軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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ゆっくりとルシェルが、クロードに向けて言う。

「お前の言うことは、正しい。僕は妻の死から目をそらすことでできた卑怯者だ。だから誓約もお前が一身に受けている。だから、僕がお前に取りこまれたらきっとお前は誓約どおりすべてをやり直すための神になるんだろう」

「そんなわかりきったことを、なぜ言う」

「でも、僕がお前を取りこんだら誓約にかかる前の、自分に戻る。誓約でごまかすこともできず、妻を失って、怒りに我を失って、暴れるだけの化け物に」

穏やかな瞳に気圧されたように、クロードが一歩引いた。

それを追いかけるように、ルシェルが一歩前に出る。

「クロード。ごめん。お父さんは、最後まで駄目な父親だった」

「……なに、を。何を、しようとしている!」

「でもきっと、大丈夫だよね。お前のお嫁さんは強いし、たくさんの人が助けてくれるし、きっと大丈夫だ。お前は奥さんに似て優しいだろうから、先に言っておくよ。手加減しなくていい。封印なんてしなくていい。父親殺しは、神話の定番だ」

「お義父さま、何をなさる気ですか!」

叫んだアイリーンに、ルシェルが振り返らずに言った。

「クロードを、頼んだよ」

顔をゆがめたクロードが、腕を前に突き出した。だがその手から魔力が放たれる前に、ルシェルが呼ぶ。

「グレイス」

本当の、妻の名前を。

「グレイス。会いたいよ。会いたい。ああ、思い出した。うん、君は。妹に、会いに行ったんだ。すぐ戻ってくるって言って――首だけになって、戻ってきた」

「やめ、やめろ」

「どうしてかな。どうして僕は、神なのに、君の首を抱いているんだろう」

その謳うような声にまじって、ぱきんと硝子が割れるような音が鳴る。ルシェルの首からだ。

本体とひとつにならないための、まじない。それが、音を立てて、はずれていく。

「会いたいよ、グレイス」

ルシェルの開きっぱなしの、空を見る目から、涙がこぼれ落ちる。

クロードが頭を抱えて、首を振った。

「やめろ、やめろ、やめろ。その名前を呼ぶな。その女は」

「グレイス――僕の、愛した君」

「や、めろおぉぉオオオオ!!」

「君がいない世界なんて」

ルシェルとクロードを中心にして、魔力の渦が吹き上がり、光の柱がまっすぐに天を衝いた。

強風が渦を描き、何もかもを巻きあげていく。嵐を告げるように雷が鳴り、青いはずの空が黒く染まった。

「クロード様!」

一緒に上空に吹き上げられたのだろう、クロードが上から落ちてくる。慌てて抱き留めようと右往左往するが、ウォルトとカイルに止められた。

「無理だ、クロード様は意外と重い!」

「知ってるわ!」

「あっ聞くんじゃなかった……」

「そんなことよりこのままだとクロード様が激突するでしょう! 受け止めなきゃ」

「だからそれはアイリでは無理だと……」

ふとカイルが言葉をつまらせた。

何かと思ったら、上からゆっくりと影がおりてきて、ふわりとアイリーンの背後から抱きつく。さらと肩からこぼれ落ちてきた長い髪の色は、黒。

「受け止めてくれ、アイリーン」

「……」

ひっぱたいてやろうかと思った。それくらい怒っていた。

でも握った拳をほどいてしまうと、泣き出しそうだ。

「アイリーン? 怒っているのか?」

「――ッ今は! 我慢しますわ!」

ふっと背後で笑われた気がした。

「そうか。まあ、それどころではないしな」

「そっ……そうですわよ、ルシェル様は!」

「あそこだが」

そう言ってクロードが上空を指す。

つられて見あげると、真昼なのに暗闇にそまった空から、ゆっくりと輝く竜の尾が、脚が翼が、おりてくる。

古城で暴れていたクロードよりもさらに大きい。光り輝く白銀の鱗に、ばちばちと魔力と聖なる力がそれぞれ音を立てて走っている。

ゆっくりと開かれた目の色は――赤と、菫色。

聖と魔を超越した、神の証。

「神竜……」

鳥肌を立てた人間達に見向きもせず、神竜が――ルシェルが、口をあけた。その口から一閃、放たれた攻撃が宮殿を島ごと綺麗に二つに切り取り、海を割る。

「……!」

今までとは次元の違う攻撃に、叫び声もあげられなかった。しかも今の一撃、海の向こうに見えるアシュメイルまで届いたような――。

「気のせいね!」

『そんなわけがあるかお前ええぇぇぇ! 今のはなんだ、危うく余でも死ぬかと思っただろうが! 実はアシュメイルを滅ぼす計画だったのか!?』

ウォルトが預かっていた聖石からバアルの怒鳴り声が飛んできた。今の一撃で宮殿の結界が完全に壊れてしまったので、もう傍受の心配もない。

『しかも色違いの魔竜が浮いていないか!? いやあからさまに魔竜より大きいしやばそうな気配がぷんぷんするのだが、信じたくない。夢か!?』

「なんだ、聖王もいるのか」

アイリーンの頭の上に顎をのせてクロードが言い放ったひとことに、聖石が沈黙する。

「だったら丁度いい、手伝ってもらおう」

『その声……いや待て、断る、嫌な予感がする。余はそもそも空中宮殿が落ちてくるからしかたなくそれをふせぐだけだ、そういう約束だ』

「わかった、ウォルト、カイル。ついてこい、あの神竜もアシュメイルに落とそう」

『おまっ!?』

「なんてことだ、宮殿と一緒に神竜までアシュメイルに落ちてしまうなんて。だがあそこには僕の友人がいる、助けにいかねば」

『ふっざけるなああぁぁぁお前友達やめるぞ今すぐやめるぞ! 余にも立場があるんだ、そもそも神竜ってなんだ、おい返事をせんかあぁぁ』

聖石をウォルトの手から奪ったクロードが華麗な投球をきめると、海にバアルの声が沈んでいった。アイリーンは頬に手を当ててしみじみする。

「いいお友達ができてよかったですわね」

「まったくだ。というわけで『父上』は僕が引き受ける。君は『母上』をどうにかしてきてくれ。それがあれば、神竜とはいえ止まるだろう」

はいとアイリーンは頷き返すと、神竜が動き出す。ちらとそれを見たクロードが、アイリーンに向き直った。

「僕の魔力は使えるはずだ。魔物も呼べる。宮殿もふたつにはわれたが、浮力代わりの神具が壊れない限り、浮いていると思うが――無理はしないように」

「はい」

「いってくる、僕の可愛いアイリーン」

いってらっしゃいませ、と言う前に唇をふさがれた。

いたずらっぽい笑みに赤くなっている間に、クロードがウォルトとカイルを連れて浮く。

「続きはあとだ」

一瞬、もう建国祭から一週間がすぎたことを言おうかと思ったが、やめた。優秀な侍女と、従者の教えだ。夫のやる気をくじいてはならない。

「いってらっしゃいませ」

そのまま飛んでいく三つの影を見送って、アイリーンは嘆息する。

「さて、まずは、ゼームスにアメリア様の居場所を……」

「これはどういうことですか?」

クロードが飛び去ったのと逆向きの空から聞こえた声に、振り仰ぐ。そして目にしたものに、思わずあとずさった。

「リ、リア、様……?」

そこには先ほど祭壇で見た、アメリア・ダルク本人と――聖剣に胸を刺し貫かれたまま動かない、リリアがいた。