作品タイトル不明
第105話 サレンダーします
「はい。スライム君たち集合~」
踊り狂った翌朝。
沼の前に立ち、パンパンと手を叩く。
一晩明けたことだし、少し様子を見ようと思ったのだが……沼?
「あれ? 気のせいか? なんかもう既に綺麗になってない?」
「いえ、気のせいじゃないですね。昨晩より絶対に綺麗になってます」
「さすがに直接飲んだりはできないだろうけど、一晩放置しただけでここまで綺麗になるか。とんでもないな」
七緒ちゃんは目を丸くし、伊波が感心のため息を漏らす。
もちろん期待はしてたけど、一晩でここまでとは思ってもみなかった。たった三匹でこれだぞ? ああいや、分体含めて四匹か。
薬も設備も要らず、スライムを投げるだけでこれだ。地上でもかなり需要あるんじゃ?
「ああ、来た来た。ゾロゾロと一斉に……ゾロゾロ!? えっ、何この数!?」
「うわ〜! いっぱいですね〜!」
「こんなに増えたのかよ。そりゃ沼だって綺麗になるわな」
チヨちゃんははしゃいだ声を上げるが、川辺はスライムの群れに顔色を悪くした。
これだけの数に襲われたらと思うと、川辺が恐怖を覚えるのも無理はない。正直、俺もビビってる。
全部で二十……いや、三十匹くらいか?
一匹につき十体の分体を作ったって感じかな?
そんなスライムの中に、二回りほど大きなものが三匹。こいつらが本体だな。
「お前ら、めっちゃ家族を増やしたね? 食料が豊富だったん?」
「「「――ッ! ――――ッ!!」」」
三匹のスライムは興奮したようにピョンピョン飛び跳ね、コクンと大きく頷く。昨日も思ったが、感情表現豊かだなこいつら。
「これだけ増えれば、魔物のスライムの対応も問題なさそうだな。――夜中はどうでしたー? 襲われたりしましたかー?」
「何匹か這い上がってきたけど、すぐにそいつらが襲って食べてたぞー! おかげで楽なもんだ!」
少し離れた所にいる見張り役の人に声をかければ、気楽な返事が返ってきた。
狙い通りの結果でなにより。できれば一度、その動きを確認したいところだったが――あ。
言っているそばから、離れた所で一匹のスライムが沼から這い上がったのが見えた。しかしそれは人を襲うためというより、何かから逃げようと焦っているかのような……?
俺が疑問に思っていると、うちの大きいスライム君が、むっ! というようにそのスライムを見る。
そして、ピキー! と声を上げれば、小さい分体のスライム達がピョンピョン跳ね、一斉に襲い掛かった。
分体に呑まれたスライムは声を上げる間もなく包み込まれ、分体たちによって吸収された。
「おおっ、素早い対応。あれならこのまま任せても大丈夫そうだな」
でも、核までなくなっているのはちょっと残念だ。使える素材なんだが。
まぁ必要なら他の場所で獲ってきてもらえばいいか。
「すごーい! 汚れも綺麗にして、あんなに強いなんて! 皆凄いよー!」
チヨちゃんはデカいスライムを三匹纏めて抱える。心なしかスライム君も嬉しそうだが、あれを見た直後に躊躇なく抱けるのは凄い度胸だな。
「この子たちの名前はどうしますか!? 私が付けてもいいですか!?」
「ああ、確かに。これだけのことができるなら名前を付けてやらないとな」
でもチヨちゃんはだめ。センスないから。
ん~、スライムの名前か。しかも三匹となるとな……。
「とりあえず、ホイミ――いや、スラミンかな」
「なるほど。俺の相棒か」
「戦士違いだよ。ライ〇ンに謝れ。というか人間になったらどうする気だ」
「大丈夫。ホムンクルスは進化しないから」
人間になったらそれはそれで面白いし。
「あとは、スラぼーとスマッシュでいいか」
