軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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辺りは酷い有様だった。

街道はもとより荒れ果てていたが、大規模な攻撃魔術と巨大な化け物の侵攻により、今では道があったことすら分からないほどに破壊しつくされている。

さらに上からは化け物の血肉が降り注いでいて、噎せ返るような死臭で充満していた。

だがストリゴは無事だ。

度重なる魔獣襲撃により疲弊し、挙句の果てに強大な化け物の侵攻を受けてもなお健在であった。

ハリアン、冒険者、澄人教、マフィア。

様々な勢力が各々の思惑で動いた結果に過ぎないと言えばそれまでだ。

それでも結果として街が守られたのならば、きっとよかったのだろう。

「それで……ギルド、ひいてはハリアンは今後この街とどういう関係でいるつもりだ?」

一日の休息を挟んだ翌日、ジグたちは再び化け物の死骸がある場所を訪れていた。

遠くでは澄人信徒とハリアンから新たにやってきたギルド職員たちが何やら話し合い……という名の口論をしているのが見える。

「特段何かを要求する予定はないみたいですよ。もちろんこれまでに掛かった費用や労力諸々は鉱山資源などで返してもらうつもりですが、一番大切なのは交易路の確保なので。とりあえずは復興支援しながら友好的に、というのが上の方針です」

危急の問題が解決し、張り詰めた意識をようやく緩められたシアンが落ち着いた声でそう答えた。

ここにきてやっと一息つくことができた彼女の心労は計り知れない。

ジグは言葉にせず彼女の小さな背に敬意を払い、その功績を称える。

あの化け物が倒されて以来、周辺から魔獣が姿を消したという報告が上がってきた。

今まで数に差こそあれど、ほとんど毎日発見されていた魔獣が突然いなくなったというのだ。あの激しい戦いに恐れをなして逃げていったというのが冒険者やギルドの見解だ。

その考え自体は間違ってはいないのだが、シャナイアから魔獣が集まるのは大きな魔力に誘き寄せられているのだという話を聞いているジグとしては気が気でない。

元はと言えばこの魔獣襲撃はシアーシャとシャナイア、二人の魔女が争ったことによる強大な魔力反応によるものだ。今回それに加えて魔女と同等の力を持つ化け物が争った結果、さらなる魔獣が押し寄せてくる可能性も十分にある。

昨晩そのことをシャナイアに相談したところ、彼女は褒美の蜂蜜でべたべたにしたパンを齧りながら呑気に首を振っていた。

”あんなにヤバい争いを見て首突っ込んでくるほど魔獣も命知らずじゃないよぉ”

などと言っていたが、本当だろうか。

なんでも霧の中にある灯台のようなものだとか。

戦争のように幾日も続く争いであればもっと押し寄せてくる可能性もあるのだが、昨日のように一瞬眩く鮮烈な光だけであれば、周辺には現れても一点に集中することはない……とのことだが、どこまで信用できるかは難しいところだ。

……それと甘味の摂り過ぎは体によくないので、ある程度こちら側で制限する必要がありそうだ。

閑話休題。

「それはまた、随分と欲のないことだな。これだけ手助けしたんだ、属国化の後に搾取しても文句は言われないだろうに」

「発想が野蛮……まあ、そういう意見がないわけでもないでしょうけど」

特段おかしなことを言っているわけではないと思うのだが。

戦争が起きないこちらではこういった考えが一般的ではないのか、あるいはシアンが良識的なのか。

彼女は蛮族を見る目でジグを睨んだ後、辟易した様子でため息をついた。

「変に追い詰めてまた荒れても困りますし、欲張るのはまずいと思ったんじゃないでしょうか。……それに、あんな街が近くにあるってだけでいい風評被害ですよ。それが無くなってウチに協力的になるってだけで利益としては大きいです」

