作品タイトル不明
第110話 作れなイーヌ
ペロを作り、それじゃあ試しに何か作ってもらおうと思ったんだが、結局昨日は何もできなかった。
生まれたばかりのアイツを、女性陣が可愛がって放してくれなかったからだ。むしろ働かせようとしたら責められた。
生まれたばかりでいきなり働かせるなんて鬼か! というまぁ分からんでもない理由だ。でもお前らが可愛がりたかっただけじゃないんかと。というかだったら俺も休ませろよと。
誰の反発が一番強かったかは、まぁ予想通りである。あのなんちゃって不思議系オバサンがよぉ……。いい歳して恥ずかしくねえのか。
まぁそういう訳で、どうせならと残りの生産ホムを作ることに専念した。
【錬金術】持ちはサモエドの〝エルリック”〟。ドーベルマンの〝めじろー〟。
【鍛冶】持ちにシェパードの〝まっぽ〟。ブルドッグの〝ブーちゃん〟。
いずれもペロと同じで、小型サイズで可愛らしい。
本当は【鍛冶】がもう一匹作れたはずなのだが、欲張った結果ちょっと失敗した。
丸ごと一体使うんじゃなく、体の一部を素材として使って、生産スキル持ちのホムを量産してやろうと思ったのだ。
狼ならそこら中にいるからな。それを人型に形成すればペロたちと似たような姿にできるし、だったらスキルの素材さえ確保できればいけるだろうと。
しかし解体して皮を剥いだら、なんと【鍛冶】スキルがその時点で消えてしまったのだ。
生産スキルは、どうやら全身が揃ってないと失われてしまうらしい。そうそう美味い話はないということだ。
とはいえ【錬金術】持ちが三匹に、【鍛冶】持ちが二匹。ひとまずの生産体制としては十分だろう。
今日からこいつらも働かせて、その性能をしっかりと見極めていくつもりだ。
で、早速五匹に生産を任せようとしているのだが……作業に入ったペロたちを、ほうっと熱い溜息を吐いて女性陣が見つめている。
「はぁ……可愛い……」
「凄くいい……しゅき……」
「この光景を見れただけで頑張った甲斐があるわ……」
どうやらそれぞれが素材の下ごしらえをしたり、道具を揃えたりしている姿を見て和んでいるらしい。まぁ分からんでもない。
【錬金術】組は用意してやった薬研で、薬草各種を細かく磨り潰し、【鍛冶】組は使う金属や魔物素材の選別をしていた。
可愛い系からカッコイイ系、ブサカワ系の犬が小さい身体を精一杯使って作業している姿は、確かに夢中になるものがある。
集中して静かに作業している姿は、まるで本物の職人のよう。イメージとは違うが、これはこれでいい。でも、もうちょっとわちゃわちゃしながら頑張っている姿も見たい気がする。
なんだったらそう、歌いながら作業するとか?
「お前ら、歌いながら作業とかできる?」
俺の言葉にピタリと作業を止め、一度こちらを見た。そして五匹はお互いに顔を見合わせ――
「「「「「わんわんわんわーん♪ わんわーん♪ わーんわんわんおっ♪ わんわんわんわんわんわんおっ♪ わんおー、わんおっ♪ わんわんわ――」」」」」
「おぉおおおぉぉぉぉおおおおおん……ッ!?!?!?」
可愛らしい高い声や、低いダミ声が混じって揃って歌う姿に、皆が打ち抜かれた。
特にダメージがデカいのは、やっぱりアキラさんである。
四つん這いになって、地獄の亡者のような声を上げている。あるいはオホ声のような……。
でもまぁ無理もない。もうあれ完全に七人の小人だもん。あんなに楽しそうにしていると、こっちまで仕事が楽しくなってきそう――いや、それは気のせいだな。
今のを見てコールド◯トーンを思い出してしまった。どこいっちゃったんだろうなアレは。またあのパフォーマンスを見たいし、アイスが食べたいんだが。
懐かしの味を思い出していると、ガバッとアキラさんが頭を上げた。
「楓太君!」
「なんです?」
「頂戴!」
「だからやらんて」
何度言っても同じだというのに、懲りない人だ。
「アキラ、いい加減にしろってお前」
