軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十五話:転生王子は復興を始める

祝勝会が終わった次の日から、早速復興作業が始まり、二週間が経っていた。

「二ヶ月で全員分の家と畑を用意する」

そう俺が告げたとき、一様にみんなありえないという顔をしていたのが面白かった。

だが、それは無理を言ったわけじゃない。

十分にそれをなし得るという計算結果が出ていた。

まず、最初にやったのは民たちを総動員しての大掃除。

敵に利用されないよう、焼いたり潰したりした家の残骸をすべて撤去する。

そして、それらの残骸をドワーフたちが使えるよう再加工していた。

その材料は全部、城のとなりに作った工場に置かれている。

工場ではサーヤが家の設計図を睨んでいた。

「面白い発想ですよね。ユニット化を家に持ち込むなんて」

「大量生産と品質の両立を目指すならこれが一番いい」

国民の数は凡そ千人。そして世帯数にすれば約三百。

つまり、それだけの家を建てないといけない。

限界まで効率的にやる必要がある。

それでいて、それで質を落とすわけにはいかない。民たちに豊かな生活をさせると約束したのだから。

そこで選んだ方法がこれだ。

「全部、同じタイプの家だから職人の習熟が早いでしょうね。パーツの一つ一つを全部規格化しておいて、それを組み立てることで作れる。しかもかなりわかりやすくて簡単。いいですね、これ。工場でパーツを大量生産して、現地では組み立てるだけ、とても理にかなってます」

