軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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レイチェルの宣言に仰天したアイザックの顔は、今まででいちばん見物だった。

会議室や画面の向こうから噴き出す音やら咽せる音があがる中で、情けないエレファスの声が響く。

『あの、俺との結婚が罰ゲームみたいに扱われるの、ちょっと傷つくんですけど……』

『えっあ、すみませ……あの、じゃあえっと、あの』

『よーしじゃあオジサンのお嫁さんになってよ、レイチェルちゃん。いやわりとガチで』

「ふざけんなよオッサン、年考えろ! 大体、そんなんに俺が引っかかると」

『で、でも、アイザックさんが助けてくれたら、アイザックさんと結婚します!』

アイザックが息をつまらせたその瞬間に、決着はおそらくついていた。

なのにまだあがこうとするあたり、エレファスの言うとおり、アイザックも諦めが悪いのだろう。

「お……おま、何言って――な、にするんだよ離せ、クォーツ!」

「……リュック。自白剤だ」

「ああ、そうですね。はい素直になりましょうねー」

『ジャスパーさん、アイザックさん契約書とかに弱いから今のうちに作りましょうよ!』

『お、そうだな。えーっと、レイチェルちゃんはアイザック坊ちゃんがアイリーンお嬢様に協力しない場合オジサンと結婚、協力したらオジサンと結婚。はいレイチェルちゃん署名して』

「おいそれ両方ともオッサンになってるだろうが! 何ちゃっかり――待てって、袖めくってんじゃねーよリュック!」

「自白剤打たれて求婚って、子どもにもネタにされる黒歴史ですよね……」

「……時間がない。情けをかけず、楽にしてやろう……」

「なんだこれどういう状況だよ! アイリーン!」

「諦めなさい?」

にこやかにアイリーンは切り捨てる。心は痛まない。いつだったかそう言ってアイリーンの助けを切り捨てたのは、アイザックである。

クォーツに固定されたアイザックの左腕に、リュックの持つ注射器がゆっくり近づく――。

「――ッわかったよ、誰か世界地図よこせ!」

ついに観念したアイザックの叫びに、レイチェルがゆっくりと目を見開いた。クォーツとリュックをふりほどいたアイザックは、ゼームスから差し出された地図をテーブルに左手で広げて、一度だけ深呼吸をする。

「ドニ、その空飛ぶ宮殿の動力部はどこかわかるか」

『大体なら想像つきます。でも動かせるように改造するのは時間がないと無茶かなあ』

「いい、進行方向と速度と現在地さえわかるならなんとかする。他には高度だな、そっちは魔物に調べさせて――あとで指示出すからもう通信きるぞ。おい外道魔道士!」

『はい、なんです?』

「そっちの司令塔はお前だ。ヘマすんなよ、あと連れてった責任とれよ、でねーとお前の故郷滅ぼすからな!」

はいと答えたエレファスが、こらえきれずに笑っている。思わずアイリーンは声をかけた。

「エレファス、ありがとう。――お手柄だわ」

『クロード様自慢の魔道士ですので』

『あ、あの、アイザックさん、私は……』

「お前はオッサンの作った書類に署名すんな! あとはおとなしくしてろ!」

『は、はい! あの、やっぱりアイリーン様に協力してるアイザックさんが私、一番かっこよくて、素敵で、大好きです!』

「知るか、死んでもしらねーからな馬鹿!」

負け惜しみを叫んで、アイザックが聖石を叩く。それで通信は切れてしまった。

長い息を吐き出しているアイザックの横に、アイリーンは立つ。

「そこはかっこよく、お前のことは死なせないって言うべきじゃないのかしら?」

「できることしか口にしねーよ、俺は。……いいか、五分だからな」

「何を言ってるの。あなたがいて、わたくしが負けたことがある?」

もう一度、長いため息をついたアイザックが、まっすぐ姿勢を正した。

「聖王様に連絡だ」

「バアル様? でも、これ以上まきこめないでしょう」

「空中宮殿が落ちてくるんだ。親切にお知らせしとくんだよ」

「――まさか、アシュメイルにあれを落とす気なの?」

尋ね返しながら、納得する。落としてしまえば、あの宮殿に何ができるのか、どうすればいいのかなんて対処を考えなくていい。

ゆっくりとアイザックが薄い笑みを浮かべた。

「落とすんじゃない、落ちてくるんだよ。運がねーよな、アシュメイル王国も」

わざわざそんなお知らせされたら、自国を守るために聖王は動かざるを得ない。

呆れ半分、苦笑い半分で、アイリーンは片手をあげる。

「まったく、使えるものは全部使うんだから」

「お前にだけは言われたくねーよ、お互い様だろ」

答えのかわりに、ぱんと互いに重ねた手のひらが鳴った。