軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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大理石で作られた廊下はどこもかしこも白く、ひっそりとしている。

耳をすますようにして魔力探知をしていたエレファスは、ゆっくりと目をあけた。

「大丈夫です。このあたりは兵の配置も罠もありません」

「みんな古城に出払ってるんですかね? 大丈夫かなあ、魔物のみんな……」

「心配しなくていい、ドニ。王は強いぞ!」

うしろを振り返ったドニにベルゼビュートが力強く断言する。さらにそのうしろからジャスパーがつぶやく。

「強すぎるのが問題になってるんだけどなあ」

「アイリーン様、ご無事だといいのですが……」

「それも心配しなくていい。あの女は殺しても死なん」

さすがにレイチェルは笑って返答をごまかしていた。どうにも気の抜ける会話に、エレファスは肩をすくめる。

だがふと目に入った肖像画に、目を細めた。ずたずたに顔を引き裂かれた肖像画から感じるねじくれた悪意に気が引き締まる。ゆっくりと振り返った。

「おしゃべりはそこまでで。ここはハウゼル女王国です。戦いの最中だからか、幸いにも俺の魔力も使えますし、ベルゼビュートさんも戦力になります。今のうちに――」

そこまでで、そっと目をそらした。笑ってはいけない。

だがそう思えばそう思うほど、頬がひきつっていく。

「手分けして、ハウゼル、女王国の、内部をさぐって、有益な情報を」

「じゃーオバサンは頑張って首都の話を聞いてくるわねん!」

「アタシもがんばるぅ!」

口紅をひいたジャスパーが片目でウィンクをし、大きなリボンをつけたドニがガッツポーズをとった時点でもうだめだった。

「わ、笑わさないで、くださ、あ、こっち見てポーズとるのやめてください、笑ってる場合じゃないんですって!」

「なぜ笑う。女の格好をしろと言ったのはお前じゃないか」

ドニとおそろいのリボンで長い髪を高い位置でひとつにくくり、両腕を組んだベルゼビュートが一番の美女だ。魔物の美しさに、一瞬真顔になった。

「似合いますね」

「そうだろう!」

なぜか自慢された。ははっとジャスパーが笑う。

「あの半魔さんも似合うだろうな、こりゃ。誘ったらよかったんじゃないか?」

「それを言うなら魔王様ですよ! 絶対傾国の美女になっただろうなあ見てみたいなあ」

「皆さんノリよすぎませんか。もう少し嫌がるかと思ってました」

苦笑いまじりに言うと、ジャスパーが豪快に笑った。

「アイザック坊ちゃんとかリュックあたりだったら、そりゃ嫌がるだろうけどな。でも女装程度でひるんでたらアイリーンお嬢様についてけねえって」

「あ、あのエレファスさん。リボンが」

三つ編みでまとめたリボンがくずれているのをレイチェルに指摘され、エレファスはああと自分で直す。

その手つきを見て、ドニが目を丸くした。

「わー器用ですね。エレファスさんも十分美人さんですよ!」

「ああ、慣れてますので」

皆に化粧や衣装を用意したレイチェルが小首をかしげる。

悪い大人の笑顔で、エレファスは少女に諭した。

「世の中には色んな嗜好の方がいらっしゃるんですよ」

「嗜好?」

「あっレイチェルちゃんこれ聞いちゃ駄目なやつだやめとこう! な!」

「エレファス! 皆、砦ニ逃ゲタ!」

ひょっこりと鏡台の鏡からアーモンドが顔を出した。祭場とつながっている鏡だ。アイリーンが聖剣の力を借りて力業でつなげた空間だが、神具なので魔物も問題なく通れる。

「地下迷宮、迷いませんでした?」

「シュガー、地図、持ッテル! オレ様ハ、潜入!」

砦を襲ったのは戦場になる古城から砦へと皆を逃がすためだ。

襲撃を受ければアイザックが砦を放棄するのは目に見えていたので、逆にそこを中心に魔物達を固めることにした。魔王様の結界からははずれてしまうが、砦の襲撃時にエレファスが砦自体に目くらましと人払いの魔法をかけておいたので、少しの間は隠れ家にできるだろう。

