軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「つまり、わたくしさっきの竜に転移させられた――ということですか?」

アイリーンの確認に、せっせと火をおこしながらグレイスと名乗った女性が頷いた。

森を抜けた見晴らしのいい丘には、気持ちのいい風が吹いている。グレイスの着ている軍服の白く長い裾がはためき、薔薇の刺繍が広がった。

(……ハウゼル女王国の紋章……騎士団の制服、よね)

女性用を見たことがなかったので確信がもてないが、ゲームで見たスチルの騎士服を女性用に変えたらこんなふうに変わるのだろう、と予想はつく。

問題はなぜグレイスと名乗る女性がこれを着ているのか、だ。

悪役令嬢グレイスと言えば聖なる力こそ強いが年中寝台の上で生活するほど体が弱く、聖女のような仮面の裏でせっせと自分が女王になるべくえげつない画策をする人物である。

そして何百年も前に亡くなっているはずの人物である。

(ひょっとして、名前が一緒なだけでハウゼル女王国にいる女騎士とか!?)

「あの竜は、親を早くに亡くして同族もいない。だからか仲間の気配がするものを集める癖があって、なんでも転移させてしまうんだ。それこそ過去も未来も関係なく、人も物もなんでも魔界に召喚するものだから、ハウゼル女王国から討伐対象にされてしまって」

話を聞きながらアイリーンは観念した。

(うん、これ時の竜退治イベントね! 4の隠しイベントの)

つまりここはゲームでいう4の舞台、七百年近く前の過去だ。そしてきっと目の前の軍服美人は、悪役令嬢グレイス・ダルクだ。

わけがわからないが、呑みこむしかない。

「本来とっくに幼竜期を終えて脱皮しているはずなんだが、甘やかされたみたいでね。こんな悪さをずっと続けている。成長すれば種が固定されもうあんな悪さができなくなるから、やめさせようとしているんだが」

「やめさせる……具体的に、どうやって」

「とりあえずいい加減やめろと殴った」

真顔で言われて、アイリーンは固まった。

「そうしたら癇癪を起こして、そこら中の物を転移し出して。それこそ古代兵器とか空から降らせてきて。その中に君がまざっていたんだ」

「そ、そうですか……その、古代兵器はどうなりましたの」

「ああ、聖剣の敵ではないよそんなもの。私も腕に自信があるしね」

ははっと軽くグレイスは笑っているが、笑えるところなのだろうか。

とりあえず無理矢理笑顔を作って、アイリーンはおそるおそる尋ねてみる。

「あの……ですが、魔物を殴ったりして、その、魔王が怒るのでは……?」

「大丈夫だ。可哀想だとかほざいたので、蹴っ飛ばしてきたから」

暴力はすべてを解決する、などと口にしてはいけない言葉が思い浮かんだ。

「何が可哀想だ。そう言って何百年とそのまま放置していたというのだから、呆れる。あの子がさみしいのは魔王のせいだろう。しっかり面倒をみてやれば、親がいなくとも立派に育ったはずだ。なのに時の竜などと呼ばれて、討伐対象になっているというじゃないか。たかが幼竜にひどいことを、なんてどの口で人間を批判するんだ」

どっかりと腰をおろしたグレイスの言い分は理にかなっている。

「魔王とは口ばかりで、魔物のしつけがなってない。君にも迷惑をかけてすまない。蹴りが入っていれば転移前に止められたんだが、手加減したせいで」

「て……手加減はなさったんですね」

「当然だ。だが話してわからないなら殴ってでもわからせるしかない。そうでなくては、あの子が生きていけない。魔力の制御もままならず、人を傷つけているんだ」

凛とした信念を持った目が、まっすぐ丘の向こうの景色を見る。

「さっさと成竜になって、人間とも必要以上にぶつからず生きていく術を覚えれば、世界が広がる。仲間はもうおらずとも、そこで新しい出会いがあるかもしれないじゃないか。このままでいいわけがない。十年くらいならまだしも、何百年もだぞ」

「……まあ、確かに不毛ですわね」

それに、大事な物や人を失う悲しみは巡り巡るものだ。

やめさせなければ、というグレイスの話は頷ける。

「それでグレイス様は、ハウゼル女王国から派遣されてあの竜をなんとかなさろうと?」

ゲームの展開と現状をすりあわせてさぐりを入れたのだが、グレイスにきょとんと見返されてしまった。その顔に焦る。

「け、見当はずれでしたらすみません。わたくし、そういう情報にうとくて」

「ん……いや、まだ結婚して半年もたっていないしな」

「け、結婚って、どなたと?」

「ん? それも知らないのか。一応、有名人だったつもりなんだが……君はひょっとして少し過去からきたのか? よく見たらその格好、ハウゼル女王国のものではないし、他国出身ならなおさら知らなくても当然か……」

たぶん時系列は逆だが、不安そうな顔をすることで誤魔化しておく。グレイスは疑問に思わなかったらしく、話を進めてくれた。

「私が聖剣の乙女だということは知っているな?」

「いっ……いいえ、はい」

「どっちだ。ああ、でもそうか、ひょっとして妹のアメリアと話がまざっているとか?」

「よっよろしければお話を聞かせていただいても!? グレイス・ダルクという名前の女性は確かに知っていますが、詳しくはないですし、同一人物かわかりませんし。それにええ、どんな方かわからなければそもそもあなたを信用していいかどうか、わたくし判断できません!」

ちょっと苦しい切り出しだが、グレイスはそうだなと頷き返してくれた。

クロードと同じ大雑把な性格で助かった。

「ではまず自己紹介をしよう。知っている部分は聞き流してくれ。私はグレイス・ダルク。ハウゼル女王の娘として女王試験を受けていたのだが、途中で辞退した。聖剣の乙女なんて呼ばれることもあるが、魔王ルシェルと結婚したからね」

今は魔王の妻だ。

そうか、と頷き返す以外に何ができただろう。でも納得もした。

あの、人形のように不気味な女ではない。

この人こそ、ルシェルが聖剣の乙女と呼び、愛した妻なのだ。