軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十一話:転生王子と試練

兄たちの協力を得られた。

非常に助かる。

なにせ、一人ではできることなどたかが知れているんだ。

錬金術で国を豊かにするための発明をしながら、軍務を行ったり、内政をこなしつつ、諸外国との交渉をするなんて、こなせるわけがない。

それぞれを安心して任せられる人材が必要。

そして、純粋な能力面で兄さんたちのほうが、それぞれの得意分野では上だ。

というわけで、俺はいろいろとアイディアを出して、物を作り、あとは丸投げすればいいという環境は整った。

……一つ、問題があるとすれば兄さんたちが王位継承権を放棄したせいで、自動的に次期国王となってしまったこと。

普段の実務は、アガタ兄さんが肩代わりしてくれるそうだが、肩代わりできない仕事もある。

というわけで、自室に戻っていた。

「お疲れのようね」

「ああいうのはあまり好きじゃない」

「でも、カッコよかったわ。惚れ直したの。さすがは私の王子様、いえ、もう王様と呼ぶべきかしら」

「どちらでもなく、ヒーロでいい。ヒバナにはそうよんでほしいんだ」

「そう。ふふ、ならそうするわ。そういえば、今更って話だけど、私、帰ってきてから国王様を見たことがないわ」

「……ああ、それか。父さんは病に伏せて療養中だ。意識をなくしていて、もう何年も寝たきりだ。父が次の王を指名しないまま寝込んだから、次の王は未定のまま。だから、暫定的にタクム兄さんが国王代理ってことになっていた。だけど、二人が王位継承権を放棄したら、俺が国王代理になる」

父は王の責務をこなせる状態にない。

倒れる前から体調は芳しくなく、もっと早く次の王を指名しなければならなかったのだが、その前に倒れた。

生きていて、目が覚める可能性があるので、勝手に次の王を決めるわけにもいかないので、暫定的にタクム兄さんが王の代理となっているのが現状。

それもこの国が不安定になっている一因だ。

「へえ、そうなのね。がんばってね」

「他人事のように言うな、俺が忙しくなれば、近衛のおまえもそうなる。これからの展開しだいじゃ、刺客を差し向けられるかもな」

「それもそうね。もっと鍛えて強くならないと。……ただ、修行相手には困っているの。一人で出来る鍛錬には限界があるわ」

「ヒースの息子、おまえの家の当主は強いんじゃないか」

「私のほうが強いわ。それに、慣れ親しんだ剣よ、新しい学びはないの。誰か強い人を知らない?」

「強い人か……今度、タクム兄さんに頼んでみるよ。あの人も稽古相手に困っていたし」

「あの人と稽古ができるなんて最高ね。一つ聞いていい?もしあなたが錬金魔術を使えば勝てるかしら。」

「魔銀錬成を駆使して優位な間合いで優位な武器を使い続けても、タクム兄さんなら、そのすべてを打ち破ってくるだろうね。あれは規格外、どこがどう強いとか、技術とか、そういうの全部置いて、そういう生き物って感じだ。ヒバナの全部を見せてもらったわけじゃないけど、見せてもらった範囲じゃ、タクム兄さんの足元にも及ばない」

包み隠さず、すべてを伝える。

タクム兄さんは軍事の天才だ。それは軍の統制、教練、何よりも個人戦闘力だ。

かつて隣国との小競り合いがあったとき、五倍の戦力差を覆した。

……禁じ手としているものを使っても勝ち目は薄い。

「へえ、そう。私が足元にも及ばない。前見たときからそんな気がしたけど、ヒーロにそんなこと言われたら、面白すぎて、挑まずにはいられないわ」

ヒバナはなんだかんだ言って、どこか変わっているよな。

まあ、やる気になっているなら止めはしない。

「それと、ヒーロ。お願いがあるの」

「なんだ?」

「私を恋人にしてくれない?」

……あまりにも予想外な言葉に、硬直してしまう。

「おまえは何を言っているんだ」

「あなたに惚れたわ。だから、愛してほしいって思った。別に王妃になりたいとかじゃないの。ヒーロが望むなら、私との関係は内々のものでいいし、他に女を作ることに対してなにも言わない」

「本気か」

「本気よ。今日の会議で、あなたの強さに惚れたの。武力という意味じゃないわ。二人のお兄さんに真っ直ぐぶつかる、その心の強さ。だから、こんなことを言ってるの」

「考えておこう」

「ええ、気長に待つわ。剣士なんてやってると忍耐強くなるの」

そう言うなり、普段通りに素振りを始めた。

騎士として見ていて、女とは見ていなかったのだが、こんなことを言うせいで、ヒバナをそう見てしまう。

きつい印象を受けるが端整な顔立ち、美しい佇まい。

スタイルもいいし、頭がよく話していても楽しい。

普通の国なら、王族の結婚など周辺国との関係を強化する材料なのだが、ぶっちゃけ、こんな貧乏国に縁談を持ちかける国はないので、どうにでもなる。

「ヒバナはだれかと付き合った経験はあるのか?」

「ないわ。でも、なんとかなると思うの。人間だって動物だし、本能任せでいいはずよ」

「そっ、そうか」

とりあえず保留だ。

なんとなく、このままなし崩しというのは違う気がする。

……その、あれだ、お互いのことをもう少し知ってからという奴だ。

興味はあるが、我慢しよう。

俺は、ヒバナとの関係を大切にしたい。

「あともう一つ聞きたいことがあったの。あのパン誰が焼いたの? 小麦がすごいのだって知っていたけど、あそこまでうまく焼き上げることができるなんてただものじゃないわ」

