軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第111話 文明開化の音がする

ペロたちの存在は本当に助かった。

皆の生活環境。そして深層にも通じる装備を作れることで、俺が研究に集中することができたからだ。

初日に失敗していたブーちゃんも、ステータスを補強する服を着ているせいか、今ではちゃんと作品を作れているしな。アキラさんの要望通り、ハイホルダーに色違いのスカーフというお揃いの格好は、見ていて微笑ましい。

目で癒される上に、作ったアイテムはとても便利となれば、皆がますます夢中になるのは当然と言える。

というか、なんだったら俺が作るより喜ばれている。

やはり奴らのせいで俺の存在が軽くなったというか。作ったのは間違いだったのではと思わなくも……い、いかん。ペロを傷つけることになってしまう。この黒い気持ちは消さなければ!

複雑な気分を感じつつ、俺にしかできないことがあると言い聞かせ、俺は研究に専念した。

素材を直に観察することで、何が作れるかが頭に浮かぶ。それが生産系スキルに内包されている生産レシピだ。

このレシピは生産スキルが成長したり、素材を深く観察したりすることで、爆発的に内容が増えたりする。

ただし、このレシピで全てのアイテムが作れるというわけではない。レシピで現れるのはあくまで基礎のようなものであり、そこに望みのアイテムがあるとは限らない。

本当に欲しいアイテムが作りたいなら、自分でさらに調整したり、発展させたりしなければならないのだ。この自由度の高さを活かせるかどうかが、本当の意味で生産者の腕ということなのだろう。

ちなみにこのあたりのことを小鈴ちゃんに確認したら、やっぱり同じだったが、彼女はごく自然にアレンジをしていた。

当日の食材の良しあし、気温や湿度の変化。そして食す人の好みに合わせて味の調整するのは、〈料理人〉として当たり前だからと。

まさしくプロだと脱帽したわ。俺はたまたま【錬金術】を得ただけの偽物クリエイターだということか。

ま、まぁいい。ともかくそうやって微調整を繰り返して、できたのがこいつらだ。

〈ダンジョン通信機〉――ダンジョン内での会話を可能にする。有効範囲一層。

まぁ説明するまでもなく、ただのトランシーバーだ。野暮ったいからカッコよく、D―Comとでも呼ぼうか。

これは意外と簡単に作れて、金属素材に【念話】を組み込むだけで行けた。同じ階層内という制限はあるが、どこでも会話ができて頑丈。そして通信強度も強い。まぁネットインフラを作る叩き台みたいなもんかな。

俺としては今ひとつと思ったのだが、小畑会の皆は揃ってそれを否定した。

同じ階層内であれ、離れた仲間に連絡を取れるんだから有用すぎる。

これがあるなら、不安なく仲間と離れて行動することもでき、より効率よく動けると。

特に素材調達班の人たちが熱望していた。確かに効率よく素材を集めるなら、必要な道具だよな。

欠点と言えば、対となる物同士でしか繋がらないことだろうか。

いずれは本物のトランシーバーのように、チャンネルを合わせるだけでどれとも繋がるように改良したい。まぁそれも可能になりそうな素材もあるし、おいおい作ろうと思う。

んで、本命がこれだ。

〈魔力通信変換核〉――地上の電波を受け取り、ダンジョン内まで伸ばす。範囲五層。

〈魔力通信補助端末〉――〈魔力通信変換核〉の有効範囲内における通信を可能にする。

〈魔力通信変換核〉と〈魔力通信補助端末〉は、親機と子機の関係だ。

〈魔力通信変換核〉が、スマホで言うところの基地局、アンテナ。そして〈魔力通信補助端末〉が、スマホのモデムとアンテナみたいな。

ダンジョン内で通信関係が死んでいるのは、空間が魔力で満ちているからだそうだ。その魔力が干渉しているせいで、電波を妨害してしまうらしい。

この〈魔力通信変換核〉は、本来ダンジョン内まで届かない電波をダンジョン内に引き込み、魔力波に変換。その魔力波がダンジョン内を飛び、〈魔力通信補助端末〉で更に電波に変換することで、そのまま通信を可能にする。

