作品タイトル不明
第102話 食〇――ッ!!③
静寂が、会場に満ちていた。
当然だろう。ミライさんにアキラさん、そしてトシさんの三人の服がビリビリに引き裂かれ、下着姿になったのだから。
……まさか本当にこうなるとはな。
いや、半ば分かってやったんだけど。
だから食べさせたくなかったんだよ。俺はあれだけ止めたというのに、くっ――ッ!
「――オ゛イ゛……ッ!」
「はい」
まるで鬼が出したかのような、やべぇくらいドスの効いた声だった。恐怖のあまり、思わずその場で正座してしまう。
一体誰が? ミライさん? やっぱりトシさん? 正解は――なんとアキラさんでした~!
普段ののんびり不思議系のキャラ作りが見る影もねぇ。怖すぎて目を合わせられないんだが。どんな顔をしているのか、確かめたくもない。
逃げるように視線を横へずらすと、ミライさんの姿が目に映った。
真っ赤な勝負下着は、ミライさんの美しさをより魅力的に。よりエロく際立たせている。それを惜しげもなく晒しながら、照れた様子が一切ない。
このまま見続けるのも申し訳ないのだが、俺はその姿から目を離せなかった。違うんです。ミライさんの下着姿がみたい訳じゃないんです。アキラさんの方を見ることができないだけなんです。
ミライさんはあらあらと声を漏らすと、腕と足を組んで俺に尋ねる。正直、ゆったりと持ち上げられた胸と、艶かしく光る太ももとかが気になりすぎた。
「それで、楓太君。これはどういうこと?」
「いや、その、これには深い訳がありまして……」
「早ク言エ゛……」
「あ、はい。すみません」
ダメだ。口篭ってたらマジで殺されかねん。正直に話そう。
「ほら、料理アニメとか、食べた人のリアクションが全て、みたいなところがあるじゃないですか?」
「まぁ言わんとする所は分からなくないわね。それで?」
「どうせ料理バトルするなら、俺もそれくらいのリアクションを出すような料理を作りたいな〜って思ったんですよ。まぁできたらいいな〜程度だったんですけど、ちょっと気になる素材を見つけてしまいまして」
【アイテム鑑定】
名称:クラッシュクラブのハサミ
クラッシュクラブのハサミ。その固いハサミでどんな獲物でも砕く。【装甲破壊】【装備破壊】
「この【装備破壊】っていうのを応用すれば、もしかしたらリアクションで服が破けたりするんじゃね? そんなことを考えてたら、本当にスキルが付いちゃったんですよね」
【アイテム鑑定】
名称:エリートオークとブッチャーズブルの合い挽きハンバーグ☆3
バフ効果:【筋力強化(中)】【体力強化(中)】【頑丈強化(中)】【体力自然回復(小)】【リアクション(脱衣)】
「冗談のつもりだったのに、まさか本当にスキルができるとは思ってなくて……ほ、ほらっ、だから言ったじゃないですか! 傷つく人が出るからやめませんかって! なのに皆がダメだっていうから仕方なかったんですよ! だから俺は悪くないですよね? へっ、へへっ……」
「言イ゛ダイ゛事ハソレ゛ダケカ……?」
「ひぃっ……!?」
しょ、正直に言ったのに。こうなるから止めようと言ったのに、なんで!?
川辺! 伊波! 助けて!
『そら怒るだろ。完全にお前が悪いわ』
『また面白――ゴホンッ。くだらない物を作って。甘んじて怒りを受け入れた方がいいよ』
「私、やっぱり審査員やらなくてよかったです……」
「良かった…! 本当に良かった…!」
ふざけんな! 絶対面白いとか思っているくせによ! なんて薄情な。
望みを託すとすれば七海姉妹の方だが、チヨちゃんはジト目でこちらを見ており、七緒ちゃんは心からほっとした表情で胸を抑え、俺を見ようともしない。
これは、俺が助かるのは絶望的なのでは?
「まぁそう怒るな。許してやれよ」
意外にも、助け船を出してくれたのはトシさんだった。
トランクスのパンツ一丁にされているというのに、なんと寛大な!
