軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第142話 伝説の鑑定士

鎧袖一触(がいしゅういっしょく) で『紅砂の奏者』を下した『精霊同盟』は、その後もペースを落とすことなく山を駆け上がっていった。

やがて『城砦の射手』を補足し、戦いを仕掛ける。

山岳部の戦いに慣れている『城砦の射手』は、動じることなく高所の有利なポジションを取って応戦する構えを見せた。

すぐに戦いを始めるのは不利と判断したロラン達は、すぐに戦いを仕掛けることはせず、彼らの陣地をパスして先へと進み、高地に辿り着いたところで野営した(『城砦の射手』の指揮官ロベルトと副官ジェレミーは、自分達より低い位置を通り過ぎる『精霊同盟』を攻撃するかどうか迷ったが、この場では見逃すことにした)。

翌日、追いかけて来た『城砦の射手』を迎え撃つ。

射撃戦が始まった。

『城砦の射手』が 弓使い(アーチャー) の一隊を展開してくる中、ハンスは少し遠い目の場所から敵を狙っていた。

以前までなら射程外で決して届かなかった距離、しかし今ならいくらでも届く距離。

ハンスの放った矢が敵の 弓使い(アーチャー) の一人に当たると、敵の間で騒めきが起こった。

さらにもう一人に当てると騒めきは動揺に変わる。

まぐれ当たりだ。

こんな距離から矢を放って当たるはずがない。

『城砦の射手』の誰もがそう思った。

しかしその一方で、もしかしたら『精霊同盟』にはとんでもなく射程の長い 弓使い(アーチャー) がいるのかもしれない。

そのような2つの感情の狭間で揺れ動いているのは、彼らの進むか隠れるか迷っている足取りから明らかだった。

ハンスが三人目の 弓使い(アーチャー) を倒した時、『城砦の射手』はパニックに陥った。

彼らはハンスのいる場所までまだ射程外にも関わらず、闇雲に矢を射ちまくった。

『城砦の射手』の矢は、全て届くことなく直前でハンスの足元に落ちた。

(当たる気がしない。それに……外す気もしない!)

ハンスはこの日4本目の矢を放った。

矢はまっすぐ敵の 弓使い(アーチャー) に直撃する。

アリスとクレアはハンスの射撃を見て目を丸くした。

(凄い。こんな遠いところから百発百中で当てるなんて。これがAクラス 弓使い(アーチャー) ……)

「アリス、クレア」

「は、はい」

「矢を渡してくれ。おそらく僕が射るのが1番確率が高く、矢の節約にもなる」

「わ、分かったわ」

「クレアは『遠視』で敵の後衛の動きを警戒。アリスは『憎悪集中』で近づいてきた敵の撹乱を頼む」

クレアは、ハンスの勇姿を見て、目を潤ませる。

(ハンス。こんなに頼もしくなるなんて。ぷらぷらしてばっかりいたのが遠い昔のよう。お姉ちゃん嬉しい)

『城砦の射手』の副官ジェレミーは、必死で 弓使い(アーチャー) の部隊を前に進めようとしていた。

「何をしている。あいつ一人にやられっぱなしじゃないか。もっと近付いて射て。このままじゃ当たるものも当たらないだろ」

しかし、ジェレミー達はハンスを射程圏内に収めることすら一向にできない。

(バカな。『城砦の射手』最強の 弓使い(アーチャー) 部隊が手も足も出ないなんて。それもこの島の地元冒険者相手に……。何かの間違いだ。こんな、こんな……)

ジェレミーは敵からの殺気を感じてハッとする。

こちらを狙っている。

応戦するべく弓矢を構えた。

「何をしているんだ。ジェレミー。さっさと敵の 弓使い(アーチャー) を片付けないか」

見兼ねた隊長のロベルトが発破をかけにきた(彼は白兵戦部隊を率いて突撃のタイミングを図っていた)。

しかし、すぐに飛んできた矢に射られる。

「ぐ、あ……」

「ロベルト。くっ、このっ」

ジェレミーは矢を撃ち返すが、ハンスのいる場所からは大きく外れてしまう。

ハンスは悠々と下がっていく。

ジェレミーは愕然とした。

(あいつ、今、俺に狙いを定めていたはず、それを直前でロベルトに狙いを変えた? お前を今、狙ってたのは俺なんだぞ。なのに……)

