軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24

「……どうして、こんな。まさか女王が自分で?」

そうでなければ、このまま放置されているはずがない。たった今、賊が入ったということもないだろう。

肖像画以外は、綺麗なものだ。寝台のシーツは整っているし、テーブルの上も綺麗に磨かれて、大きな鏡台の鏡もくもりひとつなく、アイリーンの姿を写し――。

「え!?」

一瞬、黒髪の女性が重なって見えた気がして、アイリーンは驚く。

だがまばたいた瞬間に、その姿は消えていた。

(4の悪役令嬢――グレイス・ダルクにそっくりだったような……ま、まさか幽霊とかじゃないわよね?)

おそるおそる、鏡台に近づいてみると、ルシェルがうしろから声をかけた。

「なんか見えた?」

「なんっ!? なんかって、なんですの!?」

「それ、ただの鏡じゃないよ。ハウゼルが男や魔物の姿を見破るために使ってる鏡。本人のそのままの姿、あるべき姿を暴き出すってやつ。真実の鏡っていうんだけど」

「真実の鏡!? これが!?」

ゲームでも出てきた。

確か魔王ではないかとあやしまれたルシェルが、この鏡の前に引きずり出されるイベントがあったりしたはずである。

「間違いないと思うよ。僕は僕の姿が見えないから、わかんないけど」

「わ、わたくしにはルシェル様の姿が見えますが……ちゃんと、人間の」

「じゃあ、まだ起動してないのかな。でも、これを信じずに女装してハウゼルに入ろうとした男はそりゃあもうひどい目にあうんだよ。で、何か見えたの?」

「い、いいえ。見間違いですわ、きっと、そう見間違い――」

そっと指先が触れた瞬間、鏡面が輝きだした。ぎょっとあとずさったが光はすぐやんで、鏡がここではないどこかを映し出す。

「な、なに、なんですの!?」

「なんか起動させちゃったんじゃないの?」

そんなと思いながら鏡の中を見て、アイリーンは瞠目した。

見覚えがある。

見覚えどころか、記憶に新しいくらいだ。

聖剣の乙女が建国を宣言し聖剣を掲げた場所、かつてクロードが皇位継承権を差し出し、そして皇太子に帰り咲いた場所。

支柱で囲まれた、白亜の祭壇。エルメイア皇国の祭場。

大理石の床に天鵞絨の絨毯がしかれ、道になっている。

その上を黒いマントを羽織った夫が純白のドレスで身を包んだ黒髪の女性と腕を組み、祭壇へと向けてしずしずと歩いていく。

「!? な、な、ななな……クロード様……と、グレイス・ダルク?」

背中しか見えないが、見間違いではない。

思わずアイリーンは鏡台にしがみついた。そうすると声が聞こえた。

『こんなに早く第二妃を迎えられるなんて……』

『ハウゼル女王国の次期女王だ。相手に不足はあるまい』

『女王試験のために金が積まれたとか』

『しかしいきなりの挙式ですな。明日の生誕日に一緒にバルコニーに立つためとはいえ、準備が一週間もない結婚式とは』

「結婚式!?」

叫んだアイリーンの声は届いていないらしい。アイリーンの声にルシェルも鏡をのぞきこむ。

「えっクロード? 何してるの、これ」

「ル、ルシェル様……あの、ルシェル様とアシュメイルで話したのは今日ですわよね?」

落ち着こうと、ひとつずつ確認しようとした。が、ルシェルは首を傾げる。

「え? いや、もっと前でしょ。おとついくらいじゃない?」

「なっ……まさか、あの水晶、時間の流れが違っ……ちょ、待って、ならわたくしは」

誘拐された――とかいうことになっているのではないか。

めまぐるしく思考が動き出す。

(さ、さらわれたのは建国祭の前よね。それで明日が建国祭の最終日の生誕日? ということは、三日以上行方不明になっていた? なら当然、犯人から要求がいって……)

ここにアイリーンがいる以上、セレナを味方に引き入れ誘拐しようとしたのはハウゼル女王国の誰かだ。たくらんでいるのが国まるごとか犯人個人なのかはこの際置いておく。

とにかく、皇太子妃をさらったのだ。犯人は要求したのだろう、クロードに。

たとえば、グレイス・ダルクと結婚しろとか。

「あのさ、これってひょっとして、結婚式……じゃ……」

鏡の中を見ていたルシェルが、こちらを見ながら声をすぼませた。

「そう……ですわね、きっと。やられましたわ……ふふ、そうですわよね。わたくしが無事かどうか、ここではクロード様もわからない。そのうえ、丸三日……それは、もう、そうなりますわよね……?」

「だ、誰がこんなこと」

「そんなことどうでもよろしいわ!」

順当に考えれば、女王試験突破という恩恵を受けるグレイス・ダルクが一番あやしい。だがその裏に誰かいる可能性もあるし、そのあたりは考え出したらきりがない。

問題は、アイリーンの知らないところで、アイリーンが認めていない女が、アイリーンの夫と腕を組んで、結婚式らしきものを挙げようとしていることだ。

『皇太子妃は気落ちしてふせっておられるとか……』

いつ、誰が、どこで、気落ちしてふせっているのか。

完全に据わった目で、アイリーンは拳を振り上げる。そこからまっすぐ伸びるのは聖剣。

脅えた顔のルシェルが逃げ腰になる。

「えっえっ。それ、どうするの?」

「こうするに決まってるでしょう!」

ありったけの力をこめてそれをふりおろす。

ばきんと音を立てて、鏡にひびが入った。