〈魔力通信変換核〉は中継器を兼ね、適切な範囲で設置すればどこまでも電波が届く。理論上、これを設置し続ければどんなダンジョンでも通信が繋がり、子機を持ち歩けばどこでもネットが使えるようになるという訳だ。

まぁ何かしらの瑕疵がありそうだが、それは試しながらおいおい探せばいいだろう。

「ということは、これを五階層毎に設置する必要があるんだな」

「そういうことです」

話が早くて助かる。

ほー、と感心した声を上げる素材調達班の人たちに、改めてお願いする。

「地上に帰るついでに、こいつを設置していってほしいんですよ。誰にも見つからなくて、魔物にも壊されない場所に、上手く隠して。いっそのこと埋めても構いません。これを一層まで設置し終えたら……」

「子機さえあればどこでもネットが使えるようになる、ということか。そしてダンジョン内のどこでも連絡が取れるようになると。願ってもない、任せろ」

「じゃあお願いします。あ、言うまでもないですけど、どこに設置したか忘れないようにしてくださいね?」

「わはははは! 分かってるって! そんな心配するな!」

調達班の人たちは、興奮を抑えきれないように頷く。

雑用を頼んだのに、快く引き受けてくれて本当にありがたいわ~。

「それじゃあダチョウが完成したら出発、ということでいいか?」

「ええ。今日中に作るので、明日出発ということで」

「ああ。それと、このダチョウはさすがに買わせてもらえるよな?」

「もちろんです。さすがに相棒となるホムンクルスを返せとまでは――」

「ちょっと待て」

順調に打ち合わせをしていたら、物言いが入った。

一体誰だと思えば……はぁ、トシさんか。

「なんですか?」

「楓太! なんだその顔! 俺が声かけちゃ悪いってのか!?」

「いや、悪いとは言いませんけど。もう何を言うか大体わかってるから……」

いい加減にしてくれないかな、って呆れているだけだ。

俺の発言に、トシさんは心外そうに顔をしかめる。

「お前っ、そんな冷たいこと言うなよ! もしかしたら重要なことかもしれねぇだろうがよ!」

「ええ~。じゃあ聞きますけど、なんですか?」

「そいつらより先に、俺に作ってくれ」

ほら見ろ。やっぱり聞くまでもなかった。

「だからダメですって。真面目に調達班の方が必要なんだから」

「トシよー。さすがにしつけぇぞお前」

「しつこくもなるわ! どんだけ俺らが足になるホムンクルスを待っていると思ってんだよ! それが調達班ってだけで優遇されてんだぞ!?」

「それを言ったら拠点組のテメェらの方が優遇されてんだろうが! 誰のために俺らが素材を取ってきてると思ってんだ!? じゃあお前、俺たちと代わってくれるのか!?」

いや、これは本当に調達班の言う通りなんだよな。

にも関わらず優先してよこせとはどういうことなのかと。

というかさ――

「作ってあげたくても、素材がないんですよ。調達班の人数分さえ揃ってないし」

調達班の人たちはフルメンバーのパーティが二つ、つまり十二人。

持ってきてくれた【学習】スキルの素材である、猿の頭は全部で八つ。なんとも半端な数だ。

まぁ二人乗りでもいいって人もいるみたいだから、人数分を作る必要はなさそうだけど、それでもトシさんに回す余裕はない。わがままを言うんじゃないよ本当に。

「それなんだけどよ。【学習】のスキル素材がないってだけだろ?」

「え? まぁそうですけど……」

「ならいらねぇよ。元々俺は【学習】無しでやろうとしてたんだしよ」

「え」

いや、確かにそのつもりだとは聞いていたけど……マジでやるの?

