軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十三話:転生王子とヒバナの弱点

夕方まで作業をしようと思っていたが、切り上げる。

魔力量の限界だ。

魔力を使い切ったわけじゃないが、これ以上、無理してしまうと夕方からの作業に差支えがでてしまう。

魔力針を見て、どれだけ掘り進めたかを見てみる。

おおよそ、600メートルほどか。悪くはないな。

「今日はここまでだ」

「そう、助かったわ。さすがに疲れてきたところよ」

「ヒバナが頑張ってくれたおかげで、掘ることだけに集中出来たよ。ありがとう」

「どういたしまして。……一つ気付いたんだけど、この土運びって、日を追うごとに辛くなるんじゃないかしら?」

「よく気付いたな」

掘れば掘るほど、捨てにいく距離が長くなり負担は増大する。 後半になると地獄だ。

「本当にいい鍛錬ね。筋力と体力がつくわ」

「無理はしないでくれ。今日は600メートルほど掘れた。このペースなら若干余裕がある。ヒバナだけで土の排出が追いつかなくなったら、俺も作業を止めて手伝うから」

状況によっては、軍から人を借りることも検討している。

「たしか、魔の森って二十キロほどよね。そのペースならだいたい一か月で終わるんじゃない?」

「今の見込みだと、二か月半かな。ヒバナ一人で土の排出が追いつかなくなると、ペースが落ちる。それに、穴を掘って終わりじゃないしな」

そこまでトンネル作りは甘くないのだ。

「どんなことをしないといけないの?」

「まずは、壁の再点検と補強だ。万が一にも崩落は許されないからね。それが終わると、トンネル内に水が入り込まない仕掛けと、逆に入り込んでしまった場合に排出する仕組み。それとトンネルを照らす光源作りと配置。空気をうまく循環させる機構。トンネルを掘ることだけなら、一か月と少しでできるだろうけど、そういうのを入れると、二か月半はかかる」

やるべきことは山積みだ。

「大変ね。ずいぶんと立派なものを作っているけど、ここまでする必要があるの?」

「塩を運ぶためだけの道なら、こんな広い道は要らない。だけど、その先を見るとどうしてもしっかりしたものがいる。……それより、だいぶ疲れているようだが、夕方からのタクム兄さんとの訓練は大丈夫か」

「ええ、今からなら休憩もできるし大丈夫よ」

そういうヒバナをじっとみると顔を逸らした。

……大丈夫じゃないな。

なら、仕方ない。

「ヒバナ、口をあけてくれ」

「いきなり、何?」

ヒバナはとまどいながらも、口をあけてくれる。

「絶対に吐き出すな」

そこに丸薬を放り込む。

「んんんんん、んんんんんんんんんぅぅぅぅぅ」

口を押え、声にならない悲鳴をあげながら、涙目になっている。

こんなヒバナを見るのは初めてだ。

しばらく悶絶したあと、ようやく口を利けるようになったようで、口から手を離す。

「いきなり何をするの! この世のものとは思えない味がしたわ!」

「体は軽くなっただろう?」

「え? そう言われれば。信じられない。口にしただけで、疲れがとれる薬なんてあるの?」

「これも錬金術によるものだ。ただ、材料は貴重だし、使いすぎると体への負担がかかるから気軽には使えないがな。今日は特別だ。タクム兄さんと今のヒバナの差を見ないと、作るべき武装を考えるんだ。へろへろだと参考にならないだろ?」