「おおー! ……なんかスマッシュ君だけカッコよくないですか?」
「深く考えることないわよ。どうせまたゲームから取ったんでしょ」
最近、七緒ちゃんが冷たくなってきた気がする。その通りだから何も言い返せないけど。
ドラクエ〇ンスターズはやはり初代が最高だった。グリ〇リーのぶっ壊れ具合が楽しくてな。
七緒ちゃんには不評だったようだが、スラミン達には好評だったらしい。ピョンピョンと跳ねて嬉しそうだ。
「気に入ってくれたならよかった。さて、それじゃあトイレ担当のスライムを決めないといけないんだけど」
――ピシッ。
飛び跳ねて喜んでいた三匹に、ヒビが入った気がした。いや、気のせいじゃないな。身体を固めてへこませたりして、ヒビを再現している。こいつら本当に芸が細かいな。
というか、見るからに気落ちしているんだが。スライム的にはご飯に変わりないと思うんだけど、やっぱり嫌なのかな。
「あと注意事項なんだけど、トイレ担当のやつは今後沼に入るのは禁止な」
『――――!?!?!?』
これにはスラミンたちだけではなく、分体たちまでも硬直する。
まぁ、スライムに水場に近づくなというのは、酷いこと言ってるとは思うけどさ。
「いや、ほら。トイレの処理をしたやつに、水源に入られたら気分的に、な?」
汚くないと分かっているんだけどね。やっぱり近づいてほしくないんだよね。
「本当にごめんなさい。悪いとは思うんだけど」
「桶に水を入れて用意するからっ」
七緒ちゃんとチヨちゃんも、心苦しそうな手を合わせて謝る。さすがにこればかりは二人も賛同してくれた。
そんな二人の説得が通じたのだろう。スラミンたちはコクンと頷くと、側にいた分体を何匹か押し出した。
えっ? という言葉が聞こえるかのように、分体はスラミンたちに振り返る。
だが、スラミンたちは無情だった。ゴゴゴゴ、という凄みを見せ、無言で威圧している。完全にパワハラであった。
押し出された分体は、他の仲間に助けを求める。しかしその仲間もまた無情だった。何も見てませんとばかりに、くるりと背を向ける。
ガンッ、とショックを受けた選ばれし分体は、とうとう手段を選ばなくなった。スラミンたちに飛びかかり、いやいやとばかりに縋り付く。
スラミンたちは、ええいっ! と鬱陶しそうにそんな分体たちを跳ね飛ばした。
「なんてひどい。もっと他の方法はなかったのか?」
「まったくだ。とても見てられねぇ。まるで社畜時代の俺を見ているかのようだ……」
「あのさ、気のせいかな? なんか普段の僕たちのノリに似ているような?」
「何言ってんだお前。さすがにそれはないだろ」
普通に気のせいだよ。仮に似ているとしても、生まれたばかりでそうなるわけがないだろ。
「だけど嫌がっていたのに、なんだかんだ指示には従うか。分体と本体で上下関係がしっかりしているな」
全部で四体の分体が、トボトボと同じ方向に向かっている。
命令に従うのは安心なんだが、なんて哀愁を誘う背中だ。俺が命令したわけじゃないのに、なんだか罪悪感が湧いてくる。
定期的に差し入れをしてあげよう。ご褒美くらいやらないと可哀そうだ。
♦ ♦
「さーて、いっちょうやりますか」
労いのつもりで【錬金術】のスープを作り、皆で一緒に朝食を食べてから、俺は早速仕事に取り掛かることにした。
スラミンたちで衛生問題は解決。いよいよ本格的な護衛用のホムンクルスを作る時だ。
その為には、まずはホムンクルス用の〈錬金釜〉を作ることになる。これがないといちいち魔力ポーションを用意しないといけないからな。そんな手間をかけていられない。
