軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十四話:転生王子は勝利を祝う

戦争が終わった翌日、日の出と共にグリニッジ王国が帰還していくのを見届けた。

彼らが急いで帰ったのは弱体化したことで、ハゲタカのように襲い掛かり、領地を奪い返していく周辺諸国に対抗するためだろう。

国際連盟宛に此度の経緯をカルタロッサ王国、グリニッジ王国、立会人となった騎士の国の三カ国の連名にて提出してある。

来月には国際連盟が見守るなかで会議を行って、詳細をつめていく。

俺たちが取り戻した土地と領民が戻ってくるのはおそらく再来月となる。

向こうにも引き渡しのためにそれなりの準備がいる。そして、国際連盟が許す猶予がそれぐらいだ。

彼らが去ってから三日は警戒を続けながら、いろいろと事後処理を行ってきた。

そして、今は……。

「おい、ヒーロ。もっと笑えよ。今日は宴だ」

酒で顔を赤くしたタクム兄さんがジョッキを片手に後ろから抱きついてきた。

そうとう呑んでるな。

無理もない、タクム兄さんは戦争が始まってから好きな酒を一滴も呑んでいなかった。

俺の居た世界の戦争とこちらの最大の違いは、魔力があるからこそ、圧倒的に強力な個というのが存在すること。

最強の騎士が単騎突撃して、全ての守りを蹴散らし、敵将の首を狩るなんてふざけた戦術がこの世界では成立してしまう。

だからこそ、カルタロッサ王国最強のタクム兄さんは常に戦える状態にしておかなければならなかった。

「おつかれさま、今日は思いっきり呑んでくれ」

今まで我慢させた分も、精一杯楽しんでもらいたい。

「言われなくとも、そうさせてもらってる。かあー、うめえ。ナユキの作った酒は最高だ」

タクム兄さんはそう言って、エールを煽った。

ぷはーっと気持ちよさそうに息を吐く。

今日は戦勝会だ。

城中が宴の舞台で参加者は国民全て。

今まで節約してきた食料と酒を一気に放出して、みんなで楽しんでいる。

俺のいるテーブルには、俺たち三王子のほかに、ヒバナ、サーヤ、バルムート、となりのテーブルにはタクム兄さんとアガタ兄さんの近衛騎士たちがいる。

妹姫のナユキがいないのは、この宴こそがナユキの戦争だからだ。

厨房で、指揮を取りながら次々に料理を完成させてくれている。

俺はメロン酒をちびちびとやっていた。

「んな、みみっちい呑み方すんな。もっとぐっといけ」

「そうですよ、そんなちびちび呑んだら、お酒の味なんてわかりません! もっと、ぐびーってしないと」

「おっ、サーヤはわかってるじゃねえか」

「ふっふっふっ、ドワーフにお酒を語らせたら長くなりますよ」

サーヤはワインをジョッキで一気に流し込む。

ドワーフだけあって、凄まじい呑みっぷりだ。

今日用意した酒は三種類。ナユキが仕込んだエールに、俺の作ったメロン酒、海の向こうで購入したワイン。

ちなみにメロン酒はこの中では圧倒的に度数が高い。

この酒で一気飲みなんてしようものなら一瞬で潰れる。

「こんな贅沢をしていいのかしら? これから復興で大変なのに」

俺と同じく、メロン酒をちびちびやっていたヒバナが首を傾げる。

「いいんだよ。こういうときにぐらい贅沢をしないと人はがんばれなくなる。特別な日に贅沢をするとな、がんばった先に褒美があるって信じられる。それがあるから、つらい日々に耐えられるようになるものだ。十分、割に合う投資だよ」