「気持ちは痛いほど分かるけどね……」
「だってぇ……だってぇ〜……ッ!」
タケさんと真帆さんが、駄々を言うアキラさんを嗜める。そしてアキラさんはとうとう泣き出した。
それに疲れたような息を吐き、タケさんは俺に頭を下げた。
「楓太すまんな。こいつにはしっかりと言い聞かせておくから」
「いや、まぁタケさんが叱ってくれるなら」
アキラさんが暴走気味なのは問題だが、パーティの人がまともだったのは幸いか。
さすがタケさん。しっかりしている。
「ただまぁ、本気で譲ることも考えてくれんか? ここまで入れ込んでいるアキラも珍しいし、ちょっと不憫でな。もちろん相応しい金額は用意するから」
タケさん……アンタもか。
あたかもアキラさんのために、みたいな言い方だけど、目の期待感が隠せてねぇんだわ。
正直な分、まだアキラさんの方が可愛げがあるぞ。
「駄目ですよ」
「駄目か……どうしてもか?」
「いや、普通に考えてくださいよ。【錬金術】を使える奴を渡したら、俺の収入が減るじゃないですか」
俺の主な収入源は各種アイテムだ。で、メインの売り先がこの人たち。
それなのに自前でポーションを作れるなら、俺から買う必要が無くなっちゃうからな。収入が減るのは許容できん。
仲間相手に阿漕な商売をするのもどうかと思うが、【錬金術】に限らず、生産系のホムを他に渡すわけにはいかん。
百歩譲って渡すとしても、レンタルかな?
月単位で契約料を貰って、なおかつホムンクルスにあとで何を生産したか報告してもらって、作ったアイテム分の料金を払ってもらうようにすれば……。
あれ? これもしかしてめちゃくちゃ良いビジネスなんじゃ?
ついでにホムンクルスに【空間拡張】をつけて、【インベントリ】持ちにすれば? さらに身体能力を増し増しにすれば?
深層にも平気でついていけて、生産と〈運搬屋〉をこなす超一流のサポーターになれるんじゃ?
めっちゃ需要のある商売になるよな? 稼ぎのある探索者なら、超高額のサブスクとして成り立つんじゃ?
今の世の中、サブスクを取り扱った商売が結局一番手堅く強い。これ、冗談抜きでOBATAの主な収入源になるんじゃ?
でも、俺が完全に下位互換になってしまうという大問題があるな。
取り入れるかどうかは、慎重にならねばなるまいて。
「そこまでだ。我儘言ってんじゃねぇぞ」
「まったくだ。会長の手を煩わせてんじゃねぇ!」
「うっ、すまん……」
「なんかすみません。ありがとうございます」
「なに、気にしないでくれ。抜け駆けしようとするバカを絞めるのも俺らの仕事だから」
タケさんとアキラさんを絞めるべく、有志の仲間が二人を引きずっていく。
迷惑だろうに気さくに笑って、手間とも感じていないようだ。
タケさんには失望させられたが、あのように止める側に回ってくれる良識派もいる。小畑会もまだまだ捨てたものじゃ――
「――ッ!? 〜〜〜〜ッ!!!!」
「あら? どうしたのペロちゃん」
「寒いのかしら? むしろ暑いくらいだと思うけど」
感心していると、顔を青くしてガタガタ震えているペロの姿が目に入った。
大丈夫かなと考えていたら、ペロの切羽詰まった声が頭に響いてくる。
(ご主人っ! ご主人っ!)
(どうした? 何があった?)
(皆がっ……皆が僕たちを狙っておりますっ! どうやって抜け駆けしようか、どうやって蹴落とそうか、さっきっからずっと! 笑顔の裏で僕を奪おうと……ッ!?)
ああ、まぁ、うん。やっぱりそうか。
うちにそんなまともな奴はいなかったな……。
顔は笑っているのに、内心では邪悪なことを考えている。それがはっきりと分かるのは怖いだろうな。可哀そうなくらい震えちゃって。
ペロと内緒話ができるのはワクワクして楽しかったし、ペロの考えとかが知れて面白かったんだけど、ペロのことを考えれば【読心】は外すべきかな……。
(ペロ。あとで【読心】外そうか?)