〈錬金釜〉の素材自体はそう問題ない。魔力的な性質を含んだ土、鉱石、魔物素材。それらを混ぜ合わせればいいだけ。どれもこの階層で手に入るし、深層素材なのだから性能も十分。これまでより上等なものが作れるはず。
問題なのは、【錬金術】でそれを作るための器だ。それを作るために、土属性の【魔術】を使える人に協力してもらうことになる。
「小畑さん。どれくらいの大きさにすればいいんだ?」
「そうですね。最終的にはグーフストリオを作ることになるから――」
「いや、最初はもう少し小さいサイズでいいんじゃないかな?」
俺が具体的な数字を言おうとした時、伊波が口を挟んだ。
「今はとにかく、護衛の数を揃えるのが先だ。場所も取ってしまうし、まずは小型、中型の魔物を作れるサイズでいいんじゃないかな? 乗り物は余裕ができてからでいいだろう?」
「それもそうだな。となると、拠点用の大きさでいいか?」
「というか、まずは何を作るかを決めるところからじゃね? それ次第で〈錬金釜〉の大きさも変わるんじゃねぇの?」
これは川辺が正しいな。
大は小を兼ねるとはいえ、いちいち水を汲み上げるのも大変だしな。
いろいろと使いやすい高さ、大きさを決めなければ。
「となると、何を作るべきかな? 材料には困らなそうだけど……」
チラッと横に目をやれば、魔物の死骸の山が。
拠点を襲ってきた奴もいれば、皆がここに来るついでに狩った奴もいて種類は豊富だ。ぶっちゃけなんでも作れそう。
「まぁ順当に考えれば、蜘蛛だろうな」
ヌッと、後ろからタケさんが顔を出して言った。
「糸で拠点の周りに結界を張れば、それだけで魔物は寄って来なくなるだろう。入ってきたとしてもそのまま捕縛すればよし。木の上から奇襲もできる。森の中ならいくらでも身を隠せる場所があるからな。森の中で拠点防衛ということなら、これ以上に頼りになる奴はいない」
なるほど。タケさんの意見は参考になるな。
蜘蛛なら俺も作った経験があるし、第一候補に上げてもいい。
「いや、狼型も良いと思うぞ」
今度は兵藤さんが言った。
「こいつらも森の中で行動に最適だ。群れるだけあって、そのコンビネーションも厄介。数を揃えるならこの性質は大きな武器になる。鼻が利くから敵の接近にも気づける。そしてなにより、蜘蛛よりも広い範囲を捜索できるから、防衛圏を広げることもできる。安全な場所を広げるならば、今は蜘蛛よりもまず狼だろう」
なるほど。兵藤さんの意見も侮りがたい。
確かに狼型の方が、より広い範囲で警戒できそうだからな。
まだまだ開拓するつもりなら、狼が最適かもしれない。
「どいつもこいつも、発想が貧困だな。ホムンクルスならもっとすげぇもんが作れるだろうが」
そして最後に、トシさんが口を挟んできた。
「そもそもホムンクルスなら、どれかと決める必要はないだろ。魔物の良いとこ取りをしたキメラ型。これならあらゆる問題に対応できる。材料はいくらでもあるんだから、拠点構築、戦闘力。どちらも持った新種を作っちまえばいいだろうが」
な、なるほど。キメラ=失敗と思っていたから、その発想はなかったな。
僕の考えた最強の魔物を作る、か。ちょっとワクワクしてきた。
どれも一理あって選び難い。俺はどうすれば……。
「キメラはねぇよ。バカかお前」
「あ? なんだタケ。俺のアイディアにケチ付ける気か?」
「いや、実際キメラないだろ。生き物の身体には最適なバランスというものがある。ただくっつけただけでは強化どころか弱体化するぞ。そして今は試行錯誤をする余裕がないのだから、シンプルな魔物にすべきだ」
「テメェもか兵藤。新参者が生意気言ってんじゃねぇぞ! んなもんやってみえねぇと分からねぇだろうが!」
今にも殴り合いが始まりそうな雰囲気だ。もう放っておこう。
