軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第104話 やはりスライムか……ッ!

「それで? 問題とはなんでしょう?」

「まぁ分かっていたことではあるが、水の問題。あとは魔物の襲撃だな」

トシさんは無精髭を撫でつつ、そう答えた。

「いくら豊富な水場と濾過器があっても、この人数分の水を用意するのは手間だ。その間にも魔物がどんどん寄ってくるからな。拠点を広げつつ魔物の対処をするだけで精一杯なのに、水の用意までってのは正直キツイ」

「はぁ、なるほど」

確かに分かっていたことではあるな。

でも、その為のアイテムは渡しているはずだが?

「〈 浄水核(ピュリティコア) 〉を渡しましたよね? それでもダメでした?」

「それだよ! いや、あれは凄ぇアイテムだった! 本当に便利だ! 正直感動したぜ! ……この人数で気軽に水を使っていたら、すぐ無くなっちまったけどな」

「遠征先でも体を普通に洗えるっていうのが新鮮でな」

「どうせ小畑さんが後から来るからといって、全員で節約も考えずにドバドバ使ってしまってな。最悪、濾過器があるしいいかと」

世永さんと兵藤さんが気まずそうに目を逸らす。

はしゃいでいただけじゃねぇか。いい大人が何やってんだ。

……いや、まぁ今でも40人くらい居るもんな。これだけの人数が集まって遠征、ってなれば盛り上がるか。調子に乗るのも分かる気がする。俺も絶対そのノリになるわ。

ただ、だからこそ疑問に思うこともある。

「トシさん達が協力しているのに、魔物を相手にするのはキツイですか? 人数は足りているでしょう?」

「いや、そりゃキツイぞ。倒す分には問題ないけどよ。ローテーションを組んで休んでいるが、開拓と魔物の対処と両方やるには人数が足りねぇよ」

「ミライとまではいかなくても、マサと拝賀のパーティがいればまだ楽になったがな。アイツらが来るのはまだ先になりそうだし」

世永さんも悩ましそうに言った。

マサ君と拝賀君は今回参加予定ではあるが、小鈴ちゃんと同じでレベル不足である。だから他のダンジョンでスラレベをして、トシさんレベルに強くなってからこっちに合流予定だ。

他のダンジョンでやっているのは、小鈴ちゃんと俺たちの獲物を取らないようにという配慮だな。

他で中層、深層まで遠征してから戻ってすぐこっちに合流とか、随分なハードスケジュールだとは思うが。彼らは若いしやる気満々だったので、頑張ってもらおう。

「なにより、アイツの相手が面倒でな」

兵藤さんが親指を立てて指す。

そちらに顔を向ければ、スライムが沼から這い出て地上に上がろうとしていた。

「スライムですか? まだ駆除してなかったんですか?」

「いや、駆除はしたんだがな。一日経ったらまた湧いてくるんだ」

「外側を警戒しているのに、後ろからああやってこっちを狙ってくるんだぜ? 安心して作業もできねぇよ」

トシさんがうんざりしたような表情を作る。

それに、伊波と川辺も嫌そうに頷いた。

「確かに。寝ている間に襲われたらと思うと、ゾッとするね」

「お前はまだいいだろ。俺なんか〈戦士〉だから、まともに倒すのも難しいんだぞ」

確かにな。【物理耐性】なんか持っている奴らだ。前衛が対処するのは厳しい。

そんな川辺の呟きに、兵藤さんも同意した。

「対処するのは〈魔術師〉系でないと厳しいから、自然と〈魔術師〉もスライムに集中してもらうことになる。そうなると火力が落ちて、外側の魔物を相手するのにも時間がかかるんだ」

はぁ、そういうことか。

余裕そうに見えて、結構ギリギリなんだな。

今はまだモチベが高いからなんとかなるが、これがあと一週間も続けば逃げ出したくなるだろう。

「少しでも早く拠点防衛用の魔物を用意する必要があるってことですね」

「ああ、そうなるな。……すまん、もう一つあった」

え、まだあるの?