とても制御できないアホだよ?

しかもここで作るダチョウは、ゲロゲロたちの素体となった15階層のグーフストリオとはわけが違う。深層のステータスを持つダチョウだよ?

間違いなくやっべぇことになるぞ……。

「いや、トシさん。前にも言いましたけどね――」

「いいじゃない、楓太君。作ってあげたら?」

その時、後ろから品のある女性の声が聞こえた。出やがったな、全ての元凶め。

盗み聞きしていたミライさんは、実に自然な笑みを浮かべていた。

「私は躾をする手間より楽な方を取ったけど、本人が構わないって言ってるんだから、いいんじゃない? 実際【学習】を外した分、他の有用なスキルを付けられるのは確かだし。まぁこいつに躾なんて立派なことが出来るとは思わないけど」

「あ? テメェみてぇな根性なしと一緒にすんなよババア。俺はスキルなんざなくても、しっかり面倒見てやるよ」

「へぇ、言うじゃない。後から話と違うって、無料で【再錬成】をねだるのはなしよ? ちゃんと最初に決めた通り、依頼料を払いなさいね」

「当然だろうが。誰がそんなセコい真似なんかするかっ」

ああ、言っちゃったね……。

へっ、とミライさんを小馬鹿にするようにトシさんは笑う。まるでこの程度もできなかったのかと言わんばかりだ。

その挑発に一切乗らず、ミライさんは心から嬉しそうに笑っていた。

ミライさんの顔を見て気づいてほしかったな。嵌められてるのはアンタの方だってことに。

「うーん……確かに躾ければいいだけだから、【学習】をわざわざ付ける必要はないか? その分もっと使えそうなスキルを頼んだ方が……」

――いかん! 調達班まで被害が!

――それは洒落にならん!!

トシさんに聞こえないよう、ぐっと顔を近づけ、声を潜める。

「ダメです。絶対に付けてください」

「えっ、いや、でもよぉ……」

「絶対に付けて。後悔しないから」

「……付けたほうがいいのか?」

「はい。俺は絶っっっ対に付けたほうがいいと思います」

「……そうか。ならそうするかな」

必死の説得が届いたらしい。神妙な顔をすると、リーダーは納得してくれた。

賢明な人で良かった。危うく二次被害が起きるところだった。

バカの自爆は可能な限り減らさなければ。

♦ ♦

「そんじゃあ行ってくるぜ!」

「はい、お気をつけて!」

八体分のダチョウを作り、一晩明けた翌日。

調達班の人たちは自分たちの相棒に喜び、はしゃいだ様子で拠点を出ていった。

数日後にはネットが使えるようになっていると思うと、楽しみだ。

「さぁ楓太! 次は俺の番だな! 頼むぜ!」

「分かりましたよ。本当にどうなっても知りませんよ?」

そして次は大きい悪ガキの相手だ。

後で文句を言われると考えると、憂鬱だわぁ……。

「小畑さん、今なら二体同時に作れるんだよな? なら俺もいいか?」

「えっ? 世永さんもですか!?」

自分から死にに行くなんて、正気か?