「何処ニ゛許セル゛理由ガア゛ル゛?」
しかし、アキラさんの怒りは相当だった。
自分でやっておいてなんだけど、そりゃそうだわ。全く動じていないミライさんの方が異常なんだよ。
「確かに悪ふざけだったかもしれないが、料理に付いたスキルを考えてみろ。効果(中)だぞ? 今まで聞いたことがねぇ」
「ちなみに小鈴、さっきの料理はなんのスキルがついていたのかしら?」
「……【筋力強化(小)】、それと【体力強化(小)】です。オークの肉を使ったのが良かったのでしょう。私の経験上でも最高レベルの一品でした」
ミライさんの問いに、小鈴さんは悔しげにしながら答える。
だよなと、トシさんは分かっていたかのように頷いた。
「小鈴でさえこれだ。それを上回る効果と、スキル発動数。正直比べものにならん」
「素材のせいで前衛向けの料理になっているみたいだけど、26層のフィールドボスと戦う切り札になり得るわね。他のバフも重ねれば、攻撃、防御ともに倍くらい変わるかも」
「そして何より――美味かった。お前だってそれは認めるだろ?」
「むぅ〜……」
トシさんとミライさんの言葉で、アキラさんの声がいつも通りの調子に戻っていく。
なんとかアキラさんの怒りが収まってくれたようだ。良かった。本当に殺されるかと――
「いや~、あれで怒りを抑えろって方がムリだろ」
「ああ。女なら普通にな。ミライがおかしいだけだ」
「それにほら、見ろよアキラのあの姿。上下で違う下着だぞ」
「ああ~、これは恥ずかしい。普通にやるとは聞いたことあるが」
「人に見られる機会がないからって、油断していたんだろうな。哀れな」
「――テメェら死ぬ覚悟は出来てんだろうな!?」
アキラさんはとうとう我慢できずに飛び出した。
さすが〈暗殺者〉。目にも止まらぬ速さで襲い掛かり、次々と暴言を吐いた男達を沈めている。
せっかく収まっていたというのに、なんと愚かな。
「でもまぁ、とりあえず俺の勝ちっていうことでいいですかね?」
「ああ。当然だ」
「誰にも文句は言わせないわ。良いわね、小鈴?」
ミライさんが小鈴さんに、強めの口調で訊ねる。
小鈴さんは、震えながら目を伏せていた。
「審査員の判定にケチを付けようとは思いません。思いませんが……こんな……こんな結果って……」
頭では理解しても、心が納得いかないのだろう。
当然だ。プロの〈料理人〉が、料理で素人に負けるのだから。
料理を愛しているからこそ、感情が追い付いていない。
そして、俺はそれを否定しようとは思わない。
ただ、俺にできるとすれば――一つだけだ。
「納得いかないのなら、自分で確かめてみればどうですか?」
「え?」
唖然として顔を上げた小鈴さんに背を向け、俺は自分の調理場に戻る。
そして皿を手に取り、〈錬金釜〉に残った料理を乗せた。
念のために用意しておいて良かった。審査員はもちろん、やっぱり対戦相手も実食して、負けを認めるまでが料理バトルだ。
「さぁ――おあがりよ」
『正気かお前?』
『あれを見て食べると思うの?』
「……いただきます」
『食べるのか』
『とっくに狂気に染まっていたね』
小鈴さんは皿を受け取ると、その場でゆっくりとハンバーグにフォークを入れた。そして一口入れ、小さく目を瞠る。
――パァアアアアアアアアアアアアンッ!
弾け飛んだコック服。そして暴かれる下着姿。
もはや言葉など必要ない。しかしそれでも、小鈴さんは律儀にそれを口にした。
「お……美味しいですぅ~……ッ!」
「――御粗末!」
『お前それ言いたかっただけだろ』
『それだけの為に長い茶番に付き合わされたね』
実況席のバカ共がなんか言っているが、些細なことよ。
俺は確かに、完膚なきまでの勝利を得たのだ。
「うっ……うぅぅぅうぅぅ……!」
小鈴さんはぺたんと女の子座りになると、ぐじゅぐじゅと泣き始めた。それでも皿を落とさなかったのはさすが〈料理人〉か。
「私の……負け……でも、本当に美味しくて~……うっ、うぅぅぅ……! 美味しいぃぃ……もっと食べたい~……!」
悔し泣きなのか、味に感動しているのか。なんとも微妙な涙だな。忙しい人だ。
食べながら泣きじゃくる小鈴さんに、ミライさんが膝を付き、そっと寄り添う。
「分かるわ、小鈴。悔しかったわね」
「はいぃぃ~……あんな……ぐすっ! 料理を舐め腐ったゴミクズ野郎に……こんな美味しくて、ふざけた料理で……えぐっ! でも、本当に美味しくてぇ……私じゃ作れなくてぇ~……悔しくてぇ……!」
「大丈夫。貴女ならすぐに楓太君を超えられるわよ。〈百花繚乱〉として、そして小畑会の一員として、これから頑張りましょうね。私もお手伝いするから」
「はいぃ~……よろしくお願いしますぅ……」
ひっでぇ言われようじゃん。俺が泣きそうなんだけど。
つうかミライさん、本当に抜け目ないな。なに弱った小鈴さんに付け込んで、さり気なく自チームに誘導してんねん。仲間になってくれるなら別にそれでいいけどさ。
しかし……下着姿の女性が二人揃っているというのは、中々見れない光景だな。
ミライさんはもちろんなのだが、特に小鈴ちゃんが凄い。
