軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「う、そだ」

アイリーンを追い越し、セドリックが砂浜に足を取られながら進む。呆然と見開かれた瞳と、口元に無理に浮かべようとしている笑みがちぐはぐで、合っていない。

「うそだろう、リリア。いつもみたいに、俺を、だまそうとしてるんだろう。――あの、手紙だって」

ふらふらとリリアの元へ歩いて行く姿にうつむいたアイリーンの目に、聖剣が映る。

笑われた気がした。

「生きて帰ったら、結婚だとか。俺を、愛している、だとか」

――キャラが死んだからって、本気で悲しむなんて。

――ねえ、アイリーン様ってゲームと現実の区別がつかない人?

「嘘だろう、リリア……!」

いつだってゲームの展開を動かせるのはプレイヤー。キャラはプレイヤーがいなければ諦めて現実を受け入れるしかない。

そう、笑われた気がした。

(最後まで、あの女!)

聖剣を握り直して、顔をあげた。

ずんずんと歩き出すと、皆がぎょっとしたように道をあける。アレスに肩を抱かれたサーラが涙いっぱいの目をあげた。

「泣くのはやめなさい!」

「は、はいっ」

「……なんか、方法、まだあるの」

オーギュストの胸にぐたりともたれかかったまま、セレナが力なく尋ねる。

アイリーンはそれには答えず、リリアの遺体の横で呆然とへたり込んでいるセドリックの手に聖剣を握らせた。

「な、にを。アイリーン」

「セレナ、サーラ、手伝って。もう一度よ」

「でも、もう治すところなんて……」

「――聖剣?」

ふと何かに気づいたように聞き返したセレナに、サーラもはっと顔をあげる。

アイリーンは頷き返した。

「彼女の魂よ。治せるわね、神の娘なら」

「ま、待て。それは神剣のようにサーラの命を使えと言うことか!?」

「アレスは黙ってて!」

一喝したサーラに、アレスが驚いて黙りこむ。

「やります。やれるから」

神の娘は、もう自分で自分の道を選べる。

「……セレナ。大丈夫か?」

「平気よ、やるわよ。あんたはそこで見てて」

救済の聖女は、信じられる愛をちゃんと見つけた。

「いい、セドリック様。リリア様を助けられるのはあなただけよ」

そして、聖剣の乙女は。

「この剣を、リリア様に刺して。魂を、体に入れ直すの」

「そ、そんなこと、俺にできるわけが」

「やるのよ! わたくしを捨ててまで婚約した女なんでしょう!」

セドリックが両眼を開く。それをアイリーンはまっすぐ、そらさず見返した。

「大丈夫。あなただってできるわ」

それは伝えそびれた、過去の清算だ。

セドリックの手を包んで、頷き返す。そして目をさまさないリリアに笑った。

「ざまをみなさい、リリア様。あなたでも、わたくしでもなく。みんながあなたを助けてしまうわよ」

ぐっと顎を引いたセドリックが、おぼつかない両手で聖剣をにぎった。

魂を修復しながら体に定着し直す。それだけだ。

起こすのは奇跡なんかじゃない。

アイリーンは立ちあがる。そして踵を返した。

背後から目にしみるような光が、海を、その先の空を照らす。

クロードが、心配そうにアイリーンに首を伸ばしてきた。

ぺろりと頬を舐められて、自分が泣いていることに気づいて、笑う。

「大丈夫ですわ、ただ、なんだか、色々こみあげてきて」

――聖剣の乙女は、愛で目覚める。

ゲームのお約束だ。

「ギャウ」

「ですから何をおっしゃってるかわかりません。心配するなら早く戻って、抱き締めてくださいな。たぶん、足が折れてますわよ、わたくし」

「ギャッ!?」

驚いた声がおかしくてくすくす笑う。ぽすんと体を預けた黒鱗が光り出した。

人間に戻るのだとわかって、目を閉じる。

(わたくしのお約束は、これかしら)

愛されたラスボスは、必ず救われる。

たとえ悪役令嬢からの愛であってもだ。

海の上に優しい光が降り注ぎ、固い鱗が、柔らかい皮膚に戻っていく。砂浜からの光とまじって、虹のように周囲が光っていた。

綺麗、とうっとりしながらアイリーンはその胸に頬をよせてはたと気づく。

「アイリーン」

さらりと黒髪がかかり、赤い目をした夫が笑う。

そっと唇をよせてくるその顔は相変わらずの美形だ。

だけれど、その下は。

(全裸!)

――背後であがった歓声と真っ赤になったアイリーンの絶叫が、虹色の空に弾けた。