それはすなわちハンスがジェレミーの『弓射撃』をまったく問題視していないこと。

さらに言えば、こうして向き合っていながらも、狙いを変える余裕があったことを意味する。

ハンスの一連の行動選択は、絶望的なまでの実力差を悟らせ、ジェレミーの戦意を喪失させるのに十分だった。

その後、両ギルドの白兵戦部隊が組み合って、陣形戦へと移行したが、ウィルの『爆風魔法』ですぐに制圧された。

『城砦の射手』も『精霊同盟』の前に膝を屈したのだ。

そのことは先行する『黒壁の騎士』にもすぐに伝わった。

「なに? 『城砦の射手』が『精霊同盟』にやられただと?」

サイモンは背後の警戒に当たっていたリズからの報告に耳を疑った。

「何かの間違いじゃないのか? 『城砦の射手』は強力な 弓使い(アーチャー) 部隊を擁するギルド。『火山のダンジョン』での戦闘経験も豊富だ。あの軟弱な地元冒険者供にやられるはずなど……」

「本当に『精霊同盟』にやられたんです。どの斥候からの報告も同じです。精霊の紋章をあしらった装備を持つ一隊に、『城砦の射手』が降伏しているって」

「いや、そんなはずは……。例えば地元ギルドの奴らが『紅砂の奏者』と組んでいるとか……」

「『精霊同盟』単独での行動ですってば。何度も確かめたから間違いありません」

リズは声に隠しきれない苛立ちを含ませながら言った。

何か自分達の理解の及ばない出来事が起こっている。

早く対処しなければ取り返しのつかないことが起きる。

彼女の勘がそう告げていた。

(『精霊の工廠』……。『魔法樹の守人』……。この2つのギルドどこかで……)

「そうだ。思い出した。伝説の鑑定士!」

それまで黙っていたアーチーが突然叫んだ。

「なんだ? どうしたアーチー」

「思い出しました。『精霊の工廠』と『魔法樹の守人』。この2つのギルド、どこかで聞いたことがあると思ったら、『冒険者の街』で急激に成長したギルドです」

「それが一体どうしたというのだ?」

「お二人とも一度は耳に挟んだことがあるはずです。『冒険者の街』に現れた伝説の鑑定士の噂を。『冒険者の街』は少し前までAクラス不毛地帯と言われていました。しかし、ある時を境に突然、この街のギルドにAクラス冒険者やAクラス錬金術師がわんさか現れ始めたのです。ルキウス、アリク、セバスタ、ドーウィン、ジル、リリアンヌ。こうして『冒険者の街』は世界でも有数のAクラス冒険者の在籍する街となったわけですが、このAクラス乱立の影には凄腕の鑑定士がいるらしい。そうまことしやかに噂されていました」

「確かにそんな話を小耳に挟んだことはあるが……」

「まさかその伝説の鑑定士が今、『精霊同盟』に味方しているっていうの?」

「はい。そう考えれば、全てが腑に落ちます。『紅砂の奏者』と『城砦の射手』がやられたことも、この短期間に地元冒険者が急成長したことも……」

アーチーが話している間にも危機は着々と近付きつつあった。

すでに『精霊同盟』はその姿の一部を『黒壁の騎士』に晒していた。

下方の細い山道に、『精霊の工廠』の武器を装備した一隊が行軍する様子が、見える。

「港に降りてすぐ出会った錬金術師は言っていました。自分達は地元冒険者をAクラスまで育てたと。おそらくあの部隊の中にも、伝説の鑑定士が育てたAクラス冒険者が数名在籍していると思われます」

