軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

39

古城を振り返った瞬間に、魔力が十字に光り輝いて、屹立と同時に爆発した。

波のように襲いくる爆風を正面からあびながら、アイリーンは古城を崖の上から見おろす。

何が起こったのかわからない。だが真っ先に動いたのは、ルシェルだった。

「……クロード。そんな、嘘だ。そんなの」

「お義父さま!?」

「許されるはずがない、そんな、自爆だなんて……!」

そのままふっと消えたルシェルは現場に向かったのだろう。

背後に立ったリリアが、ぽつりとつぶやいた。

「……まさか魔王様、本体ごと自爆しちゃった? あっ、待ってアイリーン様! 私も」

ここで議論しても埒があかない。リリアを置いて崖から飛び降りようと立ちあがった。

だが、上から落ちてきた影に足を止めて、うしろに飛んでさがる。爆風と一緒に崖先が切り取られて落ちていく。

舞い上がった土埃から現れたのは――女だ。

花嫁衣装に、からだに穴をあけて、まだ動いている。

ありえないという驚愕と恐怖で、誰もが動けなくなったその一瞬に、女が叫ぶ。

「――みぎ、てを、カエセエえぇぇぇ!」

アイリーンとリリアの横を疾風のようにかけぬけた女が、クロードに転移させられた全員の間をかいくぐり、一番奥にいたサーラの腹めがけて手を突き入れた。

サーラの絶叫に、女の狂乱的な叫びが覆い被さる。

「よくも、よくも……ッそんなに私が嫌か! 私なのに、正しい運命は私なのに、自爆してまで拒むなんて、はは、あははははは、そうこなくっちゃあ!」

「あ……あ……」

「自爆した程度で逃がすもんか、ごまかされると思うなよわかってんだよ、まだ生きてんだろそれで出会っちまうんだろう? それで私から逃げられると思うなよ、もう少しなんだもう少しなんだ! ふざけんなよほぉら見つけたぁ」

馬乗りになって神の娘の腹をまさぐり、女がにたりと笑う。血は出ない。聖なる力を膜にして、サーラの体に封印されている右手をさがしているからだ。

だが、はらわたを引き裂くに等しい異様な光景だ。

誰もが凍りつく中、サーラが、腹から引き抜かれようとする女の手をつかんだ。

「だ、め。これは」

「あァ?」

「あなたに、わたさ、ない」

ぼろりと、サーラの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。

「アレスが、がんばった、から」

はっと女が汚れた口紅で笑い、その手を一気に引き抜いた。

ぶちぶちぶちと、まるで血管が切れるような音が響く。

「何だ悲劇のヒロイン気取りかよ、他人に利用されるしか能のねぇ神の娘のくせによお!」

「サーラ!」

真っ先に動いたのはセレナだ。その首を狙う短剣を嘲笑と一緒にさけ、取り戻した右手をはめ直した女の体が元に戻っていく。

そして気絶したサーラを抱き起こしたセレナに向けて、右の手の平から顕現させた神剣を振りかぶる。

「うせろ、ゴミ共が」

オーギュストがセレナごと抱きこんでかばう。その前にアイリーンはわりこんだ。聖剣がないだなんて考えなかった。

(クロード様が、守ってくださったんだから)

だからここにいる全員、アイリーンが守らなければならないのだ。たとえクロードがどうなっていようとも、それが妻のアイリーンの役目だ。

ああでも、もしあなたがいなかったら、どうやって生きていけばいい。

そんな一瞬の脅えを、綺麗な澄んだ音が弾き飛ばした。

「まったく、アイリーン様ったら。聖剣もなしでどうするつもりなの」

アイリーンよりさらに前に出て、女を神剣ごと吹き飛ばしたリリアが、すぐさまくるりと背を向ける。

「あなたもね、ちょっと調子にのりすぎだと思うの」

「……お前は……」

「人が大事に大事に育ててきたキャラをゴミ呼ばわりとか、失礼じゃない?」

明るい口調で、女の前に立ちふさがったリリアが、ゆっくりと右腕を前に出した。

そして手の平を、空に向ける。

瞬間、聖なる力が立ち上った。その光を見て、アイリーンは舌打ちする。

「あなた、やっぱり……!」

「ええっと。こういうときはー、ここは私が食い止める! 私を置いて逃げるんだ! って言えばいいのかしら」

「リリア! 何を言い出すんだ」

立ちあがったセドリックにリリアが一瞬だけ目を向けた。だがすぐさま女に目を戻して、手の平の上に浮いた剣の柄を取る。

「聖剣……ですか。まだ持っていたと?」

「あら、さっきのキャラはもう終わりなの? だめよーキャラ造形はちゃんとしなきゃ」

「なんのことでしょう? 私は」

「会えて光栄だわ、ハウゼル女王陛下アメリア・ダルク様」

聖剣の切っ先を女に突きつけて、リリアがにいと笑った。