軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十三話:転生王子は戦争を終える

戦いの決着がついた。

タクム兄さんは危なげなく勝ったように見えてかなり消耗している。

神経を限界まで張りつめなければ勝てなかった相手だということだろう。

そして、タクム兄さんに負けたマルコはすがすがしい顔をしていた。

周囲がざわついている。

黄金騎士、その中でも聖剣を託される三騎士の一角が負けたのだから仕方がない。

彼は強かった。

俺ではまったく歯が立たないし、ヒバナでもおそらくは無理、バルムートであっても苦戦する。そういうレベルの相手だ。

彼の敗北を予想できるものなど、グリニッジ王国にも、騎士の国にもいない。

こんな小国に、タクム兄さんのような化け物がいるほうがおかしいのだ。

マルコがくくくっとくぐもった笑いを漏らす。

「なるほどのう。どこかで見たことがある顔だと思っていたが、ようやく思い出した。あのときの小僧か。才のある子だと思うとったが、ここまでとは。上も馬鹿なことをした。追い出すではなく、取り込めばよかったものを」

おそらくは、かつてタクム兄さんが騎士の国で大会に出たときのことを言っているのだろう。

一回戦で将来を有望視されていた騎士を倒し、その強さを騎士の国は恐れた。

このまま小国の王子が勝ち進めば騎士の国の名誉を損なってしまう。

だから、騎士の国はカルタロッサ王国への援助と引き換えに、タクム兄さんに棄権するよう通告したのだ。

「そいつはありえねえよ。俺は取り込まれたりはしない。俺は王子だ。この血の一滴まで、この国のためにある」

「そうか、そうか。……惜しいのう。いい目だ。いつからだろうな。こういう目をした男が、我が国からいなくなってしまったのは」

寂しげな笑顔と共にマルコは独白する。

そんな彼とは対照的に、騎士の国陣営もグリニッジ王国陣営も表情が険しい。

「ふざけるな! こんなもの、認めるものか。おいっ、私は最強の騎士をよこせと言った、そのために金を積み、便宜を図った。なのに、なぜ、このようなことになった! 騎士の国というのは最強の騎士が集う国なのだろう。そこで最強の騎士なら、世界で一番強いのが道理だ。それが、こんな小国の王子に負けるとは。はんっ、お笑いだ。それでよく、騎士の国などと名乗れるものだな!」

フェイアル公爵が舌禍をまき散らす。

騎士の国々の面々は苦々しい顔をしていた。

彼らにとって強さとは、誇りであり、存在意義であり、商売の種でもある。

騎士の国は豊かな国ではない。痩せた土地ばかりで農業には期待できない。そんな騎士の国の収入源は騎士たちを貸し出す傭兵業と、戦争の中で得られる略奪品や奴隷の売買。

それを国家事業として成り立たせるには、圧倒的な強さが必要だし、その圧倒的な強さを周辺各国が認識していることが重要だ。

でなければ、各国は高い金を出してまで騎士を借りない。

最強という看板に泥を塗られれば、今後の商売に大きな支障をきたす。

「こんなことを許していいのか!? いや、許せるわけがないだろう。私に提案がある。奴らを皆殺しにしろ。なに、筋書きはこうだ。カルタロッサ王国は決闘に負けたにも拘わらず、誓約の履行を拒否し、あげくの果てには逆上して襲い掛かってきた。そこで、決闘の見守り役である貴国の騎士たちが粛清した……なに、あいつらを皆殺しにすれば証拠は残らない。私たちは自国の利益を守れ、騎士の国は誇りを守れる。いいこと尽くめではないか」

好き勝手言ってくれる。

ヒバナとバルムートがそれぞれ剣に手をかける。

俺自身も保険を確認する。

俺は戦争において、銃は使わない。その概念が敵に漏れることで銃が世界に広まってしまう危険性がある。加えて、俺が錬金術師であることに気づかれ、教会に報告されることも痛い。