一体何がと思っていたら、兵藤さんは言いづらそうに口にした。

「便所の問題だ。これも小畑さんから貰ったアイテムを使い切ってしまってな。さすがにこの人数で一箇所に集まると臭いが……。放っておけば最悪、病気になる」

「あっ、ああ、なるほど」

確かにそれは深刻だな。

なんだったら水とか防衛以上に深刻だ。なんとかせんといかん。

「そうなると、防衛用のホムンクルスは後回しですかね?」

「ああ。とりあえず〈浄水核〉だ。んでトイレだな」

「あとは〈蒸発薬〉もくれないか? 深層用の物を使ってみたが、まさかあそこまで効くとは思わなかった。あれがあるならスライムも喜んで駆除するぞ。レベルも上がるし」

「待て。世永はもうやったんだから、次は俺が使う」

「あ? ちょっと待てよ。だったら俺が先だろ。新入りは後回しだ」

息が合っていたと思ったら、三人は見苦しく争い始めた。

下手に口を出すと面倒なことになりそうだから、離れてようかな……。

「とりあえず荷物置きたいし、テント立てます?」

「そうするか。付き合ってられんしな。――あのあたりにしとくか」

タケさんの提案に従い、俺たちは隣同士になるようにスライムテントを立てる。

魔力を軽く込めるだけで、みるみるとテントは膨らみ、数分後には立派なテントができあがる。やっぱり何度やっても楽だ。面倒な組み立ても必要とせず直ぐに終わるし、かなり丈夫。俺が発明したアイテムの中でも傑作の一つなのは間違いない。

俺が自画自賛しつつテントを眺めていると、おおっ、というどよめきがあちこちで聞こえた。

「こりゃまた便利なもんだな。話には聞いていたが」

「これは俺も欲しいな。小畑さん、俺にも作ってくれ」

「いいですけど、先に他の問題を解決してからでいいですよね?」

「ああ、もちろんだ。後回しでいいぞ。」

世永さんが快く頷いてくれる。

良かった。さすがにこれもすぐに作れと言われたら手が回らんところだった。

しかしほっとしていたところで、トシさんが要らんことに気づいてしまう。

「そういえばよ、このテントみたいなマットレスも有るんじゃなかったか?」

「ああ、そういえばそうだったな。テントを作ってもらっているってことは、もしかしてタケ達はそっちも作ってもらったのか?」

「ん? ああ、まぁそうだな」

タケさんはなんでもなさそうに頷く。

そして、兵藤さんが続けて質問した。

「寝心地はどうだ? ミライ達は絶賛していた気がするが」

「あ〜……まぁ寝心地は良いぞ? ただ普通の寝袋よりはって感じだな」

タケさん、普通に嘘吐いたな。

寝袋なんかとは比べ物にならない。高級マットレスと遜色ない寝心地なのに。

もし知られたら他のことを後回しにしてでも、作らされることになるだろう。俺が忙しくならないように黙っててくれたんだな。ナイス!

いや、先に環境を整えた方が此処で過ごしやすくなるから、あえて嘘ついたのかな? 黙っていればバレないし。

……両方かな?

「ほぉーん。そんなもんか。それなら後でもいいか?」

「そうだな。俺達は今の状態でも普通に寝れるしな。後回しでいいだろ」

「とはいえ、試してみたいというのはあるな。タケ、お前の分を貸してくれないか? 今日の夜にでも試したい」

「ああ、そりゃいいな。タケ、兵藤の次に俺にも貸してくれ」

「俺もだ。というか今、少し寝させてくれ。感触だけでも試したい」

「は? 嫌だが?」

「ああん? なんで嫌なんだよ。ちょっとくらいいいだろ?」

「お前ら臭いし汚いからヤダ。なんで俺のベッドを他人に貸さないといけないんだよ」

「はぁ!? テメェそれが先乗りして開拓した俺らに言う言葉か!」

「その通りだ! 言っていいことと悪いことがあるぞ!」

「というか、なぜそこまで断る? 少し寝転がるだけだぞ? ……まさか、本当は寝心地がいいんじゃ――」

今度は四人でぎゃあぎゃあと騒ぎ始めた。なんて醜い奴らなんだ……ッ!

