軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第140話 歪んだ方針

アーチーとリズはアイナの差し出してきた『精霊の工廠』のパンフレットに目を通す。

「えっ? 待って。何これ。めっちゃいいじゃない」

リズがパンフレットに載っている装備のステータスを見て驚嘆した。

「確かにこれが本当なら、Bクラス装備の要件は十分満たしている。いや、むしろAクラスでも……」

アーチーも興味深そうにパンフレットを見た。

「リズ。『竜の熾火』の装備と比べてどうだい?」

「『竜の熾火』よりも断然いいわよ。ねえ。これ本当に作れるの?」

「ええ。私の作った装備でAクラスになった冒険者の方もいらっしゃいますよ」

「Aクラスに!?」

「それは凄いな」

アイナは思った以上の好感触に、これはいけるかもしれないと思った。

(顔と名前を覚えてもらうだけの予定だったけれど、これならすぐ成約までいけるかも)

「どうでしょう? もしよければ 工房(アトリエ) まで来られて、実際に製品を手に取って確かめてみられては……」

「騙されてはいけません!」

突然、男性が割って入ってきた。

『竜の熾火』の営業だった。

「彼らはまだ最近できたばかりの新興のギルドですよ。実績に乏しいギルドです。そのパンフレットに載っている装備もステータスを盛って記載してるに違いありません」

「なっ。そんなことありませんよ。いい加減なこと言わないでください。私達はちゃんとAクラス冒険者の装備も担当したことがありますから」

「そのAクラス冒険者にしても『魔法樹の守人』の力を借りたに過ぎませんよ」

「『魔法樹の守人』?」

「そうです。彼らは外部ギルド『魔法樹の守人』を上手いこと言いくるめて、実績を作ったに過ぎません。Aクラス冒険者を輩出したというのも彼らの実力ではなく、『魔法樹の守人』の実力です。彼らと契約しようものなら、誇大広告の製品を押し付けられた上、宣伝に利用されること間違いなしですよ」

「なっ。そんなことないわよ。私達はちゃんと地元冒険者もAクラスに育ててますから」

「地元冒険者?」

それまで黙って聞いていたサイモンが胡散臭げに眉を 顰(ひそ) めた。

「アーチー、リズ、行くぞ」

「えっ? あ、ちょっと」

「すまんねお嬢さん。我々はまず『竜の熾火』に行くと決めているんだ。失礼させてもらうよ」

『黒壁の騎士』の面々はそそくさとその場を後にする。

「一体どうしたんだうちの隊長は?」

アーチーが小声でリズに聞いた。

「地元冒険者ってワードが癇に障ったのよ。隊長は去年地元冒険者に足を引っ張られたのにいたく憤慨なさっていたから。まだ根に持っているんだと思う」

『黒壁の騎士』を取り逃したアイナは、同じく『城砦の射手』を取り逃したディランと広場で落ち合った。

「アイナ。どうだった? 『黒壁の騎士』は?」

「ダメでした」

「そうか。錬金術師本人が営業すれば、あるいはと思ったが……」

「途中までは結構好感触だったんですよ」

「そうなのか?」

「はい。地元冒険者のことを話題に出した途端、急に隊長の方が態度を硬化させて」

「地元冒険者。そうか。それが原因かもしれないな」

「どういうことですか?」

「外部冒険者の中には地元冒険者に対して、好感を持っていない人が多いんだ」

「そうなんですか?」

「ああ。何度もこの島に来ている冒険者であればあるほど、地元冒険者のせいで不愉快な思いをした者は多い」

「はー。なるほど。そうだったんですね」

アイナは自分が不用意なことを言ってしまったのに気づいて、がっくりうなだれた。

「なに。そう肩を落とすな。まだ彼らに営業をかけるチャンスはいくらでもある」

「そうですね。引き続き地道な営業を続けていきましょう」

『紅砂の奏者』の隊長レイは、広場で演説しながら住民の反応に戸惑っていた。

いつもなら地元冒険者に仕事を割り振るだけで、会場は盛り上がり、質問が相次ぐのに、どれだけ地元ギルドとの同盟を仄めかしても、会場は冷め切ったままだった。

逆に地元ギルドからは『精霊同盟』に関する質問が相次いだ。

「『精霊同盟』に加入する予定はありますか?」

「なぜ『精霊同盟』に加入しないのですか?」

「『精霊同盟』のスキルと装備にどうやって対抗するつもりですか?」

レイは『 火竜(ファフニール) の島』に起こった変化にすっかり戸惑ってしまった。

(ていうか『精霊同盟』ってなんだよ。知らねーよそんなもん)