この手法は、日本でも近年取り入れられている。

非常に多くのメリットがあるのだ。

設計作業を家ごとに行わずに済む、大量生産によるコストカットが可能、現地作業も高い技術が不要かつ短期間で済む。

従来の半分以下の値段で家が建てられるようになった画期的手法だ。

「それだけじゃない、実はパーツの組み合わせ方で」

「あっ、お家が広くなります」

「そうだ。面白いだろう? 標準型のパーツだけで、ある程度は広さを調整できる。独身用、家族用ぐらいのパターンは用意しておこう」

「……すごいですね。ヒーロさんは」

「別に、この程度の設計はサーヤだってできるだろう」

「ええ、できますよ。パーツを大量生産して、現地で組立できる家を作ろうとすれば。でも、私、こういう発想で家を作るなんて思いつかないですからね」

「まあ、俺なりにいろいろと考えているんだよ」

「負けていられないです!」

握りこぶしを作ったサーヤを見て苦笑する。

実際のところ、俺はただ知っているだけで、発想力があるわけじゃない。

ズルしているような気がしなくもないが、転生云々を言っても信じてもらえないだろうし、わざわざ言う必要もないだろう。

工場の入り口を見ると、職人たちがパーツを取りに来て馬車に積み込んでいた。もともとこの国には馬はほとんどいなかった上、さきの戦争で食料にしてしまった。

しかし、グリニッジ王国軍が置き去りにして野生化した馬が、十頭ほど手に入ったので、ありがたく労働力として使わせてもらっている。

重機がないため、馬というのは荷物の運搬で非常に重要な役割を果たす。

……まあ、タクム兄さんとかヒバナあたりは馬以上のパワーで、瓦礫を撤去したり、家のパーツを運んでいるが。

「そっちは順調か?」

職人たちに声をかける。

「ええ、五軒目が終わったところですよ。毎回、同じ作業なんで、だいぶ慣れてきやした」

掃除と並行して、建てられるところにはもう家を建て始めている。

二週間で五軒は非常にいいペースではあるが、三百軒以上の家が必要と考えれば、もっとペースを上げていかなければならない。

それをするには人手が足りない。

欲しいのは、魔力持ちで重機並のパワーを出せる人材だ。

そんな人材がいれば、パーツの運搬も現地での組み立ても一気にペースアップする。ドワーフたちがそれに該当するが、彼らはパーツ作りで忙しい。

彼らの技術力がなければ、規格通りの精度が高いパーツが作れない。

魔力持ちのほとんどを有している軍の協力を得ているが、現状はまだ警戒体制を続けており、魔力持ち全員を復興作業に回せない。

だが、手はすでに打ってある。

そのためにバルムートをあそこに向かわせた。

「ただいま戻りました。我が主よ」

そのバルムートが帰ってきた。

頼もしい助っ人を連れて。

「おかえり、バルムート。それから、来てくれてありがとう。また厄介になる」

「水くせえこと言うなよ。婿殿」

「いい稼ぎになるんだ、気にすんな。うまい酒期待してるぜ」

「国一つまるまる作り直すなんて面白そうな仕事、俺らがやらなきゃ、誰がすんだよ」

出稼ぎのドワーフたちだ。

城壁作りのときにも世話になった彼らを呼んでいた。

彼らは全員が魔力持ちで、種族的に馬鹿力で技術力もある。

比喩抜きで、一般人の百倍働いてくれる。

彼らの加入で一気にペースアップするだろう。

ドワーフたちの加入から、さらに一ヶ月経っていた。

王城で一番高いところから、街全体を見渡す。

「……本当に二ヶ月で復興できてしまいそうだ」

「ヒーロがそうするって言ったのでしょう」

「まあな」

機能的、なおかつ人口の増加に柔軟な対応ができるよう考え抜いたデザイナーズタウンがそこにはあった。

流通を考えて、きっちりと碁盤目上に道路を張り巡らせ舗装してある。それにそうよう家々が整然と並んでいた。

また、上下水道も用意してある。

畑も効率的に作業ができるようにまとめて、水路を張り巡らせた。

「私が駄目にした土地も、使うのよね」

ヒバナが指差したのは水源に毒を仕込んで、殺してしまった土地。

毒を浄化する薬を沈めて、定期的に水質をチェックしているが、水質が改善するのにあと数ヶ月、そして、毒を吸い込んでしまった土地が使えるようになるまで、さらに時間がかかる。

「ああ、小麦が収穫できるようになる時期までに風車を作るんだ。風の力で脱穀と製粉をする。あれだけ苦労させられた作業も風車があれば楽ができる」

作物が育てられない土地なら別の用途にすればいい。

俺が作るのは風車だ。

あのあたりは障害物がない平地で風を遮るものがない。

この国に吹く風は強い。風車という永久的に動力を得られる道具は早めに作っておきたかった。

小麦を粉にするのはひどく重労働で、それが改善されるのは助かる。

それだけでなく、いずれはあの風車を使って風力発電をするつもりだ。

とはいえ、今は復旧第一。風車の需要があるのは次の小麦を収穫したタイミング。後回しにしてもぜんぜん構わない。

「楽しみね。設計図を見せてもらったけど、とてもかっこいい建物だわ。大きな羽がぐるぐる回って、見ているだけで楽しそう」

「なら、早く作らないとな」

「風車を見ながら、デートをするのも悪くないわね」

「考えておこう」

俺が笑うと、ヒバナが微笑み返した。

風車デートか、楽しみだ。

戦争以後も定例となった三王子の食事会に俺も出ていた。

週に二度ほど、必ず共に夕食を取りつつ、情報共有をする。

「軍部で警戒を続けているが、グリニッジ王国に動きはねえよ。もうちょい、哨戒に当たらせる連中を減らして、その分、復興にまわしてもいい気はするな」

「考えておくよ。用心に越したことはない。僕のほうで集めた情報でも、グリニッジ王国側にそんな余裕がないっていうのは裏が取れてるけどね。ああいう、武力頼りでやってきた国は脆いね……一度落ち目になると、今まで恐怖で従えさせていた連中が、一気に裏切る。僕の想定以上にひどい状況だよ」

戦争を終わらすため、アガタ兄さんはグリニッジ王国の周辺にある国々を焚き付けた。我が国が弱らせる。そうすれば、奪われた領地を取り戻す好機になる上、不当な侵略を受けたカルタロッサ王国を救うためという大義名分を得られると。

