軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第109話 喋れなイーヌ

「おお……これは本当に凄いな……」

地面に並べられた各種素材を見て、俺は感嘆の声を漏らした。

いや、本当に感心するしかない。

今まで見た事のない素材だけではなく、便利なスキルを持った使い慣れた素材まで並んでいる。

それが複数体ずつ揃っているのだ。これを全部集めるのに、一体どれだけの苦労したのか。

気軽に頼んじゃったけど、なんだか申しわけなくなってきたな。

「皆さん、本当にお疲れ様でした。ありがとうございます」

「いいよいいよ、気にするなって」

「それよりも会長! 早く調べて!」

「その通り! それ次第で俺たちの未来が変わるんだから!」

それもそうか。お礼なら言葉じゃなく、この素材を使って還元した方がよっぽどいい。

本当に目的のアイテムが作れるかはまだ分からんが、とりあえず持っているスキルだけでも確認しないと。

とりあえず、分かりやすいところから。

「これは電気関係の素材ですね?」

「ああ、こいつらは楽だったな。求められる性能が一般家庭で必要な電力程度だからな。という訳で、低層で電気を発する素材を片っ端から持ってきた」

その言葉通り、珍しくはないが様々な電気に関連する素材が並んでいる。

発電器官を持つカタツムリ型の魔物――〈ライデンスネイル〉。

小型のデンキウナギといった魔物――〈ボルトフィッシュ〉。

微弱な電気を発している鉱石――〈雷晶石〉。

水分を吸うことで電気を発生させる変わり種――〈帯電苔〉。

どれもが狙った通り、【発電】、【充電】といったスキルを持っている。

これなら当然レシピも――

「よし、発電機が作れますね。これで携帯の充電にも困らなくなります」

「よっしゃ。これでもう充電の節約とか考えないでいいな」

「夜更かししてゲームもできるね」

「いや、それよりももっと重要なことがあると思うんですけど……」

喜ぶ俺たちに、七緒ちゃんが呆れた目を向けてくる。

分かってないな。俺たちにとっては死活問題だし、現代人が生きていくなら電気は必須でしょ!

まぁ、優先順位が落ちるというのはそうかもしれないけど。

「それで、これが妖精種ですか。その、なんていうか……」

正直、考えてすらいなかったな。

俺の膝くらいの高さまでしかない、女の子の死体が並んでいる。

ミニスカだったり、古めかしいドレスを着た可愛い女の子が……その死体が、何体も……。

そんな妖精種の魔物の死体を見て、チヨちゃんは涙目になっていた。

「あの、なんかすっごく罪悪感が……ッ!」

「ああ、俺もだよ。とんでもなく罪深いことをしてしまったんじゃ……」

「さすがにこれは僕でもちょっと怖気づくね……」

あの伊波でさえ、少し顔を青ざめている。

でも無理もねぇよ。だって見た目はミニサイズの女の子だもん。

絵面が完全に犯罪なんだよ……ッ!

「罪悪感を持つ必要はねぇ。こいつらはマジでただの害虫だ」

そんな俺たちに、トシさんは冷たい声で言った。

ふんっ、と。鼻を鳴らして妖精たちを見下ろす。

「実際の妖精の伝承には、わりとエグイ内容があるだろ? 人間と価値観が違うから、平気で鬼畜染みたことをするやつだ。こいつらはそれを地で行くタイプだぞ」

「トシの言う通りだ。もう助からない人間をあえて放置し、苦しんでいる姿を見てゲラゲラ笑っているこいつらを見たことがある。俺は当然そいつらを皆殺しにしたが、自分がやられる立場となったら被害者面して、人の言葉で罵声を浴びせた挙句に命乞いまでしてくるんだ。あれは本気で胸糞悪かった」