血の気が多すぎるんだよこいつら……。
「とりあえず狼型を作ろうと思います。なんでそれに合わせた大きさで」
「はいよ。ちょっと待ってな」
【魔術】により地面がボコボコと動き、あっという間に器が作られていく。
土って地味ではあるけど、拠点構築としては便利過ぎるな。
身近に使える人がいたら、ダンジョンでも頼りになりそう。俺の【錬金術】があればもっと便利になるだろう。いつかホムンクルスで土の【魔術】を使える奴を作ろうかな。
器が形となっていくのを見ながら、川辺がなんとなしに呟く。
「結局、作るのは狼にすることにしたのか?」
「まぁな。完全に完成したなら蜘蛛にしようかと思ったけど、これからも拠点が広がるだろ? だったら狼の方がいいだろ。まずは狼で周囲を警戒。完成してから改めて蜘蛛で守りを固める。これだけ作ればスキルレベルも上がるはず」
「うん。いいんじゃないかな? マルがいるなら統率もしてくれそうだし」
「ワンッ!」
伊波の言葉に、マルがキリッとした顔で返事をする。
何とも頼もしいが、こいつ前科があるからな。指揮権を奪おうとしたっていう。
「マル。一番偉いのは楓太さんだからね。分かった?」
「もう今度は庇えないわよ。いい?」
「クゥーン……」
チヨちゃんと七緒ちゃんに注意され、マルは悲しそうな声を上げる。
あの調子なら大丈夫そうかな。マルだって二度も飯抜きは嫌だろうし。
よし。決まったことだし、一丁やりますか!
目の前に作られた土の器を前に、俺は気合を入れた。
♦ ♦
【魔物鑑定】
名称:拠点狼1号(モデル:ヴァーダントウルフ)
ステータス:【MP】210 【STR】211 【CON】205 【POW】225 【DEX】295 【INT】239
スキル:【咬牙】【嗅覚】【警戒】【連携】【奇襲】【森渡】
これが記念すべき拠点防衛ホムンクルス第一号のステータスだ。
ステータスは丸いが、深層の魔物をモデルにしただけあって、やはり強い。
さり気なく重要なポイントは、【連携】のスキルを自前で持っていること。
拠点防衛なら仲間同士の【連携】は欠かせない。そう思ってスライムにも、ヴァーミリノスの素材をぶち込んで覚えさせていたが、その必要なく最初から覚えているのは本当に助かる。
これならば数を揃えれば、拠点防衛は問題なくできそうだ。
しかし、ここで大きな問題が発生した。
「時間が……ッ! 時間が掛かり過ぎる……ッ! めっちゃしんどい……ッ!」
「ああー。うん、そうだな。お疲れさん」
「本当によく頑張っていると思うよ」
俺の弱音に、川辺と伊波が珍しく茶化すことなく、労いの言葉をかけてくる。
しかし、それも当然だ。ハッキリ言って俺は本当に頑張っている。まさかここまで疲労するとは思ってもなかった。
でも、冷静に考えると当然なんだよな。
今日やったことを順番に並べると――
1、 まずホムンクルス用〈錬金釜〉を作る。(一時間)
2、 作ったら今度はそれを使って、ホムンクルスを作る。(二時間)
3、 放置してホムンクルスが完成するのを待つ間に、1と2を繰り返す。
これを踏まえて改めて【錬金術】の性質を思いだしてほしいんだけど、【錬金術】って作成中の素材の魔力反応に合わせて、ひたすら自分の魔力を適切な量で注ぎ続ける必要があるんだよ。
適正レベルの素材を扱っているから、まぁ雑談できる程度の難易度ではある。だけどさ、一時間単位で集中し続ける必要があるわけだ。
さらっとやっているように見えて、結構面倒なんだわ。
で、今回は一セットで三時間かかる。
苦行だよもう。だけど俺は頑張った! 頑張った……がっ! 朝から始めて日も沈んでいるのに、三体分しかできてねぇ!