だが、この状況ではそうも言っていられない。

この場を潜り抜けないと未来なんてものは来ない。どんな手を使ってでもまずは生き残る。

……もっとも銃を使ったら最後、俺はいっさいの躊躇なく銃を見たものを皆殺しにする。ありとあらゆる禁断の発明を使ってでもだ。

『俺は戦争には勝ちたいが虐殺をしたいわけではない』

それでも、見られたからにはそうしなければならない。そうしないとカルタロッサ王国の未来がない。

騎士の国々の面々を見る。

彼らは葛藤し、剣に手をかけた。

彼らの敵意の先には俺たちがいる。

最強という看板がよほど大切らしい。

ついに剣を抜いた。

こうなってしまったか。

是非もない。

皆殺しだ。

隠してある保険を魔術により遠隔起動し、発射。しようとして、中断した。

いや、中断された。

黄金騎士の剣気によって。

「止めんか!!」

とんでもない一喝、まるで声に質量があるかのようだ。

この場にいるすべてのものが釘付けにされる。

「そんなことをしても騎士の誇りは守れはせんよ。騎士の誇りとは強さだけか? 違うだろう。真の誇りとは何かを己が胸に問いかけてみよ!」

騎士の国の騎士たちは、それぞれに己の行いを恥じて剣を収めた。

逆に、フェイアル公爵は青筋を立て激怒している。

「ふざけるな! これで良いわけがないだろう! 私は言いふらすぞ。黄金騎士がいかに無様に負けたかを。貴国の評判はがた落ちだ」

「好きにするがよい。依頼主のあんたには悪いことをしたと思うておる。じゃがのう、わしは、この男に負けたことを少しも恥じとらん。いずれ、この男、タクム・カルタロッサの名は世界に知れ渡る。彼に負けてもなんら恥ずべきことではないと、早晩世界が知るだろうさ」

かかかっとマルコは笑う。

「話にならん! 腰抜けどもが動かないのであれば、我らの手で」

フェイアル公爵が手をあげる。

あれは後方に控えている兵たちを動かすためのもの。

「やめとけ、そんな真似をしてみろ。わしらは見届け人としての役割を果たすため、あんたらに向けて剣を振るわねばならん。ああ、それから、おぬしの姪とは離婚だ、離婚、わしは国へ帰るよ。騎士の誇りを理解せん輩とは付き合いきれん」

「おまえらのメッキは剥がれた、そんな脅し、怖くもなんともない」

「かかかっ、面白い、面白いのう。いいじゃろう、試してみるか?」

マルコから殺気が洩れる。

その余波を食らった俺ですら、一瞬死を覚悟した。

そんなものを直接くらったフェイアル公爵は腰を抜かして座り込み、振り上げた手を降ろす。

もう、彼にこれ以上あがくつもりはないらしい。

マルコが俺のもとへやってくる。

「あとのことは、わしらがうまくやっておく。安心してくれ。約束は守らせる」

「一つ聞かせてくれ、なんであんたほどの男があれに力を貸した」

「国同士のことだ。いろいろある。自由に生きることは難しい。それから、タクム、また試合おう。次は負けんよ」

「いいだろう。あんたとはまたやりたい」

マルコはグリニッジ王国側ではなく、騎士の国側へと戻っていく。

そして、自然とその場で解散という流れになった。

そのまま俺たちは城に戻る。

「なあ、タクム兄さん、仮に、仮にだけど騎士の国と戦争して勝てるとおもうか?」

「今は無理だな。マルコに勝つことは勝ったが、実力差はほとんどねえよ。あれが三人もいるんだろ? 俺一人じゃどうしようもねえ。バルムートなら互角ってところだが、こっちには三人目がいねえ」

ヒバナの眉がぴくりと動く。

何か言いたそうにして、結局口を閉ざした。

彼女にはわかっている。今は、それに反論していいだけの力が自分にないことを。

「そうか。もう一つ聞かせてくれ。あえて、タクム兄さんは今はって言った。これからはどうなる?」

「可能性はある。とくに、ヒバナにはな。どんどん伸びてる。三人目になれるかもしれねえ」

「……楽しみだな」

「ああ、楽しみだ」

「いずれ、タクム兄さんより強くなるかもしれない」

「それはねえよ。ヒバナは伸びてるが、俺も伸びてる。一生、勝たせる気はねえ」

「だってよ、ヒバナ」

俺はヒバナに話を振る。

するとヒバナは不機嫌そうな顔のまま口を開いた。

「いつか必ず、今のセリフを言葉じゃなく、剣で否定してみせる。覚えておいて」

俺とタクム兄さんは笑う。

それは嘲笑ったわけじゃない。

期待を込めての笑いであり、不機嫌な顔のヒバナが子供っぽくておかしかったからだ。

この国はようやく平和を手に入れた。

……そして、最大の脅威が取り除かれた今、いよいよ姉さんを迎えにいく準備を始められる。

すべてはここからだ。