腕組みをしながら、世永さんもトシさんに同意した。

だがとんでもない鬼畜だな。そっち系なのかこいつら。

何も知らずに出会わなくて良かった。俺たちだけで戦ったら、この可愛い外見に騙されて同じ末路を辿っていたかもしれん。

だけどこんなに可愛いと、分かってはいても躊躇いそうだな。

俺たちですらこんなに苦しいんだから、川辺はもっとキツイんじゃ……。

ちょっと心配して川辺を窺う。すると川辺は――じっとりとした目で妖精たちを眺めていた。

「………………」

「川辺。正気に戻れ」

「おっ!? お、おう。兵藤さん、すみません」

「いや、いい。俺たちもお前の気持ちは分かる。だがあれは魔物だ。そして死体だ。超えてはいけない一線がある――分かるな?」

「え、ええ。もちろんですよ。大丈夫です、手を出そうとかそんな……」

アイツを心配した俺がバカだった。

っていうか、アイツの方がよっぽどヤバかった。

俺は川辺の危険性を低く見積もっていたらしい。

いざとなったら、俺がアイツを殺すことを考えなければならんかもしれん。親友として。

【アイテム鑑定】

〈アークピクシー〉――【魔弾】【幻惑】【鱗粉】【短距離転移】

〈シルキー〉――【家事】 【家中駆け(ハウスラン) 】

【短距離転移】――視界の範囲で転移を可能とする。(距離に比例して魔力消費増大)

【家中駆け】――家の中でのみ、転移を可能とする。

「意外だわ。シルキーにも転移系のスキルがある。こっちは家の中限定だけど」

「そうなのかい? いや、家事に特化した妖精と考えれば納得はいくのか」

思わぬ幸運だったな。でも、両方とも短距離の転移なんだよな。

「嫁ンクルスのための【家事】が確保できたとはいえ、【転移】が短距離となると成果としては今一つか?」

「いや~……そんなことないでしょ~……確かに用途は変わるかもだけど~……私が戦闘中に使えるようになったら~……とんでもないことになるよ~……」

「確かに。アキラがもし自在に瞬間移動してくると考えたら」

「絶対に戦いたくないわね」

真帆さんとミライさんが嫌そうに眉を顰める。

ただでさえ素早い〈斥候〉系の人間が本当に姿を消すんだもんな。

気が付いたら後ろからナイフを首に突きつけられているとか、恐ろしすぎる。

短距離の転移だから、目的のファストトラベルアイテムが作れるかどうかは研究次第ではあるけど、まぁ収穫があったと見ていいだろう。

「そんで、これが死霊系の〈霊石〉ってやつですか」

今回の拠点製作において、転移以上に重要な素材。

【通信】に繋がる素材があるかもしれない、死霊系の魔物から取れる〈霊石〉である。

死霊系の魔物は通常の魔物と違い、討伐しても死体が残らない。

魔力的というか、エネルギー体とでもいうべき魔物であり、生きている間は物理攻撃も通る実体があるのだが、死んでしまえば文字通り消えてしまうのだ。(死霊を生きていると言うのもまた変な話だが)

