軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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配膳台を押していたオーギュストは、古城の玄関から入ってきたクォーツと目があってぱちりとまばたく。クォーツは籠を持っていた。たぶん、薬だ。

「クォーツさん、これからひょっとして、皆のところ回る?」

こくり、とクォーツが無言で頷き返す。

無口な年上のこの青年と喋った回数は両手で足りるほど、声だって覚えていないが、オーギュストはこの青年をつきあいづらい相手だと思っていない。ちゃんと話を聞いて答えてくれるいい人だと思っている。

「じゃあ俺と一緒に行きませんか。俺もみんなに朝ご飯、配ろうと思って」

「……。お前が、作ったのか?」

「あ、はい。パンに野菜と肉とチーズ挟んだだけですけど」

「……気が利く。えらいな」

ほめられて、くすぐったくなった。

「養護院にいたとき、大人数の食事を用意するなんてしょっちゅうだったから、これでも慣れてます。元の素材がいいから、味もいいと思いますよ」

「……助かる。リュックは何も食べていない」

「じゃあもうちょっと消化にいいものにすればよかったかな……でもキースさん、まだ目を覚まさないんですね。アイザックも」

リュックがかかりきりになっているのはそのふたりだ。こくりとまたクォーツが頷いた。

「……従者のほうは、まだ油断できない……」

「そっかあ……」

「そっちは……どうだ。将軍と、神の娘」

「あー……」

言葉を濁しながら、配膳台を押した。クォーツは黙ってついてきてくれる。

「神の娘のほうは目をさまさないです。ぜんぜん、怪我はないんですけど」

「……精神的ショックだろうからな。だが目を覚まさなければ、衰弱死する……」

「セレナが力をわけてるみたいで、少しは大丈夫って話でしたけど。将軍のほうは、動けないけどちゃんと意識もはっきりしてるし。神の娘を心配してる……」

「……。どうした?」

「……。あの。聞かなかったことにしてもらっていいっすか」

さいわい、廊下はひっそりとしていて誰もいない。クォーツはぱちりと一度まばたいたあと、頷いてくれた。

それを見届けて、オーギュストはだんと配膳台の、何もないところに拳を振り下ろす。

「なんっでセレナがあのふたりの面倒みてるんだよ!? 神の娘はいいよ、でもあの将軍! 助ける理由ないよな!?」

「……。だが……けが人な、わけで。助け合いは、大事」

「わかってますけど! 俺は納得いかないししない!」

オーギュストの知らないところで、アイザックを含めたあの四人には互いに何かあったのだのだろう。でなければ協力などしなかったはずだ。それはわかるし、さすがにあんなぼろぼろになった男を殴ろうとは思わなかったが、見えないところで怒る程度は許して欲しい。

セレナがあの男に何をされたのか、オーギュストは忘れていないのだ。

「わかってるけど、セレナが気にしてるのは神の娘のほうで、神の娘が気にしてるから将軍を気にかけてやってるだけっていうのは! 見ててわかるけど!」

「……。そうか」

「あーやだほんと、こういうの苦手だ……」

許せないことを、増やしたくない。そういうのはだめだと思う。

それはいつか他人を攻撃する理由になり、いずれ自分に跳ね返ってくるものだ。

それに被害者はセレナだ。オーギュストがアレスに怒る筋合いはない。そういう線引きができない男をセレナが嫌うことも、いい加減学んだ。

「お前は、いい奴だと思う」

とぼとぼと配膳台を押して歩いていると、そんな声がうしろからかかった。

足を止めて振り返ると、生真面目な顔でクォーツが続ける。

「苦手でも、腹を立てていても、見捨てない」

「そりゃ……それは全然、違う話だし」

「アイリーンも、お前はいい男になると言っていた。自分がまっすぐなことに、自信を持てばいい。……と、思う」

それきり、クォーツは黙ってまた歩き出した。ぽかんとしたあとにオーギュストは小さく笑う。

少し、励まされた。

(そうだよ俺、ゼームスにこれ以上失態演じたら左遷だって脅されてるんだし)

しっかりしなければならない。ただでさえセレナは容赦がない。もし自分が左遷の危機にさらされていると知ったら、つかみかけた希望が砕け散るだろう。

クォーツと一緒にまず目の下に隈を作ったリュックに食事をわたし、どうせだからとクォーツから薬を預かって、セレナとサーラとアレスが陣取っている部屋へと向かう。一応、全員が監視対象なので、部屋にはゼームスの魔法と鍵がかかっている。その鍵を預かっているのは自分だ。

セレナは嫌みを言うけれど、これはアイリーンからの信頼の証なのだ。

それはきっとセレナが望む出世と、表裏一体のものなのだろう。

「ごめん、戻るの遅くなった」

「ほんとに遅い! あんたと交替しないと、私が眠れないじゃないの、もう」

「あ、おい。食べなくて平気か?」

「起きたら食べるわよ」

それに、ちゃんと気づいているのだ。

目を覚まさないサーラを心配するアレスの目に嘘はないことも、気を張り詰めているセレナが自分が部屋にいないと安心して眠れないことにも。

(しっかりしろ、俺)

聖騎士になんて興味はない。ないけれど、そう呼ばれても遜色ない男になるのだ。