「ちょっと待て! それなら俺も作ってほしい!」

「そうだ! そもそもなんでトシが優先されるんだ!? 待ってるのは俺らも一緒なんだが!?」

「んだテメェら! 先に頼んだのは俺だ! 後から図々しいんだよ!」

「その通りだ! 大人だったら順番は守れ!」

ああ、そうだった。うちの会はバカが多かったんだった。

こんな奴らばかりで俺はもう悲しくなってきたよ。

まぁいいか、俺は儲かるし。それとなくサインは出しまくってるのに欲につられるこいつらが悪い。俺はもう知らん。

地獄への醜い順番争いをしている奴らを見て、ふっと兵藤さんは笑う。

「玩具を取り合うようにはしゃぐ。まるで子供だな」

「ああん? なんだテメェ、すかしやがって。お前だって本当は欲しいくせによ」

「素直に欲しいものを欲しいといえない。どっちが子供だ、バカめ」

「俺はお前らと違って慎重なんでな。おとなしく【学習】持ちを待つとするさ」

「けっ、何が慎重だ。ビビりなだけだろうが」

「お前みたいな奴が時代に適応できずに取り残されていく。せいぜい俺たちが乗りこなしているのを、指をくわえて見ているがいい」

トシさんと世永さんは、勝ち誇ったように兵藤さんを下に見ている。

大変申し訳ないけど、賢いのは間違いなく兵藤さんなんだよね……。

【魔物鑑定】

名称:――(ホムンクルス【モデル:ゴーンストリオ】)

レベル:――

ステータス:【MP】124【STR】278【CON】435【POW】43【DEX】356【INT】1

スキル:【頑健】【怪脚】【警戒】【俊敏】【逃走】【物理耐性】

弱点属性:火、氷

グーフストリオの上位種〈ゴーンストリオ〉。見た目はグーフストリオとほぼ変わらず、体格が一回り大きくなっている感じだ。

グーフストリオの上位種だけあって、それにふさわしい強さを持っている。というかマジで強いなこいつら!? 特に耐久と速度面に関しては26層でもトップレベルなんだが!?

そして【INT】は驚異の――1!

まさかまだ下があったとは思いもよらなんだ。

上位種なんだし、少しは頭が良くなっているかもと思っていたのに。

他のステータスは跳ねあがっているのに、なぜ知能だけが……いや、違うのか?

あえて知能を下げてこそ、このステータスが生存能力に活かせるということなのかもしれない。――それはないか。

「よっしゃあ! やっとできたか!」

「ふふっ、この時を待ち望んでいたぞ」

待ちに待った相棒を前に、トシさんも世永さんも破顔している。

それぞれ頭や体を叩くように撫でながら、上機嫌だ。

「わははは! なんだお前、なんかマヌケな顔してんな!」

「確かに。これが【学習】の無い影響か? だがまぁ、これも愛嬌だろ。バカな子ほど可愛いとも言うしな」

いや、そいつはただのバカじゃないぞ。命がかかっているほどのバカだ。

可愛いといえるのは今のうちだぞ。

これから期待を裏切られる二人に同情しつつ、俺はダチョウ用の鞍と綱を渡した。

「どうぞ。使ってください」

「おう、悪いな! そんじゃあ早速だけど行ってくるわ!」

「俺もだ。仕込むのは早い方がいいからな」

そうして、トシさんと世永さんはパーティメンバーとともに、ダチョウの試し乗りに出かけた。

そんな彼らの後姿を見つめながら、川辺がぼそりとつぶやく。

「……なぁ、やっぱり止めたほうが良かったんじゃね?」

「僕もそう思うよ。さすがに【INT】1は洒落にならないと思うんだよね」

「俺は止めたし、それでも望んだのはあの人たちだ。それにミライさんに牽制されて、本当のことなんか言えるわけないだろ」

あの状況で伝えることができるならとっくにやってるわ。

むしろ調達班の人たちだけでも救えたんだから、俺は頑張ったと思う。

「でもよ、お前あとで文句言われるんじゃね?」

「プロトタイプゲロゲロの三分の一の知能。いったい何をやらかすか…それで五千万、いや、【再錬成】含めて七千万も払わせるんだよ? もう詐欺だろうこれは」

「嫌なことばかり考えてるからそんな発想になるんだよ。俺らは無理だったけど、トシさんと世永さんだぞ? 奇跡的に調教がうまくいくかもしれないだろ」

そもそも三分の一の知能って、1と3なんてほぼ変わらねえよ。誤差みたいなもんだ。

信じろ。彼らは俺らなんかとは比べ物にならない、本物の探索者だ! きっとうまくやってくれる!