ちなみに物理攻撃も通るがスライム並みに効きづらく、やはり【魔術】系統の攻撃で戦うか、死霊特効の【浄化】系スキルで戦うのがセオリーらしい。

で、この死霊系。素材としての肉体は落とさない代わりに、こういった〈霊石〉というアイテムだったり、特殊な装備やアイテムを落とすことがあるようだ。

なんでも、この〈霊石〉が死霊系の魔物のエネルギーを結晶化したアイテムなんだとか。これが死霊の死体といってもいいかもしれない。

この〈霊石〉、魔力的な素材として便利なものであり、属性付きの装備を作ったり、これもまたポーションの素材として使っているらしい。

確かに〈霊石〉をこうして初めて手に取った訳だが、一気に頭の中にレシピが浮かんできた。今の俺なら、これを使ってとんでもない性能の装備が作れるかもな。

とはいえ、今重要なのはこの〈霊石〉に眠るスキルの方だ。

目当ての物があればいいんだが――

〈バキュームレイスの霊石〉――【吸精】

〈ウィスパーソウルの霊石〉――【念話】

〈レゾナンスゴーストの霊石〉――【共鳴】

〈バウンドシェイドの霊石〉――【地縛再生】

〈ポルターガイストの霊石〉――【念動力】

〈ワイルドマインドの霊石〉――【精神干渉】

〈マインドレイスの霊石〉――【読心】

――待て。待て待て待て待て待て。

ちょっと、本当に待ってくれ。

なんか予想外にヤバいのが混じっていないか!?

「その、いろんな種類の霊石が混じってますね?」

「あー、それなぁ。どいつが【通信】に近いスキルを持っているか分からなかったからな。片っ端から目についた奴を狩ってくるしかなかったんだよ」

「収納系のスキルを持っていそうなカンガルーとか、他にも狩りに行かなくちゃいけない奴らも多かったから、死霊系に関しては結局中層までのものしか獲ってこれなかったのよね。その分、種類は揃えたつもりだけど……」

「なるほど。ちなみにこのマインドレイスってのはどういう奴です?」

「中層の雑魚だな。狩ろうとするとすぐ逃げるし、戦えばヒラヒラこっちの攻撃を避けて結構面倒なんだぜ? 狩るのが大変なだけで襲ったりはしてこないから、いつもは無視するんだけどな」

でしょうね。【読心】なんてスキルを持ってれば、そりゃ避けるのも得意だわ。

他にもヤバそうなスキルが揃ってやがる。しかもこのラインナップ……もしかして死霊系の魔物って、超能力系のスキルを網羅してるんじゃないか?

しかもこれ、中層以下で揃うんだろ?

ヤバくないかこれ? ホムンクルスよりよっぽど重要な情報なんじゃないか?

【念動力】なんかは戦闘でも使えるし、【読心】とか【地縛再生】とかは警察関係者が喉から手が出るほど欲しがるだろう。

【精神干渉】が悪党に知られたら、とんでもないことになる。

っていうか、これだけ凄い素材の価値をまだ分かってねぇのかよ。世の生産職の連中は今まで何してたんだ……?

「それで、どうかしら? お目当てのアイテムは作れそう?」

「そうですね。この〈ウィスパーソウルの霊石〉と、〈レゾナンスゴーストの霊石〉でそれっぽいのが作れるかもしれません」

「よし、最低限の要求はクリアだな」

「ええ、本当に良かった。苦労した甲斐があったわ。ところで、他の奴にはどんなスキルが付いてるのかしら?」

「ああ~、ちょっと判断しづらいのばかりですね。でも、これも研究次第で面白いものが作れそうなんで、また獲ってきてもらっていいですか?」

さすがにこれは小畑会のメンバーだろうと気軽に話せないわ。

自分でちょっと実験して、成果が出てからその性能次第で相談しよう。

【念動力】とかはともかく、一部マジで厄いから触りたくもないんだが、そうもいかねぇしな……。

自分で使うのではなく、対応策を考えるためにも研究せねば。

さて、あと見るべきものといったら、カンガルーの死体くらいか。

ぱっと【鑑定】してみれば、しっかり【空間拡張(小)】の文字が。これには俺もにっこり。より便利なアイテムバッグが作れるようになりますね!

気になるところも一通り見終わったので、いよいよ本命といこう。

「これがコボルトか。実物は初めて見るな」

犬を人型にしたような魔物、コボルト。

ゴブリンやオークと同じくらい、メジャーな魔物と言っていいだろう。

「意外と怖い顔してるな……」

「確かに。生きていたら噛みちぎられそうだな」

「そうですか? カッコよくていいじゃないですか!」

怖気付く俺や川辺とは違い、チヨちゃんの勇ましいことよ。

この子、犬ならなんでもよくなってないか?

