軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第43話 き、だからです!

ミレイユは、胸に押し当てていた桃色の便箋をぎゅっと握りしめた。

「り、理由ですか……!?」

「はい」

レイベルナは静かに頷いた。

ミレイユの肩が小さく震えた。

顔はもう、便箋と同じ色を通り越していた。

「そ、そんなの……ひ、ひとつしかありません……!」

監査室の空気が、変な方向へ張りつめる。

財務卿が猫を撫でる手を止めた。

ラウルが落とした干し肉を拾い損ねた姿勢のまま固まった。

ニノの肩に戻りかけていた鳩も、なぜか動きを止めた。

ミレイユは目をぎゅっと閉じた。

「す……す、すすすすす…………き、だからです! 好きだからです!!」

言った。

監査室が固まった。

セヴィルも、さすがに気づいた。

「……え?」

その一音で、ミレイユは自分が何を言ったのか理解したらしい。

猫が、財務卿の腕の中で耳だけをぴくりと動かした。

鳩のポポは、ニノの肩の上で首をかしげている。

たぶん、鳥にも分かるくらい空気が変だった。

「え……ち、違います! 違わないですけど、違います! 今言うことではありませんでした!」

勢いのまま、ミレイユは胸に抱えていた桃色の便箋をセヴィルへ差し出しかけた。

「も、もう言ってしまったので、これをどうぞ……!」

セヴィルが反射的に手を伸ばしかける。

その瞬間、ミレイユは便箋を引っ込めた。

「や、やっぱり無理です!」

伸びかけたセヴィルの手だけが、行き場を失った。

猫が、その手を見た。

鳩も見た。

見られたセヴィルは、さらに困った顔になった。

「桃色の複雑な書類ですな」

財務卿が重々しく言った。

猫が甘い声でみゃあと鳴いた。

セヴィルはまだ固まっていた。

伸ばしていた手を、ようやくそっと胸元へ戻す。

目のやり場に困ったのか、抱えていた受講者名簿へ視線を落とした。

そこに答えは書いていない。

たぶん、その認識で合っていた。

レイベルナは咳払いを一つした。

「ミレイユさん。私が聞きたいのは、恋愛上の理由ではありません」

「れ、恋愛上って言わないでください! いえ、すみません……」

「では、職務上の理由です」

「は、はい……」

ミレイユは小さくなった。

レイベルナは机の上の添え状付き封筒へ視線を戻した。

桃色の便箋は監査対象外だが、受付所の書類棚に置かれた文例については、詳細を知る必要がある。

場を戻すには、今しかなかった。

「では改めて聞きます。なぜ、その添え状の文例をセヴィルさんへ渡したのですか」

ミレイユはなんとか息を整えてから話し始めた。

「以前、セヴィル先生の講座に参加したことがありました。私、この部署にいるのに、外部の方へ説明する文面を作るのが苦手でして……勉強のためです。その時、とても分かりやすく、かっこよく教えてくださって……それで、この文例を見たとき、セヴィル先生に喜んでいただけるかもしれないと思ったんです」

「かっこよく教えるとは、どういうことですかな」

財務卿が真顔で尋ねた。

「財務卿様には……分かりません」

言ってから、ミレイユは自分の口を押さえた。

猫が納得したような声で、みゃあと鳴いた。

鳩が小さくくるっと鳴いた。

財務卿は傷ついた様子もなく、猫を撫でながら頷いた。

「なるほど。猫と鳩には多少分かる可能性がありますな」

「俺はわかるっすよ!」

ラウルが何か言おうとしていたが、場の空気が許さなかった。

「それで、その文例は外門受付所の書類棚にあったのですか?」

「はい。書類棚は、申請書式や添え状の文例、納品控えの書き方、業者向けのお知らせや案内紙などをまとめて置いています」

ミレイユは便箋を抱えたまま、今度こそ仕事の顔になろうとした。

「私は、その棚の整理も手伝っています。持ち帰り用の紙が減っていないか、古い案内が残っていないか、違う場所へ入っていないかを確認するのも仕事です」

「では、そのときにこの添え状の文例を見つけたのですね」

「はい。新しく入った見本だと思いました。書類棚は外から来た商人や納品業者、代書人の方でも見られる場所です。必要な案内紙を持ち帰る方もいます。だから、そこにあるものなら王宮側が確認した公開用の文面だと思ってしまって……」

ミレイユは机の上の添え状付き封筒を見た。

「持ち出してはいけないものだとも思いませんでした。誰でも見られる棚にある、王宮側が確認した見本だと……思ってしまいました」

監査室の空気が少し重くなった。

「それでは、誰が棚へ置いたのですか」

「……分かりません。ほ、本当です」

ミレイユは首を振った。

「ただ……一度、書類棚へ置こうとして断られた方なら、見ました」