会場の脇では、ウェインとパトが『紅砂の奏者』の吟遊詩人相手に営業をかけていた。

「ほう。これは素晴らしい 竪琴(ハープ) だ」

吟遊詩人は少し鳴らしてみただけで、その 竪琴(ハープ) の見事な『竜音』に惚れ惚れした。

「これならウチとしてもぜひ作って欲しいな」

「本当ですか?」

ウェインとパトは顔を見合わせた。

これならいけるかもしれない。

しかし、商談を進めるにつれて、吟遊詩人の歯切れが悪くなってくる。

「『竜の熾火』と契約するには特約条項に同意しなければならなくてね」

吟遊詩人の男は申し訳なさそうに言った。

「その特約条項ってのは、つまり『竜の熾火』と契約する以上他のギルドとは契約しないこと。だから残念だけど、この島にいる以上、君達とは契約できないんだ」

「この 竪琴(ハープ) は魅力的なんだけど、ウチは他にも装備を揃えなきゃならないし……」

「他の装備についてもウチで作れますよ」

「うーん。そうは言ってもね」

「『アースクラフト』はどうだ?」

ウェインがポケットから『アースクラフト』を取り出して吟遊詩人の方に投げた。

「ほう。これは……」

「見事な『アースクラフト』だ。これも君達が精錬したのかい?」

「そうだぜ。ウチの倉庫には『アースクラフト』がたんまりある。他の2ギルドに対して優位を取るためにも『アースクラフト』は欲しいんじゃねぇのか?」

「うーん。でも、隊の意向がねぇ」

結局、『紅砂の奏者』の冒険者達は演説が終わるとともに『竜の熾火』へと向かってしまう。

「ちっ。ダメだったか」

「惜しいところまでは行くけど。なかなか成約には至らないね」

(やっぱりどれだけいいモノを作ったとしても、営業力がないと顧客はつかないってことか)

「まあ、とりあえず俺達の技術力は分かってもらえたし、最低限の目的は達成しただろ。あとは『精霊同盟』の奴らを支援して、あいつらに頑張ってもらおうぜ」

「うん。そうだね」

『精霊の工廠』の錬金術師達が営業活動に勤しむ頃、『竜の熾火』でも営業会議が開かれていた。

本来、リゼッタがいるべき椅子には新たにカルテットに加えられた青年テッドが座っていた。

ラウルはテッドの顔を見て、何とも言えない面持ちになった。

(確かにテッドは優秀な錬金術師だが、リゼッタに比べれば『銀細工』の腕は劣る。大丈夫なのかよ。数合わせでとりあえず任命すりゃいいってもんじゃねーぞ)

「よし。それじゃ会議を始めるぞ。今期のテーマはいかにして『精霊の工廠』に営業面で勝つかだ。何か案のある者はいるか?」

「はい」

新人のテッドが早速意見を述べようとする。

(カルテットとしての初仕事。ここできっちりアピールしなくては)

幸い、彼には先ほどエドガーからもらった案があった。

(エドガーさんもこれでいけるって言ってくれたからいけるはず)

「申し上げます。3ギルドと契約するにあたって、同盟を組ませるというのはいかがでしょうか。3ギルドと『白狼』の力を合わせることで『精霊同盟』に対抗し、ダンジョンにおける我々の優位を取り戻すのです」

メデスの眉が不快げにピクッと動いた。

それに気づかずテッドは続ける。

「すでに『白狼』からは積極的に協力してもよいという約束を取り付けており……」

「バカヤロウ。テッド、お前何年このギルドで働いてんだ!」

エドガーが突然怒鳴り出した。

「えっ?」

「ウチは外部ギルドに錬金術師と倉庫の枠を取り合いさせることで価格を釣り上げてんだぞ。それに3ギルドと『白狼』で潰し合わせて、装備を消耗させなきゃ整備する回数が減って、利益が減っちまうだろうが」

「えっ? でも、『賢者の宝冠』の時は、『白狼』と同盟を組ませて……」

「あの時は『賢者の宝冠』が弱り切ってもうあれ以上金を搾り取れねーと分かってたから支援してやったんだよ。大体3ギルドに同盟なんて組ませてみろ。あいつらが手を組んでうちに値引き交渉してきたらどうすんだよ」

「うむ。エドガーの言う通りだな」

メデスが重々しく頷いた。

「テッド。お前はまだカルテットとして勉強が足りんようだな。もっと精進しなければカルテットとしての地位は安泰ではないぞ」

「う。はい」

テッドはメデスからの評価が下がったのが分かってうなだれた。

しかし、それほど自分はおかしなことを言っているだろうか?

(今はとにかく『精霊同盟』の力を削るのか先決なんじゃ……。ていうかこの案で行けって言ったのはエドガーさんじゃないっすか。酷いっすよ裏切るなんて)

テッドがエドガーの方に目をやるものの、エドガーは知らんぷりした。

(ふー。あぶねー。あぶねー。やっぱりギルド長は3ギルドの同盟には反対か。テッドに言わせておいてよかったぜ)

結局、会議では3ギルドに競い合わせる形で料金を吊り上げ、なるべく3ギルドを対立させる方針を取ることが決定された。

後日、テッドは降格を言い渡された。