もう本当にむっちむち。腕も、胸も、尻も、そして太腿も。下着から零れ落ちそうって感じだ。パンツの上に微妙に乗っかるお腹の肉とか個人的にポイント高い。
これを見られただけで頑張った甲斐があったなぁ。眼福だ。
いや、いつまでも見ている場合じゃないわ。早く服を着せんと。
「ああ~、何か着替え持ってます? なければ残った素材に使えるものが有ったんで、羽織る物作りますけど」
「そうね。小鈴には早く渡してあげてくれる? 私は後でもいいわ。なんだったらこのまま帰ってもいいくらいだし」
いい訳ねぇだろ馬鹿。迷惑を考えろ。もはやバイオテロだろ。
中身以外は美女なんだ。いたいけな少年が熟女好きになったらどう責任を取るつもりだ。
「ああ~、とりあえずこれでも着とけ」
「二人には大きいだろうが、むしろちょうどいいだろう」
タケさんと兵藤さんが自分の着ていたジャケットを脱いで、二人に渡してくれた。
ごつい身体と顔のくせに紳士な人たちだ。あ、いや、兵藤さんはガチで興味がないだけか。
「でも、タケさんはいいんですか? むしろアキラさんに渡すべきでは?」
「いや、今のアイツはちょっとそれどころじゃないから……」
タケさんは気まずそうに目を逸らした。
まぁそれもそうだな。今も色々と言った人達をしばきまわっているし。なんとか真帆さんが止めようとしているけど、あれはしばらく止められないだろうな。
「というかですね。楓太さんが率先して動かないと駄目ですよ」
「そうですよ~! 見れてラッキーっていう下心が見え見えですっ!」
「ちゃうねん。ごめんて」
バスタオル片手に近寄った七緒ちゃんとチヨちゃんに、頬っぺを引っ張られる。
いや、ちょ……マジで痛いんだが!? ステータスを考えてくれ! 謝るから!
七緒ちゃんは小鈴ちゃんにバスタオルを渡すと、憂鬱そうに溜息を吐いた。
「小鈴さんが仲間になってくれるのはいいとして、大変なことになりましたね。拠点造りはともかく、あのフィールドボスを相手にしようなんて」
「確かにね。まぁでも俺達が戦うことはないし、心配することもないでしょ。皆ならやってくれるって」
レベルが上がった小鈴さんと、俺がバックアップするんだ。装備が整っていれば皆ならやってくれるだろ。そう心配することでもない。
そんな話をしていた俺達に、タケさんは不思議そうな顔をした。
「いや、楓太はともかく、七緒ちゃんには協力してもらうつもりだが?」
「え? ――えっ!? 私が!?」
「あっ、そうか。七緒ちゃんなら【歌唱】でバフできるもんね」
というか、むしろ参加しない理由がないな。
大物相手のレイド戦。広範囲にバフをばら撒ける〈吟遊詩人〉が本領を発揮できるシチュエーションだ。
驚いている七緒ちゃんに、ミライさんは愉快そうに笑う。
「未だ評価が定まらないレイド向けと想定されているジョブ。今回のフィールドボスはね、それを測る良い機会でもあるの」
「ええ、その通りです。だからこそ、僕も今回の遠征は楽しみにしています」
「マサ君」
いつの間にか、マサ君が傍まで来ていた。
マサ君はいつになく挑戦的な笑みを浮かべ、続ける。
「いつかそのチャンスが在ればと思っていましたが、こうしてその機会を用意してくれたことに僕は感謝していますよ。初めて自分の力を思う存分に使えるんですから」
そういえばそうだった。マサ君もまた、七緒ちゃんと似た性質を持つジョブだ。
より細かく言えば、パーティー規模のバッファーであるが、向上心の強い彼だからこそ、この戦いを楽しみにしているのかもしれない。
「それに、今の小畑会にはあの人が居る」
そう言って、マサ君はすっと視線をずらした。
その先には、盛大に暴れまわっているアキラさんを見て楽しんでいる天城さんがいる。
「ある意味、小畑さんの最大の功績は、あの人にチームプレーを可能とさせたことかもしれません。あの人にはそれだけの強さがある。小畑さんと小鈴さんのバックアップに、僕と七緒さんのスキル。そして天城さん。勝てる条件は十分に揃っていますよ」
「そ、そうなんですね……。分かりました。精一杯頑張りますっ!」
七緒ちゃんは強張った顔でそう言った。精一杯の虚勢だというのが丸分かりだ。
それを見抜き、タケさんが大袈裟に笑った。
「ハハハッ! 今からそんなに緊張してどうする。それに気負うこともない。ただ気分良く歌っていればそれでいい」
「ええ、タケの言う通りよ。一緒に遠征した時と変わらないわ。ふふっ、また七緒ちゃんの歌が聴けると思うと楽しみね」
「なんだ、そんなに上手いのか?」
兵藤さんが興味深そうな視線を向ける。
ミライさんはもちろん、と頷いた。
「七緒ちゃんの技術もあるんだろうけど、【歌唱】の効果も乗っているんでしょうね。凄くいい歌だったわ。【伴奏】も自前で用意して、リサイタルみたいよ」
「ほう、そこまでか。〈吟遊詩人〉には会ったことがなかったからな。今から楽しみだ」
「あ、いえ。それほどのものでは……」
七緒ちゃんは両手を小さく振って謙遜している。
美徳ではあるんだが、アイドルがそこで遠慮してどうする?