口には出さないが、戦争用の備蓄でもあり数を減らしたくないというのもある。

兵の数が少ない、この国にとって短時間で兵を戦線に戻せるこの薬は命綱になる。

「……残念ね。もし、その薬をたくさん使えたら、倒れるまで特訓して、一瞬で回復して、また倒れるまで特訓できると思ったのに」

ストイックにもほどがある発想だ。

「それは諦めてくれ。さて、戻ろうか」

「ええ」

暗い穴の底から地上を目指す。

歩きやすいな。この調子で作れば、いいトンネルができあがりそうだ。

騎士団の鍛錬場にヒバナと共に向かう。

タクム兄さんはすでに準備万端だった。

騎士たちもいるようで、俺たちに複雑な思いを込めた視線を送る。

別に俺は彼らに嫌われているわけじゃないんだが、やはりタクム兄さんこそが王になるべきだと彼らは考えているせいだ。

「タクム兄さん、今日はヒバナを頼む」

「うむ、まずはその女の力をみたい。そうだな、ガロードと試合をしてくれ」

「あなたじゃないの」

「まあな、きっちり力を計ってからじぇねえと危険だ。生半可な奴が相手だと殺してしまいかねない」

「……いいわ、私の力を見せてあげる」

ある程度、力を見抜けるとはいえ、命がかかっている分、兄も用心をするのだろう。

ガロードと呼ばれた男が鍛錬場の中央にあるリングにあがる。

三十前半で、兄と同じくよく鍛えられている。体を纏う魔力の流れも滑らかであれならよどみなく身体能力を強化できるだろう。

「タクム団長、俺は本気でやっていいんですよね」

「そうだ。本気でだ。それぐらいの力があるのは見りゃわかる。問題は、その先の部分だ」

ガロードがこくりと頷く。

「行ってくるわ」

ヒバナもまたリングにあがる。

二人の手には木刀。

いいのが一本入れば終わりというルールが説明される。

ガロードはヒバナを女だから、子供だからと油断しない。

ヒバナの力を見誤るほど愚かではない。

彼はタクム兄さんの右腕、その力は本物だ。

「二人とも準備はいいようだな。始め!」

タクム兄さんの声で試合が始まる。

先手を打ったのはヒバナだ。

その速さを活かして、主導権を取りに行く。

騎士たちの何人かが感心した声をあげた。

その速度に、その足運びに。

見るものが見れば、ヒバナが才能任せの騎士ではなく、どれだけのものを積み重ねて来たかわかる。

彼女の剣術は、ベースは俺がヒースから学んだものと同じだが、キナル公国で多くのものを吸収し、発展していた。

ガロードを軸にして、回転しながら常に優位な立ち位置を確保し、一方的に攻撃できる状況を作っている。

しかし、ガロードもなかなかやる。

ヒバナの動きに幻惑されずに、死角から襲い掛かってくる剣を確実に受け、最小限の動きでヒバナを正面に捉えようとしている。

剣のぶつかり合う音が断続的に聞こえる。

徐々に、ヒバナが劣勢になっていく。

ガロードがヒバナの速さと剣に慣れてきたのだ。

加えて、ヒバナの戦法は体力の消耗が激しい。

ついにヒバナが体勢を崩した。

その隙をガロードが突く、俺とタクム兄さん以外がガロードの勝ちを確信した。

しかし、次の瞬間、ヒバナは加速した。

それも、この試合で最速へと。

その速さはガロードの予測を超え、彼が想像すらしていない位置からの一撃が決まる。

タクム兄さんの顔が歪んでいる。部下が負けたことにいら立っているのではない。ヒバナの戦いに対して何か思うところがあるようだ。

「私の勝ちね」

「強いな、あんた。ありがとうございました」

ガロードが礼をする。

素直に敗北を認めた。なるほど、実力だけでなく人格にも優れているようだ。

タクム兄さんが拍手をする。

「二人とも、いい試合だった。俺の見込みどおり、女、いやヒバナはそれなりに強い」

「それなりとは言ってくれるわね」

「ヒバナ、おまえの剣を貸してくれ」

「……いいわよ」

いつかのように、ヒバナが俺が鍛えた魔剣をタクム兄さんに渡す。

すると、タクム兄さんは自分の剣を抜き、その剣を俺に持たせる。

「ヒーロ、その剣をしっかり握っていろ」

「それはいいけど」

一体何をする気だ?

俺に自分の剣を持たせ、逆に自分はヒバナの剣を手にしている。

「いくぞ」

短く、タクム兄さんは言うと、神速の踏み込みから袈裟切りを放った。

キンッと甲高い音がなる。

「ふむ、やはりこうなるか。いい剣だ。俺の剣も相当の業物だったが、こいつの前には形無しだな」

ガハハハハと豪快にタクム兄さんが笑う。

タクム兄さんの剣は斬られていた。

その断面はほれぼれするほど滑らか。かつて、この剣でヒバナは鉄柱をきり、その断面の滑らかさに驚いたが、これはそれ以上だ。

「いったい、なんのつもりかしら?」

「実戦的な試合をするために前提条件を確認した。使うのは木刀だが、この試合、俺はおまえの剣を剣で受けた時点で負けでいい。なにせ、実戦であれば剣と剣がぶつかればこうなるんだからな」

たしかにお互いが真剣を持った場合、タクム兄さんは剣を剣で受けることが敗北につながる。

俺の剣は、タクム兄さんの剣を切り裂き、そのままタクム兄さんを捉えるだろう。

「っ!? いくらなんでも私を舐めすぎよ。速さを武器とする私の剣を相手にして、受けを封じて勝てるつもりなの」

「勝つさ、でなければこんなことは言わない」

「そんなハンデは要らないわ」

「ならば、実力で示せ。俺に勝てばいい。おまえが勝てば、その次はハンデなしでやってやる」

ヒバナは強く強く拳を握り締め、それから剣をひったくるようにして取り戻す。

相当、腹が立っているようだ。

無理もない。

剣を剣で受けれないというのは、それだけ大きなハンデなのだ。

ヒバナが悔しさを隠そうともせずにリングにあがる。

「がんばれよ」

「ええ、勝つわ」

ここに来る前、ヒバナはタクム兄さんとどれだけ差があるか確かめると言っていた。

しかし、それがここに来て初めて勝つと言った。

この認識の変化は、彼女にどんな変化をもたらすだろう?