「そういうものか」

二人で話していると裾を引かれる。

見ればシアーシャが大人の話は詰まらないとばかりに微妙に不満そうにしていた。

街を守った英雄様は早くも次の冒険を求めているようだ。

「ねえジグさん、そんなことより私たちのお仕事ってもう終わりなんじゃないですか? ハリアンに帰って次の依頼を受けましょうよー」

あれだけ派手な戦いをしたというのにまだ足りないのか。

自身が成したことよりも次の刺激を求める辺り、彼女は実に冒険者向きな性格をしている。

「まあ待て。今回は規模が大きい活躍をしたからな……ギルド側もすぐには判断を下せんだろうよ」

言いながらシアンを見やると、彼女は苦笑いしながら頬を掻く。

「あはは……今回はシアーシャさんのご活躍著しいですから、他の皆さんと同じ報酬というわけにはいきません。昇級も含めた特別報酬を私の報告書から本部が計算しているところですので、もう少々お待ちください……」

仕事をして報酬を受け取る。

冒険者ギルドではこの手順が必須であるため、報酬を後回しにすることは原則禁止されている。身も蓋もない言い方をすると、ギルドの下請けである冒険者が労働力の搾取等の不当な扱いを受けないために作られた規則だ。

「もう、しょうがないですね……それならもう少しだけ我慢しますけど」

「申し訳ございません。シアーシャさんはこんなにも……ええ本当に、とてつもない成果を出したというのに」

言葉途中でシアンの視線が化け物の死骸へ向いた。

裏方である彼女が直接目にしたわけではないが、上がってきた報告は目にしている。それがあまりにも信じがたいものだったため、シアンは読みながら五回は事実か聞き直したほどだ。

「それにしても……いつまでやっているんでしょうね、あれ」

シアンが化け物を見たことで勘違いしたのか、うんざりした顔のシアーシャが未だ言い合いを続けているギルドと澄人教に目を向ける。

彼らは互いに一歩も譲らず、化け物の死骸をどちらが回収するか口論をしているらしい。

ギルド側の主張は”アレを倒したのはウチ所属の冒険者だ。だからその死骸はウチが買い取り、しかるべき報酬を本人に支払う義務がある”とのこと。

対して澄人教は”アレを最初に見つけたのはこちらだ。我らの信仰対象たる祖の御業から生まれた産物をあなたたちは傷つけた上に、さらには遺体まで独占しようというのか”と大した面皮の厚さを見せている。

「さあな」

奴の討伐と街の防衛に澄人教が協力したのは事実なので、頭ごなしに拒否することはできない。

しかしギルド側も正体不明の危険生物に関する情報は譲れないし、何より冒険者側にも被害は出ているのだ。多少なりともその補填をする必要がある。

「でもでも、最初に見つけたのが澄人教ならストリゴがこんな目に遭った賠償も彼らの責になるんじゃないでしょうか!?」

この機をいいことに”こんな目”の原因たるシアーシャが目を輝かせて責任を擦り付けようとしている。強かになったものだ。

「魔獣が突然現れることになった事とは因果関係が確認されていませんので……確かに彼らが怪しいのは分かりますけど。あの化け物だけに関してならば、街への直接被害は皆さんの尽力もあってあまり出ていません」

「死んだ冒険者は?」

「……彼らのことは残念ですが、誰が原因であろうと自己責任が冒険者ですので」

意図的に殺されたのであればともかく、不意の事故で発生した魔獣相手にやられたのならばそれは冒険者が負うべき責任の一環……そういうことだ。残酷に聞こえるかもしれないが、それが嫌ならば真っ当な仕事を選べばいい。

「彼らの犠牲のためにも、あの魔獣の死骸はギルドで確保しなければなりません」

「なるほど……だからあんなに必死なんですね」

シアンの言葉に感じ入るところがあったのか、シアーシャは彼らを見る目を少しだけ変えた。

「いずれにしろ……」

ジグはふっと目線を上に向けて小さく独り言ちる。

快晴の空からは眩いばかりの陽光が降り注いでおり、暖かな陽気をさせていた。

いい天気だ。こんな日は―――死体がとても臭う。

「……腐る前に話をつけて欲しいものだな」

そんな、あまり期待できない願望が日差しの中に溶けていった。