軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第141話 微かな波紋

『城砦の射手』の隊長ロベルトは、『竜の熾火』へと進む道中で『精霊の工廠』のパンフレットを見ながら考えごとをしていた。

「どうしたロベルト? そんなパンフレット熱心に見て。何か面白いことでも書いてあるのか?」

副官のジェレミーが聞いた。

「……」

「おい。まさかその『精霊の工廠』とやらと契約を結ぶつもりじゃないだろうな?」

「まさか。ただ、このパンフレット。結構使えるかもよ」

ロベルトは不敵な笑みを浮かべる。

「なに? どういうことだ?」

「『竜の熾火』との交渉材料に使うのさ」

「交渉材料? このパンフレットをか?」

「そう。だいたい俺は以前から気に入らなかったんだよね。錬金術ギルドにダンジョン探索の主導権を握られるの」

ロベルトはパンフレットをパシパシ叩きながら言った。

「毎回、頼んでもいないのに、やれこの武器を買えだ、鉱石が値上がりしただ、向こうの都合に振り回されてばかりだ。たまったもんじゃない」

「……」

「これだけのステータスの装備、『竜の熾火』でも作れやしない。奴らにこれを突き付けて、『精霊の工廠』で装備を 拵(こしら) えた方が安上がりで済む。そう言えばどうなる?」

「さしもの『竜の熾火』も値下げせざるを得ないというわけか」

「そういうこと」

「しかし、このパンフレットに記載されているステータス、本当なのか? あまりにも胡散臭いぞ」

「俺もこれを信じてるわけじゃない。だいたいこういうのは盛って記載されていると相場が決まってる。だが、世界有数の錬金術ギルドとして名高い『竜の熾火』がこんな詐欺ギルドに客を取られたとあってはどうだ? 島一番の錬金術ギルドの名折れだろう?」

「なるほど。騙されたフリをするのか」

「そういうこと。フリだけならタダでできるんだし。やる価値はあるんじゃない?」

「よし。いっちょやってみるか」

ロベルトとジェレミーは、『竜の熾火』の営業担当の前で彼らの出してきた予算に仰々しく驚いてみせた上、「『精霊の工廠』の方が安いな」「たまには別のギルドで契約してみるか」とわざとらしく会話してみせた。

2人の狙い通り、『竜の熾火』の担当者は慌てて値下げを切り出すのであった。

「バカもん! 何をしとるか!」

メデスは営業担当の持ってきた契約書に激怒した。

「なに冒険者ギルドの口車に乗せられて、ホイホイ値下げしとるんじゃお前らは」

「し、しかし、彼らは値下げしなければ『精霊の工廠』と契約すると言っていて……」

「どうせカマをかけてきたに決まってるだろうが!」

「しかし、すでにこの条件で契約を結んでしまい……」

「結び直して来い」

「えっ?」

「契約を結び直して来いと言っているんだ。ほら、さっさと行かんかいっ」

営業担当者は慌てて『城砦の射手』の宿舎へと向かった。

ロベルトはブツクサ言いながらも契約の結び直しに応じる。

「一度結んだ契約を白紙にするなんて。お宅もアコギな真似をしますね」

こうして『城砦の射手』、『紅砂の奏者』、『黒壁の騎士』の3ギルドは、結局『竜の熾火』と契約を結ぶものの、『精霊の工廠』の出現は『竜の熾火』と外部ギルドの間に微かな波紋を呼び起こすのであった。

月が新しくなるのを宿舎で過ごしながら待った。

そうこうしているうちに、『魔法樹の守人』とランジュ達の帰る時期となる。

『魔法樹の守人』のメンバーと『精霊の工廠』本部のメンバーは港に乗り込む準備をしていた。

『精霊の工廠』支部のメンバーも、『精霊同盟』の中核メンバーも、彼らの出港を見送った。

アイナとランジュは互いに惜別の言葉を述べていた。

「アイナ。短い間だったが、俺の教えられることは全部教えることができた。君なら新 工房(アトリエ) も切り盛りしてロランさんの力になれるはずだ」

「ランジュさん。本当にありがとうございました。教わったことは決して忘れません。きっといつか私達も『冒険者の街』を訪れます」

ロランはユフィネ達に書簡を渡していた。

「これはリリィに。こっちはモニカ。それでこれがジル宛だ」

「いよいよジルさんがこの島に来るんですね」

「ああ。『精霊同盟』が成長したことで、下準備は全て整ったと言っていいだろう。あとはジルがやって来るのを待つだけだ。この手紙を届けるよう頼んだよ」

「はい。必ず届けてみせます」

やがて一行を乗せた船は港を出発した。

遠ざかっていく船と港には、互いに手を振り合う人々の姿がいつまでも見られた。

やがて船は地平線の彼方へと姿を消した。

(行っちゃった)

