軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「それでなんっで全員つれて逃げてくんだよお前はぁぁ!」

「だって! 怖かったんだもの! 策を考えて、アイザック!」

「断る! ばれたら全責任お前がおえっつっただろ俺は!」

「アイリーン様でも怖いものってあるんですねぇ」

「……。まあ、魔王は怒らせたら怖いだろう、普通」

学生の避難に提供されたホテルの一室で、アイリーンは頭を抱えていた。

すでに嵐の夜はあけ、気持ちのいい秋空が広がっている。

このさわやかな天気が怖い。静かなクロードの本気の怒りをひたひたと感じる。

(怒ってる……怒っているわ、これはガチで……!)

そもそも逃げ出したアイリーンを追ってこなかったことからして異常だ。魔物達が騒ぐ気配もない。朝から影に呼びかけても誰一人答えないのだ。

「一体どうなってるの……」

「――それはこっちの台詞だ」

部屋の隅から、呪詛のような声が届いた。

見れば、どんよりとした顔でゼームスとオーギュスト、ウォルト、カイルが丸テーブルを囲んでいる。

「女……しかも聖剣の乙女……アヒルの着ぐるみで学園を走り回っていた奴が……しかも魔王まで怒らせて……」

「す、すごい人だったんだな……お、俺、色々なんかしちゃったような……」

「……女が男装して、女装して……つまり俺は正常だった……!?」

「カイルの朴念仁ぶりも意外だけど、魔王の婚約者っていうのが、はは……やばい、減俸ですむかこれ……!?」

「あ、あの! 私はアイリ様が男性でも女性でも大丈夫です!」

ぎゅっと拳を握ってレイチェルが力強く断言する。アイリーンは笑顔になった。

「ありがとう、レイチェル。君だけだ、頼りになるのは」

「ところでアイリーン様。もうバレたのに、どうして男の格好をしてるんです?」

リュックに尋ねられ、足を組んで頬杖を突いていたアイリーンはふっと瞳を伏せる。

「クロード様の怒りを少しでもそらせないかと思って」

「……アイリーンお嬢様。落ち着いて聞いて欲しいんだけどな」

ため息まじりで、ジャスパーが一呼吸置いた。

「魔王様がいるはずの宮殿を見てきたんだが……凍ってた」

「……は?」

「建物から門まで、氷の城だ。勤めてる人間は全員今回の後始末に市街を走り回ってて、中にはあの従者さんとベルゼビュートしか入れないって話、でな……」

絶望的な気持ちになって、アイリーンは顔を覆った。

もはや男装などでどうにかなる事態ではない。

「もうだめだわ……」

「……。魔王も心を閉ざすんだな……」

しみじみとしたクォーツの言葉に、アイリーンは肩を落とす。

「嫌われてしまったかしら……」

弱音に、アイザック達が顔を見合わせる。

まずリュックが腰を浮かせて、励ました。

「大丈夫ですよアイリーン様。魔王はあなたにその、ベタ惚れですし」

「そうかしら……怒ってらっしゃらないかしら」

「いや怒ってはいるだろうけどさ。らしくねーな。いつもみたいに自信満々でいけよ」

「だってわたくし、クロード様に怒られたことないんだもの……」

本当のことなのに、全員から微妙な沈黙が返ってきた。唯一違ったのはレイチェルだ。

「魔王様、優しい方なんですね……きっと許してくださいますよ」

「そ、そうよね。皇都でおとなしくしろって言われてただけで、ちょっと男装して学園潜入してアヒル姿になったり女装したり警備隊作って魔香調査して魔物と戦ったくらい!」

「まったくおとなしくしてない気がするが、魔王はこれを許すのか」

冷静なゼームスから尋ねられ、アイザック達がそっと目をそらした。

「いっぺん怒られた方がおとなしくなるかもしんねーよな……」

「おとなしくしなかっただけじゃないでしょう、アイリーン様。瞬間移動禁止とか魔物達と僕たちを巻き込んで最初から魔王様をだましましたよね? 一番まずいのはそこだと思うんですが」

リュックの穏やかな指摘がぐさっと胸にささる。ジャスパーが両腕を組んでため息をついた。

「そりゃ魔王さん、怒るよなー……うまいことだまされたってもう気づいただろうし」

「まさに、心が氷のように固くなったわけだ……」

「クォーツ、それでうまいこと言ったつもり!?」

「見つけたぞ、アイリーン。いつまでぐだぐだやっている」

ばんと音を立ててテラスの窓が開いた。ここはホテルの五階だ。そこから入ってきた魔物の姿に、ぎょっと窓際にいたゼームス達が腰を浮かす。アイザック達は逆に、あーあと何かを諦めた顔になった。

「ベルゼビュート……」

「お久しぶりです、アイリーン様。ほんとに男の格好してるんですねえ――よっと」

ベルゼビュートの小脇に抱えられていたキースも、とんとテラスに足を下ろす。

むっつりと不機嫌そうな顔でベルゼビュートが口火を切った。

「アーモンド達が洗いざらい吐いた」

「そ、そう……それで、クロード様は」

「ドニさんと氷の城で牢を作ってますよ」

何故。

いや察したが答えは聞きたくない。が、キースは容赦しなかった。

「アイリーン様を閉じ込める世界一素晴らしい監獄を建設予定だそうです。いやドニさんも張り切って設計図作ってますよ!」

「ドニ! 裏切ったの!?」

「あいつ、建築に目がないからなあ……」

「ドニは復興事業にあたっていて、ほとんど今回のことには噛んでいないんだろう。裏切るもなにもない」

ドニだけベルゼビュートにきっちりかばってもらえているらしい。ずるい。

「それで……ク、クロード様がお呼びなの?」

目線を斜め下に落として尋ねたアイリーンに、キースはにこりと笑った。

「いいえ? 我が主は氷の城に引きこもって仕事しながら、牢作りに夢中ですよ。もうそろそろ僕の婚約者が中に入るとか、穏やかに笑っておられます。はは、怖いですねー意味分かりますよね?」

「……」

「……牢が完成する前に王に詫びろ。間に合う……かもしれない、多分おそらく……」

「どうして目をそらすのベルゼビュート!」

「で、どうします?」

全員がアイリーンを見た。ぐっと拳を握ったアイリーンは、深呼吸する。

「――湯浴みよ」

「は?」

「レイチェル、ドレスを用意して。化粧品もよ。――色仕掛けで落とす!」

「負けたな」

即断したアイザックに、アイリーンは思い切りクッションを投げつけた。