軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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魔力を帯びた長髪を双刃剣が薙ぐ。

エルシアが見破った通りこの髪が魔力を供給しているらしく、刀身が触れた瞬間に眩いばかりの魔力光が飛び散った。反発する力に構わず刀身を押し込み、根元から強引に断髪する。

ぞろりと斬り落とされた長髪が熱線の余波で舞い上がり、火花のように散っていく。

「「Hiiiiiiiiiiiiiiiiiiii!!!!???」」

化け物が耳をつんざくような絶叫を上げた。

髪に痛覚はないはずだが、魔力を供給する重要器官を傷つけられた本能的な悲鳴なのかもしれない。あるいは行使していた魔術の燃料を強制的に絶たれたことによる負荷のようなものが掛かったのか。

いずれにしろ効果は覿面だった。

魔力を絶たれた多色熱線は見る間にその勢いを失っていき、余韻を残しながら消えていった。

「止まった……?」

ミリーナが半信半疑といった様子で顔を上げた。

声が擦れているのは周囲が酷い高温になっているためだ。迂闊に息を吸えば肺が焼けてしまうのではないかと思うほどに空気が熱されており、陽炎で景色が揺らいでいる。熱線が通った付近は抉れており、超高温に晒された地面が硝子化していた。

「……街は!?」

セツが我に返ったように振り返ると、罅割れた防壁の隙間から無事なストリゴが見えた。

影で覆われた土の防壁は大きく削られて今にも崩れそうになっていながらも形を保っており、化け物の渾身の一撃から見事に街を守り切っていた。

「なんだ!?」

安堵するのも束の間、化け物の硝子をひっかくような絶叫が響き渡る。

先ほどの声が痛みによるものならば、今あげたのは怒りの声。

奴にとって最も大事な物であろう髪を傷つけられたことにかつてない怒りを露わにしていた。

「「Kiiiiaaaaaahhh!!!!」」

化け物は大規模魔術の反動や消耗が抜けきらないながらも、自身の大切な部位に手を掛けてくれた憎き相手を複数の視界に捉えた。

焼け爛れ、ぶすぶすと煙を上げる顔の穴から歪に溶けた触腕たちが首を 擡(もた) げて狙いを定める。

「ちぃ!」

一仕事終えた息をつく間もなく襲い掛かってくる触腕から必死で逃れるジグ。

しかし数が多すぎる上に、化け物は余程頭に来たのか執拗にジグだけを追い続けている。

魔力が乏しいのか魔術は使ってこないが、触腕同士がぶつかって傷つくのも厭わず物量で押し寄せるそれに徐々に追い詰められていく。

物量と質量。

魔術を使えぬ彼が苦手とする二つを用い、恨みを晴らさんと迫る。

捕まるのも時間の問題であった―――彼女たちが黙って見ているのならば。

街を守るという役目を果たした防壁が沈んでいく。

現れた時と同じように、雄大な自然を思わせる地響きを立てながら。

「今のは効きましたよ? 正直、死ぬかと思いました」

小さく苦笑するような声をさせ、沈み行く防壁から魔女たちがその姿を現す。

強大な反撃の一手を携えて。

「じゃあ、次は私たちの番ですね」

それは土で象られた巨大な矢。

魔力により極限まで圧縮されたそれは黒みすら帯びた禍々しい姿をしていた。長さよりも幅を大きく持たせた十字の鏃は、強大な敵をただの一撃で屠らんとする意志が込められている黒色の大矢。

「ボクたちのお返し、受け取ってくれるかなぁ?」

本来であれば推力に回すはずの魔力すら注ぎ込んだそれを支えるのは黒い影。

残る魔力全てを振り絞って現出した長い影が伸び、弦のように黒色の大矢を引く。音が鳴るほどに張り詰めた弓、その震える弦が限界まで引き絞られる。

「「!?」」

瞬間的な魔力だけなら先の熱線に勝るほどの出力。

怒りに我を忘れた化け物がそれに気づいた時には、全ての準備が整っていた。

「―――終わりです」

黒い軌跡が空を駆けた。

解き放たれた矢は大きさからは想像もできないほどの速度で標的との距離を食い潰し、瞬く間に獲物を貫かんと迫る。通り過ぎた後に発生した風圧で地面が破裂したように舞い上がった。

「「―――」」

だが化け物も先ほど自身を抉った螺旋状の槍を覚えていた。

久しく感じていなかった命の危機に対し、生存本能が全力で鳴らす警鐘に従って動く。

受けてから干渉するのでは間に合わない。恐るべき威力を秘めた黒い魔術は干渉が及ぶより早く自分を消失させるだろうと理解していた。残った魔力を総動員して、大矢が当たる前にその威力を削がねばならない。

