作品タイトル不明
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古城を振り返った瞬間に、魔力が十字に光り輝いて、屹立と同時に爆発した。
波のように襲いくる爆風を正面からあびながら、アイリーンは古城を崖の上から見おろす。
何が起こったのかわからない。だが真っ先に動いたのは、ルシェルだった。
「……クロード。そんな、嘘だ。そんなの」
「お義父さま!?」
「許されるはずがない、そんな、自爆だなんて……!」
そのままふっと消えたルシェルは現場に向かったのだろう。
背後に立ったリリアが、ぽつりとつぶやいた。
「……まさか魔王様、本体ごと自爆しちゃった? あっ、待ってアイリーン様! 私も」
ここで議論しても埒があかない。リリアを置いて崖から飛び降りようと立ちあがった。
だが、上から落ちてきた影に足を止めて、うしろに飛んでさがる。爆風と一緒に崖先が切り取られて落ちていく。
舞い上がった土埃から現れたのは――女だ。
花嫁衣装に、からだに穴をあけて、まだ動いている。
ありえないという驚愕と恐怖で、誰もが動けなくなったその一瞬に、女が叫ぶ。
「――みぎ、てを、カエセエえぇぇぇ!」
アイリーンとリリアの横を疾風のようにかけぬけた女が、クロードに転移させられた全員の間をかいくぐり、一番奥にいたサーラの腹めがけて手を突き入れた。
サーラの絶叫に、女の狂乱的な叫びが覆い被さる。
「よくも、よくも……ッそんなに私が嫌か! 私なのに、正しい運命は私なのに、自爆してまで拒むなんて、はは、あははははは、そうこなくっちゃあ!」
「あ……あ……」
「自爆した程度で逃がすもんか、ごまかされると思うなよわかってんだよ、まだ生きてんだろそれで出会っちまうんだろう? それで私から逃げられると思うなよ、もう少しなんだもう少しなんだ! ふざけんなよほぉら見つけたぁ」
馬乗りになって神の娘の腹をまさぐり、女がにたりと笑う。血は出ない。聖なる力を膜にして、サーラの体に封印されている右手をさがしているからだ。
だが、はらわたを引き裂くに等しい異様な光景だ。
誰もが凍りつく中、サーラが、腹から引き抜かれようとする女の手をつかんだ。
「だ、め。これは」
「あァ?」
「あなたに、わたさ、ない」
ぼろりと、サーラの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。
「アレスが、がんばった、から」
はっと女が汚れた口紅で笑い、その手を一気に引き抜いた。
ぶちぶちぶちと、まるで血管が切れるような音が響く。
「何だ悲劇のヒロイン気取りかよ、他人に利用されるしか能のねぇ神の娘のくせによお!」
「サーラ!」
真っ先に動いたのはセレナだ。その首を狙う短剣を嘲笑と一緒にさけ、取り戻した右手をはめ直した女の体が元に戻っていく。
そして気絶したサーラを抱き起こしたセレナに向けて、右の手の平から顕現させた神剣を振りかぶる。
「うせろ、ゴミ共が」
オーギュストがセレナごと抱きこんでかばう。その前にアイリーンはわりこんだ。聖剣がないだなんて考えなかった。
(クロード様が、守ってくださったんだから)
だからここにいる全員、アイリーンが守らなければならないのだ。たとえクロードがどうなっていようとも、それが妻のアイリーンの役目だ。
ああでも、もしあなたがいなかったら、どうやって生きていけばいい。
そんな一瞬の脅えを、綺麗な澄んだ音が弾き飛ばした。
「まったく、アイリーン様ったら。聖剣もなしでどうするつもりなの」
アイリーンよりさらに前に出て、女を神剣ごと吹き飛ばしたリリアが、すぐさまくるりと背を向ける。
「あなたもね、ちょっと調子にのりすぎだと思うの」
「……お前は……」
「人が大事に大事に育ててきたキャラをゴミ呼ばわりとか、失礼じゃない?」
明るい口調で、女の前に立ちふさがったリリアが、ゆっくりと右腕を前に出した。
そして手の平を、空に向ける。
瞬間、聖なる力が立ち上った。その光を見て、アイリーンは舌打ちする。
「あなた、やっぱり……!」
「ええっと。こういうときはー、ここは私が食い止める! 私を置いて逃げるんだ! って言えばいいのかしら」
「リリア! 何を言い出すんだ」
立ちあがったセドリックにリリアが一瞬だけ目を向けた。だがすぐさま女に目を戻して、手の平の上に浮いた剣の柄を取る。
「聖剣……ですか。まだ持っていたと?」
「あら、さっきのキャラはもう終わりなの? だめよーキャラ造形はちゃんとしなきゃ」
「なんのことでしょう? 私は」
「会えて光栄だわ、ハウゼル女王陛下アメリア・ダルク様」
聖剣の切っ先を女に突きつけて、リリアがにいと笑った。