「ところで、なんでコボルトだけなんです? ゴブリンとかは? まぁコロニーを一つ潰すのも大変だとは思いますけど」

「あー、俺らはそうしようかと思ったんだけど……ほら。女どもがよ」

「たとえホムンクルスといえど、ゴブリンなんて仲間に置きたくないわ」

「ゴブリンでないと無理なら諦めるけど、コボルトで済むならそうしたいわね」

「あー、なるほど。そりゃそうですね」

この世界のゴブリンは決して18禁的な、女性を襲うような存在ではない。まぁ人は殺しにかかるし、甚振る残虐性があるけど。

ただまぁ、見た目がやはり嫌悪感が強い。可愛いタイプのゴブリンではないんだよな。そりゃ女性ならなおさら嫌がるか。

その点、まだ犬の面影があるコボルトの方がマシかもしれない。

まぁ俺はどっちでもいいけどね、スキルさえあれば。

「生意気に生産職っぽいエプロンをつけてますね。んでこっちはゴーグルのような……〈鍛冶師〉か?」

これは確かに生産職っぽい。期待が持てるわ。

というか、マジでそうであってくれ!

俺のエンジョイ生産ライフがかかってるんだ!

俺をブラック環境から救ってくれ。頼む! 本当に頼むぞ!

皆が注目する中、俺はお祈りを捧げて――【鑑定】!

【アイテム鑑定】

コボルト・アルケミー――【嗅覚】【錬金術】

コボルト・スミス――【嗅覚】【鍛治】

「【錬金術】と【鍛冶】確認!!」

『――いよぉおおおおおおおおし!!!!』

一斉に歓声が上がる。そして皆がバシバシと調達班の肩を叩いて讃える。

「よくやった! 本当によくやった!」

「ああ! これで小畑会の覇権がまた一歩近づいた!」

「ゲハハハハハ! 小畑会が日本を支配する日も近い!」

一部過激な者もいるが。まぁその気持ちも分からなくもない。

これでホムンクルスを作るだけで、他の探索者にはない兵站が完成するようなものなのだから。

勝ちの決まった戦に出るようなものよ。勝ったな! 風呂入ってくる! ガハハハ!

……俺はなるべく止める側に回ろう。別に表立って日本の支配者になるつもりはないんだ。

ただ影の支配者になれればそれでいい。バレずに密かに実権握って、金を稼げればそれに越したことはない。

日本、そして経済とは――小畑会のためにある!!

「それじゃあさっそくホムンクルスを作りますけど、いいですよね?」

「作れ作れ。誰も止めるわけねぇから」

「これで少しは楓太が休めるようになるね。今日の夜はゲームして遊ぼうか」

「俺も混ぜて欲しいンゴ」

「お前ら……ッ!」

友の優しさが目に染みるンゴ〜。

さて、茶番はここまでにして、真面目にやるか。

盛大に素材をぶち込んで強化した【錬金術】コボルトを作りたいところだが、最初の一体だしな。基礎的な能力を知りたいし、そのままでいいか。

……いや、ちょっとスキルの実験はしてもいいかもな。やってみるか?

とりあえず失敗したくないし、念を入れて一体だけ集中して作ろう。

〈錬金釜〉にコボルトを運んでもらい、水を投入。そして皆から見えないようにさりげな~く素材をぶちこみ、準備ができたところで魔力を注ぎ込む。

これで錬金ホムが仲間になると思うと、感慨深いな。

そんなホムンクルスたちに指示を出す自分を想像するだけで、誇らしくなる。

……でも、ちょっと怖いかな。

いや、ホムンクルスの忠義を疑うわけじゃないけど、いつ襲われてもおかしくないような見た目の魔物が側にいると、落ち着かない気がする。

どうにか可愛くできねぇかな?

狼じゃなくて、犬。それも子犬っぽくして、体も小さくするのはどうだ?