(ひっ――!? い、いやですっ! 外さないでくださいっ!)
(そうか? でも【読心】があると怖いだろ? 外せばそんな心配はなくなるぞ?)
(逆ですっ! ニコニコ笑いながら、その裏で何を考えているか分からない! その方がよっぽど怖いっ! これが無かったら僕はもう生きていけませんっ! 人間は怖いっ! 人間は欲深いっ!)
おっ、おおっ。なんということだ……。
軽い思い付きでスキルを付けてしまったせいで、ペロがすっかり人に対して疑心暗鬼に。
俺はもしかしたら、人を信じられない悲しきモンスターを生み出してしまったのかもしれない。浅はかな考えで、ペロにそんな業を背負わせることになるなんて……ッ!
可哀想だから、あまりホムンクルスに【読心】を持たせないようにするか。だけどメンタルの強い俺のホム嫁には必ず付けよう。
主人の要望を察してお世話をしてくれるだけじゃない。いつも側に控えてくれれば、悪意のある人物を寄せない護衛もできるだろうし。付けない理由がないわ。ますます完璧な妻ができ上がってしまうなこれはっ!
未来の嫁に思いを馳せていたら、調達班のまとめ役の人が声をかけてくる。
「小畑さん。素材調達なんだが、引き続き生産系を持ってそうな魔物を集めるってことでいいか?」
「そうですね。こいつらの仲間をもっと増やさないとですし。あとは【転移】を持つ妖精系。それと〈霊石〉も色んな種類が大量に欲しいです。これ、かなり実験で使うことになるので。それから【空間拡張】持ちのカンガルーですかね?」
電気はひとまずなんとかなりそうだし、【洗浄】の素材は拠点の蜘蛛と同じものをここで作れば解決するから、追加は要らない。替えの利かない素材を集めてきてもらわんと。
「【通信】関係の道具をまず作ってみますんで、それができたらまた素材集めの方をお願いできますか? 帰りながらどこまで通じるか試してほしいんですよ」
「ああ、もちろん。それはこっちも願ったり叶ったりだしな。ただ、ちょっと俺たちからも頼みがあるんだが、いいか?」
「頼み? なんです?」
「人数分の乗り物用のホムンクルス。それから性能の良いアイテムバッグが欲しいんだよ。作ってくれないか?」
『――ちょっと待て!!!!』
なるほど、と俺は納得していたんだが、近くで話を聞いていた人たちが一斉に声を上げた。
「テメェふざけたこと言ってんじゃねえぞ! なにちゃっかり抜け駆けしてんだ!?」
「俺たちがどんだけ我慢してると思ってんだよ! んな我儘が通るわけねぇだろうが!」
「我儘じゃねぇよ! これはマジで必要なことだろうが! またここに来るのに楽に移動できる乗り物は必要だろ!?」
「大量に素材を運ぶのにも、大容量のアイテムバッグが必須でしょ!? どちらも用意できれば時間が半分は短縮できるわよ! 必要経費として要望だしているだけだから! っていうか私たちが素材を集めてきたんだからべつにいいでしょ!?」
周りから一斉に責められた調達班の人たちだったが、必死になって反論している。
こればかりは調達班が正しいよな。真面目な話、調達時間が短縮できるなら用意すべきだし。
まぁ内心、大義名分ありでアイテムを手に入れることができると笑っているんだろうが。皆もそのあたりを分かっているから怒っているんだし。
仕方ない。俺がなだめるしかないか。
「分かりました。移動用のホムンクルスと、今回持ってきてくれた素材を使ってアイテムバッグを作りましょう。あとスライムの宿泊道具も渡しますよ」
「おおっ! さすが小畑さん! いやー、悪いねなんだか。――へへっ」
「小畑さん見たか今の顔! してやったりって笑いやがったぞ!」
「おいおい、言いがかりはよせよ。大人なら優先順位ってもんがあるって分かるだろ?」
「テメェ……よくもまぁぬけぬけと……ッ!」
「まぁまぁ、そんなに怒らないでください。実際、調達班には必要な物ですから仕方ないですよ。それに渡すといっても貸与ですし、彼らに得はそこまでないです」
「えっ? ……あの、小畑さん。貸与なのか?」
「貸与です。小畑会の備品なので。終わったら返してくださいね?」
「あ、そういう。……その、買い取りでもいいんだよ?」
「貸与で。あ、スライムマットレスとかは購入でもいいですよ」
「あ、ああ。ありがとう。よろしく頼むわ……」
調達班の人たちは見るからに気落ちしていた。
夢の乗り物とアイテムバッグが手に入ると思っていたところを、肩透かしをくらったらな。でもしょうがないね。丸く収めるにはこれしかなかったから。
「はい、お前ら~。そろそろ本格的に仕事始めるぞ~」
パンパンと手を叩いてアピールをすれば、ペロたちはこくりと頷き、本格的な生産作業に取り掛かった。
【錬金術】組は、俺が用意してあげた小型の〈錬金釜〉に素材を投入し、座って抱き着くようにして【錬金術】を行う。その姿に遠目から見守る奴らがまた悶えている。
とはいえ、可愛いからといって甘やかすのはよくない。〈錬金術師〉の先達として、何か間違っていたなら指導してやらねば!