「〈錬金釜〉の数が揃えばその分時間が減るとはいえ、どのみちホムンクルスの時間がかかる。俺の体力を踏まえて、一体で二時間だとすると、一日四体くらいが限度か」
ホムンクルスだって休みなく働ける訳じゃないから、ローテーションを組むことも考えないといけない。さらに戦闘で確実に勝てるよう、野生の魔物に対して数で優位に立つ必要がある。
となると、百匹くらいは作った方がいいかなーと考えていたんだが……。
一日四体だとすると、百匹作るのに二十五日かかる!
しかもこれ、俺が全力で稼働した場合の話!
ハッキリ言おう。もう既にサボりたい! こんなのやってられるかっ!!
「しくじった……ッ! 数を揃えるじゃなく、圧倒的な強さを持つ一体を作るべきだったか……!?」
「いや、防衛を考えると数を揃えるのは正解だろ」
「どんなに強くても、レベルに差がないなら数には敵わないからね。それに今回は【人工生命体創造】のレベル上げも兼ねているし」
俺の考えはあっさりと二人に否定される。
クソッ! そうだねって言って欲しかったのに! 強いのを作って楽しようって言ってほしかったのにっ!!
四つん這いで項垂れる俺に、真帆さんが気まずそうに尋ねる。
「えっと、楓太さん。もしかして結構キツイ感じ?」
「キツイですね、かなり。というか、ホムを作るだけでも一ヶ月くらいかかりますよ? それまで皆さんの方が保ちますか? 正直、現実的ではないような気が……」
ろくな食事も取れず、娯楽がないこんな場所で、命のやり取りをずっとし続けるんだぞ?
しかも弱い俺を守るために気を張らなきゃならない。
むしろ皆の方が先に限界が来るんじゃないか?
悔しいが、この計画は考え直さなければいけないかも――
「いや、俺らはいけるぞ?」
世永さんがあっさりと言った。
「キツいことはキツいが、人数は揃っているからな。今でも十分に休めている」
「だな。なによりスラミンたちのおかげで、水と内側の警戒の必要が無くなったのがでけぇ。順番で休みながら外を警戒するだけでいいんだったら、今でも十分にやれる」
「それに、日が経つにつれホムンクルスも増えていくんだから、今よりもっと楽になるしな」
「水も使い放題なら、いっそお風呂とかも作ってもいいかもね。そうすれば今より過ごしやすくなるわ」
「ああ、いいかもねそれ。お風呂の水だってスライム君たちに任せて綺麗にしてもらえば、使いまわせるし」
「なによりこの拠点製作中にもレベルが上がっているっていうのがな。めっちゃやる気出るんだよな」
「分かる。しかも完成すればこの環境がずっと続けられるんだもんな。モチベが上がっても下がることはないわ」
「たくましすぎる……ッ!」
この人たちのバイタリティを舐めていた……ッ! この体力バカ共がよぉ……!
それじゃあもう俺が頑張れば解決しちまうじゃねぇかっ! ふざけんなよボケがっ!
逃げ場を潰されていることに、改めて俺は項垂れる。
そんな俺の隣に、すっと七緒ちゃんとチヨちゃんが膝を付いた。そして俺の肩に手を乗せ、優しく声をかけてくる。
「楓太さん。無理をしない程度に頑張ってみませんか? 私もできることがあるならやりますから」
「マッサージでもなんでもしちゃいますよ~。美味しいご飯も作れますよ~」
「うぅぅ……が、頑張る……」
可愛い女の子たちから励まされるだけで、ちょっとやる気が出てくるなんて。
自分の単純さが恨めしい。
「二人共、ちょっとさり気なく胸を当ててみ。それで解決するから」
「あと、もう少し子供を励ますような感じでいこう。甘えたい願望があるから、効果は高いはず」
「さすがにそこまでやるのは……でっ、でも、それでやる気になってくれるならっ」
「私も体を張る時が来ましたか。分かりました。覚悟はできてますっ!」
「…………いや、それはいいかな。うん」
惜しいけど。めっちゃ惜しいけどっ! 凄くやって欲しいけどっ!