四頭身くらいの抱えられるような小人サイズで、性格も人懐っこくて愛らしい、なんだったらあざといくらいにすれば人気出そうな?

ハスキーのようなアホイーヌとか、ピッタリかもしれん。

生まれてくるホムンクルスに思いを馳せ、俺は【錬金術】に集中していた。

♦ ♦

そうして一時間の生産を終え、さらに放置してもう一時間。

ホムンクルスが完成し、立ち上がる瞬間を、皆が固唾を飲んで見守っていた。

じっと〈錬金釜〉を見つめていると、中から〈錬金釜〉の縁をハシッと掴む手――いや、前足が出てきた。

そのすぐ後に、ひょこりとそいつは頭を出す。

ハスキーのような毛並みの、犬の頭を。

「えっ……え!?」

「かっ、可愛っ……ッ!?」

チヨちゃんを初めとした女性陣が、思わず小さな声を漏らす。

頬を赤らめたり、声を抑えようと口元を抑えたり、興奮を隠しきれていない。男も似たような者だ。

皆がより夢中になって観察している中、そいつは〈錬金釜〉から出ようと必死になっていた。

頭と前足を出して、脇の下まで縁に引っ掛けている。だが身長が足りないのか、中々出てこれないようだ。出れなイーヌってか。

んーしょっ、んーしょっと、何度も体を揺らしている。えいやっ、と力を入れて、今度は勢い余ったらしい。

尻を見せつつ落ちたそいつは、ポフッと地面に着地。そしてゴロンと一回転。仰向けで空を見ていたと思ったら、むくっと起き上がり――コテンとこちらを見て首を傾げた。

あっ、あざとい! あざとすぎる! でも可愛い! 完璧かよ!

こうなって欲しいと思いながら作ったが、まさかここまで完璧に生まれてくるとは思いもしなかったわ。

「きゃああああああああああ!!!!!!」

皆がその愛くるしさに悶えている中、嬉しい悲鳴を上げた人がいた。

――犬好きのアキラさんである。

「なにこの子!? なにこの子!? 嘘でしょ!? 可愛すぎるぅ!!」

ヒュン、と姿を消したと思ったら、アキラさんはいつの間にかホムンクルスを抱き抱えていた。速すぎる。マジで姿が見えなかったんだが。

「あっ。いや、ちょっとアキラずるいでしょ! 私にも抱かせて!」

「私も! 私もお願いっ!」

普段の姿からは考えられないほどのハイテンションで、皆が呆気に取られていた。

が、正気を取り戻した女性陣が次々に押し寄せる。

俺の隣で踏みとどまっていた七緒ちゃんが、ウズウズしながら俺に尋ねる。

「どうしたんですかあの子? さっきのと全然姿が違うじゃないですか!」

「いやー、可愛いハスキー作れないかなーとは思っていたけど、あそこまで上手くいくとは……」

毛並みとか顔つきとか、コボルトとだいぶ違うけど、同じ犬系統なら割と融通が効くのかな? これならどんな犬種でも再現できそう。

次はサモエドとかやってみようかな。あとシェパードとかドーベルマンのカッコイイ系とか。あるいはパグとかブルドッグみたいなブサカワ系もいいかも。

「凄く可愛いですっ! これからあんな子たちが増えるんですよね!? 想像するだけで楽しみ――私も行ってきます!」

「あっ、チヨずるい! 私も!」

とうとう七海姉妹まで耐えきれずに行ってしまった。

彼女たちの反応からして、どうやら高評価のようだ。我ながら素晴らしいホムンクルスを作ってしまったようだな。

ウケが良すぎて、ちょっとやりすぎたかと思わなくもないが。

「ペロ! 君の名前はペロだよ! 今日から君はうちの子だよ〜! 私がアキラママだよ〜?」

「ずるっ!? 私だって名前付けたいんだけど!」

「さすがにそれは横暴でしょ! 皆で決めましょうよ!」

アキラさんはとうとう名付けまでし始めた。別にいいんだけど、せめて許可くらいは取ってくれんか?