と、思っていたんだが……お前たち、なんか普通にできてるね?
まぁ【錬金術】のレベルが4だし、ステータスも中層相当の物があるからな。扱っている素材を考えると、能力的には足りているのか。
スキルが上手く使えるか心配していたが、素体となった魔物の経験が生きているのかな? まったく問題なさそうだ。
これはむしろ口を出した方が邪魔になるまである。こいつらは放っておいて大丈夫かもな。
むしろ、〈鍛冶師〉の二匹の方が興味深い。
昨日の内に聞き取りしたところ、金床とハンマー、それにトングという最低限の道具があれば、【鍛冶】はできるらしい。
という訳で昨日のうちに二匹分の道具は揃えたが、炉もふいごも無いし、金属を冷やす水が入った箱? みたいなやつだって要るよな? これで本当に【鍛冶】ができるのか?
「ヴヴ~……わんっ!」
二匹がむむむっ、と念じていたかと思ったら、金床に置いた金属が一人でに燃え始めた。そして、どんどん金属が赤くなっていく。
自分で火を出して金属を熱してるのか。炉って、確か一千度を普通に超えるんじゃなかったっけ? とんでもないな。
【魔物鑑定】
名称:まっぽ(ホムンクルス モデル:コボルト・スミス)
レベル:――
ステータス:【MP】215【STR】41【CON】31【POW】30【DEX】138【INT】114
スキル:【嗅覚】レベル4【鍛冶】レベル4【鍛冶魔術】レベル3
なるほど。ようするに小鈴ちゃんと同じだな。【鍛冶】に必要なものを賄えるのが【鍛冶魔術】ということか。だから炉がなくても、自分で金属を熱することができると。この分だと自分で水を出したりもできそうだ。
充分に金属が熱したところで、二匹はハンマーを振るい始めた。カンッ、カンッ、と意外と鈍い音が辺りに響く。普通に騒音扱いされると思うのだが、リズムよく叩いているその音を聞いていると、何故だか自然と落ち着くものがあった。
何度か叩いて、また火で燃やして、また叩いて――ああ、なんだかいいなこれ。ちゃんと物を作ってるって感じがする。
いや、もちろん【錬金術】もちゃんと作ってはいるんだが、魔力を込めて調整しているだけだからな。工程が少ないから、傍から見ている分には印象が薄いといいますか。実感しづらいといいますか。
そんなことをつらつらと考えているうちに、いつの間にか二匹共が形成を終えたらしい。水を宙に作りだし、そこへ叩いていた物を突っ込もうとしている。
いや、早くない? こんな簡単にできるものか?
思い返せば、叩く度にあっさり金属の形がどんどん変わっていたような気がする。もしかして【鍛冶】のスキルが働いて、加工しやすくなっているとか?
生産スキルってやっぱりすげぇな。いや、むしろこれくらいできないと、ダンジョン素材を加工するのは難しいのか。
実際、中層くらいの素材からは生産スキルがないと、まったく手が付けられないと聞いたことがあるしな。そんな能力があっても不思議では――
――パキッ!