巻き込まれると嫌だから、とっとと生産始めるか。作業に入れば邪魔されることもないだろ。

バッグから携帯〈錬金釜〉を取り出し、テントから離れた拠点の中央に近いところに座る。

よっこいせと地べたに腰を下ろしたところで、川辺と伊波もそれに続く。ちなみに七緒ちゃん達は真帆さんと共に、荷物を置いたら食事の用意をしている人達のところへ手伝いに行った。働き者で偉いっ!

「なんだか思ったより忙しそうだよな~。こりゃあまりサボれねぇかも」

「そうだね。楓太が作業している横でゲームしようと思っていたのに、ゲーム機を取り出すのも憚られる」

「それをやられたらたぶん、お前らのゲーム機を叩き割っているわ」

俺だけ必死に仕事しているなんて許されるか。

お前らも木こりとスライムの相手をしてこい。もうレベルも高いんだから。

「だけど本当に忙しくなりそうだな。こりゃ護衛用のホムンクルス作りも時間がかかるかも」

〈浄水核〉は比較的短時間で作れるとはいえ、予想以上に大量に作ることになりそうだからな。しかもトイレアイテムまで必要になりそうだし。

下手すればそっちに追われて、ホムンクルスを作ることすらままならなくなりそうだ。可能な限り大量に作り溜めして、時間を確保するしかないか。うっ、いきなり激務が見えてきて心が挫けそう!

マジックポーチからスライムの核を取り出しつつ、思わずため息を吐く。

すると俺の対面に、ちょこんとアキラさんが座った。

「おお〜……さっそく〈浄水核〉を作るの〜……?」

「はい。サボっている暇がなさそうなので」

「うんうん〜……偉いね〜……手伝えなくて申し訳ないけど~……楓太くんしかできないことだから~……頑張ってね〜……」

「うぇへへへっ。はい、頑張りますっ」

リップサービスとは分かっているが、素直に応援されると頑張ろうという気になるな。

なんて単純な俺。我ながらちょろいと思うが、嬉しいのは事実。よし、気合入った。頑張ろう!

ポーチから此処に来るまでに集めたスライムの核を取り出し、ゴロゴロと地面に転がす。アキラさんは膝を抱え、じっと興味深そうにスライムの核を眺めている。

〈錬金釜〉に沼の水を入れ、スライムの核いくつかボチャボチャと落とす。さぁやろうかと魔力を込めようとした時、アキラさんはいつも通りののんびりとした口調で話した。

「ここに来る途中でも~……気になったんだけど~……〈浄水核〉の材料って~……スライムの核だけでいいの~……?」

「はい。スライムを狩るだけで材料が集まるんで、素材には困らないから助かりますよね」

いや、本当にスライムさんは凄いよ。レベリングによし。素材に良し。アイテムに使って良し。無駄な部分が一つもない。

これからも小畑会はスライムによって育てられるといっても過言でもない。なんだったらスライムの慰霊碑とか作ってもいいレベル。

シンボルマークにするかどうかは、ゲロゲロとちょっと悩むかな? それくらい俺達にとって欠かせない存在だ。

ふーん……と、アキラさんは聞いているのか分からないような声を漏らし、続けた。

「【洗浄】とかのスキルを~……組み込んでいる訳じゃ~……ないってことは~……スライム自体に~……そういう能力があるってこと~……?」

「たぶんそういうことでしょうね。アメーバみたいなもんですからね。微生物とか菌とかを食べたりして綺麗にするとか、そういう生体なんじゃないですか? それならそのまま使って〈浄水核〉ができるのも納得できますし」

「ふ~ん……ってことはさ~……スライムのホムンクルスを作れば~……そのスライムも水を綺麗にしたりできるってこと~……?」

ピタリ、と。

アキラさんのその言葉で、思わず手が止まった。

……言われてみればその通りなんじゃないか? もしそれができるなら、わざわざ〈浄水核〉を作る必要が……しかも護衛にも使えるんじゃ?

