軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十二話:転生王子の街道作り

翌日、俺とタクム兄さんとヒバナだけは先に戻ってきた。

他の騎士たちは、拠点づくりと塩づくりのために残る。

それは魔術に頼らないやり方だ。今後、この拠点に人を呼び、塩づくりを任せるのだから、魔術に頼らず塩を作れないといけない。

実のところ、ただ塩を作るだけならさほど難しくなく、午前中には、手作業での塩づくりがはかどる道具作りと、騎士たちへのレクチャーが終わった。

そして、夕方には戻ってこられた。

俺たち三人だけなら、これぐらいのペースで踏破できるのだ。

今は執務室で仕事をしている。

「大変な仕事が二つも増えたわね」

「そうだな。だけど、必要なことだと思うよ。タクム兄さんの言う通り、ヒバナがタクム兄さんに勝てるようになるぐらいじゃないと、錬金術で国を強くできるなんて言えない」

隣国との絶望的な戦力差を錬金術で埋めると啖呵を切ったのだ。それぐらいはやってみせたい。

……もっとも、本当の戦争になったとき、個の強さに頼りすぎるようなものを主体には動かないが。

もともと、武器というのは弱きもののために開発されてきた。

誰でも使えて、どんな相手でも殺せる。

それこそが、武器に求められるもの。

もとより、この国が豊かになれば、奪いにくるものがいるのは想定済み

だからこそ、そういう類いの武器は準備している。

まずは、それを使い敵の戦力をけずり、圧倒的な個としての強さを持つタクム兄さん率いる騎士団でとどめを刺すというのが基本戦術。

「強い武装を作ってもらえるのはありがたいけど、やっぱり騎士としては、あの人に自分の力だけで勝ちたいわ」

「俺もヒバナにはタクム兄さんを実力で超えてほしいと思ってる。一週間後の決闘じゃなくてもいい。決闘後も鍛錬を続けて、タクム兄さんを超えてくれ」

「約束するわ。どれだけかかるかわからないけど、絶対いつか一番になる。あなたにそう約束したもの」

ヒバナの言葉からは、それができるという自信が伝わってくる。

やはり、俺の騎士は頼りになる。

「もう一つのほうは、どうするつもりなの? たった三か月でなんて無理だと思うわ」

もう一つのほうとは、海とこの国を結ぶ街道作りのことを言っている。

大よそ、魔の森は20kmほど続いている。

塩を安全に運ぶため、そしていずれは港からやってくる物資を運ぶために、魔物の攻撃を受けない街道を作らなければならない。

「できる。俺はできることしか口にしない」

「そう、ちゃんとプランはできているのね。なら、あとは時間をどうやって捻出するかね。この一週間は、私の武装作りで動けないでしょ?」

「いや、そうでもない。街道の設計は今日中に終わる。あとは実作業だ。実作業をしながら、ヒバナの武器を考えればいい。しばらくは午前中は街道作りしながら、ヒバナの武器を考えて、夕方からその試作って生活になるな」