「なんと……。この島の冒険者をAクラスに……」

「えっ? その人に鑑定してもらうとAクラスになれるってこと? うそ。それなら私も鑑定して欲しいかも」

リズが言った。

「バカもん。そんなこと言っている場合か。奴らは『紅砂の奏者』と『城砦の射手』を打ち破ったのだぞ。当然、我々にも攻撃してくる可能性が高い。一刻も早く対策を立てなければならん。一体どうすれば……」

「使者を立ててみるというのはどうでしょう?」

アーチーが提案した。

「彼らとて冒険者。話の分からない相手ではないはず。なぜ彼らが外部冒険者を攻撃しているのか聞き出すことができれば、戦わずに済む道が見つかるやもしれません」

「よし。急いで使者を立てるぞ。リズ、アーチー。お前達、使者をやってくれるか?」

「分かりました」

「早速行ってきます」

リズとアーチーはすぐに最低限の人数だけ連れて、山を駆け降りていった。

その間、サイモンは交渉が決裂した時に備えて、戦闘準備を整えておく。

やがてリズとアーチーが帰ってきて、『精霊同盟』との交渉結果を伝えてきた。

「隊長、『精霊同盟』の意図するところが分かりました」

「おお、そうか。それで? 彼らはなぜ我々に攻撃を仕掛けてくるのだ?」

「彼らが我々に攻撃を仕掛けてくるのは、我々が『竜の熾火』と契約を結んでいるためです」

「彼らの要求はただ一つ。我々が『竜の熾火』との契約を解消することです」

「なに? 『竜の熾火』と契約解消? それは無理だ。我々はすでに『竜の熾火』に対して3回分の整備料金を納めている。今からキャンセルするとなれば、莫大な違約金を請求されてしまう。どうにか他の条件で見逃してもらうように言ってこい」

サイモンは再び2人を送り出した。

二人には、以下のように可能な限りの譲歩案を持たせておいた。

『精霊同盟』と進路が被った時は、決して妨害せず道を譲ること。

その都度、アイテムや装備の面で必要な補給に協力すること。

なんなら『精霊同盟』のダンジョン攻略を後方支援してもよい。

サイモンは祈るような想いで、2人が帰ってくるのを待った。

その間にも『精霊同盟』は、着々と攻撃態勢を整えつつあった。

サイモン達のいる小高い場所を徐々に包囲していく。

サイモン達の目にも敵の鋭い矢尻が肉眼で確認できた。

恐怖に駆られて、どちらかの兵士が暴発し、いつ戦闘が始まってもおかしくはない。

サイモンはハラハラしながら、リズとアーチーが帰ってくるのを待った。

やがて二人が帰ってくる。

「ダメです。やはり先方は我々が『竜の熾火』との契約を解消する以外和解するつもりはないと言っています」

「今後も『竜の熾火』と契約を続けるなら、彼らの敵である『白狼』に鉱石を供給するものとみなし、ダンジョンで遭遇次第即刻攻撃する、と申しております」

「う、ぬ。むむ」

サイモンは眉間に皺を寄せて苦悩した。

「隊長。もうキャンセルしちゃいましょうよ。『竜の熾火』との契約」

リズが進言した。

「このまま『竜の熾火』と契約していても、『精霊同盟』に攻撃されるリスクが高まるだけです」

「同感です。地元ギルドの協力を得るためにも、『精霊同盟』との関係を良好にしておく方が得策かと」

アーチーもリズに同調して言った。

サイモンはなおも悩んだが、『精霊同盟』が 弓使い(アーチャー) と盾使いの配置を終え、いよいよ攻撃準備が整ったところで観念した。

「分かった。彼らの要求に従おう。これより我々は『竜の熾火』との契約をキャンセルして、『精霊同盟』の傘下に入る」

こうして『黒壁の騎士』も『精霊同盟』の軍門に下った。

『精霊同盟』は『黒壁の騎士』への攻撃を中止する。

サイモンはロランの手並みに舌を巻いた。

(この断固とした態度といい、迅速な用兵といい『精霊同盟』の隊長は相当な人物に違いないな)