トイレの〈分解布〉だってスライムの核を使っているんだし、それも綺麗にしてくれる……それにヒュージスライムのスキルには確か……。

……〈浄水核〉は一応、まだたっぷりと予備がある。なら、先に試してもいいな。

♦ ♦

【錬金術】で二時間。作業が終わり、そこから更に二時間が経った頃。

観察した感じ、そろそろだと俺が呟くと、手の空いている人達が集まり、今か今かとその瞬間を待っていた。

【人工生命体創造】のレベルはまだ上がっていないが、生体レベルとステータスが伸びたお蔭だろう。高レベル素材も集中すれば扱えるようになっていた。

そしてそれは製作時間にも影響していた。深層素材なのにこの程度で済んだのは思わぬ僥倖だ。まぁ、これはベースとなった魔物の形状も関係していそうだが。

そうして皆が見守る中、〈錬金釜〉の魔力に染められた液体が減り始める。

ズズズッ、と水が減っていく音が止んだと思ったら、〈錬金釜〉の中からヌッと体を出し、そいつは現れた。

【魔物鑑定】

名称:スライム型ホムンクルス(仮)(モデル:ヒュージスライム)

レベル:――

ステータス:【MP】242【STR】144【CON】390【POW】311【DEX】42【INT】49

スキル:【群主感覚】レベル5【分体生成】レベル4【物理耐性】レベル5【溶解】レベル3【連携】レベル4

弱点属性:――

「いやつっよ。防御力に関してはとんでもないなこいつ」

これに加えて【物理耐性】持ちだもんな。なんだったら【魔術】にも結構固い。

そりゃ同レベル帯だったら倒すのが大変なはずだ。〈蒸発薬〉がどれだけ有用なのかがよく分かる。

「えっと、俺の言葉分かる?」

「――!」

スライム君はピクッと反応すると、体の半分位を縦に伸ばし、コクンと頷く仕草を見せてくれた。

ステータス的にはゲロゲロより頭がいいとはいえ、スライム。言葉が通じるか不安だったが、そんなことなさそうで安心した。

おぉ……! と、その反応にまた皆が反応する。

「本当にスライムが作れた。いや、疑っていた訳じゃないが」

「言いたいことは分かるわ。こうして目の前で見ても信じられないもの」

「しかもちゃんと人の言うことを理解してるんだもんな。マジでスゲェよ」

皆が興味深そうに生まれたスライムを見つめる。

するとスライムは恥ずかしがっているのか、イヤンイヤンとばかりに、体を伸ばしてクネクネしている。

なんだこいつ。結構面白いし、なんだったら可愛いな。

一部で根強い人気が出そう。ぶっちゃけ俺も連れ回したくなってきた。

「早速なんだけど、スライム。お前水を綺麗にできたりする?」

「――! ――――ッ!」

「できるか! よし! それじゃあこれを綺麗にしてみてくれ!」

俺は沼の水が入ったウォータータンクを指す。約20リットル。〈浄水核〉なら一時間くらいで綺麗になる容量だが、結構汚れの多い水だからな。もう少しかかるかも。

スライムはそれをじっと観察している。すると、ビニョンと触手のように体を伸ばし、自分で蓋を開けた。

めっちゃ器用だと感心していたら、その伸ばした部分から容器に突っ込み、ニュルリと体全体を中に入れる。

沼の水と同化し、核だけが目立つ格好になった。そう思いきや、核がボコボコと動きだし、中の水がかき回されている。

