軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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皇城で一番高い時計塔の屋根の上で、リリアはぷらぷらと足を揺らして眼下を見ていた。

邪魔をしないことを条件にセレナに力をわけてもらったので――血を舐めるのは断固拒否されたので「じゃあ今すぐ自分でできるようになって、でなきゃキスしちゃうからさんはい!」と声をかけたらほんのわずかだが手の平から力を貸してもらえた、やればできる子だ――今は距離の短い転移や遠視くらいはできる。

「あーでも二画面同時とか欲しい! おいしいところ見逃してたらどうするのよお」

とりあえず魔王様を見ておけばいいのはわかっているが、さてどうしたものか。

(キース・エイグリッドの死が魔王様の魔物化フラグだものね。それと真実の鏡で4のラスボスの姿を見せて、大昔の魔王様にしたわけか。うーん、力業で4の女王ルートエンディングの状態にした……というわりには、魔王様、魔物になっちゃったけど。どうする気かしら?)

1で倒され、1のFDで記憶を失って人間になったクロードがルシェルの記憶を取り戻した。この世界が4の女王ルートエンディングを迎えようとしているのならば、そういう意味で今のクロードは本来の運命にのったと解釈できる。それで女王として執政を続ける4のヒロイン・アメリアを迎えに行くはずだが、魔物になっては天国へのお迎えになるだろう。

あの女の目的はなんだろう。

女の正体はおおよその検討はついているし、あの女の理屈でいえばリリア・レインワーズは本来聖剣の乙女になってしかるべき人物だ。セレナに問いただしたところ、リリアを誘拐しようとしたのはアイリーンを誘拐する手段に使っただけで、指示を受けたわけではないと答えた。

(でも私に接触してこないっていうのはないでしょ。だって――)

「リリア・レインワーズ様」

――きた。

ふっと笑いを浮かべてから、リリアはにこりと振り返る。

「あら、グレイス・ダルク様?」

花嫁衣装を血で汚した女がそこに浮いていた。

そういえばあの従者、本当に死んだのだろうか。念のためのフラグとして、およそ死ぬ理由もなく殺された気がするが。

(まだ使い勝手のありそうなキャラだったのに、もったいない。どうせなら魔王が殺す本来の流れをなぞって欲しかったわ、雑よ雑。嫌よねえ、こういう雑展開。生きてても雑よ)

ひそかに内心で文句を言っていると、ヴェールの下から見える赤い唇が動く。

「クロード皇太子殿下が魔王に変わってしまわれました」

「そんな、お義兄さまが!? 大変だわ……どうしたらいいかしら」

「魔王を倒すため、聖剣を復活させることはできないでしょうか?」

「そんなことできるわけないじゃないですか!」

驚いた顔でそう答えたあとで、こんな場所で平然と観察している自分を棚に上げて答える。

「それに、私がいなくても大丈夫です。アイリーンお義姉さまがいるんだもの! きっと愛の力でクロードお義兄さまを人間に戻してくれるわ!」

手を握り合わせてきらきらとそう告げると、女は笑ったようだった。

「そうですか。では、早く退避されることをおすすめします。危ないですよ」

「ありがとう。グレイスお義姉さまって優しいのね」

「お義姉さま?」

「あら、ごめんなさい。結局クロードお義兄さまとは結婚できなかったのよね」

「運命の巡り合わせがあればまた、そういうこともあるでしょう」

諦めていないととるには、淡泊な返事だった。そのままふっと消えてしまう。

この世界で聖なる力を持っていて、転移だとか平気でできそうなのは聖王様くらいのものだろうに、設定がおかしい。セレナもサーラも、アイリーンや自分だって、過去の聖剣の乙女だってできなかっただろうに。

「リリア! こ、こんなところに……!」

「あらセドリック、マークス」

見つかってしまったらしい。時計塔の最上階まで駆け上がってけろっとしているマークスのうしろから、肩で息をしたセドリックが怒りの形相でふらふらやってくる。

「俺から、離れるなと、いつも、言って……!」

「セドリック、今は避難のほうが先だ。リリア、急いで俺達ときてくれ。不安がらせるつもりはないが、お前が狙われている可能性がある――その、ハウゼル女王国に」

「私が? どうして」

「レスターが、神剣で権威を示したいハウゼル女王国にとって、聖剣が邪魔なのではとずっと疑っていた。この騒ぎでお前を引きずり出し、一緒に始末しようとしていると」

「私を? どうやって」

「神剣だ。何百と用意されているのは裏がとれていた。魔王を倒すそのどさくさにまぎれて君を狙う可能性が高い」

なるほどと感心した。

そう考えれば、さきほど聖剣で魔王と戦わないのかと声をかけてきた理由はわかるし、実際聖剣を持っているアイリーンのほうを狙ったのも説明がいく。自分とアイリーンが魔王を斃すため聖剣を使わないのであれば、神剣を持ち出すしかない。それを使う大義名分も、『魔王が魔物になった』だけで用意されている。

むしろ責められるべきは、魔王を斃さない自分やアイリーンのほうだ。

「君にはおとなしくしていて欲しい、リリア」

「でも、だったら魔王様はどうするの? 殺しちゃうの? アイリーン様まかせ? でもアイリーン様も狙われてるわよね。それも黙って見てろってこと?」

別に自分で助ける気もないが意地悪くそう尋ねると、マークスは視線をさげた。

「……詳細は言えないが、策は立てた。あとは成功を祈るしかない」

(詳細は言えないって、何かしかけてるってこと? この展開に。まさか……魔王様が魔物になることもわかっていたってわけ?)

正直、驚いた。キャラがそんな答えを自分で出して、行動していることに。

「わかったわ。もうはぐれないよう、セドリックとマークスのそばにいるわね」

ご褒美だ。このふたりにしばらくついて行動してみようと、リリアは向き直る。マークスは難しい顔で、頷いた。

「……そうしてくれ。おいセドリック、行くぞ。俺達はリリアを守るのが役目だ」

「わ、わかって」

咆吼が、セドリックの返事を遮り、地面を揺らした。魔王の叫びだ。

「――兄上」

何かを飲みこむようなセドリックのつぶやきに、目を向けた。

続編のヒーロー達と比較すると、セドリックは本当にただの『王子様』だ。戦う力も持たず、リリア・レインワーズを聖剣の乙女にするだけの存在。

「セドリック。お義兄さまが心配?」

「いや。……大丈夫だ、きっと。アイリーンがいる」

ふうん、と内心で答えて、リリアはもはや魔物になった憐れなキャラを見る。

ほんの少しだけ、妬けた。