「……深いわね」

「それ、僕の言葉をそのまま言っているだけだけどな」

「バラすなんてひどいな。アガタ兄さん」

ヒバナがくすくすっと笑った。

今回のパーティで酒はすっからかん。他にもけっこう無理をしている。

例えば、本来なら今はとにかく数を増やしたいはずのヤギを五頭も潰した。

ヤギの体重は三十キロほどで内臓を含めて可食部は二十キロほど。五頭潰せば、一人二百グラムほど肉が民に行き渡る計算。

たいしたことがないように見えても、それだけで宴は華やかになる。

保存用に加工した干し肉や塩漬け肉ばかりで飽き飽きしていたところに、血の滴る生肉だ。みんなとても喜んでいる。

むろん、宴で用意したのは肉だけじゃない。

埋めてあった海へ通じる地下トンネルの入り口を掘り起こしてあり、今日は久々の漁に出て、その戦果が宴に並んでいる。

他にもヤギのチーズ、芋と小麦、そしてようやく栽培に成功した地下農園のトマトを使った料理まである。

「あっ、なんですか、その美味しそうなの!」

サーヤが目ざとく、俺が食べているものに目を付けた。

「ああ、これか。ピザという」

やっと冬の間に種を撒いたトマトが収穫できたので、作ってみた。

ピザというのは案外簡単に作れる。

膨らまないように、あえて発酵させないようにパンを作って、その上にトマトソースを塗り、ヤギのチーズを散らす。仕上げに具のスライスしたジャガイモと塩漬け肉を乗せてオーブンに入れるだけ。

「そんなの、どこにもなかったですよ!」

「さっきから、なんどか追加されているが、出されるたびに瞬殺されているからな。ほら、見てみろ」

俺は部屋の中央にある、大机を指差す。

今日の宴は、最初にエールが入ったジョッキを配り、山羊肉を作った料理やパン、魚料理が乗ったプレートを渡した後は、特別メニューをああやって何箇所かある大机において食いたいやつが取っていくシステム。

ナユキが指揮をとって、今も大絶賛追加料理を作っており、こうして今も追加のピザが運ばれてきた。

ピザを運んできた兵士はしきりに一人につき、一つ。もう食べたやつは取るなと叫んでいる。

だというのに……窯が許す限界まで大きく焼き、なるべく多くの民に行き渡るよう六十四分割されたピザが一瞬で消えた。

恍惚とした表情で、民たちがピザを食べている、ヤギのチーズがびょーんと伸びてとても美味しそう。

「あっ、ああ、ああ、あんなの、無理ですよぅ。あんな人だかりに突っ込んだら、潰されちゃいます。……いえ、落ち着きましょう。一人一つなら、そのうち、楽に取れるタイミングがくるはず」

実際のところ、ドワーフは小柄ではあるが力持ちだ。むしろ、サーヤが潰す側に回るだろう。

そのことはあえて言わない。

「どうかな、やっとトマトが収穫できたから作ってみたが、そんなに量がないからな。たぶん、次でラストだな」

「……さて、戦争に出かける準備をしましょうか」

サーヤが魔力を纏う。

本気かこいつ? ただでさえ怪力を持つサーヤが魔力を纏えば、それこそトラックが突っ込んでいくようなものだぞ。

「そんな必要はないですよ。サーヤ姉様」

「そっ、それは、まさか」

「はいっ、ピザです」

ナユキがやってきた。

ナユキがここに来たということは宴会用の食材をすべて使い、料理が打ち止めになったということだろう。

彼女の手には大皿に乗ったピザがある。

……しかし、いつの間にサーヤを姉と呼ぶようになったのだろう?