そう時間も経たないうちに、スライムはウォータータンクから出てきた。そしてウォータータンクの水は沼から採取したとは思えないほど、透明で綺麗な水となっていた。

「〈浄水核〉で綺麗にしたものと遜色ない。しかもだいぶ早く終わってる……!」

「十分ちょいで終わっているね。ほら」

伊波が気を利かせて時間を測ってくれていたらしい。確かにスマホのストップウォッチは、それくらいの時間を示している。

念の為、【鑑定】でも確かめておくか。

【素材鑑定】

〈水〉――スライムによって浄化された水。飲料水としても使用可。

「飲んでも大丈夫みたいだ。完全に〈浄水核〉の上位互換になってるな」

「しかもこいつ戦えるんだろ? そのまま沼にぶちこめばスライムを倒して、ついでに綺麗にしてくれるんじゃね?」

「それができるなら、内側の警戒をせずに済む。かなり楽になるぞ!」

川辺の発言に、皆が興奮する。

さすがに綺麗になったとはいえ直飲みは怖いが、煮沸して使えば安心だろう。そしてなにより、スライムの駆除が任せられるのはデカい!

「で、どうかな? 沼から生まれるスライムを倒せる? ついでに水の浄化も」

俺が聞くと、スライム君はプルプルと震えたかと思ったら、人の腕を出して力こぶを作った。ムッキムキな上に血管まで浮いて芸が細かい。

造作もねぇよ、といわんばかりのやる気っぷり。やだ、たくましいっ! これは惚れちゃう……ッ!

とはいえ、こいつ一匹だけではそれなりに大きな沼をカバーするのは厳しいだろう。だが、こいつはさらにそれを解決するスキルを持っている!

「よし、それじゃあ【分体生成】をいってみようか」

「――ッ! ~~~~~~……ッ!」

ブルブル震えたと思ったら、スライムは体の三分の一ほどを切り離した。すると、切り離された部分がブルンッと震え、ピョンとその場で跳ねる。

それを見て、また皆がお~! と感心の声を上げた。

「マジで分身を作れるのか。これなら戦力に困ることもないんじゃないか?」

「いや、でも一匹だけだぞ? これだけしか作れないのか?」

「本体の身体が小さくなっているから、栄養が足りないとかじゃないのか? それよりも分体の強さが大事だろ」

ちらほら疑問が湧いているな。とりあえず強さを確かめるか。

【魔物鑑定】

名称:スライム型ホムンクルス(仮)の分体一号(モデル:ヒュージスライム)

レベル:――

ステータス:【MP】80【STR】50【CON】130【POW】110【DEX】15【INT】15

スキル:【物理耐性】レベル2【溶解】レベル2【連携】レベル1

弱点属性:――

「ステータスはだいたい三分の一くらいですね。それとスキルがいくつか消えてる。弱いと言えば弱いけど、分体でこれならまぁ妥当な気はするな。リーダーの仕事を手伝う分には問題ないでしょう。こいつらも水の浄化はできる?」

聞けば、スライム達は同時にコクンと頷く。動きが揃って可愛い。

「水の浄化は問題なしか。じゃああとは、分体は一体しか作れないの?」

「――――ッ! ――! ――――ッ!!」

聞けば、スライム君はボディランゲージで伝えようとしてくる。

ええっと、なになに? ――ご飯をいっぱい食べて――体を大きくすれば――いける!

