える苦渋の表情だ。
そしてとうとう、楓太はそれを掴んで籠に入れた。選んだ物は、どっしりとしたハサミ。海老か蟹のものだろう。籠からはみ出てその存在をアピールしている。
『ほぉん? カニのはさみか? 普通に旨そうだよな?』
『うん。食材としては普通だね。別に悩む必要はないと思うけど……』
何か本気で嫌な予感がする。
二人は楓太の料理に不安を覚えた。が、今は公平な実況な立場。下手な助言は入れ込みすぎというものだろう。
またもやその予感に気づかぬふりして、二人は意識を切り替えた。