「「i―――」」

化け物は大きな脚を翳し、先端の口で魔術を組む。

完全に防ぐのは不可能。少しでも軌道を逸らせれば致命傷は免れる……逃げて回復を待ち、今度こそあの仇敵を排除しよう。

「「i―――!!」」

閃光のように迫る黒色の大矢。

しかしそれが到達するよりもほんのわずかに、化け物が詠唱を終える方が早い。

「間に合わない!?」

誰かが上げた声が空に吸い込まれ―――天からソレが墜ちてきた。

太陽を背に、鏃の形をした巨影が稲妻のように飛来する。

天から降ってきた巨影は化け物が翳した脚と交差し、刃のような 鰭(・) で一刀のもとに両断した。

「「aA―――?」」

痛みよりも戸惑いに固まった化け物の脚が落ちる。唱えかけだった魔術が儚くも散っていく。

切り落とした魔獣…… 風来鮊(ふうらいかすべ) は片鰭で地面を裂きながら急制動を掛け、何とか墜落を免れて再び空へ離脱していく。

「「―――」」

どこか間の抜けた仕草で傾げる顔面に、黒色の大矢が直撃した。

大矢は柔らかなパンを潰す様にほとんど抵抗なく化け物の身体を蹂躙していく。

千切れた肉塊が宙を舞い、赤々とした血が間欠泉のように噴出した。

大矢は頭部から胴体、ゼリー状の臀部までを一息に貫いたところで勢いを止める。

止まったのではない、止めたのだ。

命中を確認した術者であるシアーシャは握った手をぱっと開き、一言命じる。

「 弾けろ(・・・) 」

その瞬間、大矢に込められた膨大な魔力が解放される。

圧縮から解き放たれた土が化け物の身体を内部から爆発させ、完膚なきまでにその肉体を破壊した。もう二度と再生できぬように、一分の隙もないほど念入りに。

柘榴(ざくろ) のように破裂した化け物の残骸が天高く舞い上がる。

降りしきる赤い雨が大地を潤し、戦いの終わりを告げた。

「まさか生きてはいまいな……?」

雨が止んだ頃、外套を払ったジグが未だ警戒を解かぬまま呟いた。

視線を上に向けると、 風来鮊(ふうらいかすべ) が悠々と空を泳いでいる。風来鮊はしばらくそうして旋回していたが、完全に化け物が死んだことを確認すると尾鰭を返した。

「奴め、いいところを持っていく」

執念深いことだ。化け物に酷い目に遭わされたことを未だに恨んでいたのだろう。

欠けた鋸尾を機嫌よさそうに揺らして去って行く風来鮊を何とも言えない気持ちで見送る。

「……決着は預けておこう」

風来鮊(ふうらいかすべ) は去り際にこちらを見ていた。奴とはいつか再び相まみえるかもしれない。

「今度こそ、終わりか」

だが今だけはこの勝利を祝おう。

大敵を倒し、街を守り切った。これ以上の戦果はない。

ジグは街を振り返り、この戦の……街を守った最大の功労者を見やる。

二人の魔女は皆の歓声を受けて正反対な反応をしていた。

多少なりとも他人から褒められることに慣れてきたシアーシャは控えめに応え、不慣れなシャナイアが戸惑いながらその陰に隠れている。これではどちらが歳上か分からない。

「……」

街から視線を外したジグは、風に運ばれてきた化け物の髪を手に取った。

長さも太さも違うが、それは見間違いようもなく人の毛髪と同じ……違う。

置かれた環境からは考えられないほどに美しく艶を持った髪は、紛れもなく魔女と同じものであった。

「……気づいていたさ。初めて目にした時からな」

誰に言い訳するでもなく、独り言ちる。

そう、気づいていた。

魔女の気配は唯一無二だ。多少離れていても大体の方角くらいは分かるくらいに、彼女たちの持つ存在感は異様極まりない。

”うわあ、気持ち悪い……何ですかあの魔獣は”

奴を見たシアーシャはそう口にしていた。

あの時は思わず戦いの最中に敵から目を逸らしてしまったが、彼女は本当に気づいていなかったのだろうか。ただ強力な敵だと認識していたのか、それとも本能では理解していても頭では理解が追い付いていなかったのか。

いずれにしてもこの大陸には魔女が……あるいはもっと重要な、根源に迫るような秘密が隠されているかもしれない。

「確かめねばな」

それが彼女を守るために、必要なことなら。