作品タイトル不明
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魔王様の城に自分が入るなんて嫌がられるに違いないとわくわくしたが、魔物がいないせいか、中庭に現れたセレナとリリアを追い出そうとする人物はいなかった。
ただ中庭に入ると、半魔や人間兵器の二人、特にオベロン商会とかいうアイリーンの下僕の面々からはものすごい視線を向けられた。歓迎されていない空気にリリアの笑顔が輝く。
「それで、アイリーン様がどうしたの?」
「なんか、アシュメイルの聖竜妃が持ってきた日記に呑みこまれて消えたって」
「日記ぃ? 何それ初耳。内緒にしてたわねアイリーン様ったら」
「――オーギュストはどうしたんだ。しかもどうしてその女をつれてきた?」
不信をまったく隠さない顔と口調で、半魔のラスボスがにらんでくる。それをセレナが負けじとにらみ返した。
「オーギュストならあとからくるわよ。あの女に何があったのかわかるとしたら、同じくらい頭のおかしいこの女しかいないでしょ! いいからその日記こっちに貸して」
思うことは色々あるが、何より興味が勝って、半魔が持っている日記に目を向ける。
そこでああと手を打った。
「セーブデータじゃない」
「は?」
「ふぅん、アイリーン様、これにのみこまれちゃったの? いったいこれ、どこで手に入れたのかしら」
ぽかんとしているゼームスの手からさっさと取り上げてぱらぱらめくってみるが、よくわからない文字が書いてあるだけだ。口ごもる周囲の中で、答えたのはセレナだった。
「アシュメイルの元魔竜が、あの正妃に頼まれて持ってきたんだって」
「ああ、水竜。じゃあ――えっずるくない!? それずるくない!?」
アイリーンがどこに消えたか理解したリリアは、日記をひっくり返してばさばさ振ってみるが、ただの日記だ。何も反応しない。
「あーもうずるい、アイリーン様ずーるーいー! なんで私を誘ってくれなかったの!?」
「な、なんなんだ。破れたらどうする!」
あっけにとられていたゼームスが慌ててリリアの手から取り上げる。
抵抗せずにリリアはそれを受け入れ、肩を落とした。
聖竜妃となったあの水竜は、4の隠しイベントでも出てくる。
あらゆる場所も時代も関係なく物を盗み人を誘拐する『時の竜』を退治してくれという話がアメリアにくるのだ。結局その原因はまだ幼く魔力の制御がきかない竜の子どもの仲間さがしで、アメリアとルシェルに説得され成長して水竜となったその子竜は、まだただの砂漠地帯であるアシュメイルへ向かう描写がある。
3へつなげるためのおまけストーリーみたいなものだ。それを知っていたからリリアはアシュメイル王国で、あの魔竜が水竜だと見抜けた。
発生条件がわりと細かく、期間も短いから、見落とされることが多い。今までの知識量から察するにアイリーンは大雑把なプレイをしている。スチル回収もないし、見落としたか飛ばしたのだろう。
それかあの子竜が魔竜になるとまで気づいていなかったか。
「大丈夫よ、4の『時の竜』イベントに巻きこまれただけでしょ。テキスト読むだけでクリアできるし、その内戻ってくるわよ、アイリーン様」
「……何の話だ?」
「聞いてもわかんないから聞かないほうがいいわよ。じゃあ待ってればいいのね?」
セレナの確認に、リリアは頬をふくらませて頷いた。
「そう、待つだけで大丈夫。あー私も一緒に行きたかった……あっ、でもこの日記読めばプレイするのと一緒かしら!?」
「……なんか、この日記が何の日記かわかってるみたいだね?」
ウォルトの怪訝そうな顔に、リリアは肩をすくめる。
「アメリア・ダルクの日記でしょ。わかるわよそのくらい」
「なぜだ」
「だからこの女にそんなこと聞いてもわかんないから流しなさいよ、頭がおかしいんだから」
警戒心をあらわにしたカイルもセレナが切り捨てる。だいぶ役に立つキャラになってくれたとひそかに感心して、やっと4の世界に飛ばされなかった悔しさから気分を切り替えた。
「アイリーン様を待ってる間にこの日記、読んじゃいましょ。だってあの女の日記よ、ハウゼル女王国の。何か弱点とか書いてあったら儲けものじゃない」
「……彼女に読ませるんですか?」
白衣を着たアイリーンの下僕のひとりが、あからさまにリリアを嫌悪した顔でゼームスに尋ねた。ゼームスが両腕を組んで疲労の濃い顔で答える。
「読ませるも何も、そもそも簡単に読めるものじゃない。辞書があるとはいえ、書かれているのがハウゼル女王国の古語だ。その文字自体、王公貴人でも拝む機会が一生に一度あるかないかの代物だぞ。しかも翻訳に使う辞書はアシュメイル王国の古語だ。普通の教育を受けているだけの人間には読めない」
「あんた公子でしょ。読めないの?」
「私は公子としての教育は受けていない」
「じゃあ聖王様か、これをよこした正妃様に連絡したらどうなの」
「おそらく聖王に黙って聖竜妃が持ってきている。連絡したら返せと言われる可能性が高い」
「神の娘と聖将軍いるんだから、それで脅したら?」
「それも考えたが、ここで使ってしまうのも……クロード様がいたら読めただろうがな」
「あら、じゃあいるじゃない、読める人」
言い合っていたセレナとゼームスがリリアを見る。
他の全員もこちらを注視する中で、リリアはにこりと笑った。
「魔王様並の教育を受けてれば読めるんでしょう? だったらいるわ、魔王様のかわりに皇帝になるための教育を叩きこまれた人が」
全員が思い当たらないというように目配せし合う。
ひそかにリリアは頬をふくらませた。
一応、リリアの婚約者は優秀で立派な皇太子という設定をしょったキャラだったのに、思いつかないなんて失礼である。