軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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魔竜が――もうほとんど瘴気が消えて、元に戻りかけている小さな竜が、ぴんとその髭を立てた。

いたずらっぽく、アイリーンは微笑む。

「わたくし、知っているの。あなたは素敵な男性と出会って、恋を知るわ」

ぷるぷると竜が体を震わせている。

「その男性は、あなたを妃にしてくれる。わかる? お嫁さんという意味よ」

「まさか人間なのか、それは。この子を嫁に? ……根性がある男だな。強いのか?」

「ええ。魔王様に負けない強い男です。しっかりしたお相手でなくては、魔王が嫁がせるわけがないでしょう?」

「それもそうだな。とにかく魔物に過保護だから」

そわそわしながら、竜が聞き耳を立てている。

「あなたはね、そんな素敵な男性と結婚して、素敵な名前をつけてもらうのよ。あなただけの名前を」

ぶあああっと竜が全身を震わせたと思ったら、ぱらりと何か降ってきた。

アイリーンの横にやってきたグレイスがつぶやく。

「……鱗だ。こんなふうにはがれるのか」

「え。ということは……」

「成竜になる」

きらきらと降ってくる鱗は、まるで砂漠の夜に流れる星屑のようだった。

同時に円錐の結界が消え、グレイスに抱き留められた。

「まさか、こんなにあっさりと話がつくとは……」

「竜とはいえ、女の子ですもの。この先色々あるでしょうが、夢は大事ですわ」

「ありがとう、助かった」

真摯な眼差しでそう言われて、ただ頷き返す。

「まだまだ魔王の妻として私は未熟だな。ルシェルの分も合わせて礼を言う」

「そんな――そうですわ、ルシェル様のこと! グレイス様、教えていただけませんか。どこにいてもルシェル様が飛んでくるっていう、その方法!」

「? 別にいいが……」

不思議そうな顔をしたグレイスから告げられることを、しっかり刻み込む。

ここから戻った時、夢だと忘れてしまわないように。

そうしていると、ふと足先が薄くなっていることに気づいた。

同じものを見たグレイスが、ああと笑う。

「魔法がとける。――お別れの時間だな。なんだか、名残惜しいが」

「え、ええ」

「もしまた会うことがあったら、そのときは私が君の力になろう」

「あの、グレイス様! わたくし――」

何が言いたいのかわからずに、口ごもる。そうするとグレイスが困ったように笑った。

「なんだ、どうしてそんな顔をする。せっかく帰れるのに」

それはきっと、グレイスの口調や仕草が、クロードそっくりだからだ。

今から戦って取り戻さなければならない、愛する人。

自分は取り戻せるだろうか。聖剣もないまま、戦い抜けるだろうか。

「泣かなくていい。君なら大丈夫だ」

「あ、あの、でも、わたくし」

「頑張れ。君だって、魔王の妻なんだろう?」

息をのむ。けれどもう、伸ばした手が消えかかっていた。

「いつの時代かな。私の息子を、頼んだよ」

「は――はい、お義母さま」

「いい響きだ」

さあ、きっと息子が君を待っている。

迷いなく言い切ったその人は、魔力に、光に、過去に溶けて消えた。

もう一度目を開けたら、できるなら目にも入れたくない元婚約者がいた。

しかも、あろうことかその膝の上だ。

信じがたい現実にアイリーンは叫ぶ。

「せっかくさっきまで素敵な人と一緒だったのに、戻ったらこの世で一番最低な男の顔があるなんてっ……なんの嫌がらせなの!」

「この間からお前は……! それはこっちの台詞だ、おりろ! い、いきなり出てきて心臓が止まるかと思っただろうが……!」

「いっそ止まればよろしいのに」

「アイリーン様!」

横からリリアが抱きついて勢いのまま寝台に転がった。

そこで初めて、ここがセドリックの寝室だということに気づいた。

ひっくり返ったまま首をなんとか動かすと、セレナにマークス、ゼームス、オーギュストと珍しい組み合わせがそれぞれ呆然とこちらを見ている。

どういう状況か今ひとつ把握できずにいるアイリーンに、リリアが馬乗りになった。

「もーいきなり消えたと思ったら出てくるんだから! ねえねえねえ、どうだった!? どうだったどうだったどうだった!? ねえねえねえねえねえねえ!」

「ゆ、ゆら、ゆらさないで首が絞まるでしょう!」

「4の『時の竜』イベントだったんでしょ!?」

相変わらずゲームの解釈だけは深い女だ。舌打ちしたアイリーンは、ほとんど首を絞めにかかっているリリアの手を振り払い、上半身を起こす。

「あなたにべらべら喋ると思って?」

「えっじゃあこれ破いちゃおうっと」

そう言ってリリアが目の前でアメリア・ダルクの日記を開き、両端を引っ張り出す。

すぐさまアイリーンは取り返そうと手を伸ばしたが、さっと上に持ちあげられた。そのまま本を取ろうとしてはよけられる攻防を何度か繰り返し、アイリーンは激怒する。

「誰なの、この日記の存在をこの女に教えたのは!」

「私だけど。あんたが勝手に消えたのが悪いんでしょ」

「中身ぜーんぶセドリックに読んでもらっちゃった」

うふっとわざとらしくリリアが笑う。はあっとアイリーンは嘆息した。

「そう。で、まさか情報交換とでもいうわけ?」

「あら、アイリーン様はセドリックが読めたこと、びっくりしないのね?」

「一緒に授業を受けていたもの。だからわたくしも読めるわよ!」

そう言って再度日記を取りかえそうと手を伸ばしたら、またさっとよけられた。

この女とにらんだら、それを見返すリリアの瞳が妙に白けていることに気づく。素の顔だ。

(ん、んん? 何、この反応)

だがすぐにリリアは、唇に弧を描いてアイリーンの鼻先に顔を近づける。

「アメリアは聖剣を手に入れて、女王になってるわ。聖剣の乙女ルートに入ったのに、グレイスにヒーローを取られて、女王エンドにねじ曲げられたっていうのが私の解釈。ここまではどう?」

「……異議はないわ。で、女王になった彼女は何をしたのか、書いてあった?」

返事のかわりにリリアは日記を差し出す。

そこにはアイリーンより先に魔王の妻になった女性の最期が、そしてこれから進む未来への希望がある。