普段ののんびり口調はどこ行った。暴走しすぎだろ。というかなに勝手にお前の子にしてんだ。ママじゃねぇんだわ。百歩譲ってもオバサンだろ、図々しい。

「ダメ! この子はウチの子だから! ペロ以外にありえな――今アキラママって言った!? ほら、この子も望んでいるしやっぱりウチの子だよ!」

「幻聴でしょ。都合の良いこと言ってんじゃないわよ」

「ここまで来ると痛々しいわね。少し冷静になったわ。でもその子は抱かせてよ!?」

「幻聴じゃないから! 絶対言ったから! やっぱり運命だよ! この子は私が引き取るから!」

冷めた目を向けられながら、アキラさんは必死に声を張っている。

どう考えてもおかしいのはアキラさんの方なんだが、幻聴じゃない可能性が高いんだよな……。

【魔物鑑定】

名称:ペロ (モデル:コボルト・アルケミー)

レベル:――

ステータス:【MP】225【STR】26【CON】27【POW】36【DEX】151【INT】139

スキル:【嗅覚】レベル4【錬金術】レベル4【念話】レベル3【読心】レベル4

名前がすっかりペロになってしまっているが、まぁいい。それよりも大事なのはスキルだ。

試しにと密かに仕込んだ【念話】が発動しちゃったかもしれん。他にはバレないようにと指示を出しておくつもりだったが、まさかアキラさんがあそこまで暴走するとは思ってなかった。

とはいえ、これ以上ミスを重ねるわけにはいかない。なんとかしてペロに伝えなければ。

幸い、あいつには【読心】を仕込んでいる。どの程度の効果があるのかはしらんが、簡単な意思疎通はできる可能性がある!

(ペロ! ペロ! 聞こえるか? 聞こえたらこっちを見ろ!)

頭で必死に念じたら、アキラさんに抱きしめながら女性陣に撫でられているペロが、ハッと表情を変えてこっちを見た。

おお、これは通じたのでは?

(ペロ、俺の言葉が伝わっているか? 聞こえたらなんでもいいから、俺だけに【念話】で合図しろ!)

おそらく、その想いが伝わったのだろう。

ペロは俺の方を見たまま、キリッと目つきを変えた。

(ファ◯チキください)

(こいつ直接脳内に……ッ!)

――じゃねぇんだよ。

なにやらせてんだお前。んでなにやってんだお前。

どこで覚えてきたんだそんなの。

(あ〜、ペロ。俺の声が聞こえてる?)

(はっ! 聞こえております! 御主人!)

(おおっ。お前そんな口調なのか……)

可愛い外見で意外と堅苦しい口調だな。

というか、ハスキーのくせに頭良さそう。

(とりあえず、【念話】で話していいのは俺だけだ。いいな?)

(はっ! 了解ですっ!)

――ビシッ!

「はぁぁぁぁ〜……ッ!? 教えてないのに敬礼までぇ……? 頭いいよペロ〜……ッ! ウチの子は天才だよ〜……ッ!」

ばっちり敬礼を決めるペロに、アキラさんはメロメロだった。

なにやってんだあのアホイーヌ。ビシッ、じゃねぇんだよ。やっぱりハスキーだわあいつ。

こっちを見るな! いちいちアクションを見せるな! バレるだろうが!

(ペロ。バレるからいちいち反応はせんでいい。自然体でいなさい)

(ブラジャー。それではハニトラによる懐柔任務を続行します)

やめろ、天城さんじゃねぇんだぞ。

というか、ハニトラ……懐柔任務って……いやまぁ、似たようなもんかもしれんけど!

これは、俺か? もしかして俺のせいなのか? 親に似たからああなってしまった? 認めたくねぇんだけど……。

――ひしっ!