♦ ♦

結果が判明したのは意外と早く、二時間後だった。

哀れな犠牲者を増やす追加のダチョウを作り終えた頃、彼らは帰ってきた。

――泥だらけの姿になって

「「…………」」

む、無言だ。表情が重い。

分かり切ったことではあるが、何があったか逆に聞きたくねぇ……。

「おお、お前ら! ようやく帰って――きったねぇなおい!?」

ダチョウを受け取った犠牲者が、二人を見て声を上げる。

二人の姿に、他の人たちも次々と声を上げた。

「お前ら、何があったらそうなるんだよ!」

「なんだ? こいつらもしかして、そんなに扱いにくいのか!?」

「マジか?【学習】がないだけでそんなに? それじゃあ作らない方がいいか?」

「嘘だろ!? 俺もう作ってもらっちゃったのに!?」

二人の姿にためらいが生まれ始める。

そんな皆に、トシさんはガハハッと明るく笑った。

「いやー、まいったまいった。確かに扱いにくいわこいつ!」

「まったくだ! まさかここまで汚れるとは思わなかった!」

トシさんに続き、世永さんまで釣られて笑った。

それはまるで、汚れることも楽しんでいる子供のようだ。

その反応に皆が目を丸くしていると、トシさんは語りだす。

「確かに操縦性はちっと悪いかもな。なかなか指示通りに動かないところがあった。おかげで意思疎通が取れずに何度か落とされたわ」

「トシの言う通り。慣れるまで時間がかかるだろうな。だが――性能は文句なしだ」

「加速力は俺らと遜色ねぇし、なにより体力がすげぇ。いつまでも走り続けるぞこいつは! もしこいつを自在に操れたら、戦闘にも使えるようになるだろうな!」

「今でも全く言うことを聞かない訳じゃないし、時間はかかるが育てる価値はあるだろうな! 拠点にいる間の暇つぶしにもなるし、さらにスキルを積めると考えれば……」

「なるほど。今作っておいて、習熟させても損はないってことか」

「時間もあるし、やっぱり俺らも作ってもらうか。ここに居る間なら小畑さんに【再錬成】も頼みやすい」

「ん~、私はどうしようかな。あんなに汚れるのもなぁ。別に急いでいるわけじゃないし」

「でも、時間はあるのよね。それなら確かに買っても……」

二人の発言で、また皆の意見が変わり始める。

躊躇う人もいるようだが、もともと乗り気な人が多かったせいか、買いに傾きつつあるな。

――いや、絶対嘘だろあれ。

あの体の汚れ、ただ事ではない。それに帰ってきた時のあの表情。どう考えてもあっちが本音じゃ……。

「おい、楓太。ちょっと話があるんだが」

「俺もだ。少し付き合ってほしいんだが」

いつの間にか近寄ってきたトシさんと世永さんに、そう声をかけられた。

その表情は、さっきまでの笑っていたのが嘘のような無表情。皆には背中を向けているから、気づかれていないだろう。

これはあかん。

「あ、その、すみませんが、ちょっと今忙しくてですねっ」

「まぁいいから、いいから」

「すぐに済むからよ」

二人に肩をがっしり組まされ、逃げ場を失う。

完全にチンピラにカツアゲされてるオタクの図なんだが。

「で、楓太よ。――あれはどういうことだ?」

「どういうこと、とは?」

「とぼけられると思うなよ。いくらお前でもさすがにキレるぞ?」

「俺たちは今、冷静さを失おうとしている……ッ!」

鬼のような顔で二人から詰められた。

まさか仲間から本気で脅される時が来ようとはな……。

「ちなみに、何があったんですか?」

「あの鳥、魔物の群れが見えたから止まれって言ったのによ。わざわざ魔物の群れの真ん中で止まりやがった。仕方ねぇから慌てて降りて戦ったけど、あのバカ。俺のことを蹴飛ばして自分だけ逃げやがったぞ。しかも速いわスタミナがあって止まらないわで、捕まえるのにかなり苦労したわ」

それはまた大変な……【怪脚】と【逃走】が悪さしたんかな。

というか、トシさんを囮に逃げる当たり、むしろ頭いいんじゃ?