「体積が足りないから出来ないだけってことね。んでそれも、なんでもいいからとにかくご飯を食べれば大きくなっていくと。沼の中の微生物、菌、寄生虫でもオッケーとか、ちょっとコスパ良すぎないか?」

「有害なものを自分の食事にして水を綺麗にして、新たに生まれたスライムも勝手に倒してくれる。本当に有能過ぎる」

伊波が感嘆の唸り声を上げる。問題となっていたところをコイツ一匹でなんとかできるんだもんな。そりゃビビるわ。

となると、あと問題は一つだな。

「人の排泄物。小便とかアレとか……綺麗にできる?」

「――――」

心なしか、スライムさんは黙り込んだように見えた。

数秒、周囲に緊張した時間が流れる。

誰かが口を開くか開かないか、そんな絶妙な時間で、スライムさんはまた人の腕を作った。

その腕の先には――力強いサムズアップが作られていた。

「――救世主だぁあああああああ!」

誰となく叫んだ。

「救世主だ! 俺達の救世主が現れたぞ!」

「これでもう水に悩まずに済む! トイレの匂いにも悩まなくてすむぞぉおおおお!」

「体をちゃんと洗えるのね!? 水をケチらないでいいのね!?」

「細菌や寄生虫がご飯? バカなこと言ってんじゃねぇ! 肉ならたっぷりあるからいくらでも食ってくれ!」

「胴上げだ! 俺達の救世主様を胴上げじゃぁああああああ!」

二匹のスライムが奪われたと思ったら、わっしょいわっしょいと皆の手によって空高く投げられる。一人で投げられる大きさだから、胴上げというよりキャッチボールみたいになっているが……表情が見えなくても、スライム達は嬉しそうだしいっか。

とりあえず楽しそうだから俺も混ぜて貰おう。

♦ ♦

――パチッ、パチパチッ、バチッ、バチンッ!

さらに追加でスライムのホムンクルスを作り出し、沼に放した頃には、すっかり夜になっていた。

七緒ちゃん達が作った食事を終えた後は、俺達はいつの間にか用意された焚火を囲み、ぼーっと火を眺めている。

この拠点全体を賄なえる灯り目的の焚火だ。相応に大きく、火の高さが俺の背丈くらいはある。自分達でもキャンプをして焚火は作ってきたが、これだけの大きさとなると初めてだ。ちょっと圧倒される。

「というか、こんなに大きな焚火作って大丈夫ですか? 目立って見つかりません?」

「大丈夫だろ。そもそも26層に来れる奴なんかそうそういないし、こっちの方角に来る奴もいない。森にも囲まれているから、見つからねぇよ。精々が森の外を遠目から見て、何か光っているかも、くらいなもんだ。それならバレっこねぇよ」