「はぁぁぁあああああ……ッ! もうこれ相思相愛だよぉ……!」

「アキラ! ねぇちょっと! いい加減代われ!」

「これ以上は本当に怒るよ!? ねぇ!?」

ペロが体を回してアキラさんを抱き締めれば、真帆さんに続いて他の女性が、我慢の限界とばかりに騒ぎ出す。

ただでさえ可愛いのにあんなに人懐っこいところを見せて、それを独占していたらな。そりゃ怒るよな。

ただまぁ、ペロも別にアキラさんを嫌がってないっていうのがな。【読心】があるから、ストレートに好意が伝わってくるせいかな?

好きになってくれる相手だから、自分も安心して好意を見せられるっていう。そんな奴が積極的に愛想を振りまいていると考えると、マスコットとしてはマジで強いなこれ。

(ペロ。アキラさんのこと好き?)

(はっ! アキラママは良い匂いがするから好きですっ!)

(ママじゃねぇんだけど、まぁいいか。――ちなみにどんな匂い?)

(熟れた果実の匂いであります!)

熟れ……ッ!

「ぐふんっ……んっ、んんんんっ……」

「どうしたんお前? 空になんかあんのか?」

「いや、別に。なんでもない……」

川辺が釣られて空を見上げている。

まじでそこには何もないぞ。笑うのを堪えただけだから、気にしないでくれ。

「アキラ、そろそろ交代しましょう。さすがの私も怒るわよ」

「……あまりウチの子を虐めないようにね」

「虐めないし、アキラの子じゃないわよ。さぁペロ、こっちに――あら。フフッ、素直で可愛いわねぇ」

さすがのアキラさんも、ミライさんには逆らえなかったようだ。

アキラさんがペロを差し出すと、ペロは自分からミライさんに飛びついた。それに、ミライさんもまんざらでもない。

まぁミライさんなら動物も本性を見抜いて、逃げてもおかしくないからな。ああも懐いたらそりゃ可愛いだろう。

(ペロ、ミライさんは好き?)

(はっ! ミライ様も可愛がってくれるので好きですっ!)

様付けか。早くもミライさんの危険に気づいたようだ。

さすがに動物型。危機察知能力が高い。

(そっか、それなら甘えさせてもらいなさい。――ところでミライさんの匂いはどう?)

(はっ! ドライフラワーみたいな感じでありますっ!)

ドライ……枯れ――ッ!!

「ぶぼっ……ッ!」

「汚なっ!? どうしたんだい、いきなり。鼻水なんか出して」

「……く、クシャミを我慢しようと思って」

「いや絶対になんかあるだろ。お前なんか隠してねぇ?」

すまない。今はお前らにも言えないんだ。

言って周りにバレたが最後、俺はあの二人に間違いなく殺される。

ペロは次から次へと女性陣に回され、まんざらでもなく喜んでいる。

そんなペロに、危機感を覚えたのかもしれない。

焦った顔をしていたアキラさんは、バッと俺の方を見た。

「――楓太君!!」

「なんです?」

「頂戴!!」

「やるわけないが?」

なに言っちゃってんだあのオバサン。

OBATA期待の新人だぞそいつは。渡すわけねぇだろ。

だというのに、アキラさんは愕然としていた。

「なんで!? こんなに相思相愛なのに!? 愛し合う親子を引き裂くの!?」

「別に相思相愛って訳じゃないですよ。ペロは誰でも好きなだけです」

「そんなことない! 私が一番好かれてる! 私が一番よく分かってる!」

「気のせいですよ。というかアキラさん、別にペロじゃなくたって好きでしょ? 前にゴールデンが一番好きって言いましたよね? 余裕ができたら作ってあげますから、ペロは駄目。【錬金術】持ちは貴重なんですから」