「俺の方も似たようなもんだ。俺の場合、戦う前に降りることはできたんだ。んで離れたところで見ていたはずなんだが……たぶん、助けてくれようとはしたんだろうな。急に雄叫びを上げて乱入してきやがった。正直、一瞬嬉しいと感じたが……敵と間違えて俺を蹴飛ばしやがった! 俺に一番ダメージを与えたのはアイツだ!」

味方に後ろから撃たれたのか。

そりゃ温厚な世永さんでもブチ切れるわ。

「止まれと進めを何度言っても覚えねぇし」

「なんでも拾い食いして腹まで壊す」

「ダチョウの群れに混じったらその一員になって、俺らのことを忘れてるし」

「楽しみにしていた小鈴ちゃんのおやつを食われた時は、焼き鳥にしてやろうかと思ったぞ」

思った以上にやらかしてやがるな。

そりゃ文句の一つでも言いたくなるわな。

俺が黙り込んでいると、トシさんと世永さんはズイッと顔を寄せて来た。

「なんであんなんだって説明しなかった。知ってたら俺だって止めてたぞ?」

「全くだ。当然クーリングオフは効くんだろうな?」

「いや、俺は言ったじゃないですか。【学習】をつけたほうがいいですよって」

「まさかあそこまでだと誰が想像できるよ!? もっと必死に止めろよ!」

「説明不十分にもほどがある! さすがにこれは小畑さんに落ち度があるだろ!? 無料で【再錬成】しても許されていいレベルだ!」

「言い訳は見苦しいわよ。あなたたち。――ンッ、ンフフッ」

俺を責める二人を止めるように、優雅な声が聞こえてきた。

当然、この状況を待ち望んでいたミライさんである。

我慢しようとはしているのだろう。しかし堪えきれず微妙に体を震わせて、口元を手で抑えていた。

そんなミライさんに、二人はわりとガチめの殺気を飛ばしていた。

「ババア、テメェ……ッ! そもそもお前のせいだろうが! 知っていて黙っていやがったな……ッ!」

「あら、何を言ってるの? 私は最初から言ってたわよ。躾けが大変だった、ってね」

「白々しいことを言ってんじゃねーよ! そういうレベルじゃねーって話をしてるんだ!」

「下手すれば俺らが死ぬところだったぞ? お前、冗談でもやっていいことと悪いことがあるだろ! 無駄金を使っちまっただろうが!」

二人はめちゃくちゃ怒っている。こんなに怖い二人を見た事がない。

しかし、ミライさんはそれに一切うろたえた様子を見せず、逆に言い返した。

「あら、そういうあなたたちだって、皆に嘘をついてるじゃない?」

「「…………」」

そして二人は何も言い返せず黙り込んだ。

うん、同じことやってんだもんな。その時点で同類だよ。ハッキリ言って文句を言う資格がないわ。

そのせいでこれからの被害者たちが、今も白熱した会議をしているわけだし。

自ら破滅への道を作っていると考えると、なんと恐ろしいことだ。

「それにほら、兵藤やアキラみたいな、私のように慎重な人は様子を見てるでしょ? 結局、勧めたのに平気だって言い張った貴方たちが悪いのよ。自分の浅慮による責任をこっちに押し付けないでくれる?」

