軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

皇帝夫妻の一日目・5

目がさめると春になっていた。一過性のものかと思ったら、昼になっても真冬を吹き飛ばす陽気は変わらない。

おかげで今日のデートのために昨日用意しておいた服が、すべて考え直しになった。そうなると持ち物も変わる。迷惑な話だ。

そんなわけで予定とまったく違う格好で聖騎士団の訓練場近くまでやってきたセレナは、あがった歓声にむっと眉をひそめた。

歓声は訓練場の中からだ。

あたたかい本日は、絶好の訓練見学日和なのだろう。かくいう自分もちょっと頑張っているところを見てやろうかなどと思ってやってきたので、観客にきている女子達を暇だ何だと批判はできない。かといってきゃあきゃあ騒いでいる女共と同じにはなりたくない。

出直すには、待ち合わせまであと三十分という非常に微妙な時間だ。結局見学するには女子の壁に阻まれる日陰の微妙な場所で待つことになる。

(……馬鹿らしい。少しのぞいてみようかなんて思わなきゃよかった)

考えてみると恋人の職場をのぞこうだなんて、偵察みたいではないか。

一ヶ月、勉強と仕事で互いにすれ違って挨拶するくらいしか時間がなかったとか、なんだか物言いたげにしては何も言わないオーギュストが気になっていたからとか、言い訳はあるが――。

「あっセレナじゃないの!」

靴先を見て考えこんでいたら、仕事でなければ一切関わりたくない人物の声が飛びこんできた。

しかめっ面をあげると、リリアとサーラがふたりそろっている。

「なんであんたらがここにいるのよ……」

「今日はこの天気でしょ? 急遽、騎士団と聖騎士団の練習試合をするっていうから、サーラにつきあってあげたの。サーラ、こっちの騎士に憧れがあるらしくって。ねっ」

「は、はい。アシュメイルにはない職業なので……」

「……それはいいけど、問題はあんたよリリアサマ。監視、どうしたの」

「だってぇ、隣国のだーいじなお客様の神の娘が見たいーって言うなら、第二皇子の妃としては、つきあうのがお仕事ってものでしょ?」

恩赦で婚姻が許されたとはいえ、第二皇子夫妻の監禁生活に変わりはないはずだ。それを新婚早々、この女は無視している。

だが詰問をすぐにセレナは諦めた。今日は休みなのだから、この女がふらついていますと突き出す義務もない。

「大丈夫よ、魔王様はちゃーんと把握してるから」

「そうなの?」

「だってまた魔力の爆弾が首についてるしぃ。何より私がいなくなってセドリックが青い顔ですっ飛んできて謝るのが楽しいみたい」

魔王様もいい性格をしてらっしゃるようだ。遅れてサーラが声をあげた。

「――えっ爆弾って、監視ってなんですか!? あの、みんな忙しくて迷惑かけちゃだめだからふたりで行こうっていうのは、ひょっとして私をだまし――ロ、ロクサネさんに迷惑かけてないですか、私!?」

「やだあ、大丈夫よ! 私がなんとでもしてあげる!」

「だ、だめですよ、ロクサネさんは今、大事な時期で……セ、セレナさぁん」

「知らないわよ自分の責任でしょ。まずいって気づいたなら、さっさとこの女つれて戻りなさいよ。まだばれてないなら大丈夫でしょ」

「そ、そうします……!」

サーラにがっしり腕をつかまれたリリアが、えーと頬をふくらます。でもすぐに気分を切り替えたようだった。

「しょうがないわ。ヒロイン同盟のよしみでおとなしくしてあげる」

「あんた、そういうのもうやめなさいよ。そのためにあのボンクラ皇子と結婚したんでしょ」

だからこの春がきたのだと、理屈ではなく肌でセレナは感じている。

だが、リリアはふふっと意味深に笑った。

「でも私、昨日気づいちゃったの。私が全年齢ならまだいけるはずって……!」

何がだと思ったが、なんだかよくわからないリリアの思想によりセドリックが可哀想なことになっているのはわかった。

魔王様への謝罪といい、苦労の絶えない第二皇子様だ。

「だからサーラもセレナも男女交際禁止、いちゃいちゃしちゃだめよ。ねっ」

「わ、私、アレスと結婚してますから、そんなこと言われても……」

「大丈夫、離婚させてあげる!」

真っ青になってサーラが首を横にぶるぶる振っている。

セレナはリリアの後頭部をぺしりと叩いた。

「いい加減にしなさいよ、あんたが言うと洒落にならない」

「えーじゃあセレナはもう少し踏ん張ってくれる? そうだ、今から三人でランチに出かけましょ! おすすめのお店があるの」

「だめですよ、リリアさん、監禁されてるんですよね!? 爆弾ついてるんですよね!?」

「もうサーラったら、心配性ね。ヒロインなんだからなんとかなるわ、気合いで★」

「意味わかんないです! セレナさん、リリアさん止めてくださいぃ」

周囲に人が増え始めて、セレナは視線を動かした。固まっていた人垣が崩れていっているのだ。訓練が終わったらしい。

ばらけた隙間から、オーギュストの姿が見えた。マークスと何か話している。だがすぐにこちらに気づいて、目を丸くした。隣のマークスは手を振るリリアを見て、血の気が引いた顔をしている。

今からマークスとセドリックとレスターと、あとユリアンだったかギルバードだったか、リリアのために魔王様に頭を垂れた面々が走り回って尻拭いをするのだろう。馬鹿らしいと思うが、もう少しそんな時間が続いてもいいような気がした。

いずれ、変わってしまう――なくなってしまう光景だろうから。

「残念、私はこれからデート」

「えっいいなあ……わ、私もアレスと出かけられないかな」

「えーふたりとも裏切り者ぉ。私は旦那なんかほっといて女の子だけで出かけたいのー!」

「リリアさん新婚一日目なのに、早くないですか!?」

「なら別に時間作ればいいじゃない。山みたいに大きなパフェが出てくる店、行く? ひとりじゃ食べられないから入れないのよね、あそこ」

ちらと目配せするとサーラはわかりやすく目を輝かせ、リリアはあそこねーと笑った。

「じゃあそこで、約束ね!」

裏技を使えば許可は取れるだろう。サーラが国に帰ってしまう前に、それくらいはしてやってもいいと思った。