軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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聖なる結界というのは、足場にもなるらしい。空中宮殿を円形に囲む結界に靴の底をすべらせて、オーギュストは姿勢を整える。

「おい、無事か」

「一応! ゼームス、聖剣に気をつけろよ! 半分魔物なんだから」

「余計な心配だ。お前こそ神剣に押し負けるなよ」

「大丈夫、すっげ調子いい。セレナのおかげかな」

翼をはやしたゼームスになぜか舌打ちを返された。

「宮殿を落としてエルメイア皇国への攻撃をさける、そういう作戦ですか? 馬鹿馬鹿しい」

足止めされる形になっている女――アメリアが相変わらずの無表情で、剣を構える。右手に聖剣、左手に神剣の二刀流だ。

「なり損ないの聖騎士と偽物の魔王。運命に従わぬ失敗作など、この世界に必要ない」

その宣告と同時に、アメリアが突っこんできた。ゼームスが襲いかかろうとすると聖剣に持ち替え、オーギュストがそれを防ごうとすると神剣を取り出す。

ゼームスとの連携は、何年も一緒に戦ってきたというウォルトやカイルにだってひけを取らないつもりだ。なのに、寸分の狂いもなく正確に、対応される。

単純に、強い。

膨大な聖なる力を自在に操れるから、聖剣と神剣という武器を使いこなせるから、切っ先がかすっても血も流さず痛みも感じない体だから、それだけではない。

(努力したんだ)

無駄も隙も許さない美しい剣筋が誰よりもそれを物語っている。

その細腕からは想像もつかない力を、技術を手に入れるために、姉に負けないために、彼女はどれだけの努力と時間を費やしたのだろう。

神剣と神剣がぶつかり合った。アメリアの使う神剣は量産型の使い捨て、オーギュストの持っているのはセレナに強化され改造された神剣だ。

ひびが入っていく自分の神剣にアメリアが一瞬目を向けたそのとき、思わず声が出た。

「なあ、お姉さんとお義兄さんを、許すってできないのか」

彼女の片眉が、ぴくりとあがった。でもそれも彼女の本当の表情ではない。

これは彼女の姉の遺体だ、と聞いた。

「お姉さんのふりしてまで、何百年もこんなことのために費やして、むなしいだろ」

「むなしい?」

「そうだよ! 勝ってなんになるんだよ、これでほんとに幸せになれるのかよ!」

「それは勝てない負け犬の理論ですよ」

「呑気にお話し合いをしている場合か、馬鹿!」

アメリアの背後に回り、ゼームスが襲いかかる。鍔迫り合いをしながら恐ろしい速度で反応したアメリアを、オーギュストは両手で剣を持ち替えてそのままたたき落とした。

「やったか!?」

「……っゼームスうしろ!」

ゼームスの腕を引っ張って場所を入れ替わる。聖剣だ、自分は傷つかない――と思った瞬間に、聖剣だったはずのそれが神剣の切っ先に変わる。

(幻覚!?)

「あなたに聖剣を奪われると、厄介ですので」

とっさに体をひねったが、右腕の真ん中に神剣が突き刺さる。

歯を食いしばってその痛みも衝撃もこらえて、その代わり左手で持ち替えた神剣を、柄から手を離した女の右手に向ける。

狙うのは手のひらだ。そこにある、虹色に輝く何か。

おそらくこの体を動かしている、その心臓部だと思われる箇所を、正確につらぬく。

女が両眼を見開いた。

「オーギュスト! 生きてるな!?」

落下した体を途中でゼームスが受け止め、聖なる結界の上におろしてくれる。肩で息をしながら目をあけたオーギュストは、そのまま瞠目した。その視線を追ったゼームスも息を呑む。

右手に神剣を突き刺したまま、女は笑っていた。

「よくもまあ、こんな狙いにくい場所をあの状況から」

「……まだ、動けるのか」

「ええ、残念ながら。これは媒介みたいなものです。……でも、腹が立たないわけではないんですよ? この体も、右手にあるものも、お前らが傷つけていいような代物じゃない」

両眼を見開いたまま、アメリアが無表情でこちらを見る。

「幸せになれるか、と聞きましたね。あなたが死んでもそう言えるかが楽しみです」

ぞっと、本能的に肌が粟立った。殺される、とわかった。ただの事実として。

「さようなら、聖騎士」

「えー幸せに決まってるじゃない、今が一番よ!」

明るい声と一緒に、アメリアの右手に突き刺さったままの神剣が輝いた。

すかさずアメリアが右手から神剣を引き抜き投げ捨てるが、剣先で描かれた魔法陣から光り輝く剣が――聖なる乙女の剣が、アメリアめがけて襲いかかる。

「だってやっとここまできたのよ。楽しいに決まってるでしょ、ねっ」

「リリア・レインワーズ……! 聖女もか!」

アメリアの叫びと一緒に、聖剣がはじけ飛んで、距離があいた。

まばたいたオーギュストは、現れたふたつの影にやっと声をあげる。

「セレナ! なんで……!」

「なんでって……あんたこそなんなのその右腕!?」

「不用意に引き抜くな、失血死する。いいか、最低限の手当てを魔力で補うから手伝え」

ゼームスにたしなめられて、セレナがこくこくと頷き返した。かがんでオーギュストの顔を見たリリアがころっと笑う。

「途中で止まるほうが不幸だわ。そういうことってあるでしょ?」

「……それは……」

「女相手だと気が引ける? でも、もともとこれって女の戦いなのよね」

上空の強い風に長い髪をなびかせながら、リリアがアメリアに向き直った。

「だから男はお呼びじゃない。それでいいわよね」

「……そうですね。少なくとも聖剣を持つあなたのほうが骨がありそうです」

「よかった。アイリーン様の活躍を見られないのは残念だけど、私もあなたに借りを返したかったから」

「借り、ですか?」

背を向けたままリリアが聖剣を握り直した。

「セドリックに手を出したこと」

妙に優しい眼差しを向けたアメリアも、聖剣を握る。

「あなたの手落ちでは?」

「そうよね、おかげで目がさめたわ! ――死ねよ、クソババア」

聖なる結界の上で聖剣と聖剣がぶつかり合う。

雲が吹き飛び、真っ青な空に白銀の光が炸裂した。