「なんだったら今から歌わせますか?」
「は? いや、何を言って――」
『うちの七緒は仕事を断りません』
『場所も選びません。地方のドサ周りも大歓迎です』
「はぁ!? 本当に何勝手なことを言っているんですか!? 歌いませんよ!?」
七緒ちゃんが強めの拒否反応を見せる。まぁ急に歌えと言われてもね。アイドルとしては失格だけど。
だけどね、もう遅いんだ。
俺達はともかく、川辺と伊波の声はマイクで、会場中に聞こえちゃったんだよね。
「え? 七緒ちゃんが歌うの?」
「ああ、そういえば〈吟遊詩人〉なのよね」
「いいじゃん。小鈴ちゃんの歓迎会、遠征決起会ってことで。歌ってもらおうぜ」
「えっ、いや、あの皆さんっ! 本当にですね――」
「それでは皆さんご一緒に! 七緒コールをお願いします! さんはい!」
――七緒! 七緒!
――ナ、ナ、オ! ナ、ナ、オ!
――NA! NA! O! NA! NA! O!
「嘘でしょ……」
会場に響き渡る七緒コールを前に、七緒ちゃんは呆然と立ちずさんでいた。
しかし、ここにいる皆は俺ら以上にノリが良い。今さら歌わないとは言えないだろう。
そして、七緒ちゃんは根っからのアイドルだ。ここまで求められて、何もしない訳が無い。
顔を真っ赤にし、ぐぅっと唸っていた七緒ちゃんだったが……スッと表情を変えると、ピシりとポーズを決めて宣言した。
「――七緒、歌います」
――ワァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!
興奮した皆の声が響き渡る中、【伴奏】が流れ出す。そして、七緒ちゃんの単独リサイタルが始まった。
いや~、本当に凄い凄い。歌が上手いのもさることながら、今流行りのアイドルはもちろん、年齢層に合わせてちょっと昔に流行った女性歌手の歌だったり、レパートリーが広い。
会場にコールアンドレスポンスを自分から求め始めた時には、やっぱりお前アイドルだろとツッコミたくなった。
それでも、誰もが満足するパフォーマンスだったのは間違いない。
時には希望者が歌って、七緒ちゃんが【伴奏】。残った素材を使って、俺と小鈴さんが作った料理を肴にしての大宴会は、深夜まで続いた。
なお、公民館の職員さんには、金の力で黙らせたもよう。やはり金は全てを解決する。
ちなみにどうでもいいことだが、俺達は宴会後、三人揃って七緒ちゃんに容赦なくビンタされた。
自分だってめっちゃ楽しんでいたくせに……マジで痛ぇんだが……。
♦ ♦
【探索のヒント! その四十一】
〈スキル変化〉
生産アイテムは基本的に、使用した素材の性質や、備わっているスキルを乗せることができる。
しかし時折、素材にはないスキルが付与されることがある。
それは生産者の意志により、素材が持っていたスキルが変質し、元のスキルと同系統の新たなスキルとして付与されるからである。
この一連の変化をスキル変化といい、【スキル】として現れることのない生産職共通の隠れ要素であると言える。
しかし、狙った効果を出すようにスキル変化を起こすのは難易度の高い技術だ。
同系統のスキルに変質と簡単に言うが、元の形から変えることには違いない。当然、そう簡単にできるものではない。
ところが、このスキル変化を比較的容易に行えるジョブがある。そう、〈錬金術師〉である。
魔力を利用し、素材を原子レベルまで解き、再構成する。【錬金術】のこの性質上、形を作り替えることは〈錬金術師〉にとって当然の行いであるからだ。そしてそれはスキルも同じである。
自分の想像するスキルを作るのはもちろん、その装備には本来付与できないスキルを違和感なく取り込ませる。そんなことさえも可能にする。
アイテムの純粋な性能という点では各種専門職に勝てない〈錬金術師〉の、絶対的優位性と言える部分であろう。
どこまでクリエイティブに作品を追求できるか。それこそが〈錬金術師〉の才覚と呼べる部分かもしれない。