それがうまく行き、無事戦争は終結。

だが、ちょっとやりすぎた感じはしている。簡単に言えば周辺諸国は調子に乗って、欲をかいた。

ずっとやりこまれていた鬱憤もあり、奪われた土地を取り戻しても満足せず、グリニッジ王国の領土を奪い始めた。

「僕はやめろと言ったんだけどね」

「アガタよ、あんな奴らに同情するのか」

「違う。僕が心配しているのは、周辺諸国のほう。グリニッジ王国は未だに強国だよ。ただ、領土を広げすぎて軍を広く展開する必要があって弱く見えるだけ。もし、彼らをこれ以上追い詰めたら、一気に防衛ラインを下げて守れるものしか守らなくなる……そうして守りが安定したら、どこかに戦力を集中させて落とす。報復だから相手の国が滅びるまでやるだろうね。あの国は小国一つだけに絞れば簡単に潰せる。こういうのは引き際が大事なんだよ」

全てを守ろうとするから弱い。なら、守れるものだけ守ればいい。

道理だ。

アガタ兄さんの言う通り、領地を取り戻したところで手を引くべきだったのだろう。

「それで、ヒーロ。復旧のほうがどうなんだい?」

「怖いぐらいに順調だ。家のほうは、八割以上出来ているし、インフラは完成した。約束の二ヶ月以内には十分間に合う」

「そうか、それは良かった。食糧生産のほうも順調だし、これで受け入れの準備は整うね」

復興を頑張っているが、食糧生産も力を入れている。

女性や子供、力仕事に向かないものたちは復興の労働力に使わず地下農場で食料作りやヤギの世話に従事してくれていた。

飯を喰わないと生きていけない。復興して畑を用意したとはいえ、収穫ができるのはしばらく先。それまでは地下農場の収穫が頼りだ。

そして、自分たちで消費する食料だけでは駄目なのだ。

アガタ兄さんが受け入れと言ったのは、今回の戦争で俺たちが取り戻した領地にいる人々のこと。

「アガタ兄さんは、彼らの様子を知っているんだよな?」

「ああ、タクム兄さんの兵を借りて何度か視察をしているんだ。窮地に追い込まれたグリニッジ王国が、いずれ返さないといけない領地にどんなことをするか目に見えていたから気になってね。色々と約定で縛っていたおかげで最悪ではないけど、ひどいものだよ」

アガタ兄さんは、グリニッジ王国があの領地を返す前に、人や財産を根こそぎ奪うことを想定して、約定をつけていた。

簡単に言えば、引き渡しは後でも、すでにあの領地にいる人材及び財産はカルタロッサ王国のものだから、グリニッジ王国が手を出すのは禁じるというもの。

「どうひどいんだ」

「盗賊がかなりの頻度で出る。……その盗賊の正体は言わなくてもわかるよね? おかげで、餓死者が出始めるぐらい困窮しているし、畑の収穫も絶望的。僕らが支援して上げないとどうにもならない」

「今の俺達にその余裕はあるのか?」

「ああ、なんとかなりそうだ。でも、それで備蓄の殆どを吐き出す。それで何ヶ月かは持つけど。地下農場だけじゃまかない切れなくなるのは目に見えている」

それも当然と言える。

地下農場はマナの関係で、ぎりぎり千人を養える生産量しかもたない。

人口が増えたなら、地下農場以外での収穫が必要。

だからこそ、復興作業のときは畑も整備し始めた。

「状況はわかった。領地の引き渡しは、十五日後か。それまでに船で買い出しに行って食料の備蓄を増やそう」

「そうしてくれると助かるよ……そろそろドワーフたちからもらった金塊も尽きるのが気になるね。なにか金策が必要だ」

「俺もそう思っていたから商売の準備をしているんだ。形になったら共有する」

「へえ。それは楽しみだ。今日の議題はこれで終了。今からはただの食事会。愛する妹が作ってくれた料理を楽しもう。今日のは新作らしいよ」

「そいつはいいぜ。ナユキを呼んでこねえとな」

ドワーフたちに頼めば金が出る鉱山を採掘させてもらえる。

とはいえ、俺がいなくなった後、あるいはドワーフたちとの縁が切れたあとに国を支える産業は必要だと考えていた。

やることは山積み。

だが、確実へと進んでいる。

必ず、この国は豊かになる。そう信じられるから俺は頑張れるのだ。