錬金術師は忙しい。

これぐらいの並列作業はしないと。

これ以外にも仕事はあるのだから。

「器用なのね」

「それが強みだ。そうこう言っているうちに、設計図はできたな」

執務室で取り掛かっているのはこれから作る街道の設計だ。

それをヒバナが覗き込む。

「……あえて聞くわ、正気なの?」

「もちろんだ。これなら魔の森を抜ける必要がない。安心して、海に行けるようになるぞ」

「それはそうだけど、実現できるの?」

「できるから設計した。明日から作業だ。ヒバナにも手伝ってもらう。いい鍛錬になると思うよ」

「あなたといると驚かされてばかりね。いいわ、付き合う。私がタクム王子に鍛えてもらえるのは夕方だし、ちょうどいいわ」

大仕事になる。

これからしばらく、俺もヒバナも筋肉痛に悩まされることは確実だ。

翌日、午前のうちに俺でしか対応できない書類仕事を終えて、残りの仕事をアガタ兄さんに押し付けてから外にでる。

あの人、政治と実務の鬼だから、助けてもらえるのは非常にありがたい。

街道のことを話すと、限界までこっちで仕事を引き受けるとにっこりと笑って了承してくれた。

……ただ、この借りは返してもらうと言っていたのは気になる。うん、考えないようにしよう。

そして、俺がやってきたのは魔の森から少々離れたポイント。

「本当にやるのね」

「ああ、魔の森を切り開くのは困難だ。なら、魔の森を通らない。俺が通るのはここだ」

大地に手をつき、錬金魔術を使用する。

錬金魔術の得意分野、それは物質操作。

とくに砂や土、金属などとは相性がいい。

魔力によって土が掘り返され、どんどん深い穴ができていく。

穴を作るだけでなく、土や石を圧縮して硬度を増して、穴の内側を固める。

これもまた、錬金魔術の得意分野。

こうやってがっちり固めると、穴が崩れない。

掘り進む方向は、真下ではなく斜め下へ。

馬車が無理なく走れる傾斜で、どんどん深度をあげていく。

二十メートルほど掘ったところで、水平方向へと掘る方向を変える。

進む方角は海だ。

魔力針を見て方向に気をつけながら、土を押しのけ、周囲を固め、前へ進んでいく。

俺が作っているのは正確には街道じゃない、トンネルだ。

そう、魔の森を通るのが嫌なら通らなければいい。

地下であれば、木々を引っこ抜く必要もないし、魔物の邪魔も入らない。

それに海から戻ってくるときに、トンネルを通す予定地点を探査魔術を使いながら歩いた。

邪魔になる地下水脈などがないことも確認済。

懸念点があるとすれば、地中に潜るタイプの魔物がいること。まあ、そんな奴はいれば、そのときはそのときだ。

錬金魔術を全力で使いながら、一歩一歩先へ進む。

「……実際にこの目で見ても信じられないわね」

掘り進んでいく、俺の後ろを歩きながらヒバナが呆れた声をあげる。

彼女の手には、錬金術で作りあげた魔力で輝く松明がある。

「信じられないもなにも、俺の地下工房もこうやって作ったんだ。今回は、その規模がでかくなっただけだよ。大型馬車がすれ違える幅で、二十キロほどにな」

「これ、上の重みで潰れたりしないの」

「壁を叩いてみるといい。錬金魔術で超圧縮した土で固めてある。その辺のレンガなんて比較にならない強度があるし、なにより継ぎ目がない一体型、そうそう壊れはしない」

ヒバナが叩くと、コツンコツンと硬質な音がなる。

「ほんと、とても硬いわ」

「この街道ができれば、海から街まで誰もが安全にたどり着けるようになる。塩づくりだけじゃなくて、漁にもでれるだろう」

国の周辺に湖もあるのだが、農作物の育ちが悪いこともあり、乱獲したせいで、ほとんど魚は獲れなくなってしまった。

だから、海で漁ができて魚が手に入れば、食卓が豊かになる。

民たちはきっと喜んでくれるだろう。

「その日がくるのが楽しみね。相変わらず呆れた魔力量ね、そんな真似を私がしたら、たぶん十分ぐらいで倒れるわ」

「前も言っただろう生まれつきだ。……ただ、さすがにこれは俺でもきつい」

二頭立ての馬車が余裕をもってすれ違える。

それが設計段階で俺が考えたトンネルの最低条件。

だから、横幅を八メートル。高さを三.五メートルにした。

それだけのトンネルだと魔力消費量が半端ない。

「私にできることはあるかしら」

「スコップと荷車があるだろ。土や石を地上に運び出してほしい」

錬金魔術で土や石を押しのけ、圧縮して壁にするとは言っても限界はある。

その漏れた部分がトンネル内に蓄積していくのは避けたい。

人力で外に運ぶ必要があるのだ。

「わかったわ。私に任せて、力仕事は私の得意分野よ」

馬や牛が引くような荷車を用意した。

これいっぱいに土を積み込めば、馬ですらまともに引けない。 だけど、心配はない。

ヒバナの力はそれ以上だ。

「夕方のタクム兄さんとの訓練までにへとへとになってもあれだし、適度に手を抜いてくれ」

「嫌よ。全力でやるわ。私は早く強くなりたいの。これもまた鍛錬よ」

この修業馬鹿は……。

本気でだめそうならフォローをしよう。

様々な薬草から作った、体力増強剤がある。

効果は超一級品。どれだけ疲れ果てても、あれを飲めば一発で動けるようになるだろう。

まあ、その分味は死ぬほどまずいが。

あれを飲んで、ヒバナがどんな顔をするかちょっとだけ興味はある。

「さて、どれだけ掘れるかな」

俺の魔力がどれだけ持つか次第。

それで、今後の予定を立てられる。俺の予測では五百メートルはいけるはずだ。

気合を入れて行こう。