(ゼームス様かルシェル様が正気なら、いずれ気づいてくれる)

エレファス達が侵入したのと同じように鏡を通ったアーモンドに、レイチェルが話しかける。

「キース様はご無事ですか?」

「砦、運ンダ! 治療中! 静カニ!」

「大丈夫だ、王の片腕だぞ」

純真な魔物の方が精神的に強い。

アーモンドからなぜか武器としてフライパンを受け取ったレイチェルが、不安げにこちらを見た。

「あの、私も一緒でいいんでしょうか……?」

「ああ、それはもう頼りにしてます。アイザック様を脅す――いえ、策のひとつですから」

「今、脅すっつったよなオジサン聞いたぞ」

「俺が思うアイザック様の性格が正しいなら、アイザック様は今後、戦線離脱しようとすると思うんですよね」

驚いたようにレイチェルが目を丸くする。なんとなく、微笑ましくなってしまった。

「だってそういうところ、真面目そうじゃないですか。俺みたいに裏切って裏切ってけろっとしてられるタイプじゃないでしょう、彼」

「……ああ。アイザック坊ちゃん、確かに……」

「それに俺の読みではクロード様は七割方の確率でいなくなりますからね。アイリーン様にあわせる顔がないはずです」

「王が負けるとでも言うのか!?」

「魔王様、勝ツ!」

憤慨したのはもちろんベルゼビュートとアーモンドだ。それをジャスパーが制した。

「いやだから、勝っちゃだめなんだろ」

「そうです、落ち着いて。封印かどんな形になるかわかりませんが、アイザック様は生きたままクロード様を止めようとしてます。魔物になったクロード様をもとに戻す術がない以上、時間稼ぎしかできませんからね。でもそれはアイリーン様の本意ではないはずだ」

「――でも、それが最善だと、アイザックさんは決めたんですね」

レイチェルのつぶやきに、エレファスは頷き返した。

「アイリーン様は何をしでかすかわかりませんし、クロード様はもっと何をしでかすかわからないので、ぶっちゃけもっと最悪な結果になる可能性もありますが――とにかく、こちらに必要なのは情報です。俺達が後手にまわっているのは全部、そのせいなんですから」

「ダカラ、潜入」

真顔で言うアーモンドになごみそうになるのをこらえて、大真面目に頷いた。

「あくまで魔道士の俺の見解ですが、今回、クロード様が魔物になった……いえ、させられたのは過去からの因果があるはずです。それがなんなのかさえ、俺達はわかっていない。俺は意外とアイリーン様が言っていた対策をとるのが、一番いいんじゃないかと思ってまして」

「対策……ですか」

「魔王の本体の怒りをとく」

それがすべての始まりだ。

「そもそもおかしいんですよ。魔王が我を忘れてまで未来に賭けたことが、叶えられていないっていうのが、ありえない」

「ごめん、オジサンよくわかんない」

ジャスパーの言葉に、エレファスは説明をかみ砕く。

「魔力や聖なる力だって最終的には意思の力がものを言います。魔王が叶えるのだと我を失ってまで願えば、それはもう魔法の域に達します。だから、誰だか知りませんが本体が願った運命の相手は必ずいるはずなんです。なのにいないとしたら、これはおかしい」

「……誰かが、邪魔してるとかかなあ?」

「順当に考えればそうです。俺はそこらへんにハウゼル女王国がかかわってると見てます。あの女王候補生、絶対ただ者じゃないですよ」

「まあなあ。でも、魔王の本体の怒りをとくって、運命の相手がどうのこうのっていう願いを叶えてやるってことだろ? それはまずくないか」

「クロード様がアイリーン様以外と結ばれる、ということですからね……」

レイチェルの不安はもっともだが、エレファスはあえて言い切る。

「ですがそこから解き明かさないと始まらない。――おそらく、運命の相手とかいうのは、ルシェル様の奥様にかかわることです。せめて少しだけでも情報が欲しい」

「パパ様ノ奥様?」

「なんだ、グレイス様のことか?」

アーモンドを頭にのせたベルゼビュートの言葉に、奇妙な沈黙が落ちた。