アイナは寂しげに海の彼方を眺める。

「さあ、みんないつまでも別れを惜しんでいる暇はないよ。僕達は来期のダンジョン探索に備えなきゃ」

ロランがそう言うと、人々は海から目を離して、再び火山の方へと目を向けるのであった。

「アイナ。新たに訪れた3ギルドへの営業はどうなってる?」

「それが……いずれのギルドも『竜の熾火』と契約を結ぶつもりのようです」

「そうか。ならば彼らには我々の装備の威力を見せつけるまでだ」

次の月になった。

『竜の熾火』で万全に整備と調達を済ませた『黒壁の騎士』、『紅砂の奏者』、『城砦の射手』はダンジョンの入り口広場に集結していた。

そしていつも通り、地元冒険者達がコバンザメのように外部冒険者達に付き従って……いなかった。

「ゼロ!? 1人も我々のギルドに参加しなかったというのか?」

サイモンが驚きの声を上げる。

「ええ。そうなんです」

リズも困り果てたように言った。

「では、地元の奴らは皆、『城砦の射手』と『紅砂の奏者』の下へ馳せ参じたというのか?」

「それが……どうも彼らは『精霊同盟』に参加するみたいでして」

「『精霊同盟』……、というとあの例の錬金術ギルドが盟主の?」

サイモンは当惑しながら言った。

「はい。どうも直近の『魔法樹の守人』と共同で行ったダンジョン探索が上手くいったため、強気になっているようです」

「しかし、『魔法樹の守人』はもう帰ったんだろう?」

「ええ。確かに彼らは港から船に乗って帰るのが確認されています」

「なのにまだその『精霊同盟』にかけるというのか?」

「はい」

サイモンは深いため息をついた。

(やれやれ。この島の連中ときたら。またこれか。外部ギルドの力を借りただけで少し上手くいけば調子に乗る)

「やむを得ん。一度目の探索は地元の協力なしでいくぞ」

地元冒険者の手を借りなければ、調達できる鉱石の数は限られてくる。

サイモンは一度目の探索で地元冒険者の心を掴むことにして、2度目3度目の探索にかけることにした。

「ジャンケンポン! あいこでしょっ。しょっ。しょっ。よし勝った」

「かぁーっ。やられたか」

「この負けは痛いなぁ」

3ギルドの代表者達は、ジャンケンでダンジョンに入る順番を決めていた。

サイモンは見事ジャンケンに勝利し、最初にダンジョンに入る権利を獲得していた。

(よし。1番初めにダンジョンに入る権利を手に入れたぞ。このダンジョンでは先行した方が圧倒的に有利だからな。他2つのギルドと盗賊から逃げ切って、鉱石を持ち帰り、『竜の熾火』及び地元ギルドの信望を一気に勝ち取るぞ)

こうして3ギルドは外部同士だけでダンジョンに入る順番を決め、それぞれ作戦を立てていった。

彼らの頭の中に『精霊同盟』の存在などカケラもない。

やがて準備を終えた3ギルドは、順番にダンジョンの中へと入っていく。

3ギルドの中で1番最後にダンジョンへと入った『紅砂の奏者』は、先行する2ギルドに追い付かんと先を急いでいた。

彼らはいつになく快調にダンジョンを進んでいた。

迫り来る鬼族や狼族をものともせず、瞬く間に『裾野の森』を抜け、『メタル・ライン』まで辿り着く。

「もう『メタル・ライン』に到達か。今回はかなり順調に進めてるな」

「 地元ギルド(足手まとい) の奴らがいないからな。探索が捗るぜ」

「とはいえ、それは先行する『黒壁の騎士』と『城砦の射手』も同じだ。明日はもっとペースを速めないとな」

「なに。『メタル・ライン』に入れば『 火竜(ファフニール) 』も出て来る。そうなれば『竜音』の使える我々の方が……。ん? なんだ?」

軽口を叩いていた『紅砂の奏者』の隊員は、後ろから大勢の足音が響いてきたのを聞いて、背後を振り返った。

見慣れぬ装備を身に付けた一隊が迫ってくる。

その装備には、もれなく金槌を持つ精霊の紋章が刻まれていた。

『精霊同盟』の先頭だった。

「なんだ? あいつらもうここまで来たのか?」

「地元ギルドにしてはやけに迅速だな」

「いや、それよりも……あいつら攻撃してこようとしてるぞ」

『精霊同盟』の先頭を担う 弓使い(アーチャー) は、すでに足を止めて弓に矢を番えていた。

「上等だ。向こうがその気ならこっちもやってやるぜ」

『紅砂の奏者』もすぐさま応戦する構えを見せた。

『紅砂の奏者』最大の強みは、『竜音』の使える吟遊詩人部隊だが、それを支援する 弓使い(アーチャー) 部隊もなかなかの 強者(つわもの) 揃いだった。

砂漠を旅する冒険者達に襲いかかる、獰猛な怪鳥族モンスターを何匹も仕留めてきた凄腕の 弓使い(アーチャー) 達である。

彼らはすぐに散開し、まばらに生える木や岩の影に隠れ、応戦し始める。

ところが、『紅砂の奏者』の 弓使い(アーチャー) 達は一方的にやられるばかりだった。

『精霊同盟』から飛んでくる矢は、百発百中で当たるのに、『紅砂の奏者』の放つ矢は一つも当たらない。

みるみるうちに『紅砂の奏者』の射撃部隊は討ち取られ、戦闘不能になってゆく。

白兵戦部隊も近接戦闘を挑まんとして接近するが、 俊敏(アジリティ) の高い『精霊同盟』の 弓使い(アーチャー) 達にあっさりといなされる。

やがて彼らは『精霊同盟』が万全の態勢で陣地を敷き待ち構えている場所まで誘い込まれた。

『精霊同盟』の白兵戦部隊は、てんでばらばらに突っ込んでくる『紅砂の奏者』に対して一糸乱れぬ突撃を繰り出して、瞬く間に撃破する。

「はっ? えっ? 強っ」

『紅砂の奏者』はその自慢の吟遊詩人部隊を活かす間もなく壊滅的なダメージを受け、『精霊同盟』に降伏した。