軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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ゼームスがアイリーンとウォルトを先導したのは、古城の中庭だった。

先日の戦いでいちばん被害を被った古城の正面と違い、中庭は壊れた壁や屋根の瓦礫が落ちた程度ですんでいる。

だが今は、いつもひなたぼっこをしている魔物達の姿もなく、ひっそりとしていた。

(……できるだけ姿を消せっていう話は、伝わっているかしら)

だとしたらこの光景は喜ばしいことなのだが、さみしくは思う。

「聖竜妃はここにおりてくれるの?」

「一応、喚んでみるがあまり期待はしないでくれ。私は半魔だ。彼女は最上位に近い魔物だからな、言うことをきかせたければクロード様かベルゼビュート様あたりか……キース殿の代行権を使うかくらいしかない」

ふとアイリーンは、空を見あげているゼームスの横顔を見つめた。

「キース様の代行権はまだ使えるの?」

「ああ。クロード様の記憶が戻ったあと、また改めて付与されている。私にという話もあったんだが、辞退した」

「そうそう、こいつ半魔でしょ。だからクロード様に何かあったら影響受けるから意味がないって断ったんだよ。真面目すぎない?」

ウォルトがゼームスを指さして言う。ゼームスは動じなかった。

「合理的な判断と言え。それに、代行権なんて使わずにすむにこしたことはないんだ」

「――そもそも、今回のこの事態は、クロード様に『何かあった』ということで代行権の対象になるの? ハウゼル女王国にクロード様はいるわけでしょう」

息子の体。

そう言っていたのだから、少なくともあれはクロードの体で、魔王としての意識もある。魔力も失っていない。記憶と魔力を失い、魔物達と意識が共有できなかったあのときとは微妙に違う。

「使えるだろうな。あれはクロード様というより、ルシェル様だと我々は認識している」

「でも別にルシェル様はいるんでしょう、まだ」

「そもそも、ルシェル様は常にふたりいる感じだった。人間の形をとっているルシェル様は話が通じるが、本体のほうは話にならない。だが存在することには違いない。そして今のクロード様は魔界の本体と入れ替わってしまった。だからあれはクロード様ではない」

「……確かにそうね。本体にのっとられてしまったのだもの」

「だから現魔王であるクロードと連絡がつかない。すなわち『何かあった』として、代行権は使えるだろう。キース様が目覚めさえすればな」

これは大事なことだ。キースが目覚めさえすれば――という話ではあるけれども。

「キース様の代行権を使ってルシェル様をさがしだすことはできるかしら?」

「無理だ。あくまであの代行権の対象者はクロード様よりも下位の魔物。ルシェル様はクロード様と同等の存在だ。だから身を隠しているルシェル様をさがすことはクロード様の命令に反することと同じだ。同じく、ルシェル様に出てこいと命じるのもクロード様に何か命じるのと変わらないから、無理だ」

「そう……人力でさがしだすしかないわけね。でも、ひとつ安心したわ。クロード様はやっぱりまだいるのね」

「やっぱり?」

反覆したウォルトに、アイリーンは頷き返す。そこへ大きく風がふき、影が旋回した。

「聖竜妃……!」

ぎゃあお、と鳴き声をひとつあげて、聖竜妃が翼を上手に羽ばたかせながら中庭に着陸する。

魚のようにしなやかな体つきと、きらきら光る白い鱗。

「お待ちしておりましたわ、聖竜妃殿下。ようこそ、我が国へ」

あくまで他国の妃として出迎えるアイリーンに、聖竜妃がふんと胸をはった。首飾りの宝石が日の光を反射してきらめく。どうも威厳を示しているらしい。

元は内気で人見知りの激しい水竜だ。だが正妃であるロクサネに対抗すべく、偉大な古代の魔物として振る舞うよう努力していると聞いた。

アイリーンは内心で笑いを堪えながら、深々と辞儀をする。

「それで、この度はどのようなご用件でしょうか? ……もし、クロード様にというのであれば、あいにく……」

魔物相手で気が緩んでいたのかもしれない。この状況をどう表現していいのか、言葉につまってしまった。

いなくなったのではない。さらわれたのでもない。去ってしまった。でもあれはクロードではなくて、でもクロードでもあって。取り戻すという決意にゆらぎはないのだけれど。

うつむきそうになった頬に、何かくすぐったいものが触れる。聖竜妃の長い髭だ。

見あげると、ガラス玉のように澄んだ瞳が心配そうにこちらを見ている。慰めてくれているらしい。

苦笑いを浮かべて、アイリーンはもう一度背筋を伸ばす。

「失礼しました。あいにく皇太子殿下は不在ですの。ですからわたくしが用件を承り――」

最後まで言う前に、聖竜妃がちょいちょいと前足の爪で脇腹のあたりを示した。

よく見たら、肩から革の鞄をさげている。聖竜妃用に作られているのか、ちゃんとサイズが合っているのが微笑ましい。

マナという聖竜妃の名前まで刺繍してあった。刺繍をしたのはロクサネだろうか。

「あけてよろしいの?」

こくこくと聖竜妃が頷いた。ゼームスがふと何かを感じ取ったように顔をあげ、補足する。

「その鞄の中身を持ってきたんだそうだ。ロクサネ妃に頼まれて」

「ロクサネ様から?」

ウォルトが失礼しますと声をかけて鞄のほうに回る。聖竜妃はちょっと恥ずかしそうに身じろぎしたが、淑女を扱う手つきでウォルトが鞄の中身を取り出すまでじっとしていた。

「自分は聖竜妃だから、負けられないと言っている」

「誰に? ロクサネ様?」

こくこくと再度、聖竜妃が頷いた。ゼームスがさらに補足した。

「バアル様が悲しんでいるから、同じ妃として、頼みをきいてやったんだそうだ」

「うっわ何コレ重い、辞書? と……日記かな?」

ウォルトが手にしたものに、アイリーンははっと目を見開く。

(アメリア・ダルクの日記!?)