タクム兄さんとヒバナが向かい合う。

そして、試合が始まった。

一分後、あっさりと試合が終わる。

真っ青な顔でヒバナが膝をついている。

負けたのだ。

完膚なきまでに。

俺は、タクム兄さんが先手を取り、防御に回る必要性を無くすことで勝ちにくると予測した。

しかし、違った。

先手を譲り、ヒバナの攻撃をことごとく体捌きだけで躱し、最後はカウンターで決めた。

速さでも強さでもなく、技での勝利。

間合いをミリ単位で調整し、相手の呼吸を読む。

そんな剣士としての基本を突き詰めた姿をタクム兄さんは見せつけた。

そう、策略なんてものはなく、あるのは圧倒的な力の差。

膝をつくヒバナを見下ろしながら、タクム兄さんは口を開く。

「筋は悪くはない。努力もしている。が、才能に溺れた剣だ。独りよがりで視るにたえん。自らが得意とする剣を押し付けるだけ。相手をまるで見ていない。観察が足りない、読みが足りない、思慮が足りない。それでは、真の強者には勝てん」

そう言い残して、タクム兄さんはリングを降りる。

そして、騎士たちにも解散を命じ、ちりぢりに帰っていく。

タクム兄さんが俺の隣にやってきた。

「ヒーロ、おまえの騎士は強くなる。ヒバナの不幸は周りに勝って当たり前の者か、負けて当たり前の者しかいなかったことだ。こいつはおまえの胸にとどめてほしいんだが、このハンデを言い出したのは試合が始まるまえ、ヒバナが俺に負けて当然だと思っていたからだ。あれは本気で悔しがったことがない。相手に興味がないんだ。だから、自分の剣を振るうことしかやってこなかったし、できてない。それがヒバナの致命的な欠点だ。そいつをなんとかしてやりたくて挑発した」

言われてみればそうか。

ヒバナの場合、同年代では圧倒的すぎてライバルなんていなかった。

そして、黄金騎士たちは遠すぎて憧れになっていた。

タクム兄さんの言う通り、他の剣士を真剣に見ていないのかもしれない。

己を高めることには必死でも、相手を見て隙をつく、そういう意識がない。

それを改善するには荒療治でも、負けて悔しいという想いをさせないといけない。

絶対に勝ちたい、それこそが相手を見る最大のきっかけになる。

だから、タクム兄さんはあんな芝居をしたのだ。

そこまで考えてくれるなんて、タクム兄さんは強いだけじゃなく、人を導くことにも長けている。

つくづく味方で良かったと思う。

「ありがとう、きっとヒバナは今よりずっと強くなるよ」

「それは俺も保証するぜ。それからな、頼みがある。俺の剣を鍛えてくれ。できることなら、斬っちまった剣を材料に使ってほしい。今の剣をおまえの錬金術で出来た剣で斬ることは俺にとっても、重要な儀式だったんだ。……そんな儀式に使っておいてなんだが、あいつは相棒なんだ。できるなら一緒に戦いたい」

自らの愛剣になんてことをするんだと思ったが、それも、錬金術を受け入れるための儀式だと考えれば納得がいく。

今までの自分を錬金術の力で切り伏せることで兄は前に進もうとした。

いいだろう。タクム兄さんの剣を転生させよう。

「ああ、ヒバナを鍛えてもらう礼だ。いいものを作るよ。だけど、決闘には使わないでくれ」

「そのつもりだ」

タクム兄さんが去って行った。

俺は、まだリングにいるヒバナのほうへ行く。

「負けたな」

「ええ、完敗よ。今までも負けたことはあるけど、こんなに悔しいのは初めて」

ヒバナの目元には涙が光っている。

「そうか、なら、その悔しさを拭わないとな」

「強くなる。もう、こんな無様は晒さないわ」

「信じているよ。俺たちも帰ろう。ヒバナの武装に必要なものが見つかった。俺もヒバナが勝つための手伝いをするから」

「お願い。改めて、あの人との距離が分かったわ。私がどれだけ鍛えても、一週間じゃ届かない。今は、あなたの力が必要よ」

『今は』か、気持ちが前を向いている証拠だ。

これなら、余計なことをいう必要はない。

俺は俺の仕事をしよう。

二人でタクム兄さんに勝つんだ。

勝てたときは、ヒバナと抱き合って、喜ぼう。

密かに俺はそう決めた。