それをやられたら本気で我慢できる気がしない。たぶん、この遠征中に襲うと思う。
ホム嫁を迎える前に、手を出すわけにはいかんのだ……ッ!
「楓太さん。頑張れるということでいいのね?」
「はい。まぁ皆さんがやる気になっているのに、やれませんって通じるわけないのは分かってますんで」
気遣うように言う真帆さんに、俺は頷く。
ここまで用意させてやっぱり無理でした。そんなこと言ったら暴動が起きるわ。
ホム嫁革命を成す前に、小畑会を解散の憂き目に負わせるわけにはいかん。
俺の返事に、真帆さんはほっとした顔を見せた。
「やる気になってくれてよかったわ。それじゃあ早速なんだけど、夕ご飯作れる? もちろん【錬金術】で」
「できるわけねぇだろ!」
お前話聞いてた!?
疲労困憊なんだよ既に!
「こんだけ働かせておいて夕飯まで!? 根詰めるほど働いたあとにする自炊がどれだけ面倒なのか知ってるでしょ!?」
「それは分かっているんだけど、ほら。朝のスープを飲んだらやっぱりね」
「あれだけで疲労が一気に取れたからなぁ。やっぱり生産職の作る料理って別格なんだよ」
「あれが作れる奴がいるのに、自分たちで用意するのもねぇ……」
「一品だけでもいいの。朝のスープみたいな。フルコース用意しろなんて言わないから」
「俺はまたあのハンバーグが食べてぇなぁ……」
「トシ! テメェは一度食ってんだから後だ! まずはまだ食べたことない俺からだろ!」
「ずるい! それだったら私だって食べたいんだけどっ!?」
こ、こいつら、味をしめやがった。
なんてことだ。今朝の好意が裏目に出るとは。
いや、まぁ元々その予定ではあったから、正当な要求ではあるんだが。これ以上の仕事を抱えたら冗談抜きで過労死してしまうっ!
なんとかうまいこと誤魔化さないと……ッ!
「あら? なんだか騒がしいわね」
「その声はっ!?」
この状況から逃げるため必死で頭を悩ませていたその時、頼りになるメスゴリラさんの声がっ!
「ミライさん! もう来たんですか!?」
「まぁね。思ったより順調にいったから、早めに着いちゃったわ」
悪戯っぽい笑みを浮かべるミライさん。この笑みが今ほど心強く感じた時はない。
「ミライ? 予定よりだいぶ早いな」
「いや待て。でもここに来たってことは――」
皆も気づき、ミライさんの後ろにいる〈百花繚乱〉のメンバーを見る。
そう、ミライさんたちがここに来たということは、彼女も大きく成長したということだ。
後ろからスッと前に出て、その人はミライさんの横に並ぶ。
そして、戦意に満ちた瞳を俺に向け、不敵に口端を上げた。
「さぁ、約束の時ですよ楓太さん。リベンジさせてもらいます!」
「あっ、ギブアップします」
「なんでぇ!? やりましょうよ! 私、凄く頑張ったんですよ!?」
いや、なんでと言われましても……。
【人物鑑定】
名称:香取小鈴
年齢:24歳
レベル:35(次のレベルまで59805)
ステータス:【MP】562【STR】32【CON】31【POW】15【DEX】142【INT】138
ジョブ:〈料理人〉【調理】レベル7【食材鑑定】レベル6【大量生産】レベル4 【調理魔術】レベル3【解体】レベル4【工程加速】レベル4【精密作業】レベル4【瞬間調理】レベル2【味覚強化】レベル2【料理人の勘】レベル4【医食同源】レベル1【顔色診断】レベル7【携帯食の極意】レベル5
勝ち目ゼロの戦いとかやる気になれんわ。
というか成長しすぎだろ小鈴ちゃん。どんだけ頑張ってるんだよ。