「舐めやがって……いいぜ、ならとことんやってやるよ……ッ!」

「幸い時間はあるんだ。お前が不可能だった完璧な調教をしてやる……ッ!」

ミライさんの挑発に、二人は逆に闘志を燃やしていた。

あれだけのバカさを見ながらこの反応をできるのは、さすがの負けん気だ。

まぁ結果は見えているけどな。

あんなウルトラバカをまともにするなんて、川辺に痩せろって言うようなもんだぞ。

絶対に無理じゃん。

♦ ♦

そして、それからさらに二日が経った。

ダチョウを手にしてしまった哀れな被害者たちは、やはりトシさんや世永さんと同じような結果に陥り――似たような反応で周囲を騙しにかかった。

底に堕ちた者は、光の当たる場所を歩く者たちを引き摺り込まないと気が済まないのだろうか。なんとも哀れなことだ。

とはいえ、さすがにおかしいと思う者が増えてきたようだ。

昨日までは作れ作れとうるさかったのだが、今日になって様子見を選ぶ人が出てきた。大変結構なことだ。

そんな賢い人たちに舌打ちをしつつ、トシさんたちは今日も不毛なダチョウの調教に励んでいる。

そうやって苦しんでいる姿を見て密かに笑いつつ、いつか爆発するんじゃないかと不安に思っていたのだが。

そんな不安が吹き飛ぶようなニュースが、その夜に訪れた。

「――繋がったああああああああああ!!」

もう遅いし、さぁ寝ようかとなった時。川辺の気持ち悪い興奮した声が拠点中に響いた。

「うるさいよお前。何を叫んでるんだ?」

「ネット! ネットが繋がった! ほら見ろ!」

そう言って、川辺はスマホを突き出してくる。

見れば、そこにはシュガレスのホーム画面が。

「――マジで繋がってるじゃん!? もう設置が終わったの!?」

「たった二日で地上に戻ったということだよね。調達班の人たちも凄腕とはいえ、高性能のダチョウがいればここまで時間を短縮できるのか」

伊波が感服して唸り声を上げる。

確かにこれは凄い。【転移】にはさすがに負けるとは言え、十分な移動力だ。

これを皆が知れば、やはりダチョウを手に入れない選択はないだろう。

俺も落ち着いたら、ゲロゲロをアップデートさせなければ!

しかし、それもネットに繋がったという事実に比べれば些細なことだ。

拠点中の人たちが川辺の声を聞き、一斉に端末を開いた。そして、おおっ……と、小さく驚いている声があちこちから聞こえてくる。

側にいたタケさんが、感慨深そうに呟く。

「まさか本当にダンジョンでネットが使えるようになるとはな」

「ええ、本当に。もっと早くこれが使えていればね……」

真帆さんも似たような反応だが、どことなく寂しそうにも見える。

いや、寂しいというか、悔やんでいるような?

……最初期からダンジョンに潜っていた人たちだ。きっと色々あったんだろう。あまり詮索しない方がいい。

「おお〜……良かったね〜ペロ〜……これでママといつでも電話できるよ〜……!」

「ワンッ!」

そして安定のアキラさんよ。いつも通りで安心するわ。

テンションこそ元に戻っているが、ペロに夢中なのは変わらない。今も抱きしめて離そうとしないし。

でもママじゃねぇんだわ。絶対やらんからな。

試しにとネットを開いたり、地上の仲間に連絡を取っている人もちらほら出てきた。地上ならいつでもできることでも、環境が違えばやはりやりたくなるのだろう。気持ちは分かる。

「――そうだよ! ダンジョンの中だ! ああ、よくやった! 褒めてやるから猿の頭を早く持ってこい!」

「一刻も早くだ! でないと俺らの頭がどうにかなっちまう!」

「帰ったばかりで疲れた!? 甘えたこと言ってんじゃねぇ! 最優先事項だろうが! 何の為にお前らがいると思ってるんだ!?」

「どうしても嫌ならマサと拝賀に押し付けろ! あいつらもそろそろ帰ってくる頃だろ!? 嫌がってもこっちに向かわせろ!」

そして一部の連中は、功労者である調達班に電話をして叫んでいる。

脅しに近いことまで口にしているのに、その表情を見ればどっちが追い込まれているのかは明白だ。

よっぽどダチョウ達に振り回されているらしい。必死な姿は哀れなものだ。

「へへへっ、これでイベントの周回ができる。明日から忙しくなるな」

「僕もだ。世間から取り残されないよう情報収集をしなければ」

「テメェら……ッ!」

俺は明日も忙しくてろくに遊べないっていうのに、これ見よがしに言いやがって。なんて意地の悪い奴らだ!