「秘密の協力者がいる。近いうちに彼女に会わせるよ」

「女性なのね。怪しいわ」

「怪しいも何も、そういう関係になることは100%ありえない相手だ」

あの子も、この国を救うために必要なピース。事情があって滅多に表に顔を出さないが、早いうちに会わせよう。ヒバナとなら気が合いそうだ。

そんなこんなで翌日には、また海を目指すことになった。

「ヒーロ、よろしく頼む」

兄が部下である騎士たちと編隊を組んでいる。

騎士たちの手には鎌があった。

俺たちは強引に魔の森を進んだが、うっそうと生い茂った草はうっとうしく、ある程度の人数がいるなら刈り取りながら進むのほうが効率的だからだ。

全員に香水と魔力針を配る。

よくよく見ると騎士たちはテントや工具などを背負っている。

「タクム兄さん、今日は海を見て戻るだけだと思ったんだけど違うみたいだな」

「ああ、海に拠点を作る。普通の方法じゃ塩を作るのに、人手と日数がかかるしな。いずれは、騎士団だけじゃなく、そのための人を雇って、騎士団に護衛させて連れていくつもりだ」

「それはいいな」

この国には真の意味で職業軍人は二、三十人しかおらず、ほとんどが王族の近衛騎士だ。

残りの兵は平時は国有の畑で農業をしており、訓練の時間は短い。

そんな貴重な騎士たちを塩づくりに回すよりは、拠点を作り、塩づくりに従事するものを護衛して送り届けるほうが効率はいい。

それに以前の塩づくりでは速さと量を優先するために、不純物を取り除く工程を塩の完成後に力技でやった。手作業でやるなら、そのあたりもしっかりと考えた方法にしよう。

「ヒーロに頼みがある。できれば街道がほしい。一度や二度なら、んなものはいらねーが、運ぶのが塩だろ。何度も通るなら道を用意するべきだ。こうも木と草が多いと、歩きにくいだけじゃなく、死角が多くて守りにくい。ここでの戦いはあまりに魔物が有利過ぎる。でもな、魔の森に街道を作るなんて、ふつうにやりゃ何年かかるかわからん。おまえの力でなんとかなんねえか?」

俺の力というのは錬金術のこと。

人目があるからぼかして言ったのだろう。

「そうだな。うん、考えてみよう。街道は必要だ。運ぶのは塩だけじゃないしね」

そう、海というのは可能性の塊だ。

まず、漁がしたい。海の魚があれば民の食卓が潤う。塩があるから塩漬けにすれば冬越えに役立つ。

それに、いずれ港を作りたいと思っている。海の向こうから様々なものを運んでくるのだ。

街道は必須になる。船の積み荷を魔の森を抜けて、領地まで運ぶなんて想像するだけでぞっとする。

大型の馬車が通れる街道、それも欲を言えば魔物に襲われずに安全に通れるものがいい。

定期的に魔除けの香水を散布する装置も作れなくはない。それを等間隔に設置すれば襲われることはないだろう。

……ただ、街道を作るには魔物の襲撃に耐え忍びながら、木を一本一本切り倒して進み、整地していかなければならない。

それを二十キロも。

いくら、錬金術を駆使してもしんどい。終わりが見えないし、危険すぎる。

いや、待て。

まず、前提が間違っている。なんで、わざわざ危険な魔の森を通らないといけないんだ?