あ……。
ナイフを作っているであろう、まっぽの方は大丈夫だった。しかし、剣を作っていたブーちゃんの方は水に沈めた瞬間、トングで掴んでいた根物の方から折れてしまった。
ぶーちゃんはトングを水から引き抜き、じっと見つめている。そしてムスッとしたふてぶてしい顔を、スッと俺の方に向けてきた。
……いや、まあブルドッグだからな。そういう風に見えるだけだと思うが。
「……ヴヴッ」
「ああ、まぁ気にするな。失敗は成功の母。失敗しても試行錯誤を重ねればそれでいいんだ。繰り返せば繰り返すだけ、上手くなる。なっ?」
「ヴァンッ! ……お゛お゛お゛ん……ッッ!!」
「大丈夫だよ~! 次頑張ればいいんだよ~!」
「誰も怒らないからね~! よしよしっ、ちょっと休もうか~!」
やっぱり申し訳ないと思っていたらしい。不機嫌そうな顔のまま泣き出したぶーちゃんを、ブサカワ系が好きな人たちが撫でて慰め始めた。
本当に気にしてないから、俺の代わりにそうやって慰めてくれるのはありがたい。しかしニャン〇ゅうみたいな鳴き声だったな。なおさら怒る気が失せたわ。
そして一切それに目を向けず、自分の作業を続行しているまっぽの頼もしいことよ。無情なのか、仕事人なのかは判断が分かれるところであるが……。
そうしている間に、【錬金術】組の方が完成したようだ。
今回三匹に作らせたのは、スライムマットレス。素材としても手ごろで、皆に求められている商品。かといって俺がわざわざ作るにはちょっとめんどいという物。
これを代わりに作ってくれるなら、俺としてはかなり助かるんだが。
「――うん。どれもちゃんと作れているな。偉いぞお前ら」
「わおーんっ!」「わんわんっ!」「わっほーい!」
一言褒めてやれば、三匹で揃って雄叫びを上げ、ハイタッチをして喜んでいる。大変微笑ましい反応なんだが、一匹もう完全に喋ってないか?
「よし。それじゃあとりあえず、三匹で手分けして此処に居る人数分のマットレスから作ってくれるか? いつまでも寝袋だと、疲れが取れないだろうし」
「ワンッ!」
「よーしよし! ペロはいい子だね~! 無理せず頑張るんだよ~!」
代表して敬礼をするペロを、アキラさんがまた頭を撫でて甘やかす。いつの間に近寄ってきたんだこの人……。
「――ワンッ!」
「え~、ママにくれるの? ペロありがと~! 大事にするからね~!」
「ちょっと待てアキラ! 知ってんだぞ! お前もう途中で小畑さんに作ってもらってるだろ!」
「なのに真っ先に貰うってどういうこと!? さすがにそれはおかしいでしょ!?」
「おかしくない! 予備は何枚あったっていいでしょ! ペロの最初の作品だよっ!? 絶対に譲らないからっ!」
そしてここでもまた争いを起こすか。
もう好きにしてくれ……。
呆れつつ、どうやら作業を終えたらしいまっぽの方へ近づく。ちなみにぶーちゃんは未だに女性陣に抱き締められて慰められていた。いや働かせろよ。
「ワンッ!」
「おお、あんがと。どれどれ」
【アイテム鑑定】
〈ブラッドナイフ☆2〉――ブラッドジョーの爪を使用した合金製ナイフ。
【血刃】【切断強化】
【血刃】――対象に切り傷を付けた際、出血量増加。出血時間増加。
ミライさんたちと初めて26層に来た時に戦ったブラッドジョー。その素材が混じっていたから試しに渡してみたが、なんかめっちゃ強そうなスキルが付いてる……。
本当にこいつが作ったの? 俺より凄くない?