「ゴールデンは好きだけど、そういうのじゃないの! 運命なの! 一目見た時から分かったの! この子は私の為に生まれてきたの!」

思い込みだよ。本当に暴走しまくってんな。

こりゃ一刻も早く引き離した方がいいわ。

「はいはい、いくら言っても駄目なもんは駄目です。ペロ、こっちおいで」

「ワンッ!」

「あぁっ……!」

命令に従い、ペロは抱き締めていた女性を優しく振り解くと、こっちに歩き出す。

そんなペロに、絶望した顔でアキラさんは手を伸ばしていた。

まさかここまで夢中になるとは思わなかったな。

でも、逆に言えばそれだけ求められているというわけだよな。

ここでトドメを刺しておけば、いくらでも金を巻き上げられそうな気も……。

ちらっと、そんなあくどいことを考えただけなのだが、それを読み取ったのかもしれない。

ピンッ、とペロは耳を立て、完璧な対応をした。

――テクテク、チラッ。

――テクテク、チラッ。

――クゥーン……。

「――わぁあああああああああああ!?!?!?」

ペロは歩きながら時々、チラッとアキラさん方を振り返り、また歩く。そして寂しげな背中と、鳴き声。

アキラさんは発狂したような叫びを上げ、頭を抱えてうずくまった。

「――大好きじゃん!!」

何が?

「――私のこと大好きじゃん!!!!」

演技だよ。

「なのに私から引き離すなんて、こんなの駄目だよっ! お願い楓太君! お金なら一億でも二億でも払うから! なんだったら私を好きにしていいからっ! 愛人にでもなんでもなるから! だからぁああああああ!」

「いや、さすがに落ち着けアキラ」

「ここまでくると本当に引くわね」

今にも飛び掛かってきそうなアキラさんを、タケさんと真帆さんが抑える。

しかしまぁ、アキラさんは完全に落ちたな。

あそこまで求めてくれるなら、まぁ払うもんを払ってくれるなら譲ってもいいかもしれない。ペロも幸せだし、俺も得するし。

でも、アキラさんにはもうちょっと冷静になってもらいたいところだ。自分の価値は正確に捉えてほしい。

愛人になったところで誰が喜ぶというんだ。

♦ ♦

【探索のヒント! その四十一】

〈ホムンクルスの性格と知識〉

ホムンクルスの性格は、意識的、無意識的問わず、作成者がこうあれと望んだ形に定まる。

優しくあれと望めば、誰にでも愛を与える博愛主義者に。

勇敢であれ望めば、死地にも飛び込む命知らずの戦士に。

こうあって欲しい、こんな行動をとってほしい。製作者の望んだ人格を持って生まれ、そうあるべく振る舞う。それがホムンクルスの生態である。

ちなみに特に指定がない場合、感情が薄く情緒が育っていない子供のような性格となる。

もちろん性格を指定されたホムンクルスも同じだが、特にこちらの場合は生まれてからどのような生活をするかで、それぞれ性格が大きく変わっていくだろう。環境で人格が形成されていくのは、人もホムンクルスも変わらない。

しかしホムンクルスの行動は、所持する知識に準じた行動しか取れないという問題がある。

そしてその知識は、製作者の知識がそのままホムンクルスに反映される形となる。

知識が足りない、あるいは逆に余計な知識を持っている。製作者次第ではそんな問題が起こりえる。

いくら製作者がこうあれと望んだとしても、ホムンクルスは製作者の知識以上の行動を取ることはできないのだ。

結果、いかにホムンクルスの頭脳が優れていたとしても、製作者の誤った知識をそのまま実践してしまい、言動と行動がチグハグなことになってしまうこともある。

製作者の知識がたかが知れたものであれば、せっかくの知能も活かしきれない。楓太が日本という、世界的に見ても高いモラルと高度な教育を受けることができる国で育ったことは、ホムンクルスにとって不幸中の幸いであっただろう。

ホムンクルスもまた、知識面における成長はできるとはいえ、親が馬鹿だと子が苦労する。

――親ガチャと言う言葉は、人間だけの話ではない。