俺たちはただ海に行きたいだけだ。もっと安全なルートがあるじゃないか。

「よし、任せてくれ。冬が来る前になんとかなると思う」

「たった、三か月しかないがなんとかなるのか!?」

「ああ、絶対に魔物に襲われない、広々とした街道を用意すると約束しよう」

逆転の発想という奴だ。

我ながら、よくぞ気付いたと自分を褒めてやりたい。

「なにか企んでいる顔をしているわ。いやな予感しかしないわね……」

「まあ、見てのお楽しみだ」

一回、作ったことがある類のものだし、なんとかなるだろう。

それから、香水を振りまきながらの遠征は想定より、うまくいった。

魔の森を抜けたのは夜が深まってきたころ。

精鋭ぞろいとはいえ、俺とヒバナ二人のときよりもだいぶ時間がかかっているものの許容範囲内。

最悪、魔の森で夜を明かすことすら考えていたのだから。

兄とヒバナ以外はくたくたで死にそうな顔をしていたが、海をみた瞬間、そんなものは吹っ飛ぶ。

「すげぇぇぇ、海だ、本当に海だよ」

「俺、初めてみた、しょっぺぇ匂いがする」

「団長、ちょっと泳いでみていいっすか」

騎士団はいい大人ばかりというのに、生まれて初めてみる海に大はしゃぎだ。

「野営の準備ができたら、好きにしろ」

「はっ! では行ってまいります」

「海の魚はうめぇのかな」

「さっさと作業をしようぜ。それから、晩飯の調達だ」

その言葉のとおり、すごい勢いでテントが設置されていく。

「なあ、ヒーロ、それから女。俺たちは向こうで釣りをしよう。保存食じゃ味気ねーだろ。せっかく海があるんだからうまいものを喰おうぜ」

「ああ、構わない」

「私もいいわ」

たぶん、この釣りは口実だろう。

兄は部下のいないところで俺たちに話があるようだ。

三人で海に釣り糸を垂らす。

この海の魚はまったくすれておらず驚くほど簡単に釣れる。

たまに毒を持っている奴はいるが、錬金術師である俺は簡単に見抜ける。今日の夕食は豪勢なものを作れそうだ。

「ヒーロ、俺はおまえの下につくと決めた。だがな、部下たちがいまいち納得いってないようだ」

「そうだろうな。みんな、タクム兄さんの強さに憧れている」

騎士という人種にとって、強さというのは絶対的な価値を持つ。

タクム兄さんにはカリスマもあり、騎士たちからすれば、タクム兄さんにではなく、俺に従うなんて考えられないことだろう。

「そいつを何とかしねえといけねえ。言葉じゃ奴らに届かねえ。力を見せなきゃならねえ」

「道理だ。俺がタクム兄さんと決闘でもすればいいのか」

無理やりいうことを聞かせることはできなくもないが、士気が下がるのは避けられない。

士気というのは非常に重要であり、無視できる問題じゃない。

「そいつが一番いいな。だがな、俺が鍛えた連中だ。八百長なんて一発でばれる。本気の俺を倒せるか?」

「冗談、無理だ」

一部、洒落にならない発明を公開すれば、できるかもしれないが、こんなことで切り札を晒したくはない。

「だろうな。そこで提案がある。王族の決闘の場合、その近衛騎士が代理で戦うことができるだろ。つまりは、女が俺に勝てばいい。王に仕える騎士の力は王の力と等しい」

「……私はあなたより弱いわ。悔しいけど」

「そうだな」

一瞬の迷いすら、兄は断言する。

一流の騎士は相手の力量を正しく把握できる。

「俺が鍛えてやる。決闘うんぬんがなくても、そのつもりだった。この国を盛り上げていくには、ヒーロが必要だ。絶対に失えない。なのに、それを守る近衛騎士が弱いわけにはいかねーだろ」

「それで、私があなたを超えればいいのね」

「まあな。女、こけにされて悔しいか?」

「いいえ、今の私に悔しがる資格すらないわ。それほど力の差がある。むしろ、嬉しいの。確実に強くなれるわ」

俺は口元を吊り上げる。

ヒバナのこういうところは好きだ。

「いい返事だ。俺が鍛えりゃ強くなるだろうが時間はかかる。そいつを待っているわけにはいかねえ、早く、あいつらにおまえを認めさせたい。だからな、決闘は一週間後。一週間じゃ俺には追いつけねえ、足りない分は、ヒーロが埋めろ。錬金術で作った道具でな。……二人の力で俺を超えて、強い王だと認めさせろ」

錬金術による戦力差の底上げ。

なかなかに楽しそうだ。

「わかった、その提案に乗る。ヒバナもいいな」

「ええ、任せて」

「よし、決まりだな。……言っておくがな、こいつは俺からヒーロへの試練でもある。錬金術でこの国を強くすると言ったよなぁ。なら、そこの女が俺に勝てるぐらいの奇跡を見せてもらえねえと、俺も心から錬金術を信じられない。そのことを、胸に刻んどけ」

言ってくれる。

しかし、その言葉は正しい。青銅騎士だったヒバナが、黄金騎士にすら匹敵するタクム兄さんに勝てるようになるぐらいの力がなければ、隣国とカルタロッサ王国の差なんてうまらない。

おかげで燃えてきた。

ヒバナはかつて、兄と戦った場合には三分持たせることができると言った。勝てる見込みなんてゼロで時間稼ぎしかできないという意味だ。

これから兄に鍛えてもらうとはいえ、一週間だけじゃ、その差は大して埋まらないだろう。

それほどの差を、俺の作る武器によって埋める。

こんなの、錬金術師として面白くないはずがない。

何を作ろうか、何を作れば兄を凌駕できる?

俺は釣り糸を垂らしながら、ずっとそんなことを考えていた。