サーヤがそんな企みをしているのは知っていたが、成功はしていなかったはず。

「食べていいんですか!?」

「ええ、どうぞ」

「遠慮なくいただきます! ナユキちゃんは自慢の 義妹(いもうと) です!」

ささっと、サーヤはピザを手に取るとかぶりつく。

サクッとした音がなり、サーヤの口とピザの間にチーズの架け橋ができる。

あいつ、わざとチーズを伸ばしているな……わかっているじゃないか。そっちのほうがうまい。

「んんん~、おいひいです。なんで、こんなシンプルな材料なのにこんなに美味しいんですか。はうはう、さいこうれすぅ」

サーヤが尻尾をぶんぶんと振っている。

よほど気に入ったらしい。

「ヒバナさんとお兄様たちもどうぞ」

「おっ、ありがてえな。さすがに俺らがあの争奪戦に参加するのはなぁ……って思ってたところだ」

「だよね。僕らが行けば、民たちが譲ってしまう」

意外にもタクム兄さんはこういうところに気を使う性格だ。豪胆に見えて気配りの人。

だからこそ、人気がある。

ちなみに俺のピザはナユキが試食してくれと渡してくれたもので、民たちと争奪戦をしたわけではない。

「こいつはいけるな」

「いいね、これ。材料はありふれたものだけど、領地で作れるものだし、トマト以外、保存が効くのもいい。この国の名物にしようか」

ピザとは元来そういうものだ。

日本ではご馳走だと思われているが、もともとは家庭料理。自分で作るなら手軽でコスパがいい。

「本当に美味しいわね」

「はいっ、毎日でも食べたいぐらいです。具を変えたら、たぶん飽きませんよ」

宴が盛り上がっていく。

「バルムートも食べてみろ」

「では、ありがたく……ほう、うまい。これはいい」

「それとな、此度の戦争、よくやってくれた。おまえは約束を果たした。次は俺の番だ」

「……そういうことだと思ってよろしいか?」

「ああ、俺はバルムートの武器を作る。剣に囚われない、最強をな」

「我が主よ、感謝する」

バルムートの目がらんらんと輝く。

彼は最強を目指し、タクム兄さんを見て挫折した。

正しくは剣を使っての最強をタクム兄さんがいる限り届かないと現実と向き合った。

だからこそ、世界中を旅して鍛え上げた剣技を捨ててでも、他の道で最強を目指す。

俺はそのために必要なものを作って見せる。

それが、頑張ってくれたバルムートに対する返礼となる。

「一週間ほど時間をくれ。漠然と何を作るか決めているが、設計と作成に時間がかかる」

「ええ、待ちますとも。楽しみですな」

きっと、あれを見ればバルムートは驚くだろう。

それからも宴は続く。

俺たちは民たちが楽しんでいるのを肴にしながら、酒を呑んで笑い合う。

「はいっ、ヒーロさん、あ~んしてください」

ヒバナが少し不機嫌になり、口を開く。

「……サーヤはそういうことして恥ずかしくないのかしら?」

「照れはあります。ですが私はキツネなので、掘るのも埋めるのも大好きなんですよ。ちなみに今埋めているのは外堀ですね。ふっふっふっ、衆人環視の中でいちゃいちゃして、恋人だっていう既成事実を作っちゃいますよ」

「させないわ。ヒーロ、口を開けなさい」

……ヒバナも相当酔ってるな。普段の彼女なら絶対にこんな挑発に乗らない。

でも、楽しいな。

今日の宴は本当に楽しい。

宴をする前にやらないといけないことが山積みだとわかっていて、この宴を開催した。

戦争に勝つために壊してしまった家々や畑を放ってはおけない、この国の再開発を行わねばならないのだ。

それも、二ヶ月以内に。

二ヶ月もすれば、俺たちの倍の人口がある領地が返還される。返還されるまでに、グリニッジ王国はあの領地から可能な限りすべてを吸い取ろうとする。

領地を取り戻したあと、しばらくは支援をする必要があり、こちらに支援をするだけの余裕が必要だ。

かなり苦労するだろう。

……だけど、今だけはそのことを忘れて全力で楽しもう。

明日から、また頑張るために。

「まあ、二人とも落ち着け」

口を開けた瞬間、ヒバナとサーヤの両方から食べ物を口に放り込んでくる。

「そんなに、はいら、落ち着け。むぐっ」

それを見て、タクム兄さんたちが笑い、なんとか口に突っ込まれたものを食べ終えた俺も笑い返す。

宴は夜遅くまで続いた。

その日は今までで一番、楽しい。

そんな日になった。