「いや。楽しみにしているところ悪いが、遊ぶことはできないぞ?」

「「え?」」

タケさんの言葉に、二人は目を点にする。

そんな二人に、タケさんはニッと笑って続けた。

「拠点も整ってきたし、そろそろフィールドボスに向けて本格的に準備し始めて良い頃だ。まずは川辺、お前の戦闘訓練からだな」

「戦闘訓練!? え、ちょっと待ってください! フィールドボスの準備!? まさか俺も参加するんですか!?」

川辺は目をひん剥いてタケさんに訴える。

これは俺も驚いたわ。七緒ちゃんはともかく、川辺は全く予定になかったし。

「【挑発】持ちは貴重だからな。そんなやつを遊ばしとくわけにはいかねぇだろ?」

「いや、まぁそうかもしれませんけど……俺が混じっても足を引っ張るだけですよ?」

「そんなことはねぇよ。お前ら、レベルだけならもう俺らと同等だって忘れてないか?」

「あ、あぁ……。そういえばそうだった……でもあの化け物に、俺が? えぇ……?」

川辺は困惑し、怯える様子を見せる。あれと戦えって言われたらな。ここまでくるとさすがに同情するわ。

そんな川辺の肩を、タケさんは励ますように叩いた。

「安心しろ。足りない技術はみっちり俺たちが仕込んでやる。その分訓練は辛くなるだろうが、一流のタンクにしてやるよ」

「うっ、ぐぅ……ッ! ……仕方ねぇ、やるしかないか。すっげぇ嫌だけど」

がっくりと項垂れながらも、川辺はタケさんの提案を受け入れる。

ここでわめいたり逃げたりしないのは、コイツの凄い所だよな。どっちかというと、俺寄りの根性なしなのに。

その責任感に免じて、さっきの態度は許してやろう。

「タケさんが川辺さんを見るなら、伊波さんは私たちとやりましょうか」

「僕もか」

いつの間にかそこにいた刻子さんの言葉に、伊波も表情を硬くする。

「扱う属性は違えど、魔力運用のコツなど教えられることはたくさんありますから。それに伊波さんは威力特化のスキル構成なのでしょう?」

にいっと、刻子さんは悪戯っぽく笑う。

「守ってくれる仲間が十分揃った大物相手のレイド戦。固定砲台が最も輝く場です。この戦いにおいて伊波さんは間違いなく、私たちのメイン火力ですよ。そう思うとワクワクしませんか?」

「おおっ! ふっ、ふふふっ! 偉大なる〈魔術師〉として表に出る最初の一歩ということですか。――ご指導お願いします」

上手い。さすが刻子さん。伊波をよく理解している。

あんなふうに言われたら、あの厨二病なら乗り気にならないはずがない。修行も喜んでやるだろう。たぶん明日には後悔しているだろうけどな。

実際、個人的にも興味がある。

俺たちのパーティだと、どうしても連戦を考えないといけないから、アイツの長所――リソースを過剰に費やした最大威力を発揮することはできなかった。

伊波が本領発揮できる貴重な場だ。どれだけの威力になるのか確かめるのに、いい機会だと思う。

「私も歌の練習をした方がいいかしら?」

「私も。少しでもレベルを上げておかないと!」

聞いていた七緒ちゃんとチヨちゃんまで、やる気が出てきたようだ。

ここまで拠点作戦に尽力していたが、いよいよ決戦が近づいていると実感し、俺は身が引き締まるのを感じた。