「ほう、中々いいナイフだな。ちょっと見せて貰ってもいいか?」
「ああ、はいどうぞ。結構うまくできてるみたいです」
世永さんにブラッドナイフを渡す。様々な角度からナイフを見ていた世永さんは小さく頷いたかと思ったら、止める間もなく指先に軽く刃を当てた。
特に引いたりはしていない。ただ当てただけ。それなのにあっさりと世永さんの皮膚を裂き、つうっと血が流れる。
「素晴らしい切れ味だな。まさかここまでとは……ん? なんだ? なかなか血がとまらん」
「ああ~、【血刃】っていうスキルが付いてまして、出血量と出血時間を増やすらしいです」
「ほう!? それはまた強力なスキルだな。どおりで――あ、ようやく止まった」
「なぁこれ、明らかに〝黒曳〟のジジイの作品より上だよな?」
「ああ、間違いねぇ。ホムンクルスがこのレベルの物を既に作れるとなると、もうあのジジイに頼む必要がなくなるな!」
「あの名工気取りのクソジジイに頭を下げないで済むと考えると、気が楽になるな!」
「むしろこの事実を教えたいまである。お前、犬以下だぞって」
「めっちゃ言いてぇえええ! 犬に負けて絶望するあの爺の姿が見てぇえええ!」
黒曳……ああ、〈五匠〉の〈鍛冶師〉、〝黒曳鉄斎〟とかいう人か。
昔ながらの職人気質、みたいな気難しい人という噂は聞いたことがあるが、皆がこのレベルで喜ぶ人か。よっぽど嫌われてるんだろうな。
というか、マジで小鈴ちゃん以外に〈五匠〉ってまともな人がいないんじゃないか?
ここまで嫌われている奴らが生産者のトップとか、世も末だろ……。
「ともかく、いいできだぞ。よくやった!」
「ワン!」「ヴヴ!」
褒めてやれば、まっぽとぶーちゃんが返事をする。いや、お前は何もやってない……まぁいいか。
「それじゃあ、お前らもこの調子で作って欲しいんだけど……まっぽ。ちょっと疲れてる?」
「クゥーン……」
ちょっと顔色が悪いかと思って聞いてみれば、まっぽは眉を曲げて弱々しい返事をした。
たぶん【鍛冶魔術】使っている分、疲労がデカいのかな?
「やっぱり炉とかふいご。それから水を貯める……まぁ名前は分からんが、道具を揃えた方が楽にできるよな?」
「ワンッ!」「ヴァンッ!」
「だよな。それと目を傷めちゃうから、保護用の眼鏡も作るか。それまではちょっと休んでろ」
ホムンクルス作成用の水槽を使えば、こいつらサイズの炉ならなんとか作れるだろ。保護メガネはどういうのが似合うかな。
まっぽにはゴーグルタイプで、ぶーちゃんにはスポーツサングラスタイプにしようかな。逆でもいいか? これは練習としてペロたちに作らせても――
「楓太君! 今その子たちの眼鏡を作るって言った!?」
「今度はなんですか……」
アキラさんがペロを抱えて、興奮した様子で聞いてきた。
もうまともに受け答えするのもあほらしくなってくるわ。
「眼鏡作るならさ、ペロが着る服も作ろう! オーバーオールに赤いスカーフとかどうかな!? すっごく可愛いと思うんだけど!」
「ペロたちの服ね。まぁありと言えばありなんですけど……」
俺の〈錬金術師の白衣〉みたいに、ステータスの底上げはこいつらも有効だろうし。
ただ、今すぐやるべきことかって言われると微妙なところだし、そして何よりだ。
「俺、動物に服を着せるのはどうかと思うんですよね。それは本当に可愛がっていると言えるのかと。チヨちゃんはどう思う?」
「場合にもよりますけど、犬には天然の毛皮がありますからね~。基本的には飼い主のエゴですねっ!」
「――可愛がり方は人それぞれだろ!!!!」
なんかマジギレしてきた。
そんなに服を着せたかったんかな……。
周りからの説得も通じず、アキラさんが金を払うとまで言ってくれたので、ペロだけじゃなく他の四匹分の服も用意してその日は終わった。
何がアンタをそこまで突き動かすんだと呆れたが……まぁ金を払ってくれることだし、なんだかんだ作って損はない。装備補正を得たペロたちはさらに調子よく生産を進め、どんどん皆の生活と装備を豊かにしていった。
雑用を任せることができて、俺も研究に専念することができた。そしてさらに二日もの時間をかけた結果――とうとう待望の道具が完成した。