傍にいたタケさんが答えてくれる。

ふむ。まぁ他の人も気にしてなさそうだし、それなら大丈夫か。

納得して、また目を焚火に戻す。

パチパチと薪が跳ねる音。ごうごうと燃える炎。それらをじっくりと聞き、ぼーっと眺めていると、自然と声が漏れた。

「なんかさぁ。ここまで大きな火を見ていると、こう、むくむくっと何かが芽生えてこない?」

「分かる」

「分かる」

川辺と伊波は迷いなく頷いてくれた。

やはりこいつらは分かってくれるか。

「いや、分かりませんけど。何言ってるんですか?」

「私は分かる気がしますよー。こう、メラメラッと、うずうずしてきますよね」

逆に七緒ちゃんは理解を示さない。なんて冷たい女なんだ。

その点、チヨちゃんはまだ素質がある。なんて良い子なんだ。

「これは……なんだろうな。心の奥底から湧き上がってくるというか……」

「本能……あるいは野生……」

「原始の衝動か……」

「そう、それだ。野生の本能。太古から受け継がれてきた原始人の魂だ」

「貴方達のどこに野生があると?」

ふっ、厳しい指摘をしてくれる。

しかしこの熱い衝動は、もはや七緒ちゃんでは止められない。

「踊るか」

「ふっ、いいだろう。乗ってやる」

「たまには童心帰るのも悪くない」

俺の唐突な提案に、やれやれと笑いながら川辺と伊波も乗ってくれた。

俺達は上着を脱ぎ、上半身裸になる。そんな俺達に、七緒ちゃんが冷めた目を向けてきた。

「本当に何をやってるんですか? え? 正気ですか?」

「七緒ちゃんには分からんだろうね。男はね、たまにバカになりたくなる時っていうのがあるんだよ」

「いや、貴方達いつもバカじゃないですか」

ふっ、本当に厳しいことを言ってくれる。

否定できないのが辛いところだぜ……。

「それじゃあ七緒ちゃん、音楽はよろしく。そうだな、クロ〇トリガーの古代のBGMみたいなやつで」

「知らないんですけど……」

「勉強不足だな。仕方ない。それなら適当に原始っぽいものでいいよ」

「私が悪いみたいに言わないでください。というか無茶ぶりが過ぎる……」

たとえバカだと思われてもいい。とりあえずなんかやってみたいと思ったこの衝動には逆らないたくない。

俺達は三人でたき火を回りつつ、それぞれ思うままに踊り始めた。それを踊りと認識できた人は少ないかもしれない。なんか変なことやってると思われるだけかもしれない。

だが、それでもいい。たとえバカにされても、俺達は本物のバカになる。

そう思っていた俺達に、すっと一人、同じ格好で混ざってきた人がいた。

「――天城さん!」

「自分達だけで楽しんでずるいンゴ」

それが切っ掛けになったのか。やれやれと首を振ったりしながら、混じり始めた人が増え始めた。

「まったく、しゃあねぇな」

「会長がやるというなら乗ってやるか」

「もういい大人なのにな。まさか学生時代のノリに戻ることになるとは」

「まぁいいじゃねぇか。むしろ貴重な機会だ。全力で楽しんでやろう」

「あっはっはっは! バカでしょアイツら! こんなとこで裸になって!」

「いや~……男って~……何歳になっても~……あんなもんでしょ~……」

「おお~……なんだか私も混ざりたくなってきますね~」

「止めなさい。女を捨てることになるから」

筋骨隆々だったり、毛深かったり。俺達よりもよっぽど原始人っぽい男達が混ざり、女はそれを遠巻きにしながら笑っている。

初めは皆バラバラでぎこちなかったはずなのに、原始の魂によって導かれたのか。気づけば皆がまったく同じリズムと振り付けで、息を合わせて踊っていた。

俺達が拠点に着いた最初の夜は、危険地帯に居るとは思えないほど愉快な悪ふざけによって締めくくられた。

満足するまで踊り、体を洗って寝床に入ってから、思う。

――何やってんだ俺ら。バカじゃねぇのか。

ノリで動くと後悔すると、改めて思い知った。でも楽しかった。

♦ ♦

【探索のヒント! その四十一】

〈【分体生成】〉

その名の通り、自らの分体を作り出すスキル。

スライムのような単細胞生物の他、キノコ型の魔物のような菌糸類、群体をつくる魔物、または一部の幻獣、精霊系の魔物が習得できる。

スライムのように体積を切り分けるタイプの他、【MP】を消費して作り出す形もある。

【分体生成】のレベルが高ければ高いほど、高い能力を持った分体を作り出すことができる。

基本的には分体が本体を超える強さを持つことはないが、極まれに分体が本体に下剋上を果たし、存在を成り代わるというケースが存在する。スキル使用者には注意が必要である。

体力、魔力が回復すればいくらでも【分体生成】を行えるのか、と考えがちだがそうではなく、種族、レベルによって一定の限界がある。

これは数を増やし過ぎることによる、本体の管理限界を超えないための本能、いわばセーフティネットのようなものであり、決して超えることはできない。無限に兵隊を生成、なんて美味い話はないということだ。

習得できる種族に制限がある。でもホムンクルスならどんな種族でも習得させられるんじゃ? たとえば人型に覚えさせれば一体で疑似ハーレムが!?

そんな抜け道が許されるかと言われればそんな訳がなく、これもベースになった種族に適性が無ければ、スキルを使用することはできない。結果、スキル枠を一つ潰すだけのゴミスキルになってしまう。

やはり数を増やすことに近道はない。コツコツ地道に頑張りましょう。